鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
藤襲山の開けた場所。そこで鬼が争いあっていた。
鬼が共食いする。そんなことはこの山ではありふれている。
しかし、今回ばかりは少し事情が違った……。
「「「ここで死ね針鬼!」」」
一匹の鬼に対して三匹の鬼が一丸となって襲撃していた。
本来、鬼は共闘などしない。
とある臆病者が、鬼同士が共謀して反逆されるのを恐れて互いに殺しあう習性をインプットしたのである。
しかし例外的に協力することもある。例えば、自身より強い敵を倒すために
そして、今回がそういった例の一つである。
「(クソッ! 攻撃するチャンスがない!)」
脚長鬼が蹴りを、筋肉鬼が拳を振るう。そして髪鬼は攻撃の合間に、二体の隙間から髪による攻撃を繰り出す。
脚長鬼が葉蔵の針を避けながらスピードで攪乱。筋肉鬼が頑強な肉体で葉蔵の針を弾きながらパワーで牽制。髪鬼が髪で両者の間に生じる隙を潰して援護。それぞれが個性を活かすことで葉蔵の特性を潰していた
「(これは……かなり厄介だ)」
いつもならば葉蔵の一人勝ちであろう。
たしかに藤襲山の中ではこの鬼たちは強い部類に入るが、葉蔵には決して届かない。たとえ挑んだとしても、彼の格闘能力と血鬼術で制圧されるのがオチだ。
しかし、それはいつもの話である。
葉蔵は今まで
雑魚鬼を複数同時に相手したことはあるが、アレは個々が勝手に暴れていたというだけ。周囲を見ずに動くことで互いに足を引っ張りあい、酷い時には事故って同士討ちもやらかしていた。
しかし今回は違う。
互いに役割を決め、己の役割を全うして、一丸となって葉蔵を食らおうとしている!
「(ちくしょうが……!)」
心の中で悪態をつく。
相手に対してではない。自分に対しての苛立ちでだ。
鬼がチームで襲ってくることを想定してないわけではなかった。
だが、協調性の『き』の字もないような、自分勝手にただ暴れ、ただ他を食うだけの鬼たちを見てソレはないと思っていた。
こんな低能共が協力なんて出来るはずがない。集団で来たとしても、互いに互いを潰しあうのがオチだと。そう考えた彼は対策など考えてなかった。
そう、少しだけしか考えてなかった。
「ぐげえッ!!」
「お前何して…しまッ!?」
突如、脚長鬼が攻撃をミスった瞬間、流れが変わった。
バランスが崩れたせいで髪鬼の攻撃が誤って脚長鬼に命中。続けて筋肉鬼も事故って脚長鬼に衝突してしまった。
「難しいだろ、集団戦は」
そう、仕掛けたのは葉蔵だ。
難しいことはしてない。ただ脚長鬼が攻撃してきた瞬間、咄嗟に小さな針を打ち込んだだけだ。
ほんの小さな針。即席で、しかも余裕もない状況で作った即席物。脆くて質の悪いものだ。
無論、先程同様に足を自切して逃れられた。だが、そのおかげで脚長鬼の機動力を一時奪うことに成功。そのまま周囲を巻き込んで事故ってくれた
そして、こんなチャンスを無駄にするほど彼も鈍間ではない。
彼の両手の指が、中指と人差し指が第一関節とその周辺まで赤く染まる。
「や、やべえ!」
「早く逃げるわよ!」
立ち上がって逃げようとする鬼たち。
だがもう遅い。既に彼は攻撃態勢を整えている。
【針の流法
【針の流法
両手の指から針が勢いよく発射された。
五寸釘程はある大きさ。それが回転しながら両者へ襲い掛かる。
「ぐぎゃあ!」
左の針が筋肉鬼を貫く。
防御しようと筋肉を更に肥大化させるも、ドリルのように回転して貫いた。
「な…何!?」
右の針が突如分裂した。
逃げようと高く飛んだ脚長鬼も、散弾と化した針の弾幕を避け切れず、その一部が命中。バランスを崩して墜落した。
そして、次は髪鬼へと手を向ける。
「ひ――ヒィ!!」
紅く染まった指を見た髪鬼は恐怖し、強い焦燥感を抱いた。
まずい。この流れからして次の標的は自分。早くなんとかしなくては……!
彼女は全身を自身の髪で覆った。
針を食らった際、その部位を自切すれば針から逃れられる。その瞬間を二度も目撃した。
こうして身代わりを用意しておけば防げる。……彼女は本気でそんな甘い考えを抱いていた。
【針の流法
葉蔵の指から針が連射された。
一発一発は普通の血針弾とさして変わらない。だが、十本の指全てから射出される。
一つ針が打ち出されると間髪入れずにまた針が何発も撃たれる。
十、二十と、数秒の間に放たれる針の弾丸。それはまるで軍隊の弾幕のよう。
一発でもヤバいのに、それが複数くるのだ。とても防げるものではない。
「ぐげえええええええええええええ!!」
ついに一発が髪の壁を乗り越えて眉間にあたった!
次々と髪の防御を突破する赤い針の銃弾。数十秒も経過せずに髪鬼は針の根によって全身をズタズタにされた。
「げ…ゲゲ………」
因子をたっぷり吸った針の結晶だけ残して、髪鬼は黒い灰と化していった。
「(……強い)」
木陰に隠れながら、錆兎は葉蔵の戦う姿を見ていた。
最初は、ほんの好奇心だった。
鬼殺隊が鬼を殺す光景を見たことはあるが、鬼が鬼を殺す瞬間は見たことがない。
どんな風に戦い、どんな攻撃が有効でどうやって相手の攻撃を防ぐか。どんな駆け引きがあるのか等々、気になる箇所はいくらでもある。
「あれが鬼同士の戦い……なんて激しいんだ」
結果は想像以上だった。
互いに肉を斬り、骨を砕き、内臓を抉り合うかのような過激で残酷な殺し合い。しかしその程度で鬼は死なない。
鬼を殺す手段は日光を浴びせるか日輪刀で首を刎ねるかの二択。或いは葉蔵のような鬼に対して有効な血鬼術を使うかぐらいだ。故に、通常の戦闘では激しさを増す。
内臓を潰され、頭を潰され、手足を折られ。それでも鬼は生きている。
痛々しい。
痛いだろう、苦しいだろう、辛いだろう。
いくら回復するとはいっても、鬼とて痛覚は存在する。苦痛を感じるのは一緒だ。
むしろ、苦痛を感じる前に死ねるような人間より、死ぬような痛みでも生きている鬼の方が苦しいのではないだろうか。
内臓を潰され、頭をカチ割られた葉蔵を見たら、そんなことが頭からふと湧いて出た。
「(………何を考えている俺は!?)」
ハッと我に帰ってそんな考えを捨てる。
そうだ、俺は鬼殺隊になる男だ。狩るべき相手に、憎むべき相手に同情するなんて以ての外。人間より鬼が辛いなんて考えは言語道断だ。
思い出せ、鬼が今まで何をしてきたか。
人を食らい、嬲り、幾多の悲劇を生みだした害悪。こんな存在を許しては置けない。現にお前は自身の親を……。
「…………親の顔なんて覚えてねえ癖に」
そこまで考えて、錆兎は自嘲するかのように嗤った。
錆兎は確かに両親を鬼によって殺された。両親と暮らした幸せな記憶も漠然だが存在する。それを奪った鬼は憎んでしかるべき存在なのだろう。
だが、それは彼がまだ幼い頃であり、記憶もかなり曖昧だ。現に、彼は両親の顔も、どんな風に暮らしたのかも、ハッキリとは覚えてない。まるで夢のように朧気で、現実感が湧かなかないものだ。
そもそも、当時の自分はそこまで両親を愛していただろうか。町で見かけた、両親に対して不平不満を吐いていた腑抜けのように、自分も両親のことをそんなに思ってなかったのではないだろうか。
親がどんな風に殺されたのかも覚えてない。だから鬼に対してどんな恨みを持てばいいのか、そもそも憎しみ自体本当にあるのかも疑わしい。
では、俺は何のために戦えばいい?
何の為に剣を振るうのか。そう問われると、返答に困ってしまう。
本当は、成り行きで此処にいるだけではないだろうか。
男なら、男に生まれたなら、進む以外の道などない。
錆兎が口癖のように吐いている言葉。しかしそれは本心で言っていることだろうか。本当はただ自分に言い聞かせているだけではないのだろうか。
分からない。一体俺はどうすればいい?
とめどなく湧いてくる疑問に、満足できるような答えは一つもない。
どれもこれも漠然とした、弱い答えばかり。とても進むための原動力には思えない。
だったら、奴はどうなのだ?
先ほどまで激戦を繰り広げていた鬼に目を向ける。
あの鬼はさして鬼に恨みを向けているようではなかった。人を助けたいわけでもない。ならば、何故奴は戦える?
腹が減った? ならば自分たちを食えばいい。そっちの方がよほど簡単だ。
鬼の方が美味いから?たかが食うためだけに何故あれほどの痛みを耐えられる?
鬼との戦闘を楽しんでいる?それこそ理解出来ない。あんな見ているだけで痛々しい戦闘の何処に楽しむ要素がある?
理解出来ない。どれも命を懸けるにはあまりにも釣り合ってない利益だ。
だが、錆兎は見た。いや、見てしまった。
葉蔵の唇がクイッと吊り上がった瞬間を。
「………あの鬼のようになれば、俺も恐怖を知ることなく進めるのか?」
いつもの彼ならば絶対に口にしない言葉。数日前の彼が耳にすれば激怒するであろう発言。
様々な思考や感情で彼の脳内は混沌としていた。だから、こんな妄言を吐いてしまったのだろう……。
前回、私は鬼殺隊の視点ではない何かを書きたいと思った結果がコレだよ…。
これは私の偏見ですが、鬼滅の刃の登場人物は人として真っ直ぐすぎると思うんですよね。
強くたくましく、自身の掲げる信念に沿って生きる。まるで少年漫画の登場人物かのようです。
だから、私は少し捻くれたオリ主を書こう。人の弱さを、醜さを引き出すようなものを書こう。この世界の人間にはないものを、そしてこの世界の人間にはあるものを持たない『異物』を放り込もう。そう思った結果がこれです。
私はちゃんと書けたでしょうか……?
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある