鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第14話

「いるんだろ?」

 

 真夜中、葉蔵はキャンプ地からこっそり抜け出し、山の中でも開けた場に向かった。

 たどり着くと同時、葉蔵は後ろへ振りかえる。すると、木陰から3体の鬼が現れた。

 

 一体目は飛蝗のように長い足を持つ異形の鬼。

 二体目は全身の筋肉が異常発達した巨体の鬼。

 三体目は蔓のような髪を生やしてる異形の鬼。

 

「やはり気づいたか、針鬼!」

「お前はこの山では邪魔だ」

「だからここで死ね。屍は俺らが食う」

「分かりやすい答えをありが…とう!」

 

 言うと同時に葉蔵は右の指先から筋肉鬼目掛けて針を出した。

 ほぼ同じタイミング、左手で針を脚長鬼に投げる。

 

 この一撃で倒す必要などない。ただ足を止められたらそれで十分。いわゆる牽制だ。

 長針を創り出し髪の長い鬼に接近。そのまま突き刺そうとした。

 だが、そう簡単にはいかないのが世の常。

 

「……!」

 

 突如、葉蔵が右に向かって長針を振る。

 いや、それは振ったのではなく、盾にしたのだろう。

 直後、脚長鬼に命中した。

 

 粉砕される葉蔵の長針と響く衝突音。

 押し飛ばされた葉蔵。しかし無傷の状態でぶつかった鬼に反撃として針付の拳を食らわそうとする。

 しかし、またしても邪魔が入った。

 

 邪魔者の正体は蔓のような髪。無数のそれらが蛇のようにうねりながら葉蔵に襲い掛かった。

 

「……チッ!」

 

 下品ではないが、苛立ちを感じさせるような舌打ち。しかし彼は冷静に横からの邪魔に対処した。

 新しい長針を作り、それを棒のように振り回して弾き落とす。

 そしたらまた邪魔が入ってきた。

 

「……!」

 

 次の邪魔は筋肉鬼。

 その鬼は巨体を活かして突進してきた。

 来ると分かっていれば精神的にも余裕が生まれる。葉蔵は難なくその攻撃を一歩下がって避けた。

 

 ちらりと横を一瞥する葉蔵。彼の視線の先には、脚長鬼がいた。

 

 体を葉蔵に向け直した脚長鬼は、飛び掛かる構えに入っている

 当然、そんな隙を与える葉蔵ではなかろう。しかし、今はその隙を作れる鬼が二体もいる。

 右から無数の髪が、左からは筋肉の壁が迫る。

 

「ぐっ……!」

 

 髪を前に跳んで避け、壁は腕で防御する。体を回転することで衝撃を逸らし、ダメージを最小限にまで抑えた。

 続いて迫る脚長鬼の突進を避けようと体を捻る。しかし次の瞬間、突如脚長鬼の軌道が変わった。

 

「がッ!?」

 

 何が、と思う暇もなく、葉蔵の腹部に強烈な衝撃が突き刺さり、体がくの字に折れ曲がる。口中に鉄の味が溢れ、赤い液体を出す。

 痛みに意識が半ば飛びながら、葉蔵は避け切れたはずの攻撃を食らった原因を探ろうとした。

 

「(……ああ、そういうことか)」

 

 彼の目に入ったものは脚だった。しかし、背中から生えたもの。

 本来生えている脚よりも長く太い脚。これが先ほどの攻撃の正体だ。

 脚長鬼は背中から生えた脚で方向転換し、勢いを乗せてもう片方の脚で蹴った。

 

 葉蔵は蹴りの勢いに逆らうことなく、敢えて吹っ飛ばされる。

 こうすることで衝撃をある程度逃がせるし、他の鬼たちからも距離を稼げる。

 

 そして何よりも、追ってきたバカを簡単に狙い撃ち出来る。

 狙いを筋肉鬼に定め、血針弾を放とうとした瞬間……。

 

 

「なっ!!」

 

 葉蔵の腕が逸れた。

 死角から髪鬼の蔓が伸び、葉蔵の腕に絡んでいる。これのせいで射撃が妨害されたのだ。

 

 腕から針を生やして髪から因子を食らう。

 針の本来の用途は捕食器官である。故に、投げたり撃ったり剣にして刺すより、自身の肉体から直接生成したものを刺す方が一番効率的に因子を取り込み、尚且つ頑強で質も量も良い針を生成出来る。投擲や射撃等の攻撃が出来る葉蔵が、肉弾戦を好むのもこれが理由である。

 

「お…おのれ!」

 

 髪鬼は髪を自切することで捕食から逃れる。

 そうだ、それでいい。これであの鬼の牽制にはなった。あの鬼を足止めしているうちに次の鬼へ狙いを定める、

 葉蔵は筋肉鬼に対して針を撃つ。

 これもまた牽制。あの鬼の足も止めて体勢を立て直す!

 

 だが、今回もイレギュラーが発生した。

 

 突如、筋肉鬼の姿が変貌した。

 全身の筋肉が肥大化し、皮膚から筋繊維がむき出しになる。例えるならバイオハザードのリッカーやタイラントのよう。

 筋肉の塊が叫び声を上げながら鬼は巨大な拳を振り下ろした。

 それを避けようと半歩下がるも……。

 

「!!!?」

 

 筋肉が更に巨大化。避け切れるはずの拳が葉蔵を捉えた!

 

 樹木に叩きつけられる葉蔵の肉体。轟音と共に脊椎と後頭部が潰れ、辺り一面に血飛沫が飛ぶ。

 鬼は手を緩めない。そのまま続けて樹木ごと薙ぎ倒した。

 鬼の肉体でなければ即死の一撃。

 

「―――ぺッ」

 

 口を大きく開き、べちゃりと赤と灰色の混ざったブヨブヨした何かを吐き捨てる。

 潰された脳みその一部だ。

 たとえ無視できなかろうが、今は戦いをやめる時ではない。

 最低限の機能だけを残しつつ、再生しながら起動。戦闘を続行する。

 

「―――!?」

 

 ヨロヨロと立ち上がりながら、針を撃つ構えに入る。だが打ち出そうとした瞬間、背後から蹴りが飛んできた。

 

「!!?」

 

 咄嗟にしゃがんで攻撃を避ける。

 頭上を擦れ擦れで通る脚長鬼の足。それが完全に通り過ぎたのを確認すると、しゃがんだ状態で無理やりその場から飛び上がった。

 元居た場所に髪の蛇が噛みついてくる。もし一歩遅かったら葉蔵は今頃髪で貫かれていたであろう。

 

 葉蔵は空中を舞いながら、無理やり体を捻って照準を攻撃してきた髪鬼……ではなく脚長鬼に合わせる。

 バシュッと発射される針。ソレは鬼……ではなく、鬼の足の一本にあたった。

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

 脚長鬼の足に撃ち込まれた針が因子を吸って成長する。

 やった、やっと一発かましてやった!

 心の中でガッツポーズをとる葉蔵、彼はそのまま胴体から脳まで根が伸びるのを期待していた。

 しかし、今回もうまくはいかなかった。

 

「チッ!」

 

 鬼は自身の足を自切して上手く逃れた!

 

「クソッ!三対一だってのに何で倒せねえんだ?」

「こりゃ逃げた方がいいんじゃねえのか?」

「落ち着け。このまま囲って倒すんだ」

「………畜生が」

 

 追いつかれた。三体とも攻撃態勢に入って葉蔵を囲む。

 一体ずつ各個撃破するはずが失敗。それどころか一体にも大したダメージを与えることすら出来なかった。

 状況は逆戻り。早くくこの戦況をなんとかしなくては……!

 

「これは……不味いね」

 

 鬼になって以来のピンチ。そんな状況でも葉蔵は笑顔を絶やすことはなかった。

 




このssが鬼になった社畜に似てるって言われたので言い訳させてもらいます。
私は最初から藤襲山で鬼喰いの鬼を『養殖』する展開をアニメ見た当初から考えてました。なので似てるのは偶然です。

というのも、藤襲山ってこれ以上ない人を食わず鬼を食う鬼の養殖所なんですよね。
無惨や鬼殺隊といった強すぎる外敵は存在せず、人間は年に一度にしか来ないので人を食えない。代わりに周囲には鬼がいるので共食いする機会は山ほどある。尚且つ年に一度は鬼殺隊入団希望者が来るので、その際に原作キャラと絡むことが出来る。
これ以上に鬼を食う鬼を強化し、原作キャラと遭遇出来る場所はありません。

下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?

  • いや、下弦など雑魚だ
  • うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
  • いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
  • 分からない、下弦自体強さにバラつきがある

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