鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「な…なんだあれは……!?」
「あれが…真の上弦の力!?」
葉蔵の黒死牟の恐るべき力に、一般隊士達は恐れ戦いていた。
未だ両者共に全力を出しておらず、お遊びの段階でしかないのだが……。
「む…無理だ……。あんなのに勝てるわけがねえ!」
「なんだよアイツら……!?空まで飛べるのかよ!?」
「あんなの鬼じゃねえ!もっと別の……別モノだ!!」
だというのにこの慌てよう。
二人の実力の一部を見ただけで彼らの闘志は折れてしまった。
だが、それも仕方ない事。誰があんな破壊兵器のような生物と戦いというのか。
「よ、よもやよもや……」
「相変わらず、派手だな……」
恐怖を抱いたのは柱も例外ではない。
彼らもまた、その強大すぎる力に怖れを覚えた。
本来ならば、柱である自分達が率先して戦わねばならない。
だが、あの戦火に飛び込んだところで、何が出来るというのか。
全く歯が立たなかった災厄、鬼舞辻無惨。
鬼殺隊の全てを駆使しても、柱が文字通り命懸けの特攻を繰り返しても。
千年間積み重ね受け継がれてきたものを、鬼殺隊だけでなくあらゆる人々が一丸となって創り出したものを。
鬼舞辻無惨という災厄は、まるでそれらが価値の無いものであるかのように、塵芥を振り払うかのように潰した。
正しく災厄が人の形を象ったかのような存在。
どれだけ人々が藻掻こうか、踏み潰したことすら認識していない。
そんな災厄を、葉蔵は一瞬で殺した。
何が起きたのか柱達ですら気づかなかった。無惨から一瞬たりとも目を離さず、瞬きすらしなかった。その筈だというのに、何をしたのか一切理解出来なかった。
いや、何も理解出来なかったというのは少し語弊があるか……。
勝てないという事だけは、この場にいた全ての者が理解した。
「……不甲斐ない!」
その言葉は誰の口から出たものだろうか……。
この世界の空は常に異様なものだった。
夜空よりも暗く、闇が何処までも拡がっている。
光源もなければ音源もない。何もない筈なのだが……。
【針の流法―――】
【月の呼吸―――】
今日だけは祭りのように騒がしかった。
【針の流法 血喰砲・爆散】
【月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間】
花火が打ち上げられる。
見る者全てを焼き尽くす暴力的な花火。
辺り一帯を照らし、凄まじい爆音を鳴り響かせながら。
爆炎は迫り来る刃たちを焼却した。
剣舞が披露される。
見る者全てを切り裂く殺人的な剣舞。
辺り一帯を漂い、劈くような金属音を鳴り響かせながら。
月刃は襲い掛かる炎たちを切り開いた。
【針の流法
【月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮】
音速を超えて赤い獣が突っ込んでくる。
暴力的なまでの加速力。
野獣のような見た目通りの、野蛮かつ力強い突進。
黒死牟はソレを迎え撃とうと刀を振るった……。
空気を裂いて軌道を描く紫の月刀。
芸術的なまでの御業。
美しい見た目通りの、優雅かつ見惚れる斬撃。
葉蔵はソレを貫こうと拳から生える刃を突き刺す……。
「ッグ!?」
「ッチ!!」
相打ち。
葉蔵はあらぬ方向へと流され、黒死牟は錐揉み回転しながら飛ばされる。
しかしそこは上弦を超えた鬼。葉蔵は翼で無理矢理に方向転換を行い、黒死牟はスルッと力を受け流すかのように元へ戻る。
【針の流法―――】
撃つ。そして飛ぶ。
兵器を模した大量の血鬼術を放ち、踊り狂う月刃を撃ち落としながら、空を火の海へと変える。
蝙蝠のような翼を広げ、黒い空を縦横無尽に飛び交い、舞い乱れる剣閃を避ける。
全身を血のように赤黒い毛に覆われた獣鬼が、激しい雄たけびを挙げる。
人知を超えた暴力を存分に振るう光景は正しく悪夢そのもの。
その様は絵本から飛び出した怪物のようであった。
【月の呼吸―――】
斬る。そして舞う。
月光を模した大量の斬撃波を放ち、迫り来る弾丸を切り開きながら、黒い空で踊り狂う。
落ちる木葉のように、ヒラリヒラリと空を舞い、飛び交う銃撃を避ける。
全身を龍のような黒い鎧で武装した武者が、凛とした佇まいで構える。
人知を超えた絶技を存分に発揮する様は正しく英雄譚そのもの。
その様は絵本から飛び出した剣士のようであった。
怪物と英雄
暴力と絶技。
野獣と剣士。
本来なら葉蔵こそ人間にとってはヒーローに近いというのに、この戦いではあべこべであった。
いや、むしろ本来の心を曝け出したといったところか……。
「針鬼…いや葉蔵よ…。それが…お前の求める…力ということか…」
ポツリと、黒死牟が問う。
音を超え、周囲の空気を押し退け、ソニックブームが辺り一帯に飛び散る中での会話。
通常なら、こんな状況で話など出来る筈がないのだが、両者共に血鬼術の電波を送受信することでコレを可能にした。
「私の経験上…鬼の姿や血鬼術には…その者の…願望や思想等が…強く反映される」
話しながらも手は止めない。
葉蔵は聞きながら血鬼術を放ち、黒死牟も剣を振るいながら会話を続ける。
「私の場合…“技を見て物にしたい”と願った結果…こうなった……」
鬼の姿や血鬼術は、その者の望みや思想を表す。
心の在り方が形として表されるのだ。
では、葉蔵の在り方とは何か。
人外と化した野蛮な獣の姿、暴力的と言ってもいい程の火力と種類の血鬼術、そして、永遠に進化し続ける特性…。
「お前は…獣になりたいのだな?」
「ふ…ははは……ハァーッハッハッハッハッハッハ!」
葉蔵は笑いながら黒死牟に向かって血鬼術のミサイルを発射。
柱クラスの剣士であろうと対処できない程の数。
黒死牟はソレを無数の斬撃によって切り払った。
「ああそうだ! 私の望みは獣…いや、怪獣になることだった!!」
銃撃を続けながら、葉蔵は感情を吐き出すかのように声を荒げて語る。
葉蔵の前世である『俺』は怪物に憧れを抱いていた。
全身を武装したあるく暴力。
国や組織に属さず、一個体で完成された生物。
法やルールに縛られず、抑えようとするもの全てを踏み潰す。
山だろうと町だろうと好き勝手に暴れ、行く手を阻むものはたとえ何者であろうとけ散らす。
時も場も状況も関係ない。善悪も意に介さない。やりたいことをやりたいようにやる。
横暴なまでの自由な姿と圧倒的な暴力にかつての俺は憧れた。
そんな生き方を俺は望んでいた。
学校という檻に閉じ込められ、刑期を全うしたら社会に出荷されるだけの囚人。
社会に出れば適当な会社で適当な位置の歯車と化し、摩耗していく。そう思っていた。
抵抗しようとは考えなかった。
力もなければ才能もない。何よりも、そのための気概や根性がなかった。
出来る事と言えば不平不満を言う事ぐらい。
何か変えるための努力も工夫もしないにも関わらず、グチグチと文句を言うぐらいである。
何でやらなければいいのか分からない事して、背負いたくもない責任を背負わされて。そうやって時間を浪費していく人生だと諦めていた。
私になっても変わりはない。
檻が学校や社会から家に変わっただけ。
家という組織の歯車となり、一生使われ続ける。そう考えていた。
力を手に入れるまでは。
あの日、赤い月の晩。
鬼の力を手にし、あらゆる縛りから解放されたのだ。
この姿は自由の象徴。
空を思うがままに飛び回り、陸を思う存分に駆け抜ける獣の姿。
この力は暴力の象徴。
枷を壊し、縛鎖を引き千切り、外敵を殲滅するための兵器の力。
誰にも支配されず、何にも縛られず。
組織に属さず個体で完結した自分。
完全な自由と完璧な暴力。
葉蔵は全てを手に入れた。
私は自由だ!!
「なるほど…。群から外れ…個として完結したい…。だがそれは…はぐれ道…。人間性を捨て…暴力によって進み続ける……冥府魔道だ…。その先に…光はない……」
「冥府魔道……いい響きじゃないか! 怪獣みたいな今の私の姿にピッタリだ! いいだろう、なら貴様を踏み台にして、私は私の道を進み続ける!……いや、作り続ける!!」
赤い獣の背後から、数十もの分身が飛び放たれた。
黒死牟はほとんど勘に任せてソレらの一斉射撃を避ける。
ヒラヒラと舞う花びらのような、美しく洗練された回避行動。
こうして黒死牟は血鬼術の雨と見紛うほどの銃弾を全て避けきった。
「フン、それで回避したつもりか!?」
【針の流法
【月の呼吸 十漆ノ型 叢雲月・連なり】
途端、空が炎と刃に溢れた。
町一つなど簡単に飲み込む程の爆炎。
音速を超えて余波が異空間の空に拡がり、遅れて音とも金属音とも識別できないような音が響き渡った。
災禍の中央に巻き込まれる葉蔵と黒死牟。
爆炎によって両者の姿が完全に隠されたその瞬間……。
「「グルオオオオオオオオオオオオオ」」
空を切り裂いて二体の怪獣が現れた。
赤いオーラを纏った有翼の獅子と、有翼の金属質な東洋風の龍。
「「行くぞォォォォォォォ!!」」
怪獣たちは再び己の武器を構えてぶつかり合った。
第四ラウンド。
鬼の宴はまだまだ続く……。
え~、葉蔵の望みは自由になりたいだけです。
ただ、ぞの自由の限度を社会のルールを逸脱しているんですよね。
要するに暴走族が交通ルール無視して飛ばしているようなものです。
ただ、葉蔵は硬派なタイプなので己の課したルールは守りますが、傍から見れば暴走族に変わりはありません。
しかし、ソレを咎める事は誰にも出来ません。
暴走族なら白バイという大人たちがしょっ引けますが、鬼であり全身武装している葉蔵をしょっ引ける存在はないのです。
しかも、ただの暴走行為に留まらず、大量破壊兵器を全身に装備している状態です。
ですから葉蔵は人類にとってルールに縛られない災害のような存在であり、安全を手にするために排除しなくてはいけません。