鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
第22話
やあ、良い子の皆。葉蔵だよ。
私は今、あの山から出て離れた街の中にいる。
いや~、藤襲山から出るのはそれなりに苦労した。
あのくっさいくっさい藤の花の大群を必死こいて我慢して抜けたと思ったら、今度はそこで待機していた鬼殺隊らしきヤクザ者たちに邪魔された。
本当に酷い話だ。アイツら私を見るなり『鬼が人間様の道を通るんじゃねえ!』とか怒鳴ってきたのだ。だから私は『貴様らより税金払ってるのだから通る権利は当然にある』と言い返してやった。
実際にちゃんと高い税金払ってるよ、親が。
そしたらヤクザ者がキレて戦闘になった。
先頭は私をあの山にぶち込んだ傷だらけの男。当然私はあの時の無念を晴らすべく応戦した。
結果は私の圧勝。傷だらけの男も何故あの時の私はあんなにあっさり負けたのか疑問になるほどあっさりと負けた。
本当に全員弱かった。あれならまだ錆兎くんの方が強いのではないだろうか。
あの場にいたヤクザ者は誰一人殺してはない。殺して鬼殺隊と敵対しても面倒だし、何よりも得るものがない。だから戦闘出来ない体にして放置した。
代わりに少しの物資を奪い……拝借した。丁度全身を覆えるような、日光を妨げる服が欲しかったから、黒子みたいな服を貰った。あと食料とかも少々。
「……腹がすいたな」
鬼殺隊から奪った食料も底をついてきた。
起きてから何も食べてないせいか、腹が滅茶苦茶空いている。
まあ、山を出て拠点を作った後、一週間ずっと寝っぱなしだったからね。
起きた後は歩きながらマズくて質の悪い干し肉を食っているが、この程度では腹は膨れない。
さて、狩りでもして腹を満たそうか……。
「……人の匂い」
獲物を探そうとした瞬間、突如漂ってくる人間の匂い。
「しかも、この匂いは……少女? それにしても、なんでこんな山奥に居るんだ?」
改めて匂いを嗅いでみるが、その少女以外の匂いは存在しない。ということは、まだ幼気な少女がたった一人で山の中に入ったことになる。
考えられるケースとしては口減らしとして捨てられたか、単純に迷子になったか……。
こんな日も暮れた時間に迷子というのもおかしいし、やはり捨てられたか?
匂いの元へと向かうと、そこには十歳くらいの桃髪の少女が何やら野草を採取していた。
こんな時間に野草採取? 疑問に思った瞬間、また別の気配がした。
その気配は高速で少女に接近しており、何やら嫌な臭いがする。間違いない、これは……。
「ヒャッハアアアアアア!」
「え、きゃ、きゃああああ!?」
同族の臭いだ。
その鬼は飛び出し様に少女を喰らおうと襲い掛かる。
「……っ!」
そして、気づけば私の体が動いていた。
指を向けて血針を投擲する。
仕留める必要はない。せめて足止めになってくれたら儲けものだ。
鬼は私の針を払い落とし、こちらを睨む。
どうやら私の存在にやっと気づいたようだ。そして、私の言いたいことも。
「テメエ嘗めた真似すんな!!」
「真似? 真似じゃなくて嘗めてるんだよ。……雑魚が意気上がるな」
怒りの感情が籠った叫び。
対し、私は見下したように顎を向け、そして鼻で笑った。
「ふざけた野郎だ! そのイケメン面ぶっ潰してやる!」
鬼は拳を握りしめて突進してきた。
「血鬼術 【赤腕護手】」
鬼――拳鬼の前腕を血のように赤い護手が覆う。
拳鬼はソレを拳や腕の延長線上として利用。素人でも扱い易いという点が大きい。
「死ねえ!」
赤腕護手を装着した右腕で拳鬼が殴り掛かる。
武術を学んだ人間の動きではないが、迷いがなく思い切りが良い。
鬼同士の闘いでは、格闘技はさして重要ではない。
どれほど重傷を負ってもすぐに回復する生命力、どれほど動いても消耗しない体力。……こんなバカげた化け物同士に格闘技は果たして有効であろうか。
否。格闘技とは人間が人間を制圧するためにあるもの。怪物同士が殺し合うためにあるものではない。
では、何が重要視されるのか。
「くたばれ!」
答えは、迷いの無さ、躊躇いの無さといったメンタル面だ。
振るわれた拳は迷いなく葉蔵の顔面を狙う。
ソレを半歩右に移動するだけで避ける葉蔵。
同時、前進しながら、腕を掴み、グルンと捻ることで殴る衝撃をそのまま返した。
「ぎゃあッ!」
途端にあがる悲鳴。
関節構造を無視するような動きに耐えきれず、肩から腕までがだらんと垂れ下がっている。
葉蔵は一切力を入れてない。
相手の力を利用して肘と肩の間接を外し、靭帯をねじ切ったのである。
更に葉蔵は腕を掴んだままそっと持ち上げ、そのまま投げ飛ばす。
掴んだ右腕を身体に抱え、背負って持ち上げ、拳鬼の身体が宙を舞う。
背負い投げ。
地面に叩きつける勢いは常人であれば背や後頭部を打って致命傷になるが、鬼の生命力の前ではそれほど問題にはならない。
「がッ………」
地面に背中から倒れ込んだ拳鬼は痛みのあまりに激しく悶絶している。
鬼になって初めて感じる激痛。
肘と肩を砕かれ、更に鬼の力で投げ飛ばされた。
痛い。滅茶苦茶痛い。痛くないわけがない。
「頑丈だね。腕を持ってくつもりで捻ったんだけど」
腕を組みながら言う葉蔵。
彼は追撃をしなかった。
その気になればそのまま針を刺してトドメをさすことが出来たはず。
しかし彼はしなかった。敢えてしなかった。
「こ、の……!ふざけんな!」
鬼は立ち上がってすぐに殴りかかる。
が、拳が当たる前に葉蔵の蹴りがさく裂し、一撃でまた倒された。
カウンターである。
殴りかかろうとした瞬間を狙ったため、殴るための突進力と体重がプラスされてダメージを負ったのだ。
実に見事な技術とセンス。しかし、鬼の前ではたとえ同種同士でも無意味であった。
「折ったはずなのにもう再生したか。やはり鬼の再生力は桁が違う」
そう、鬼に格闘術の意味がない理由がコレである。
いくら殴ろうが、いくら絞めようが、いくら投げようが。ソレが鬼に有効なダメージを与えることは出来ない。
数少ない例外を除いて……。
「こんの……糞野郎が! 【血鬼術 赤腕護鎧】!」
途端、鬼の全身が鎧によって包まれた。
典型的な鬼を模した赤い鎧。
刺々しく禍々しい姿。
『死ねえ!』
再び殴りかかる拳鬼。
先ほどよりも数段速い拳。
しかしその動きは稚拙かつ単純。
葉蔵にとっては対処も実に楽なものであった。
拳を逸らして防ぐ。
流しきれない衝撃が葉蔵の身体に走る。並の人間ならば骨が粉砕するような威力だ。だからだろうか、拳鬼はさほど慌てず、むしろ逆に、さらに殴りかかった。
彼の攻撃を受け流そうとした者は鬼殺隊にもいる。だが、全て叩き潰してきた。
いくら衝撃を9割方流せたとしても、その一割が岩をも砕く威力があれば意味などない。その一割の力で潰れるだけだ
どんなに優れた技術を持とうが、圧倒的な力の前では無意味。なにせ、戦いの基本はパワーとスピードなのだから。
小細工する時間も余裕も与えない。繊細な技は力で潰す。そうやって彼は敵を倒してきた。
この力でお前も潰す。拳鬼は殴ることでソレを伝えようとした。
「どうした、この程度なのか?」
『ぐげぇ!!』
だが、葉蔵はどうやら例外だったらしい。
受け流すと同時に拳を繰り出す。
針も血針弾もない、ただの拳。しかしそれでも鎧の鬼を吹っ飛ばすには十分な威力であった。
『この……!ふざけやが……ぐがッ!?』
話す前に繰り出される拳。
フェイントを交えた三段突き。
その威力はすさまじく、鎧の一部を破壊した。
「……弱い」
ハア~とため息を付く葉蔵。
「鎧の強度のムラが大きい。少し不意をつくだけですぐ引っかかる上に気の回らない部位は本当に脆い」
『だ、黙……ぐは』
再び葉蔵の蹴りが炸裂。その威力で鎧が一部だけ砕けた。
「少し息が切れるだけで鎧の強度が一気に下がる」
『うっせえ……グヘッ!!』
怒りに任せて振るわれる拳。しかしそれも逸らされ、再び反撃を食らった。
またもや崩れる鎧。ダメージが鎧を超えて直に浸透し、拳鬼の内臓をその衝撃で潰す。
しかしやはりそこは不死身の鬼。すぐさま修復して再び殴りかかった。
先程と全く同じ攻撃。それを葉蔵は『もう見たからいいよ』とでも言いたげな顔で受け流す。
瞬間、彼は意外な発見をした。
「お、スピードとパワーが急激に上がったね。これはただ身体能力を上げるのではなく、ゲームみたいにステータスを上げる効果がその鎧にはあるのか? 現に動作や荷重にはあまり変化がないし……」
『訳分かんねえこと……言ってんじゃねえッ!!』
連続で無茶苦茶なラッシュ。
ただ闇雲に拳を振り回しているだけの、子供のぐるぐるパンチのような拙い動き。
『この…ふざけやがって!』
ソレが通じないとやっと理解したのか、今度はタックルが繰り出した。
「攻撃が当たる瞬間に別のインパクトを感じるね。殴る瞬間に重量が増えるのか、それとも衝撃波みたいなのが出ているのか?」
『うっせえ! 何言ってるのか分かんねえんだ……ぐぺッ!』
タックルを受け流しながらまた新しい発見をして少し興奮する葉蔵。
体勢を崩した拳鬼の腰を蹴って距離を取り、腕を組んで次の攻撃を待つ。
「どうしたもっと頑張れよ」
『……この!』
再び来る攻撃。
葉蔵はそれらを受け流しながら観察する。
相手の血鬼術を観察し、何か他にも取りこぼしがないが、じっくりと調べる。
「……もういい。これで君の力は大体わかった」
大体それから十分ほどか。もうこれ以上見るものはないと判断した葉蔵は攻撃を開始することにした。
まずは針を刺してダメージ回復の阻害。それから血針弾を放つことにしたのだが……。
『ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!!』
「へ?」
針を鎧に刺した途端、鎧が自身の主である拳鬼を食らい始めた。
これは予想外な結果になった。
どうやら私の針は鬼の因子だけでなく、鬼の血鬼術をも食らうらしい。
いや、これは考えてみれば当たり前の話だ。なにせ血鬼術とは鬼の因子をエネルギーにして発動するようなものなのだから。
当然血鬼術には鬼の因子が込められており、それを食らう私の針が刺さればこうなるのは当然のことであろう。
しかしそれにしても今日はそれなりに収穫があった。
「ふぅ……大丈夫だったかい?」
「は、はい。え、えっと助けてくれてありがとうございました」
桃色の髪の女の子は、特に怯えたりといった表情は浮かべずに頭を下げる。
「しかし逃げなくていいのかい? 鬼を倒した私が怖くないのかい?」
「私を助けてくれましたお兄さんは良い人なんですよね? だったら、大丈夫です!」
いい子だ、鬼殺隊なんて私の顔を見ただけで斬りかかってきたというのに。
「それに、そんな事言ったら私なんか、もっと変ですし……髪の色とか」
「そうか?私から見ればとても魅力的だ」
「み…魅力的……ですか?」
「そうだよ。綺麗な色の髪じゃないか。髪の美しい女性はとても魅力的だよ」
はた目から見れば、年端も行かぬ少女を口説く男の構図なのだが、今は周りに誰も居ないのでセーフである。
「え、あ、そ、その……ありがとうございます……」
私の言葉に顔を赤くしながら俯く少女。
「それで、君は何で、こんな時間に山の中に?」
「あ、すみません。まだ名乗ってませんでした。えっと、私は甘露寺蜜璃って言います。よろしくお願いします」
少女………蜜璃くんは、そういうとぺこりと頭を下げる。
まだ十歳かそこらだというのに、随分としっかりしてる。兄上達とは大違いだ。
「私は葉蔵という。苗字は聞かないでくれ」
「葉蔵さん……素敵な名前ですね」
「どこにでもある平凡な名前だよ。それで、山に居た理由なんだけども」
「あ、えっとそうですね……なんて、説明したらいいか……」
私の問いかけに対し、蜜璃くんは恥ずかしそうに顔を赤くしながらもじもじと体をくねらせる答えてくれた。
どうやら、彼女は通常の子よりも多く食べるらしく、家になかったので山に食料調達したという。
うん、この子変わってるね。
この時代でまだ幼い少女が夜で歩くなんて危険すぎる。ソレは平成の時代を知る私より当時しか知らないこの時代の者ならば常識であるはずだ。
少し出歩くだけでも危険だというのに、更に危険な山に入るなんて自殺行為だ。
「今までも、何度か山菜を採りに来てたので今回も大丈夫と思ってたんです。お母さんには、女の子がはしたないからやめなさいって言われてるんですけど、お腹はどうしても減っちゃいますし……」
「それは単に運がよかっただけだ。普通なら野犬なり盗賊なりに襲われる。……そして鬼にもな」
「うぅ……」
そう言うと彼女は俯いてしまった。
「……今度、食料が欲しくなったら私を呼ぶといい」
「葉蔵さんを、ですか?」
蜜璃くんの言葉に、私はコクリと頷く。
「私はここをしばらくベース……住居にするつもりだ。山の入り口で名前を呼んでくれ。そうすれば私が君に食料を渡そう」
「……何で、会ったばかりの私にそこまでしてくれるんですか?」
「一人でまずい食料を食べてもつまらないからね。どうせなら可愛らしい
「わ、私が可愛い……」
私の言葉に真っ赤になっていた。
この子すぐ赤くなるな。将来悪い男に騙されないか心配だ。
「そ、それじゃあ、ご迷惑でなければ……お、お願いします」
蜜璃くんはそう言うと、頭をぺこりと下げる。
「ああ、よろしくね」
こうして、私と蜜璃くんのなんとも奇妙な関係が始まるのだった。
普段の葉蔵さんの強さはまだ下弦に届かないぐらいを想定してます。
そもそも下弦の強さが分からないんですよね。
塁とかを見るに、スペック的には柱と同格と私は考えてます。
義勇さんとの闘いでは自身の技を破られてかなり動揺していましたが、もし塁が自身の血鬼術を使いこなしていれば、あの時動揺していなければ義勇さんを倒せたと思うんですよ。
皆さんはどう考えてますか?
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある