鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「おのれぇ…おのれおのれおのれぇ!!
重力を無視したような構造で、階段や家具が点在している奇妙な空間。
無惨は狂ったように喚いていた。
用意した分身が全てやられた。
上弦の鬼よりも強い力と十全に力を発揮できる場も用意してやった。
鬼の始祖である自分がこれだけ与えてやったというのに、何だこの体たらくは。
せっかくここまでしてやったというのに……!
「この役立たず共……!!?」
無惨は叫ぼうとしたが、突然背後を振り返りながら距離を取る。
瞬間、無惨のいた場所に黒死牟がいきなり現れた。
文字通りの瞬間移動。
血鬼術を使ったのか、空間を跳躍してここまで接近したのだ。
「お命…頂戴!」
不気味な黒い闇を放つ刀を掲げ、無惨の首めがけて振り下ろそうとする。
「!? おのれぇ!」
無惨は咄嗟に剣を受け止めようとするが、直ぐに回避を選択。
何やら嫌な気配がしたからである。
赫刀を突き付けられたかのような感覚。
無惨には、黒死牟の刀が纏う黒い闇が、赫刀の赤く燃える光と同じものに見えた。
流石は鬼の頭領と言ったところか。その判断は正しい。
黒死牟が編み出した鬼殺の血鬼術。
赫刀とは原理が全く違い、こちらは純粋な血鬼術だが、効力は全く同じである。
斬った対象の再生を阻害し、再生修復の疲労を蓄積させる。
弟は全集中の呼吸によって、兄は血鬼術によって、無惨を殺し得る力を得たのだ。
「黒死牟……貴様ァ!!」
無惨も負けじと触手で攻撃する。
たとえ斬られても、自切して別の触手を生やせば効果は無いに等しい。
手間は掛かるが、その手間すら通用しないあの化け物に比べたら万倍マシである。
そうやって何度切り結んだところか、突然黒死牟の姿が消えた。
単純な移動速度によるものではない。瞬間移動である。
血鬼術によって無惨から距離を取り、尚且つ触手の隙間になる場へとテレポート。すぐさま斬撃を繰り出したのだ。
【月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月】
【血鬼術 黒縄・天上天下】
黒死牟の黒い月の刃を打ち消すかのように繰り出された無惨の血鬼術。
縦横無尽に、無秩序に黒い血の滴る縄が張り巡らされる。
月刃はそれらによって絡め取られ、砕かれ……。
【針の流法 血針弾・散雨ニードルレイン】
突如撃ち出された弾から、針が散布された。
ばら撒かれた無数の針が、黒綱を食らう。
無惨の血鬼術を食らい、突破口を開く。
そこ目掛けて黒死牟が更に攻撃を……。
【月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾】
攻撃すると見せかけて瞬間移動。
技の予備動作を完了した状態で無惨の眼前にテレポート。すぐさま血鬼術を発動させた。
「ぐう…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
咄嗟に大量の触手を編み出し、ソレを楯兼囮に利用してその場を切り抜ける。
無惨にとって肉体の一部を捨てる等、大したダメージにもならない。むしろ切られて再生を無効化される方がよっぽど痛手である。
黒死牟によって切り刻まれる肉塊を自切し、難を逃れて距離を取ろうとした瞬間、また別の災難が彼を襲った。
Booooooooooooon!!!
爆撃。
逃げようとする無惨の背後が突然爆発したのだ。
葉蔵の罠である。
針をばら撒くのと同じタイミングで地雷を埋め込んだのだ。
無論、罠はこれだけではない。黒死牟とじゃれ合っている間にそこら中に設置している。
「~~~~~! 鬱陶しい!!」
遂に無惨が切れた。
触手を、血鬼術を、空気砲を繰り出す。
それらを避け、対処し、更に二人の鬼が攻撃を繰り出す。
前衛は黒死牟が担当。月の呼吸と鬼殺しの黒い刀によって致命傷を与え、瞬間移動を駆使して接近。全力で無惨に食らいつく。
後衛は葉蔵が担当。狙撃、爆撃、トラップ、ガス兵器、自律兵器、なんでもござれ。しかも全てが鬼喰いの機能付き。それらを駆使して無惨に食らいつく。
前門の黒死牟、後門の葉蔵。
黒死牟は真正面から、葉蔵は影からサポート。
無惨にとって最悪の組み合わせである。
しかし、ソレも長くは続かなかった。
『……ッグ!?』
「!? どうした針鬼!?」
突如、黒死牟の頭から葉蔵の悲鳴が響いた。
今の二人は葉蔵の角による通信で繋がっている。
これを駆使する事でこのような連携を取れているのだ。
『黒死牟さん、申し訳ないが私は戦線から離脱する。他の鬼が現れた』
「分かった…。この場は…私に任せろ…」
『頼む。念のため兵隊は幾つか置いて行く。終わったらすぐ戻る』
通信を切って葉蔵は鬼の撃退へと向かった。
「ククク…。黒死牟、お前の相方は消えたぞ。これで勝敗は決まったな」
「フン…。それは…どうかな……?」
【針の流法 血喰砲・散弾】
【針の流法 血喰砲・爆散】
【針の流法 血喰砲・三連】
突如、砲弾が飛んできた。
考えるよりも先に、無惨は触手や血鬼術で防御。
針の刺さった触手を自切するタイミングで、やっと違和感に気づいた。
針鬼は用意した最後の分身体によって足止めされている。なら、この攻撃をしているのは誰だ?
触手の先に目を複製して背後を振り返ることなく確認する。
そこにいたのは、葉蔵の分身である血針猟犬が複数いた。
「こういうことだ」
「おのれぇ……!」
雲が辺り一面に広がっている。
霧や霞ではない。
空にあるはずの雲がその場を満たしていた。
黒い雨雲。
ゴロゴロと雷が鳴り、ビリビリと電流が走る。
それらが対象目掛け、電撃となって襲い掛かった。
前後左右、縦横無尽に、あらゆる方向から電撃が牙を剥く。
そんな中、葉蔵は獣鬼豹変・極に変身して戦闘を繰り広げていた。
雲鬼。
無惨が用意した最後の分身体である。
物理攻撃を受け付けない雲状の肉体と、雷を操る血鬼術を持つ。
鬼殺隊にとって天敵のような能力であり、同じ鬼同士でもかなり脅威だが……。
「さっさと消えろ。いちいち粘るな、鬱陶しい」
葉蔵には大した脅威にならなかった。
強さ自体は他の分身体と遜色ない。
雲が覆い尽くすこの場には逃げ場など存在せず、放たれる電撃を対処できなければこの場に立つ資格すら与えられない。
電撃を放つバリエーションも豊富。一点に集中させて貫通力を上げたり、分散させて攻撃範囲を上げたり、複数の方向から同時に放ったり等。
自身の肉体を複数に分裂させて子機として利用し、上記と同じ血鬼術を行使してみせた。もちろん、分身も物理攻撃は通用しない。
強力かつ豊富な技の電撃、劣化版とはいえ複数同時使用できる分身、そして物理攻撃無効。これだけの能力を雲鬼は揃えている。
しかし、葉蔵には通用しない。
電撃―――銃撃で無力化。
角の超感覚によって電撃の来る方角を察知し、銃撃や砲撃で牽制或いは阻害する。
もし電撃が飛んできたとしても、電流を纏った血針弾を盾にすることで回避してみせた。
弱い電磁波ならそもそも効かない。獣鬼態の体毛は鎧としても機能し、高い絶縁体にもなっている。
分身―――自律血針で対処。
相手が分身するならこちらも分身を使い、分裂した雲鬼の子機に対応する。
主に使うのはシンプルかつ燃費のいい自律血針。他にも様々な機能を搭載した血針猟犬、遠隔操作機能付き砲台のスコーピオン等々。
様々な自律機能付き、遠隔機能付きの血鬼術を使って分身に対処した。
物理攻撃無効―――血針の霧で無効化。
いくら肉体を雲に変えても、葉蔵には意味がない。
子機も親機も血針の霧によってダメージを与えてみせた。
無論、血鬼術だけではない。
「グオオオオオ!!」
雲鬼が電流を集中させ、大技を使う準備をする。
しかしソレが整う前に銃弾が飛び、弾丸が血針の霧となって集中させた鬼因子を吸収。攻撃を無効化した。
雲鬼が電流を全体に分散させ、全方向から攻撃の準備を行う。
しかしソレが繰り出される前に爆撃を行って妨害。更に血針をばら撒いて無防備になった鬼因子を食らった。
雲鬼が身体を分散させて子機を創り出す。
しかし子機が出来た途端に爆発が起こり、子機が全滅した。
予め仕掛けた血針。分裂して抵抗力が弱まった途端に、葉蔵が遠隔操作で発動させたのだ。
何かをすれば、その前に手を打たれて追い込まれる。
何もしなくても、準備を整えられて追い込まれる。
敵の行動を読み、布石を打ち、戦況を誘導する。
詰将棋のように、一歩ずつ着実に。
雲鬼を詰みへと追い込んでいく。
これこそ葉蔵の本来の戦い方。
敵を観察、分析して作戦を立て、一切のミスなく完遂する。
機械的に、効率的に、作業的に。淡々と無感情に行う。
このままいけば葉蔵の勝利は確定。
一か八かでも手を打たなくては。
「グオオオオオ!!」
最期の力を振り絞って血鬼術を発揮しようとした途端……。
「させねぇよ」
一吠えする。
途端、縦横無尽に広がる血針の根。
予め設置しておいた血針達が活性化し、一気に広がったのである。
あり得ない程の爆発的な侵攻速度
無惨の分身を相手にするには余りにも速すぎる。
そう、まるで針だけ時間の流れが違うかのようである。
「ぐ…お、おぉ……」
雲状の肉体が崩れ、黒い気となって散って逝く。
こうして、雲鬼は作業のように殺された。
葉蔵の思惑通り。
最初からこうなるよう計画し、準備を整えて、完璧にやり遂げた。
しかし何故だろうか……。
「ま、程々には楽しめたよ」
百点満点の回答を叩き出したというのに、何故彼はもっと喜ばないのか。
「いただきます」
葉蔵は部屋中に拡がる鬼の因子を圧縮した針の結晶に手を伸ばす。
美味い。
無惨の一部から作り出され、上弦をも超えるスペックを持つ鬼なのだ。マズいわけがない。
風の鬼を倒した時は豪快に勝利の美酒として啜ったが、こうやってゆっくり飲むのも味わいがある。
「(これだけ一部だけの分身体が美味いなら、本体である無惨はどれだけ美味しいのかな?)」
ニヤリと葉蔵が好戦的な笑みを浮かべる。
その時、葉蔵の肉体に異変が起きた。
「!!?」
突如、身体が動かなくなった。
全身から感じる痺れ。
まるで電流でも流されているかのような……。
『フハハハハハ! やっと効いてきたか』
突然、葉蔵の頭に無惨の笑い声が響く。
一体何が起こった。
そんなありきたりな考えが浮かぶ前に、葉蔵の脳裏に答えが浮かんだ。
「毒を……盛ったな」
『ご名答。私の分身の血には全て貴様用に改良した毒がある』
対葉蔵用の毒。
回収した血針をサンプルにしげ開発された専用の毒薬。
分身体を喰らい、消化しようと葉蔵の血と合わさる事で活性化。毒性を発揮して鬼因子を無効化させる。
『これを作るのには大分苦労したが、その甲斐は十分あったようだな!』
『私の勝ちだ! 貴様はここで潰れるがいい!』
無惨が叫ぶと同時、無限城が大きく揺れた。
ミシミシと音を立て、崩壊の兆しを見せる無限城。
階段、天井、柱、床。崩れた物が次々と上から落下していく。
葉蔵を生き埋めにするつもりである。
通常時なら何とかされて逃げられるかもしれないが、今は毒によって動けない。無惨にとって、これ以上のチャンスはない。
『さらばだ針鬼! ここが貴様の墓場だ』
『……無惨、これで終わったと思うなよ』
葉蔵は不敵な笑みを浮かべながら、瓦礫の中に埋まった。
えー、葉蔵が雲鬼を仕留めたトラップにはもうひとつ仕掛けがあります。
というかそっちが雲鬼を秒殺した血鬼術です