鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
葉蔵の作ったベース。
藤の花による簡素な囲いの中で。カナエは最後の負傷者の手当てを今しがた終えた所であった。
幸い全員大きな怪我はない。
「ふぅ……何とか最終日まで全員生き残れそうね……」
「それはよかった」
「あ、葉蔵さん」
落ち着いて腰を下ろしたカナエの前にスッと湯気の立っている木製の皿を差し出す。
ギョウシャニンニクと山菜で臭みを消したつみれ汁。肉のうまみを十分に引き出している一品である。
「ありがとう」
カナエは返事と共に受け取りながら啜る。
「……美味しいけど、何か足りないわね」
「材料があればもっと良いものが作れるのだけどね。まあ山の中じゃこんなものでしょ」
葉蔵の料理はそれなりに美味い。
彼には前世の知識があり、今世でも華族として学ぶ機会には恵まれていた。
しかし葉蔵自身はそれほど料理の経験がないため、どうしても技術にムラが出てしまう。
「……さっき応急処置の序でに話を聞きましたけど、やっぱり殆どの人たちは鬼殺隊に入るのは諦めるみたいです。潔く諦めて別の道を歩むか、それでも諦められない奴は裏方担当の”
「そうか」
この選別に集まった者も決して弱いわけでは無い。
この場に居るのは育手と呼ばれる、引退した鬼殺隊員による訓練を受けて鬼殺隊として認められたものばかりである。
しかし、選別ではその大半が抜けられず、空しく鬼の餌となるのだが……今回の選別は違った。
最終日間近になっても尚死者無し。今まで行われた最終選別でも前例の確認されない状態である。
そんな異常事態をもたらしたのは目の前の鬼。人を食わず鬼のみを食らう鬼喰いである。
圧倒的な戦闘力と特殊な血鬼術で他の鬼を圧倒し、美しい外見と話術で信頼を勝ち取った。
まさしくカナエの思い描いた理想の鬼である。
「(……けど、何か違うのよね)」
しかし、何処か歪に感じる。
人は襲うどころか助けてくれるが、かといって人を襲わないという強い信念を抱いているわけではない。
鬼を襲うものの、鬼に対して強い敵意や恨みを持つわけではない。ただ餌として捕食しているように見える。
自分たちを見る目が何処かおかしい。具体的にどこがおかしいのかと聞かれると返答に困るが、何か違和感がある……。
「それで、君はどうするんだい?」
「私は、前もって隊員になるって決めてるの。これでも腕に自信はあるつもりよ。……隊員になって、鬼に脅かされている人々を一人でも多く助ける。少しでも悲劇を無くす。そう、決めたの」
「……そう、か」
年頃の女子が抱くには悲壮すぎる決意。その柔らかい声音かはとても信じられないようなソレを感じ取り、しかし深く追求せずそこで会話を断ち切った。
こんな麗しい少女が、こんな悍ましい試験に参加している。十中八九、ただならない事情を持っているのだろう。
「では、私は私の事情を解決しに行くとしよう」
「事情?」
「ああ、前に取り逃がした獲物を食いにね」
「それで、何故今更暴れているんだ、手鬼?」
「そりゃ、お前とまた出会うためだ、針鬼ィ」
互いに睨み合う二体の鬼。
葉蔵の指先が、手鬼の首周りの腕が赤く染まる。
動き出したのは、同時だった。
手鬼の腕が一斉に襲い掛かる。葉蔵はソレをジグザグに跳んで避けながら接近。指先を手鬼に向け、弾丸を放とうと―――せずに横へ転がる。
ほぼ同時、葉蔵が先ほどまでいたであろう地面から手が飛び出た。
初手に出したあの『手』はフェイント。無論あの一手で終わるならそれで良いのだが、そうならないことは経験を持って身に沁みついてる。故に、一つ小細工を仕掛けた。
「(……流石針鬼だ)」
この程度の攻撃を見切られるのは読めていた。
そうだ、それでいい。あの程度で倒されるようなら最初から恐怖などしない。
「(お前はここで殺す! 俺の新しい力……血鬼術で!!)」
放たれる葉蔵の針。
手鬼は腕を伸ばしてソレを受け止め、刺さるとほぼ同時に腕を自切した。
「なッ!?」
「ヒャハハハハハ! やはりなァ、お前の針はこうやれば無効化出来るのか!」
通常、自身の身体の一部を切り取って攻撃を逃げるなど不可能だが、すぐさま肉体を修復する鬼なら可能な手段。
鬼にとって、少し肉体が欠損するなんて大した問題はない。なにせすぐさま回復するのだから。
まさしく鬼ならではの回避方法。人間には無茶でも、鬼だから簡単に使える手段である。
「じゃあ今度はこっちから行くぞ……血鬼術、鉄拳豪腕」
腕が赤く染まり飛び出す。
先ほど伸ばした腕よりも速く、重く、そして鋭い拳。それらが一斉に幾多も打ち出された。
それらを全て避け、時に長針で弾いた。
たださっきよりも速くなっただけで動きは実に単調。故に避けることはさして難しくはない。
この程度の一発芸ならさして脅威ではない……筈だった。
ズシリと来る拳の重みと衝撃。
一発一発が昨日の筋肉鬼の突進に相当する威力。これは真正面から受けるべきではない。
しかし、先ほどの一手で見切った。ならば何も問題ない。
赤黒い拳を受け流し、同時に前へ進もうと……するのを中断した。
「!!?」
咄嗟に後ろへ跳ぶ。同時、シュンと空気を斬るような音が響いた。
鞭のように撓る何か。その先には鋭い刃物が付属しており、ついコンマ数秒まで葉蔵の首があった空間を通り過ぎる。
「(……なるほど、ただ無策で突っ込んだわけではないと)」
正体はすぐに分かった。
腕だ。青白く細い腕。それは骨も関節もないかのように撓り、指先からは鋭い爪が生えている。
「(けど、その程度なら問題ない)」
再び振るわれる青白い腕。
一つではない。十、二十と方向関係なく振るわれるソレを葉蔵は目を向けることなく避けていく。
大したことではない。
鬼になったおかげか、葉蔵は目を向けずともなんとなく攻撃が読める。
まして、この攻撃は一見すると不規則に振るわれているように見えるがその動きは実に単調だ。
なんてことはない。ただ素人が鞭をブンブン振るってるようなものだ。ならば問題はない。
赤黒い豪腕と青白い撓る腕。そして針を通さない使い捨ての腕。
なるほど、単体ならなんとかなるが、全てが揃えば厄介な相手だ。
しかし、この程度の小細工など……!
「ヒャハハハハハ! 捕まえたぞ針鬼!!」
「!?」
突如、体を何かに掴まれた。
それによって動き出すのが一瞬遅れる。
たかが一瞬。しかし、戦闘の場でこの一瞬はかなり大きかった。
「がッ―――――――――!!?」
無数の赤黒い拳が、青白い爪が。葉蔵の肉体を打ち、切り裂いた。
「(? 妙だな、あの手は一瞬だけの足止め程度に出したんだが本当に捕まってる? あの針を出して食われると思って焦ったんだが……)」
瞬間、手鬼は違和感に気づいた。
針鬼―――葉蔵の最も恐るべき点はその針にある。
体内に侵入すると同時、鬼にとって力の源である血を吸って肥大化して体内をズタズタにし、更に血を吸う。……まさしく鬼を殺すための血鬼術である。
手鬼は針を警戒して対葉蔵の血鬼術を開発した。
赤黒い腕―――鉄拳豪腕の特徴は通常の腕よりも速く鋭く重い拳を打てることだが、何よりもの強みは葉蔵の針が刺さらない程硬いという点である。
青白い腕―――鋭爪撓腕の特徴は通常の腕よりも速く動き、鞭のように振り回せることだが、何よりもの強みは葉蔵の針が刺さりにくい程速く、撓ることで狙いが付けられない点である。
その中で先ほど遠隔操縦機能のある腕―――追跡跳手を仕込んだ際、心配していた。腕を食う事で回復されるのではないかと。故に攻撃の量を増やすことで回復した分もダメージを与えようとしたのだが……。
「(まさかアイツの針……俺に有効打を与える威力をすぐさま出せるわけではない?)」
その発想に至った瞬間、手鬼は雄たけびを上げたくなるような衝動に駆られた。
事実、彼の予想は当たっている。
葉蔵の針は刺されば終わりというわけではない。針が鬼の因子と結合する際、因子の抵抗を突破しなくてはならない。
因子の抵抗は鬼自身が強ければ強い程、因子の量が多ければ多い程、ソレに比例して強くなる。
偶然にも、手鬼の放った手は葉蔵を警戒するあまりに多くの因子を送った。結果、葉蔵の抵抗を振り切れる程の威力となったのだ。
「針鬼、恐るるに足らず!!」
手鬼は勝利を確信した。
このまま押し切れば勝てる。じっくり甚振り、あの時の屈辱を晴らしてやる!!
葉蔵くんは物心つく前から両親の趣味で一緒に山へ狩りに言ってます。そこで従者たちがキャンプの用意をしてるのを見てサバイバルのやり方を学習しました。
あと、葉蔵君は殺しに抵抗を感じません。
流石に甚振って愉しむ趣味や殺し自体が好きということはありませんが、一度スイッチが入れば容赦なく殺します。
というのも、両親に狩りへ連れまわされたことで動物を殺すことに躊躇を覚えなくなり、その上で両親から『自分たち華族は下民たちとは違う』という教育が根付いてます。そのせいで前世の記憶があっても殺しがそれほど悪だとは思ってないんですよね。
もしかしたらそのうち人も殺すかもしれません。
まあ、今のままという前提での話ですが。
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある