鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第2話

 目覚めたら別の山にいた。

 

 あの後、いきなり傷だらけの男にボコられた。

 私は何も出来なかった。急に強くなりすぎた体を上手く制御出来ず、為す術なく気絶。そして気が付いたらここにいた。

 

 うん、本当に訳が分からない。

 

 本当にひどい目に遭った。訳が分からない男に二度も出会うとは本当についていない。。

 何が『やっぱ所詮は鬼だな。兄弟もダチも平然と食っちまう』だ。私の兄弟たちも私と同じようになったのだ。

 あのバカなガキのことだ。今頃与えられた力に溺れて師範に喧嘩を売っているのだろう。

 では私も帰ろうか。

 

 

 下山しようとしたができなかった。

 道はわかる。ただ降りればいいだけだら。

 しかし麓あたりがすげえ臭い。もう体が拒絶するレベル。多分近づくだけで昏倒する。

 おそらく花に何か毒みたいなのがあるのだろう。仕方ないから別の道を探した。

 

 

 

 

 この山やばい。

 私の同種が沢山いる。しかも凶暴。顔を合わせる度にすぐ襲ってくる。

 ここ最近聞いた言葉は殺すと食う。あとたまに肉寄こせだった。

 

 襲われる度に返り討ちにしてやった。

 どいつもこいつも動きがまるでなってない。ただ闇雲に突進するだけではないか。

 制圧するのは楽だった。正直、学校の新入生の方がマシなレベルである。

 

 しかし、奴らに技は効かなかった。

 

 打撃、投げ、極め…。あらゆる技をかけてやった。時には石で殴ったり崖に突き落としたりもした。

 だが、奴らはすぐ回復する。どれだけ殴り倒そうとも、どれだけ骨を折っても、どれだけ関節を外してもすぐに立ち上がって襲い掛かる。

 

「離せオメェェェェ!!」

「無理。だって私を食おうとするじゃん」

 

 こうして今日も私は寝技で相手を拘束するだけで一日を終えるのであった。

 

 

 

 

 鬼をぶちのめしているうちに、なんか超能力に目覚めた。

 正確には、能力に目覚めていることに気づいたって感じ。

 

 鬼に貫手を食らわせた瞬間、指から針が生えた。

 針に刺された傷はなかなか再生しない。だから殴った箇所に針を刺すことで回復を阻害。これを繰り返して鬼共をダウンさせた。

 これがまた楽しいのだ。今まで倒せなかった相手を倒した達成感。通常では考えられないような特殊な手段を使ったという特別感。そして自分は強いという優越感。これらすべてを同時に味わった。

 

 ヤバい。めっちゃ楽しい。来たんじゃね私の時代。

 なろう系が流行るわけだわ。こんなのテンションアガるに決まってんじゃん。

 

 自在に針を操る能力。これを針の流法と名付けよう。

 

 

 

 

 針を出せるようになってから、鬼の血の匂いをかぎ取れるようになった。

 いや、嗅ぎ取ると言ったら語弊があるかもしれない。なにせ匂いを感じ取るのは鼻ではなく角なのだから。

 私の角が触角みたいな役目をしているのだろう。人間にはない感覚、というか器官自体ないため最初は少し戸惑った。しかし今では十分に活用させてもらっている。

 

 で、毎日毎日注意深く血の匂いを嗅いでいたらあることに気づいた。

 私や他の鬼には、血に共通している匂いが混じっている。しかもそれがすごくいい感じがするのだ。

 

 あれを摂取すれば私はより強くなる。

 欲しい。あれを取り込みたい。もっと強くなりたい。

 

 というわけで私は奴らの血を摂取することにした。相手は私の血肉を狙ってくるのだ。ならば私が奴らから血肉を奪っても何ら問題は起こらない。

 

 鬼の血はマズかった。腐った油のような味がする。肉も最悪。豚の腸でも舐めているかのようだ。

 だが、その中にごく僅かに極上の味が混ざっている。

 その味を堪能しようと無理やり食べた。しかし周囲の腐った血肉が邪魔をする。無理やり食おうとして吐き気がした。鬼共はよくこんな不味い血を奪いあえるものだ。

 

 さて、どうやってこの極上のみを抽出しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……!」

 

 藤の山の中、一人の鬼が走っていた。

 その鬼は何かから必死に逃げていた。

 捕まったら殺される。それも無残な死に方で。そんな必死な想いで彼は走っていた。

 

「(クソ……なんで鬼の俺が!!)」

 

 男の鬼は憤慨していた。

 何故鬼である俺が恐怖を抱かなくてはならない。

 鬼とは畏れられるものである。俺が追いかける側で逆は追われる側。それが自然の摂理のはず。なのに何故俺が追われている。

 

 彼の理屈は正しい。

 通常なら人は鬼に勝てない。野生生物をも凌駕する膂力に血鬼術という摩訶不思議な術。これらの前では人間などただの動く肉に過ぎない。

 ただ例外があるとするなら……。

 

 

「なんで同じ鬼が俺を狙ってるんだよ!!」

 

 彼と同じ鬼がその一つに挙げられる。

 

 最初、その鬼は気安く話しかけてきた。

 紳士的な雰囲気の鬼だった。他の鬼は醜悪に顔を歪ませ、高圧的かつ野蛮な態度で接していたというのに、あの鬼はまるで人間のように話しかけてきた。

 だから彼は調子に乗ってしまった。俺の方が強いからコイツは媚びを売っていると。その結果、彼は必要以上に口が軽くなってしまった。

 彼はべらべらしゃべってしまった。自分が女を食うのが好きだと。女を犯しながら食うのが好きだと。泣きわめく女を見るのが好きだと。手足を食って苦しみ悶える女が好きだと。そして人間の頃からも強姦を続け、権力で全てもみ消していたと。

 

 

『よかった。これで君をぶちのめす大義名分が出来た』

『はぁ? おめぇ何言って…へぶしッ!』

 

 

 途端、その鬼は彼を殴った。突然のことで彼は対処できずモロに食らう。そして怯んでいる間に何発も食らった。

 無論、彼も抵抗した。こんなヤサオみたいな鬼に負けてたまるかと。しかしその行為は無駄に終わった。

 

 ヤサオだと見くびっていた鬼は強かった。武の心得のある者特有の動き。それは、彼をこの山に閉じ込めた剣士たちを彷彿させた。

 それだけではない。あの鬼にやられた傷は治りが遅い。鬼の身体なら骨を折られようが肉を裂かれようが瞬く間に再生するというのに。

 

 彼の決断は早かった。

 即座に逃げる。この逃げ足の速さと危機察知能力が今まで彼を憲官から助けてくれて来た。

 しかし、それも年貢の納め時である。

 

「があッ!」

 

 足に痛みが走った。

 この彼は感覚を知っている。これはあの鬼の……!

 

「君けっこう逃げ足早いね。…ま、私ほどじゃないけど」

 

 き…来やがった! あの鬼……大庭葉蔵だ!

 

 大庭家は有名な名家である。

 いくつもの会社を所有する華族であり、その三男坊もまた天才だと有名であった。そんな奴が何故ここに……!!?

 

「(に…逃げなくては!)」

 

 今はそんなことはどうでもいい。今大事なことは現状をなんとかすること。

 しかし逃げ道はない。ならばやることは一つ……。

 

「おら――ぶっ!」

 

 ヤケクソ気味に彼は殴りかかる。

 その拳を放つのは鬼の力である。

 常人ではとても捉えられぬ、人間を遥かに超えた速度。とても耐えられるものではない。

 

 しかし葉蔵も彼と同様の鬼。故に葉蔵は視えていた。彼の動作が。

 テクニックなど何も無い、ただ右腕を振り上げて落とすだけ。

 

 左腕を持ち上げ、迫り来る彼の右腕に交差させるように組み合わせる。

 ズシリとした重さが圧し掛かる。しかし葉蔵の左腕は微動だにしなかった。

 

 ほぼ同時に迫りくる葉蔵の拳。ソレは吸い込まれるかのように彼の顔面へとスムーズに当たった。

 

「ぐあああああああああああああああああああ!!!」

 

 彼は痛みのあまり顔を抑える

 鬼とて痛覚が存在しないわけではない。いくらすぐに再生するとはいっても痛いものは痛いのだ。当然怯みもするし痛む。

 その上、葉蔵の針による追撃で再生を阻害されたのだ。いくら鬼とて到底無視できるダメージではない。

 

 敵はダメージによって怯んでいる。更なる追撃のチャンス。しかし葉蔵は走り出すことなどせず、歩いて間合いを詰める。

 

「クソ!」

 

 痛みを無視して再度殴りかかる。だが葉蔵はそれを避けようとせず、突き出された腕を横から弾いて容易に受け流してしまう。そして空かさず一度に二度三度四度と葉蔵は拳を突きさす。

 

「グウッ!グワッ!ガッ!」

 

 苦しむ姿にも同情することなく、何度もボディーブローを浴びせる。

 内臓をぐちゃぐちゃにかき回して粉砕する拳。無論再生阻害の針付きである。

 

「ぐ…うううう……」

 

 彼は腹を押さえて蹲る。しかし鬼は同情なんてしない。容赦なく攻撃……いや、拷問を続行する。

 

 

 

 

 手刀を首に振り下ろす。首の骨が折れ、顔面が地面に衝突、硬い地に叩きつけられた顎にヒビが入った。

 

 背中に踵落としが落ちる。背骨が折れ、地面と鬼の踵にサンドされた体は悲鳴をあげた。

 

 足で地面に縫い付けた状態で腕を引っ張られる。吊り天井固めにされた状態で腕を引っこ抜かれた。

 

 彼の体を裏返して馬乗りになり、足を反り返らせながら足をねじる。逆エビ固め状態で膝から下を持っていかれた。

 

 

 

 

 

 戦いとすら呼べなかった。

 常人では決して耐えられない鬼の力を駆使して、同種である鬼を解体する。

 しかし、葉蔵はまるで幼子が虫を潰して遊ぶかのように解体した。

 

「……弱い」

 

 小さく呟かれた言葉。おそらく誰に告げるでもない独り言だったのだろう。

 

 彼は葉蔵の言葉に反応するように蠢く。

 手足を失い、首と背骨を折られ、内臓を蹂躙された彼に出来ることはソレしかなかったのだ。

 

 力任せに引き千切られた手足の根本の肉が、まるで腐肉から大量の虫が湧き出すように盛り上がり、じわじわと再生を始めようとしている。

 恐るべきはその再生力。たとえ四肢をもがれようともすぐさま再生する……はずである。

 

 いつの間にか撃ち込まれた針。

 裁縫針程の赤い針が。たかがその程度の針が。鬼の再生力を封じた。

 

 鬼が彼の頭を掴む力を少しだけ強める。

 喉を潰され、叫ぶことの出来ないが吐き出す血に濁った呼気は苦痛からか怒りからか。

 

「もう少し付き合ってもらうぞ」 

 

 殺してくれ。そう叫ぼうとするも声は出ない。

 その反応を見て、葉蔵はウンウンと頷いた。

 

「嬉しいかい? だけどもっと喜んでくれて構わないよ。君が楽しんだ女性たち以上の苦痛を与えるから」

 

 にっこりと、幼子のように笑う葉蔵。

 その笑顔は、傍から見れば年相応の可愛らしいものだった

下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?

  • いや、下弦など雑魚だ
  • うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
  • いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
  • 分からない、下弦自体強さにバラつきがある
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