鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
一時的に共闘することになった二人と一体。
葉蔵はその証としてまず自身の知る情報を二人に教えた。
「……情報は以上だ。何か質問はあるか?」
「お前を拘束していたアレは何だ?」
「おそらく振動を起こさずに腕を伸ばす特殊な血鬼術だろう。しかし今までやらなかったのを見るに、あれは伸ばす速度が遅いとかいった制限があるはずだ。……もしソレがブラフなら、私が援護射撃であの腕を落とす」
「……ブラフって何だ?」
「「余計な茶々を入れるな!」」
「なんで!?」
………多少の無駄話もあるが大した問題はない。
対してトドメの邪魔をされた手鬼は全身に血管を浮き出し、プルプルと身体を震わせ……絶叫した。
「アアアアアアァァァ!! またかァァァァァ!! またお前ら一門は……貴様ら弟子共も鱗滝もォォォォ!! いい加減にしろォォォォ!! 俺の邪魔を……邪魔をするなァァァァァアアア!!」
怒り狂う手鬼。
折角の天敵を屠るチャンスを潰された。
自身を恐怖させ、屈辱を与え、醜態をさらされた元凶を潰す絶好の機会を奪われてしまった。
怒らないわけがない。癇癪を起さないわけがない。
たかが人間が、しかもあの憎き鱗滝の弟子がやりやがった。この手鬼が許せるわけがない。
激怒のあまり正気を完全に失った手鬼は無数の手から血をばら撒き、攻撃態勢を整える。
【血鬼術 繁茂手腕】
【針の流法
ばら撒かれた血から爆発的なスピードで腕が生え、錆兎たちに襲い掛かる。
それを食い止めるは針の弾丸。生えた腕に着弾し、針の根を張って養分へと変えた。
「な!?」
「私がいることをもう忘れたのか?」
「~~~~!」
地団駄踏む手鬼。
地響きが起こりバランスを崩す錆兎と義勇。しかし彼らはすぐに立て直し、攻撃態勢へと移行した。
手鬼が今までこの血鬼術を葉蔵に使わなかった理由。それはこの技が葉蔵の針と相性が最悪だからだ。
血鬼術は鬼自身の血が源。つまり鬼の因子が使われている。故に無駄に数を増やしても逆に食われてしまう。
そして何よりも、術者である鬼から離れた血鬼術はその抵抗力が急速に弱まる。そのことは手鬼は知らなかったが、自身の腕よりは簡単に食われてしまうことは予想していた。
故に今まで使わなかったのだが……。
「お前らのせいだァァァァァァぁぁぁぁ!!! 死ねェェェ! 死ねェェェェェエエ!! 死ね鱗滝の弟子共オォォォォぉォォォォォォォォ!!!」
この二人のおかげで状況は一転した。
葉蔵にとって相性の悪い攻撃を引き受けてくれる盾役が二人も来てくれたのだ。
先ほどまでは互角の上で相性の悪い戦略を取られた。それさえなくなれば葉蔵の勝利は近い。
「行くぞ錆兎! 今度こそ終わらせる!」
「ああ、義勇! お前と二人なら、負けることは決して無い!」
錆兎と義勇が駆けだす。
水の呼吸の拾ノ型である生々流転を繰り出し、幾重もの回転で取りこぼした腕を切り裂き、その剣筋を龍へと進化させて鬼の元へと疾駆する。
だがそれでも全ての手を対処できるわけでは無い。
赤黒い鉄拳と鞭のような青白い腕が繰り出される。
「ぐッ……!(お……重い!)」
「がッ……!(受け止めても撓って攻撃が当たった!?)」
赤黒い腕を受け止めた錆兎がその重さに吹っ飛ばされ、青白い腕を受け止めた義勇も鞭のように撓る腕の爪にとってダメージを負った。
これはチャンスとばかりに手鬼が追撃を仕掛けようとするが……。
「ぎゃあああああああああああァァァァァァ!!」
突如、腕に激痛が走った。
この感覚を手鬼は覚えている。
あの時、針鬼によって腕を食われた際の激痛だ。
「無理に受け止めようとするな! その腕の関節部などの弱点を私が狙撃する! お前たちは攻撃に集中しろ!」
どうやら後ろには優秀な狙撃兵がいるようだ。
ならば腕は後ろに任せ、彼らがすべきは一秒でも早く敵の頸を斬ることである。
手鬼は腕を伸ばそうとするも針がソレを阻止。
一発一発はそれほど威力もないが、邪魔をするには十分だった。二人に当たらぬよう放たれるソレは確実に魔の手から二人を守っていた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
二人が懐に飛び込むと同時、全身を再生が追いつかなくなるほどに切り刻まれる手鬼の肉体。
最後の抵抗と言わんばかりに全ての手を天に掲げる。それらは捩じりながら融合し、巨大な腕となった。
「「!!?」」
ほぼ同時、二人の脚が止まる。
葉蔵を先ほど拘束した例の腕……血鬼術 這寄触腕である。
音も振動も予備動作もなしに腕を伸ばし、死角から動きを拘束する技。この技ばかりは葉蔵にも見抜けなかった。
その反面力が弱く、足止め程度にしか使えない。……だが、それだけで十分な威力だ。
振り下ろされる巨大な腕。
しかし、それが二人に届くことはなかった。
【針の流法
二つの腕に刺さる比較的大きな針。それは巨大な腕の関節を貫き、一部だけに根を張ることでその動きを止めた。
何も全てに根を張る必要はない。要所だけ抑えるだけで、動きを止めることは十分可能である。
「…………!!?」
渾身の攻撃を凌がれて唖然とする鬼。――――今度こそ、年貢の納め時である。
「「(今だ!!)」」
二人は同時に動いた。
自身を拘束する枷を壊し、動きの止まった腕を切り落とした。
「(まったく、本当にお節介な子供たちだ)」
本当は、葉蔵に共闘相手など必要ではないはずだった。
むしろ邪魔。自身の醜い姿を晒したくない葉蔵にとって、錆兎たちはいて欲しくない存在だ。
しかし何故だろうか……。
「(……誰かと共に戦うのは、なかなか悪くないな)」
ニヤリと、彼は微笑を浮かべた。
「ヒュゥゥゥゥゥウウウ――――」
葉蔵が深く、大きく吸う。
「(この技は成功したことはないけど……今ならいけそうな気がする!)」
掌の血が限界に達するまで貯める。全身の力の源を右手全てに集中させ、臨界点まで圧縮する。
溜めて、溜めて、溜めて……一気に解き放つ!
【針の流法
空気を裂きながら疾る、放たれる深紅の魔剣。
ソレは一寸の狂いもなく手鬼の胴体中心部へと命中し、邪鬼を侵略した。
「鱗滝の餓鬼イィィィィィィィ!! 針鬼イィィィィィィィ!!」
手鬼の全身に拡がる針の根。
浸食速度もその大きさも。全てが今までの針とは桁違い。
しかし、それでも手鬼は無駄な足掻きを続けた。
腕を新たに生やして抜く。―――無理だ。新しく腕を生やす箇所も全て針によって占領された。
無理やりその部分を千切る。―――無理だ。既に全身を針によって侵略された。もう腕は生やせない。
頭だけ切り取って脱出する。―――無理だ。針の侵攻は脳にまで達している。今更逃げられない。
彼は感じた。自身の肉体が、鬼としての力が奪われていくのを。
同時に崩れていく体。もう……止められない。
「(クソ……最期に見るのが鬼喰いなんて……こんなことに……?)」
月夜を見ながら鬼は思う。
怖い。夜に一人は怖い。手を握ってくれよ、兄ちゃん。
どうして……どうして俺は……兄ちゃんを……。
「(あれ? 兄ちゃんって……誰、だっけ……?)」
瞬間、誰かが彼の手を握った。
「………あ」
思い出した。
兄を殺したのは……自分だった。
心配して駆けつけてくれた兄を生きたまま食い殺してしまった。
何故今まで忘れていたのだろうか。何故食ってしまったのだろうか。
あんなに大事で、あんなに後悔して、あんなに悲しんでいたのに……。
「(兄ちゃん……ごめん……ごめんよ……!)」
今はもう無い体で手を伸ばす。
少しずつ景色は真っ暗になり、すると伸ばした手を握ってくれる一人の少年が見えた。
『しょうがねぇなあ。いつも怖がりで』
「(兄ちゃん……!)」
その手を……兄の手を掴み、一筋の光の元へと歩いて行った。
「……そうか、最後に兄と会えたんだな」
私は灰に還っていく鬼……いや、かつて子供だった亡者を見送った。
結局、何故こんな行動をしたのか私自身にも分からなかった。
この鬼は間違いなく悪鬼だ。この場にいる者だけでなく、全く関係のない第三者でも事情を知ればこの鬼が悪いと答えるほどだ。
しかし、それでも私は彼に哀れみを感じた。……感じてしまった。
感じてしまった以上はどうしようもない。
感情とは決して理屈ではないのだ。説明できないのだ。
ならばそれでいいではないか。彼が哀れだ、手を差し伸べたい。そう思ったら行動すればいい。
誰も損なんてしないのだ。誰も私を批判する権利などないし、私自身何か失うわけでもない。ならばそれでいいではないか。
「(それにしても……美しかったな)」
思い出すのは先ほどの錆兎くんたちの剣技。
私には決して届くことのない刃。たとえどれほど彼らが本気でかかってこようとも、私には勝てない。
しかし何故だろうか、私にはそれがとても美しいものに感じた。
本当に素晴らしかった。
脅威などないはず。恐怖など微塵も感じなかった。
だというのに何故だろうか。私は二人につい魅入ってしまい、心惹かれた。
「(……いや、考えるまでもないか)」
既に理由は分かっている。
彼らは、私にないものを持っている。だから美しく感じたのだ。
偶然力を手に入れた私と違って、彼らは努力の末にあの剣技を得た。
一目見るだけで分かる、彼らは血の滲むような努力を積み重ねることであの呼吸を身に着け、命を燃やして鬼と戦おうとしている。
ああ、眩しい。
私にはない情熱が、彼らの胸の中で太陽のように燃え滾っている。
それがとても美しい……。
「(……今はどうでもいいか)」
そうだ、今は二人のことを考えてる必要などない。
目の前のことに集中しよう。ということで私はかつて手鬼だったモノに目を向けた。
やはりと言うか、この鬼の因子は他の鬼の因子と比べてだいぶ様子が違う。
宿主が生きていた時程ではないが、他の鬼から引き抜いた後のものとは気配の濃さが段違いだ。
針を差し込んで因子を食らう。
うまい。ふんだんに含まれる因子が私の疲れた体を潤してくれている。
大体十秒ほどであろうか。因子を全て吸い取り、全身に生き渡った。
途端に感じる熱と痛み。
解る、私の肉体が変わっていくのを。
取り込んだ因子を体中の因子が食らい、急速に変化していくのが。
因子を取り込んだ私の血は、私をより強い身体にしようとしている。
途端に起きる眠気。
強い、抗えない眠気だ。
おそらく強化した体の微調整とかそういう類のものだろう。
私は眠気に逆らわず、その場で目を閉じた。
自分にない素晴らしいものを持つ者に対して人は憧れを抱きます。
鬼もソレは同じ。自分にないものを見せつけられた葉蔵は彼らに何かしら思うところがあります。
ソレが何になるかは後程に。
あと、葉蔵の針は鬼を食ったり、鬼を探すなんてチャチな能力ではありません。その品質はもっとえげつないものです。
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある