鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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最終バトル 第一ラウンド

 無限城とはまた別の異空間。

 あの城と比べると小さく、部屋は一つしかない。

 天上は吹き抜けで黒い空しか見えない。星一つない夜空でもここまでは黒くないぞ。

 その部屋はだだっ広く、そこに鬼殺隊が倒れ伏していた。

 

「貴様は……何度、何度私の邪魔すれば気が済む! 確実に死んだはずだ! あの場で潰れた筈だ! それがなんだ、一体何をした!?」

 

 この部屋の主である無惨が私を睨みつける。

 怒りと憎悪に塗れた目。しかしその奥には恐怖が宿っている。

 童磨の言った通りだ、この男はこんなにもすぐ何かに怯える。

 かわいそうな男だ。なら、これぐらい答えてやってもいいか。

 

「別に大したことはしてないさ。私の血鬼術を理解しているなら、種はすぐ分かるはずだ。ヒントは“無限城に侵入した手段と似たもの”といったところか」

「何を言って……!!?」

 

 どうやら私の言いたいことを理解したのだろう。

 無惨は苛つきの顔から、ハッとした様子に変わった。

 この男、地頭はけっこういいのかな?

 

「貴様……城を針で乗っ取ったのか!?」

「正解」

 

 あの城も血鬼術で形成されたもの。つまり元を正せば鬼因子で構成されたものだ。

 なら、私の針で貫き、針の根を張って操作するなんて造作もない。あの琵琶の鬼を支配して無理やり操るよりはずっと楽だった。

 

「いや、待て。私は貴様に毒を盛った筈。あれはどうやって解毒した!?」

「簡単だよ。最初から解毒剤を生成していたのさ」

「……何?」

「まず前提として、私は貴様の策に気づいていた。あの強力な鬼の肉体に毒があるなんてとっくに見抜いてたんだよ」

「!!?」

 

 無惨は驚愕と言った様子で私の顔を見る。

 いやいや、そんなのすぐわかるだろ。まず、私の特性を知りながら自身の劣化版を逐次投入するという考えがおかしい。なら、すぐに何か裏があると誰でも見抜ける。

 ここまできたら後は大体の想像はつく。私の特性を知るのなら毒を盛るなと。

 所謂トロイの木馬という奴だな。魅力的な戦利品と見せかけて、中に伏兵を用意する。なるほど、確かに効果的な作戦だな。見破りやすいという欠点を除けば。

 あと、私を相手に毒を使うと言うのも悪手だな。

 

 私には藤の毒を解毒する力がある。

 他の鬼のように、再生による力押しではない。ちゃんと解毒作用のある物質を分泌して無効化出来るのだ。

 一度こういった真似が出来れば他の毒にも応用出来る。あの藤襲山の特訓は無駄ではなかったということだ。

 

「そういうことだよ無惨。貴様の打った手は全て無駄になった。では、次は何だ?早く出してくれ」

 

 

 返事はない。

 その代わりと言うのか、空気砲が飛んできた。

 血鬼術ではなく、純粋な身体能力で吐き出された空気の弾丸。

 なるほど、これなら私の針で吸収することは出来ない。それなりに考えられるじゃないか。

 私はそんな風に関心しながら、針塊楯を創り出して無惨の攻撃を防いだ。

 

「……針鬼、貴様は私の最大の失敗作にして最高の傑作らしい」

「何?」

 

 無惨は姿を変えながら話を続ける。

 全身に口や管を生やし、空気を吸って渦を発生させている。

 

 

 

「まさかただの野良鬼が上弦を超え、よもや私を追い詰めるとは露ほども思っていなかったよ。……ああ、認めよう。貴様は……君は強敵だ」

 

 

「君が生きている限り、私は安心して暮らすのは不可能だ。だが、この機を逃せばいつ太陽を克服できるかもわからん。 だからこそ、君だけは何としても殺す」

 

 

「来い、針鬼。君が死ぬか、私が死ぬか。最後の勝負だ」

 

 

 

 

「……いいセリフ、ちゃんと吐けるじゃないか」

 

 そうか、やっと私を敵として認めてくれるのか。

 いいだろう、なら私もソレに応えてやらなくては。

 

 食らうがいい、無惨。これが私の必殺技……。

 

 

【時の流法 この一瞬こそ全て】

 

 

ブォン!!

 

 

 

 私の血鬼術の発動後、無惨は針だらけになった。

 突然にして全身を侵略した針の根。

 一瞬どころか、一切のズレもなくズタズタにされた全身。

 おそらく、無惨は何をされたのか気づくことすら出来ないだろうね。

 

「さて、私のターンは終わった。次は君のターンだ」

「う…あ、ぁ……」

 

 答えない。

 ただ呻くだけであり、それ以外の反応はない。

 こちらの存在をちゃんと認識しているのかすら怪しい。

 まあ仕方ないか。この血鬼術は平成生まれの私にはありふれた能力だけど、この時代の者たちには革命的なものだからね。多分思いつきもしないんじゃないのか?

 

 まあいい。手札がないのならこのままやってやろう……。

 

「時を…と、める……」

「………お!」

 

 ボロボロの状態でポツリと無惨は零した。

 時を止めると。

 そのことに思わず私は感心してしまった。

 ああなんだ、最後の最後ではちゃん頭を使えるじゃないか。

 こんな一瞬で相手の能力を見抜くなんて、花京院クラスだぞ。

 やはり、この男はちゃんとやれば出来るんだよな……。

 

「ああそうだ。私の新しい能力は時間を止める事。つまり時間の【針】をも操れるようになったのだよ」

 

 時間停止能力。

 前世の漫画やアニメでは強力な能力として扱われ、使うキャラも大抵はラスボスや強キャラが多い。

 今までアニメキャラの技を参考にして血鬼術を開発してきたが、遂に私はラスボスキャラの領域まで達した。

 

 この力を手にした時は実に心地よかった。

 ラスボス。

 前世の俺が憧れ、成りたいと願っていた絶対的な強者。

 愚図で鈍間で無能だった“俺”が“私”に転生する事で、遂にその力をにしたのだ。

 嬉しくないわけがない。

 

 始め時を止め、しばらく何が何だか分からず呆然とした。

 再び時を止め、自身の力だと理解した瞬間は震えた。

 三度時を止め、出来ると認識した途端に歓喜した。

 

 私は遂にこの領域まで届いたと!

 

 

 身体中を沸き立つ全能感。

 頭の中を支配する多幸感。

 魂も命も揺さぶる昂揚感。

 

 そうだ、これこそ私が生きると実感できる証……!

 

 私はまた、私自身を克服したんだ!!

 

 

「そう、か ……。やはり、か」

 

 無惨は力なく笑う。

 

「針鬼よ……お前は、遂に時間を止める程の……私には思いつきもしない領域に立ったのだな……。……ッフ。もう私の負けのようだ」

 

 皮肉気に笑う無惨。

 ああそうだろう、既に針の侵食は抵抗出来ない段階に入っている。もう指を動かす事すら出来ない筈だ。

 

 

「……だが、私を超えることは許さない」

 

 

 

 

 

ヒュン!!

 

 

 瞬間、無惨の体を、背後から刀が貫いた。

 

「黒、死牟…か」

 

 無惨を背後から刺したのは、黒死牟だった。

 あの男、無限城が落ちてから行方を晦ましていたけど、まさかこんな展開を用意してくれるとは!

 

「既に…貴方の全身は…針鬼の血鬼術が…支配しています…。脱出は…不可能…。故…無惨様…貴方の血を…奴を倒す為…使わせて頂く……!」

「……いいだろう、お前に全てを託す!」 

 

 ここまでくれば、私に食われるか、黒死牟に食われるかの違いだ。

 生きるという目的が果たせない今、無惨のほんの少しの誇りと願いが突き動かしたといったところか。

 

「黒死牟、お前が私の夢を継げ!この裏切り者をお前が討ち取って見せるのだ!!」

「……御意」

 

 

 誇り―――私に負けを認めたくないという意思。

 願い―――死んだ後も何かを残そうとする意思。

 

 その結果、彼は黒死牟に全てを託すことにした。

 

 

「……これはこれでいい。鬼舞辻無惨、貴方はなんだかんだいって私に最高のゲームを用意してくれた……!」

 

 ああ、無惨よ。私は貴方に感謝している。

 

 

 

 よくぞ私にこんな素晴らしいゲームの機会を与えてくれた!

 

 

 

 

 

 私も俺も、空虚な人間だった。

 

 不満や不安を抱えていながら、何かをやろうとする意志はない。

 

 前世でも今世もつまらない人間。根本的な部分は何も変わっちゃいない。

 

 ただ怠惰に、ただ無為に日々を浪費する毎日。何も為さず、何にも成れない。 

 

 我ながらバカバカしい。その気になればいくらでも変えられる手段があり、何処にでも行けたのに。

 

 けど、私はそれをしなかった。出来ながらしなかった。やるための努力をしなかった

 

 自業自得。このまま私は人生を終えると思っていた。

 

 

 ソレを貴方は掬ってくれたのだ。

 

 

 この数年は実に刺激的で楽しい時間だった。

 

 与えられた力を存分に振るい、思うままに暴れた。

 

 様々な強敵と出会い、命を賭けて殺し合い、命を実感出来た。

 

 何ものにも縛られず、何ものにも従わず、私は自由を堪能した。

 

 ただ受動的に蓄積されたものを、私は自分の意志で存分に振るった。

 

 

 何処までも高く、何処までも行けるこの力で。

 

 私は全ての鬼を超え、頂点のその先へと突き進む!!

 

 

 

 

「さあ、ラストゲームだ黒死牟!私は貴方を踏み台にして高みへと至る!!」

「フン…抜かせ…!真に…踏み台になるのは…どちらか知るがいい…!!」

 

 

 

「「行くぞォォォォォォォォォォォォ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【針の流法 血喰砲】

 

【月の呼吸 壱の型 闇月・宵の宮】

 

 

 私達は同時に血鬼術を行使した。

 私は砲弾を、黒死牟は斬撃を披露。

 各々の攻撃は正面がぶつかり、大爆発を引き起こす。

 

 これは狼煙。

 海戦の合図。

 戦いの火蓋が切られたという証明だ!

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 私達は得物を取り出しながら接近。

 私は針で形成された銃剣を、黒死牟は己の肉体で作った太刀を。

 各々の得物を構え、それぞれが術を行使した。

 

 

【月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月】

 

【針の流法 血喰砲・三連】

 

【月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り】

 

【針の流法 血喰砲・散弾】

 

 

 私の銃撃を赤黒い月の刃が斬り落とす。その度に赤い破片が飛び散る。

 奴の剣戟を赤黒い針の弾が撃ち落とす。その度に黒い砕片が舞い散る。

 得物で威力を上げたつもりなのだが、互いの力は共に互角らしい。

 

「(いいだろう、納得すまで付き合ってやる!!)」

 

 ここで次の形態に移るなんて無粋な真似はしない。

 第一、そんなことするならとっくにしている!

 ちゃんと私が勝ったと証明してみせる!

 

「ホォ~……」

 

 向こうも力を溜めている。

 太刀の形が三本の枝分かれした刃を持つ長大な大太刀へと変貌。

 どうやら向こうも同じことを考えているらしい……。

 

 

【月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間】

 

 

【針の流法 血針弾・散】

 

【針の流法 血針弾・複】

 

【針の流法 血針弾・爆】

 

【血鬼術合成 血針弾・爆散弾(ブラッド・スプラッシュバースト)

 

 

 爆発の散弾をまき散らす。

 辺り一帯が爆破され、爆炎と爆風が発生。

 相手の攻撃も、姿や気配も、何もかもを閉ざす……。

 

「(そこだ!!)」

 

 

【針の流法 突き穿つ血鬼の爪(デッドリィ・スティング)

 

 

 角から気配を察知して、そこ目掛けて血鬼術を放つ。

 気配だの勘だので敵を探るなんてナンセンス。

 立証に基づいた行動こそ一番信用出来るものである。

 

 

【月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾】

 

 

「……な!!?」

 

 爆炎を切り裂いて特大の剣戟が取んできた。

 咄嗟に銃を盾にしてやり過ごすも、突破して私を切り裂いた。

 幸い鬼殺しの力はないが、精神的にけっこうダメージを受けた。

 

「(……ック、まさか第一回戦目は私の負けか!)」

 

 私の目論見はあの弾幕で動きを制限させて大技を叩き込むつもりだったのだが、どうやら読まれていたらしい。

 まあ、私自身この手は使い古してきたからバレて当然か……。

 いいだろう、ここは私の負けだ。

 

 なら次のステージで取り戻してやろう!

 

「はぁ!!」

「らぁ!!」

 

 戦場は空中へと移行。

 私は翼を広げ、黒死牟は背中から八つの刃のようなものを生やして。

 それぞれのやり方で黒い空へと飛び立つ。

 

 さあ、第二ステージの開幕だ!!

 




気付いてるかもしれませんが、今の葉蔵には人間なんて眼中にありません。
無惨とのラストゲームがあるのに、外野のことなんて気にしてられませんから。

あと、無惨様は葉蔵の能力を初見で見破ったわけではありません。
分身体の戦闘を見て、そこにあった不可解な現象を今まで考えた結果、見破っただけです。花京院には劣ります。


さあ、次はラストバトルです!
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