鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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最終バトル 最終ラウンド

 

「「ハァ…ハァ…ハァ……」」

 

 異空間の何もない空。

 巨大な獣と龍がボロボロになりながら激戦を繰り広げていた。

 

「「ッグ……おおおおおお!!」」

 

 苦しそうに咆哮を上げながら繰り出される血鬼術の嵐。

 葉蔵の赤黒い血針の毛を斬り、黒死牟の銀色の刀剣の鱗を撃ち。火花を散らし、血を流す。

 

 両者の戦いは互角。

 黒死牟が位相障壁で避けるも、葉蔵の時間加速による弾幕で何時かは当たる。

 葉蔵が時間加速で避けるも、黒死牟の位相障壁による剣戟で何時かは当たる。

 傍から見れば、最初から打ち合わせされた演舞であるかのように、両者の実力は拮抗していた。

 

「「グルオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 時間加速による圧倒的な速度、位相障壁による超常的な回避。

 しかし、ソレも長く続かない。

 

 時空系の血鬼術を連発するには、大量のエネルギーが必要になる。

 当然だ、時空という通常の物理法則を大きく超えた概念をそうポンポンと使える筈がない。

 鳴女のように戦闘力や他の性能を落とした鬼なら兎も角、万能型である葉蔵や剣術特化の黒死牟が連発するには、この血鬼術は燃費があまりにも大きい。

 故にこの時空戦はまもなく終わる。その時こそこの戦いの終局である。

 

 

【針の流法 血喰砲・散弾(スプラッシュキャノン)

 

【月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月】

 

 

 葉蔵が散弾をばら撒いた。

 黒死牟の視界に拡がる銃弾の瀑布。

 一つ一つが必殺であり、次の展開へと繋げる布石。

 黒死牟はソレらを無数の斬撃によって切り払った。

 

 

【捌ノ型 月龍輪尾】

 

【針の流法 血喰砲・貫通(スパイクキャノン)

 

 巨大な砲弾を顎門から吐き出す葉蔵。

 黒死牟はソレを巨大な尾の大剣で迎え撃つ。

 力と力が、大質量と大質量が激突。衝撃波を周囲にまき散らしながら両者は弾かれた。

 

「グルル……!」

「ホオオ……!」

 

 すぐに体勢を整え、同時に互いへ向かって飛び掛かる両者。

 葉蔵は両前足に、黒死牟は牙に力を籠める。

 

 

【針の流法 刺し穿つ血鬼の爪(スパイキング・エンド)

 

【月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月】

 

 

 葉蔵の刺し穿つ血鬼の爪(スパイキング・エンド)と黒死牟の月虹・片割れ月がぶつかり合う。

 威力はまたしても互角。両者は再度弾かれる。

 

「グおおオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ガアアアアアアアアアアああアアア!!」

 

 両者は吠えながら何かをまき散らす。

 葉蔵は赤い極小の針を、黒死牟は銀色の破片を。

 ソレらは両者の咆哮によって出来た空気の振動によって、一瞬で散り散りになり……。

 

 

 BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!

 

 

 辺り一面が、爆発した。

 カッと一瞬眩い光が溢れ、遅れて轟音と衝撃波が乱舞。

 無駄に壮大かつ派手な花火が異界の空に咲き誇った。

 

 

「「グルオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

 爆発の中、龍と獣が各々の武器を振りかざす。

 葉蔵は鬼喰いの針の爪で、黒死牟は鬼殺しの刃の尾を。

 互いに互いを殺し食らう技を受けながらも、決して退く事無く存分にぶつけ合う。

 

 

「(ああ、楽しいなぁ……)」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、葉蔵は感傷に浸る。

 

 楽しい。

 膨大なこの力を全力で振るうことが。

 強大なこの力を全力でぶつける事が。

 絶大なこの力で全力に殺し合う事が。

 

 

 町ひとつを壊滅させる事すら過剰なこの暴力。

 一度行使すれば数多の命を容易く奪える。

 正しく災厄の力。人知を超えた力である。

 

 この力は、壊すためのものだ。

 自分を捕らえる枷を、絡みつく鎖を、閉じ込める檻を。

 自由を奪おうとする存在を、行く道を阻もうとする邪魔者を踏み潰すための力だ。

 

 この力は、楽しむためのものだ。

 自由にプレイして、満足感を得るための。

 自分をより高みへと導いて、成長するための。

 

 この力で自分は自由を手に入れ、邪魔者を押し退け、手にしてみせた。

 力を振るう楽しみと、力をより高める楽しみを。

 だが、眼前の敵はそうはいかなかった。

 

 どれだけぶつけても壊れない。

 それどころか反撃、応戦してくる。

 だが、ソレがいいのだ。

 

 

 これだけ大きくなったというのに、まだ互角にやり合える相手がいる。

 これだけ強くなったというのに、まだ歯向かえる相手がいる。

 これだけ進化したというのに、まだ同格の相手がいる。

 

 死の恐怖はある。当たり前だ、生きている以上は本能的にソレは存在する。

 鬼とて生物だ。当然痛覚はあるし、攻撃されたら痛みによる怒りを感じる。

 自慢である力が通じない苛立ちも、無敵と信じていた力を防がれる屈辱も。

 だというのに、それ以上に……。

 

「……く、くはは」

 

 

 喉から声が溢れる。

 怖い、痛い、悔しい。

 だが、それ以上に……。

 

「く、クハハハハハはハハハハハハハハ!!!」

 

 たのしい!!

 

 死ぬかもしれない、負けるかもしれないという恐怖感と緊張感

 こんなに強い相手を殺せるかもしれないという高揚感と恍惚感。

 それらが混じり合い更なる高まりへと変化する。

 出来ることなら、この高まりの中で昇天したい。

 

 戦いは終わる。

 両者の力も限界に近い。

 そろそろ決めなくては、しょっぱい終わり方になってしまう……。

 

「グギャア!?」

 

 葉蔵が黒死牟に噛みついた。

 刃のように鋭く、銀色に輝く鱗を貫く獣の牙。

 高濃度の血針である牙が急速に成長し、内部をズタズタにする。

 あまりの痛みに黒死牟は吠えながら、葉蔵に攻撃を仕掛けた。 

 

「グルオォ!?」

 

 黒死牟も葉蔵に噛みつく。

 針のように鋭く、紅色に輝く毛を貫く龍の牙。

 鬼殺しの力を持つ刃である牙が、毒牙のように内部を蝕む。

 あまりの痛みに葉蔵は吠えながら、前足の爪を黒死牟に突き刺す。

 

「があぁぁぁ!!」

 

 負けじと巨体を畝らせ、葉蔵に巻き付く黒死牟。

 彼の鱗は刃でもあり、逆立たせる事でヤスリのような機能を果たす。

 銀色の光が黒へと変色し、鬼殺しの力を以て葉蔵の肉体を削り取る。

 

「ぐおおおお!!」

 

 葉蔵も血針の毛を逆立たせ、黒死牟に対抗する。

 彼も全身を鬼喰いの針によって武装している。この程度など造作もない。

 

 前足で獲物を抑え込み、噛みつく葉蔵。

 蛇のように絡みつき、噛みつく黒死牟。

 泥臭く、血生臭く、痛々しい戦い方。

 正しく獣同士の殺し合いそのもの。

 それだけ両者は必死なのである。

 

 余裕などない。

 残された力は少ない。

 無尽蔵に近い筈の体力も底を尽きかけている。

 共倒れになるのは時間の問題。早く決着を付けねば……。

 

「「グルォオ!?」」

 

 地面に激突する両者。

 どうやら戦いに熱中し過ぎてお互いに飛行を忘れてしまったようだ。

 上空数百メートルから墜落した衝撃によって互いの拘束が解け、自由になった両者は同時に距離を取る。

 今度こそ、眼前の獲物を仕留めるために。

 

 

「ホオオ……」

 

 黒死牟は呼吸を整えながら自らの尾に喰らい付く。

 ギャリギャリと音を立て、尾刀を牙で研ぎ、居合の構えを取る。

 

 切り札を使うつもりである。

 黒死牟がようやく習得した御業。

 人の剣技だけでなく、化物による妖術と合わせて切り拓いた極地。

 全ては、あの雪辱を晴らすために……!

 

「グルル……」

 

 対する葉蔵も構えを取る。

 四肢を踏めて、大きく開けた口を黒死牟の方へと向ける。

 葉蔵もまた切り札を使うつもりである……。

 

 鬼として生きた時間は黒死牟と比べたら大分短い。

 若輩者もいいとこである。

 しかしだからといって、その集大成が劣っているとは限らない。

 

 葉蔵が生きて来たこの数年は、積み上げてきた戦いの歴史は、決して軽いものではないのだから。

 

 

 両者共にこの一撃に全てを賭けている。

 持ち得る力を込め、タイミングを合わせ、一気に解き放つ!

 

 

 

 

【月の呼吸 終ノ型 朔夜・蝕日】

 

【針の流法 血塗られた帝王の圧政(ブラッディクリムゾン・ランペイジ)】 

 

 

 

 一閃。

 大砲のように口から発射された弾が、居合のように牙から振り抜かれた刃が。

 二つの必殺が、同時に相手を捉えた。

 

「……グ……ぁあ…!」

「う…ぐ、おぉ……!」

 

 一発必中。

 葉蔵の放った特大の砲弾は、黒死牟の長細い胴体の中心に命中。

 瞬く間に針の根を伸ばし、鬼因子を食らいながら、更に成長し続ける。

 しかし黒死牟の抵抗が強いのか、ある程度で止まってしまった。

 

 一刀両断。

 黒死牟の繰り出した巨大な剣閃は、葉蔵の巨体を真二つに切断。

 空かさず口から黒い月を吐き出し、切り裂いた葉蔵の肉体を飲み込む。

 しかし葉蔵の力のせいか、黒い玉の吸収する速度は以前より遅い。

 

「「ぐ…おおおお!!!!」

 

 そのせいで互いの必殺技は互いを殺し損ねてしまった。

 

 身体はもう動かない。

 互いの必殺技の効力のせいである。

 黒死牟は針の根のせいで、葉蔵はブラックホールのせいで。

 互いの技が互いの肉体を杭のように押さえつけているのだ。

 しかし二人は決して諦めない。

 

 まだ生きている。

 まだ力は残っている。

 まだ俺は負けちゃいない!

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 葉蔵と黒死牟は、互いに異形の肉体を切り捨てて脱出。

 額の部分が盛り上がり、第一形態の状態で飛び出た。

 

「葉蔵ぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「黒死牟ぉぉぉぉぉぉおォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 葉蔵は赤く染まった指を相手に向け、黒死牟は生成した刀を構える。

 そして……。

 

 

【針の流法 血針弾】

 

【月の呼吸 壱の型 闇月・宵の宮】

 

 

 互いの血鬼術が同時に炸裂。

 葉蔵の弾丸は黒死牟の心臓を、黒死牟の刀は葉蔵の首を刎ねた。

 

 

 




・血塗られた帝王の圧政(ブラッディクリムゾン・ランペイジ)
時間操作によって過程を飛ばし、当たったという結果のみ世界に残す。要は某運命の槍兵と同じ能力。
ブラッディクリムゾンは元ネタのキングクリムゾンから。ランペイジは暴れると横暴の二重の意味で、暴れるは葉蔵に、横暴は血鬼術の効果にピッタリだから。
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