鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「……は? じゃあ君たちみたいな子供が鬼を退治しているのか?」
あの後、この山に入ってきた無謀な子供たち―――鬼殺隊の卵たちから事情を聴くことに成功した。
彼らは鬼殺隊という政府非公認の鬼を殺す団体の入団希望者だという。
育手と呼ばれる人間が見込みある若者に剣術を叩きこみ、最終選抜を突破した人間が鬼殺隊に入ることが出来る。その内容はこの山で一週間サバイバルして生き残ることだ。
「しかし何だその無茶苦茶な内容は。こんな人里と隔絶された危険地帯で一週間もいろって、軍隊でも難しいぞ」
「けどこれぐらい出来ないと鬼殺隊で生き残れないそうです。鬼は殆どが雑魚鬼とされていますし。……まあ、今年はおかしなことになってましたけど」
「怖いのは鬼よりも物資の不足や病だ。清潔な飲料や栄養のある食料、安全な寝床や負傷した際の治療手段の確保がどれだけ難しいことか。言っておくがその程度の荷物だけじゃ足りないよ」
私は少女―――胡蝶カナエの手荷物を指さした。
この程度では足りない。食料だけなら三日ほど持つが、他は論外だ。
「鬼に殺される前に脱水や栄養失調、あと病で死んだ者が絶対いるはずだ」
「……そ、そうでしょうか?」
「絶対そうだ。第一、何故試験だというのに見廻隊がいない? 新人に過ぎた鬼の排除、脱落者の保護、負傷者や病人の治療などやることはたくさんある。なのに何故居ない?」
「で、でも鬼殺隊は人手不足だからそんなに人数を割けられないんじゃ…」
「だからこそより丁重に新人を扱うべきだ。数が限られるなら、その数を減らさないよう、教育と投資を惜しむべきではない」
軍人の家系であり、平成の知識を持つ私からして、鬼殺隊は組織として未熟だ。
新人をいきなり現地に派遣したり、どんな能力を使う鬼かの調査もなしに隊員を送る。……私からしたら考えられない。
ただでさえ少ない隊員を減らそうとしてどうする。多少一般人の犠牲者が出ようとも隊員の安全を考えるべきだ。
中でもこの試験はひどすぎる。貴重な隊員候補たちを自分たちで殺すようなものだ。せめて救済措置ぐらいは取っておけ。
実戦を模した試験をしたいのは分かるが、あくまでも模擬に留めるべきだ。実際に殺してどうする。
隊員が増えれば、死なずに任務を終えれば経験のある隊員が増える。経験のある隊員が増えれば鬼との戦闘データが増えてより新人を教育できる。その結果、組織の質も量も高まっていく。
多少一般人が死のうとも、隊員が増えれば結果的に民を救える。数では後者の方が上のはずだ。
「(……いや、今は考えるべきではないか)」
そうだ、今考えるべきは今後の生活。
鬼殺隊や藤紋の家、外の鬼とその親玉…。警戒すべき相手はいくらでもいる。
さて、どうやって彼らを出し抜こうか……。
「ねえ、今度は貴方の事を話してよ」
「…え?まあ……うん。私だけ聞くのも確かにアレだね」
その日、私たちは変わった鬼に出会った。
鬼の名前は葉蔵さん。
彼は襲撃してきた異形の鬼たちを返り討ちにして私たちを助けてくれた。
圧倒的な強さだった。
鬼を一撃で殺す特殊な針。
まるで弾丸のように速く鋭い特別な能力。
おそらくあの紅い針が鬼の血鬼術なのでしょう。
ただ針を一刺ししただけで鬼は黒い灰と化してしまった。
血鬼術だけではなく、彼自身の戦闘力も高い。
優れた血鬼術を完全に使いこなしている。接近すれば格闘戦で針の生えた拳で迎撃し、距離を取れば銃撃のように針を撃つ。
その能力を駆使してあの異形の鬼を倒してしまった。
途中で私は逃げちゃったけど、来た時には既にいなかったから、彼が倒したことはすぐにわかった。
全身に目のある鬼。あの鬼は他の鬼と比べてけた違いに強かった。
だけど、葉蔵さんは大したダメージを受けることなく倒してしまった。
たとえこの最終選考が終了しても相手にしたくない鬼だ。
もしあの力が自分たちに向けられたら……想像しただけでもゾッとする。
けど、その心配はなかった。
彼はとても優しくて紳士的な男性だった。
鬼に襲われていた私たちを救い、安全で温かい場所と食事も与えてくれた。
話す内容も仕草も何処か気品を感じる。おそらく鬼になる前はさぞ高貴な人間だったのだろう。
そして何よりも驚いたところが……。
「ほ…本当に……に、人間を食べたことがないの?」
「うん、正直人間なんかより鹿や猪の方が美味しそうに見える」
そう、彼は鬼でありながら人を食らったことがないのだ。
初めて会った、初めて人を食べない鬼。この人となら仲良くなれるかもしれない。
そ、ソレにほら……こんなイケメンなら鬼でも……ね?
強くて優しくてイケメンで紳士的な鬼。……まるで仲良くするために生まれた鬼みたい! ……だけど、そんなものは淡いのだと知らされることになった。
「まあ、それでも今更人間を食うつもりにはなれないね。怪物になったからってハイ明日から鬼として生きてくって出来ないよ。まあ、私の場合は最初に口にしたのが鬼だったおかげというもあると思うけど」
「え?それってどういう事?」
「言葉通りだよ。ただやはり……こうして対峙すると分かっちゃうね」
困った顔で言う葉蔵さん。
この小屋の中にいるのが私だけでよかった。他の子たちは葉蔵さんが新しく作った小屋の中にいるけど、もし聞いてしまったら逃げ出してしまっていたはずだ。
「こうして対峙していると食欲が刺激される。今は腹が満たされているから何ともないけど、もし飢餓状態だとしたらマズいかもね……」
「……やはり、鬼は人を食らわざるを得ないのでしょうか」
「そう考えた方が妥当だ。私のようなケースは稀だろう」
こんなに優しくて変わっている彼でさえ、飢餓状態になれば人を食らうかもしれない。
ならどうすれば飢餓状態にならずに彼と人が仲良く出来るのかしら……。
「胡蝶さん、その鬼殺隊とやらを続ける気なら鬼に対する同情を捨てろ。でないと……心が壊れるぞ」
「……そうかもね。でも、私は哀れな鬼たちを助けるために鬼殺隊に入ったの。この想いを曲げることは出来ないわ」
「……そうか」
自分も鬼でありながら、鬼殺を肯定して私の心配もしてくれる。もしかしたらこの鬼……この人となら仲良くできるかも……。
「ねえ、どうして葉蔵さんは鬼になったの?」
だからこそ気になる。何故鬼舞辻無惨が彼を鬼にしたのか。
「そうだね、あれは大体三か月前ぐらいだったか…」
初めて聞く彼の境遇は理不尽の一言に尽きた。
ただ子供にバカにされて腹が立ったから。
それだけの理由で、それも彼がバカにしたわけでもないのに。だというのに奴は腹いせとして鬼にした。
想像するだけで腸が煮えくりかえる。奴だけは、同情も救いも絶対に与えないと改めて決意する。
葉蔵さんの話を聞いた者たちの反応は、だいたい二つに分かれる。私のように奴の存在そのものに怒りを覚える者と、情報量の多さに目を白黒している者。
「ひどい……。葉蔵は何も悪くないのに!」
「それはまあ、そうかもな」
「……?」
少し言葉を濁す葉蔵さんを訝しんでしまった。
おかしな話だ。何故当事者である彼はそれほど落ち込んでない?
思えば、会話中も鬼舞辻無惨に対する憎しみが滲み出ていない。普通なら、話の最中に怒りを見せてもいいのに……。
「ねえ葉蔵さん、なんで貴方は…」
「ちょっと待って」
葉蔵さんは私の言葉を遮って外に出った。
一体どうしたんだろう。気になった私は葉蔵さんと一緒に小屋から出る。
そういえば何か外が騒がしいけど……まさか鬼が来たの!?
「よ、よせ錆兎! 今あの鬼を殺したら、他の鬼が一気に押し寄せてくるぞ!」
「黙れ義勇!鬼殺隊が鬼と共にいるなど言語道断!それ以前に男として失格だ!」
日輪刀を振り回す男の事、ソレを羽交い絞めにして止めようとしている男の子が飛び出してきた。
え~と……彼は確かさっきまで気絶していた子だったわね。
「いいよ君。彼を放してあげて。私が直接話す」
「え!?」
突然、葉蔵さんは笑顔でそう言ってきた。
「い…いいんですか?」
「仕方ないよ、だって鬼を殺す君たちが、気付いたら鬼の巣窟にいたら冷静でいられないでしょ?」
「そ、それはそうですけど……」
彼の言ってることは分かる。
私だって目が覚めていきなり鬼の巣に連れてこられたら、まずは鬼を殺すことを考えてしまう。
鬼殺隊だったらそうしてしまう。誰だってそうしてしまう。
だけど、葉蔵さんは『お友達になれるかもしれない鬼』だ。このまま殺させるわけには……。
「大丈夫。私がこんな子供なんかに負けるはずがないもの」
「………は?」
瞬間、空気が凍った。
「やはり所詮は鬼だな。人間を舐めてやがる……」
「さ、錆兎?」
「ここでくたばれ鬼!」
錆兎と呼ばれていた子が、突然弾かれるかのように飛び出してきた。
私も彼を止めていた子も急いで止めようとする。しかしもう遅い、
あの子は呼吸を整え、刀を引き抜こうと……。
【水の呼吸壱ノ型・水面切―――
「な…なんだこれは!?」
……とした途端、彼の手が止まった。
葉蔵はただ平成の子供みたいなネット弁慶的な視点と、華族としての視点がミックスされた意見を述べただけです。
私は別に鬼殺隊アンチというわけではありません。最終選考だろうと人が死にまくるあの漫画は、そろらくあの漫画がそれほど厳しい世界であると読者に伝えたかったのでしょう。
ただ、彼らの視点ではない何かを書きたいと思った結果、こうなりました。
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある