鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
確かに無惨からしたら人間なんて踏み潰したことすら気づかないような矮小な存在ですけど、人間には堪ったモンじゃないでしょうね。
ただ、もし普通の人が無惨みたいに生物としての格が上がったら、本当に人間を「自分と同じ命」と認識出来るでしょうか。
人間から見れば奇跡のような御業を当たり前のように使える彼は、神と言っても過言ではないでしょうか。
まあ、そのカミサマがちゃんと奇跡を使いこなせていたかは疑問ですが。
刀鍛冶の里。
そこで鬼と鬼殺隊による戦闘が繰り広げられていた。
鬼側は上弦の陸である妓夫太郎と堕姫。
対する鬼殺隊側は八人。
柱は四人。伊黒小芭内と甘露寺蜜理と宇随天元と時透無一郎。
一般隊士も四人。炭治郎と善逸と伊之助と禰豆子である。
柱は妓夫太郎の相手を、一般隊士は堕姫の相手をそれぞれしていた。
事の発端は匿名の報道から。
上弦の襲撃があると鬼殺隊に謎の手紙が送られた。
怪しいが事実なら大きな打撃を受けると判断した産屋敷が柱と炭治郎達を派遣したのである。
炭治郎達も若干怪しむも、蓋を開ければこの通り。
強化された上弦相手に文字通り命を削り、死力を尽くし、そして勝った。
全員が重傷こそ受けたが、誰一人欠けることなく。
そして今、首を斬られた鬼の兄妹は顔を見合わせ口論を繰り広げている。
「なんで助けに来てくれなかったの!?」
「俺は柱を相手にしていたんだぞ!しかも四人だ!」
「だから何よ!? 私だって上弦くらい強い鬼と戦っていたわ! 」
「うるせえんだよ! 上弦名乗るならなぁ、野良の鬼と手負いの下っ端ぐらい一人で倒せバカが!!」
首だけで口論をする鬼の兄妹。
口論はよりヒートアップしていき、相手の存在そのものを否定するような内容にまで発展。
そのまま首だけで噛みつくような空気になりかけた瞬間……。
「嘘だよ、全部」
「本当は、大好きなんだよ」
炭治郎と禰豆子が口を塞いでソレを止めた。
ソレから二人はゆっくりと優しい言葉を掛け、罵倒されながらも見送っていく。
ただ、少し時間をかけ過ぎた。
「お…おい!お前日光に当たるぞ!」
「………あ」
気が付けば日の出になっていた。
首だけの妓夫太郎が声をかけてやっと気づいた禰豆子と炭治郎。
それだけ鬼の兄妹を心配していたということか、それともただ天然なだけか……。
「あれ?なんともない」
しかし兄二人の心配とは裏腹に、禰豆子は日光に焼けるどころか、これといったダメージすら受けていなかった。
「はあぁ~!? ズルいわ! なんでお前だけ日光平気なのよ!? ……あ」
「梅~~~!? 最期の言葉がそんなんでいいのかよ!? ……あ」
他にも言いたいことがあったらしいが、言い切る前に鬼の兄妹は消滅した。
「「……」」
こうして、ちょっぴり後味が悪い形で禰豆子は日光を克服した。
とある異界。
無限城とはまた別の、予備として用意された異空間に存在する小さな家屋。
その一室。何もない六畳間で無惨は高らかに笑っていた。
やっと見つけた。
堕姫たちの視界を通じて見たもの。
無惨が千年近く求めていたものであり、作りたくもない同胞を作ってまで求めたもの。
それが今、現実と化した!
「奴を吸収すれば、太陽を克服出来る! 針鬼と違って血鬼術で誤魔化すことなく、堂々と日の下を歩ける!」
忌々しい邪魔物はもういない。
今までは日光を克服出来る可能性があるから見逃していたが、ああまで厄介な存在に成長するとは。
しかしそれもつい最近まで。
奴がいない今、障害は存在しない。
鬼殺隊も産屋敷もここで潰してやる!
「では、兵を集め次第、総力戦といこうか」
クツクツと笑いながら、無惨は血鬼術を発動させた。
最終決戦に向けて各々が準備を整えるようになって、しばらくの時が経過した。
無惨は血を与えて鬼の強化を、鬼殺隊達は合同強化訓練によって柱や隊員たちを鍛える。
その間、鬼の襲撃もない。
ある日を境に鬼の被害がパタリと止み、その間に隊士達は決戦に備えている。
良く言えば平和、悪く言えば嵐の前の静けさ。
この平穏な時間が続けばいいのにと誰もが思うが、無惨が居る限り叶わない。
互いが互いを滅ぼすまでは、安寧などないのだから。
故に、万全の準備を整える。
各々の宿願を果たすために。
「ふん、所詮人間などこの程度だ」
無惨は倒れている柱たちを眺め、つまらなさそうにつぶやいた。
これが本来あるべき形なのだ。
鬼とは人間を食らう捕食者であり、人間を隔絶した能力を持つ。
その鬼を更に大きく超越しており、最早鬼ではなく鬼の上位種の生物と表現する方が近い程の力を持つのが無惨である。
日輪刀―――無駄。刃が身体に入った瞬間から再生する。
藤の毒―――無駄。毒が身体に入った瞬間から解毒する。
人化薬―――看破。薬が身体に入る前に見抜き対処した。
どれだけ準備を整えようとも、どれだけ鍛錬を積もうとも、どれだけ創意工夫を繰り返しても。
大いなる力の前では、人間の力などいくら積み上げようが軽く吹き飛ばされてしまう。
千年間受け継がれた想い?
永遠に続く不変の想い?
今も尚輝く強い思い?
笑止。
想いでどうにかなるのなら、最初から悲劇など起きない。
感情論でどうにかなるのはある程度の力が拮抗している場合のみ。
どれだけ叫んでも嵐は止まらず、どれだけ願っても氾濫は止まらない。
人々の想いも積み重ねも、大いなる力の前では弱者の戯言に過ぎないのだ。
無惨とは正しく災厄そのもの。台風や地震といった災害級の力が擬人化したかのような存在である。
「まさか、貴様たちも新しい毒を生み出していたとはな。考えることは一緒か」
「………一緒?」
奪った薬を手で弄ぶ無惨の話を聞いた珠代は、思わず聞き返した。
「私も針鬼を倒した最後の手段は毒だった。だからなんとなく分かったのだよ。私を殺す手段は毒だとな」
「「「………!!?」」」
ソレを聞いた途端、珠代だけでなくこの場にいる鬼殺隊全員が呆然とした。
無惨と対抗し得る唯一の戦力。
人間化薬の投入が失敗した今、縋れるただ一つの希望であった。
その最終兵器さえ無惨に破れたというのか……!
「そ、そんな……お、俺は信じない、信じないぞ!!」
「そうよ! 葉蔵さんがお前なんかに負けるわけない!!」
「在り得ねえ!! 葉蔵さんがそんな簡単に死ぬわけねえ!!」
信じられないと言った様子で騒ぎ立てる柱達。
無惨はその光景を見下すように鼻で笑った瞬間……。
「えらく調子づいているじゃないか。ええ?無惨」
「「「!!?」」」
その声を聞いた瞬間、その場にいる全員が息を忘れた。
コツ、コツ。
ゆっくりと靴音を立て、鬼神が少しずつ姿を現す。
比例して大きくなる存在感。
心臓を直接掴まれているような威圧感。
首元にナイフを添えられたかのような恐怖感。
この感覚を彼らは知っている……。
「大庭……葉蔵!!」
この中で唯一動ける無惨が葉蔵に目線を向けた。
はい、葉蔵さんピンピンしてました。
今まで姿を隠してたのは捕らえられた人をちゃんと送り返すためです。
ではどうやって脱出し、人質を無事に帰したのか。それは後程に。