鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第13話

 

 いきなり助けたはずの子―――錆兎の襲撃に葉蔵は驚くも、葉蔵の行動は冷静だった。

 

 彼ら鬼殺隊にとって鬼とは例外なく滅すべき悪。いちいち容赦など力関係的にも心情的にも出来る相手ではない。

 葉蔵のような色違い伝説ポケ〇ン並にレアな鬼のために、その原則をそう簡単に曲げるわけにはいかないだろう。

 故に、気絶していた者がこのような行動をする可能性は十分に考慮していた。

 

「なんだ…なんだこれは!?」

 

 彼の刀と鞘には、赤い糸が絡まっている。

 糸の先には紅い釣り針が付いており、それが鍔の部分に引っかかり、糸が刀を抜けないよう拘束していた。

 

「さっき君たちがじゃれあっているときに巻き付けた。これじゃあ剣を抜けないだろ?」

「ふざけ…!?」

 

 錆兎の首に針を投げる。当たらないよう掠める程度に。

 

「これで一回目」

「~~~~! ふざけやがって!」

 

 錆兎は糸のせいで抜けない剣を放り捨て、彼を止めようとしていた子―――義勇から刀を奪い取った。

 

「貸せ!」

「お、俺の刀!?」

 

 

【水の呼吸壱ノ型・水面切り】

 

 

 まるで水面を切り裂くかのごときまっすぐな剣筋。

 速く、重く、鋭い刃。その技はかつて葉蔵を指南していた剣の師範を超えている。

 

 その年でよくぞここまでたどり着いた。葉蔵の剣術など彼に比べたら児戯でしかない。

 

 しかし、その刃が届くことはなかった。

 

 

 葉蔵は半歩後ろに下がることで回避。ほぼ同時、手に持った得物を突きつけた。

 さっき胡蝶さんから拝借した刀だ。

 

「これで二回目」

「~~~!」

 

 それから滅茶苦茶に刀を振り回す。しかしそんな刀が当たるはずもなく、全て避け、受け止めた。

 

 いくら人間離れした剣戟を行おうとも、葉蔵は鬼なのだ。人を軽く凌駕する膂力で、超越した感覚器官で叩き潰す。

 

【肆ノ型・打ち潮】

 

 淀みない動きで斬撃を繋げる。

 やはり速い。動きも洗練されている。葉蔵が人間なら一撃目で何もわからずに首を刎ねられていたであろう。

 

「(……そろそろヤバいね)」

 

 葉蔵の顔に焦りが得見え始めた。

 このままでも葉蔵が負けることはないが、錆兎を無傷で無効化するほど差があるわけでもない。

 ここで彼を傷つけてしまえば、周囲の子供達にまで敵対意識を植え付けてしまう。それだけは避けなくてはならない。

 故に、彼は暴力ではなく『話術』で錆兎を鎮めることにした。

 

「俺は一匹でも鬼を多く倒す! それが死んだ両親の手向けであり、多くの人を守ることになる!」

「……?」

 

 突如、葉蔵は動きを止めた。ソレを見た錆兎はチャンスとばかりに……。

 

 

 

「君はそんなに善良な人間か?」

 

 

 

 

「な…何?」

 

 一瞬だけ、彼の動きが止まる。

 

「私の知る限り、他人のために命を懸るような真似をする者は大体三通り。自身が死なないと勘違いしている馬鹿か、命のやり取りに鈍感で死を理解出来ない阿呆か、自身の命に価値を見出せない空っぽな人間かのどれかだ」

「!!!?」

 

 ゆっくりと、錆兎にしか聞こえない声で、まるで耳元で囁くかのように。

 

「黙れ!」

 

 

【漆ノ型・雫波紋突き】

 

 

 高速の突き。正確に私の首を狙おうとしている。

 しかし葉蔵の話術が効いたのか、先ほどまでの洗練された動きがなくなっている。

 葉蔵は彼の刀を得物で弾き飛ばした。

 

「この中に当てはまらない、尚且つ本当に命を張れる人間というのは確固たる信念とソレを貫くに足る理由を持つ者だ」

 

「だが何故だ? 君からはそんな覚悟が見えない。これほど技が洗練されているというのに、何故か君からはそんな覚悟と理由が感じられない」

 

「これは私の勘違いか? 鬼殺という危険に身を冒しているというのに、私には君の覚悟が張りぼてのように見えてしまう。これは私の目が節穴なだけか?」

 

 

 

 まるで言葉が彼を縛る鎖に変わっていくかのように。まるで言葉が彼の体内を蝕む毒になるかのように。

 言葉を重ねる度に剣筋が、動きが、呼吸が。全てが鈍り粗も増えていく。

 

「………ぁ!」

 

 葉蔵は彼の顎に拳を掠め、脳を揺らして気絶させた。

 糸の切れた人形のように倒れる彼。それを葉蔵は優しく受け止め、義勇に引き渡す。

 

「はいこれ。一応無傷だと思うけど多少のダメージは堪忍してくれないか?」

「…………あ? ……あ~、うん……わ、分かった…」

 

 歯切れが悪そうに応えながら錆兎を受け取る義勇。

 

「ううん、少し説得したら彼も分かってくれたんだけど勢いで……」

「そ、そうなんだ……。あと、ちょっと聞いていいか?」

「ん?なんだい?」

 

 少し口ごもる義勇。

 

「……………さっき、錆兎と何を話していたんだ?」

「いや別に。ただ説得しようとしていただけだよ?」

 

 葉蔵は何も無さそうな、いつもと変わらない顔で。平然とした表情で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい。今日の私は何処かおかしい。

 私は一体どうしたんだ? いつもならあんなふざけた真似などしないし、言うこともない。なのに何故あんなことを?

 

 久々に人と会って舞い上がったのか? 鬼になって初めて人と話し、心が満たされたとでもいうのか?

 

 馬鹿馬鹿しい。私はそんなセンチメンタルな奴じゃない。

 私は空っぽでつまらない男だ。前世も今世も、そして鬼になった今も。根本的な部分は変わっちゃいない。

 

 なのに何故だ。私は何故こんなにも……。

 

「……早く寝よう」

 

 やめだ。

 無駄なことを考えても意味などない。

 今日はもう疲れた。早く帰って寝よう。




私は鬼殺隊が聖人揃いだとは思ってません。
本心から人々を守るために入った奴はほんの一つまみ。実際は建前で本音は全くの別。大半は憎しみをぶつけるためだったり、それしか道が無かったなどの理由だと思ってます。
ただ、目的は変わっていきます。鬼殺隊として人々を守ることで助けた命の幸せを願う奴もいれば、鬼を殺すことで憎しみを晴らすことに躍起になる奴もいるでしょう。或いは全く別の目的にすり替わる奴もいるはずです。
では、錆兎はどの道に転ぶのか。それはお楽しみに。

下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?

  • いや、下弦など雑魚だ
  • うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
  • いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
  • 分からない、下弦自体強さにバラつきがある

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