鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第23話

「……同族がいるな」

 

 ふと、私はこの山の近くに同族の気配を察知した。

 距離はそれほど遠くない。疲れるが少し走れば十分届く距離だ。

 気配の元は町から。夜なら人の数も少ないので戦おうと思えば戦える。

 さて、どれから食うべきか……。

 

「………ん?」

 

 そんなことを考えていると、ふと風に乗って微かに私を呼ぶ声が聞こえてくる。

 彼女の声に応えるべく起き上がると、 

 

「あ、こんにちは葉蔵さん!」

 

 日も沈みかけた頃、私を見つけた蜜璃くんが元気に走って近づき、笑顔で挨拶をしてくれる。

 皮膚の弱い私は日光を浴びると寿命が縮むと嘘をついたら、蜜璃くんはわざわざこんな時間に尋ねてくれるようになったのだ。

 彼女を騙していることに少し罪悪感があるが、あまり深く考えないようにしている。実際は寿命が縮まるどころじゃないし。

 

「こんにちは、蜜璃くん。君は今日も元気だね」

「えへへ、葉蔵さんに会えると思ったらうれしくて。それにご飯も美味しいし!」

 

 私たちは食事にとりかかった。

 今日の献立はハンバーグ。捕らえた鹿肉をミンチにしてギョウシャニンニクや薬味を練りこんで臭みを消した葉蔵オリジナルのハンバーグだ。

 

「これすごくおいしいです!」

 

 彼女は私の拙い料理を美味しいと褒めてくれた。

 お世辞でもそう言ってもらえると作った側からすれば嬉しい。

 何よりも誰かと食べると美味しい。私は蜜璃くんとの時間を愉しんだ。

 

 しかしそんな楽しい時間も終わり。私は一時間ほどで蜜璃くんを家に帰すことにした。

 彼女は大丈夫だとは言っていたが、親御さんからすれば日も沈みかけなのに子供の姿が見当たらないとなれば心配する。なのでたとえ嫌がっても私は容赦しなかった。

 

「……葉蔵さんがそこまで言うならもう帰るわ。けど絶対来るからうんと美味しいもの用意してね!」

「うん、明日もおいで」

 

 こうして蜜璃くんを帰し、山を完全に降りたのを確認した後に本来の食事へと向かった。

 

 

 

 ここからは鬼の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月夜の竹林。

 その(もと)に赤い血飛沫が刃となって降り注ぐ。

 

「クソっ何で当たらないんだ!?」

 

 竹林に光る赤。紅い刃は周囲の竹を伐採し、笹と共に舞い散る。

 その斬れ味は鋭く、竹などの周囲のものを何の抵抗もなく切り裂いていく。

 もし人間が入れば瞬く間に細切れの肉片(さいころステーキ)になるであろう。

 

 そんな刃の中に、一人の男がいた。

 

「いい加減にくたばれ、この化け物がッ!」

 

 星々が、月光が彼を照らす。

 美しい顔立ちの男。全てのパーツとその組み合わせが見る者を惑わすに相応しい黄金率を保っている。

 無駄な筋肉や贅肉が無い、引き締められた肉体。まるでギリシア彫刻のような完成度であった。

 ただ一つ、欠点を述べるなら……。

 

 

「なんで鬼が鬼を殺そうとしてんだよォォォォォォォォ!!!」

 

 

 その男は鬼であった。

 

 死人のように青白い肌と、色素を抜いたかのような白い髪。

 闇を溶かし込んだかのように黒い瞳と、血を凝縮したかのような赤い眼。

 そして猛獣のような牙に額から伸びる赤い角。

 

 人間離れした美貌を持つその男は、人間から離れた異形であった。

 大庭葉蔵。又の名を針鬼。かつて藤襲山の鬼たちに恐れられた鬼喰いである。

 

「……どうした? その程度か?」

 

 僅かに体を傾けて血の刃を避ける。

 いとも容易く、まるで最初から来ることを分かっているかのように。

 そして悟る、自身が狩られる側だと。

 

「(……これ以上はない、か)」

 

 対して、葉蔵は冷めた目を鬼に向けていた。

 

 鬼の血鬼術の範囲は分かった。

 どうやら眼前の鬼は己の血を刃に変え、ソレを鞭のように振り回し、時に飛び道具として使用しているらしい。

 

 

 大した能力ではない。

 

 動きは並。自身よりも粗く、鈍く、そして遅い。

 焦っている様子からも奴の血鬼術にこれ以上の手の内はない。

 ならば用はない。ここで散れ。

 

 

「……! させるかッ!!」

 

 葉蔵の指が赤く染まる。

 ソレを見てあからさまに動揺した鬼は、血鬼術の範囲を狭めて一点を狙い始める。 

 

 丸わかりだ。

 葉蔵はしゃがみながら指を構える。

 直前に葉蔵の首があった位置に刃が走る。

 

 同時に放たれる赤い魔弾。

 血針弾は逸れることなく鬼に命中。瞬く間に全身を侵略する。

 

 ふと葉蔵が鬼に目を向けると、鬼は何が起きたか分からず惚けたような顔をしていた。

 

「……所詮は雑魚か」

 

 葉蔵はため息を付きながら鬼の因子を食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蜜璃くんと食事を共にするようになって大体一週間ほどが過ぎた。

 

 彼女と共にする食事はそれなりに楽しかった。

 一人で黙々と食べるのもいいが、可愛らしい少女とお話しながら食べるのもこれはこれで面白い。

 それに蜜璃くん、美味しそうに食べてくれるんだよね。作った私も嬉しいし、食べているこっちも美味しいと感じる。

 そんな風に食事を続けていると、夕日が沈んで一時間程が経過した。なので私はそろそろ帰るよう蜜璃くんに提案したのだが……。

 

「………嫌です。もっとここにいたい」

 

 今日は少し強情のようだ。

 

「どうしたんだい? 何か嫌なことでもあったのかい?」

「……今は家にいたくない」

 

 それから彼女は何があったのかポツポツと話した。

 

 どうやら蜜璃くんは生まれた時から筋肉密度が常人の8倍もある特異体質らしい。

 その怪力は幼少の頃から効果を発しており、一例として彼女が一歳――常人であればまだヨチヨチと歩き始める頃――に、弟を身籠っていた母を気遣い、四貫(現在の15kg)もの漬物石を持ち上げた逸話を持つらしい。

 ただしデメリットとして、蜜璃くんは通常の人間よりも八倍近く食事を取る必要があるそうだ。

 本人曰く相撲取り三人分よりも食べるそうで、私と会うまではいつも空腹だったそうだ。

 

 おそらくその異常な筋肉量のせいで通常の生命活動を行うだけで莫大なエネルギーが必要となっていたのだろう。特に今のような大正日本では高タンパク・高カロリー食品がほぼ存在しない。そのためかなり生きにくかったそうだ。

 そのためか、最近は西洋から伝来したハイカラな洋食がお気に入りで、それもあって食費がとんでもないことになっているらしい。

 

 また、元は黒髪だったのだが、大好物の桜餅の食べ過ぎで髪の色が変わったという。

 とんだ面白体質だ。この理屈が正しければ、コーヒーやチョコを摂取すればカカオ色に、リンゴを食べすぎれば赤と白になる。……今度やってみようかな?

 

 とまあ、以上のことから彼女は町の人々から気味悪がられており、同じ年ごろの子供たちからも仲間に入れてもらえないそうだが……。

 

「………素晴らしい」

 

 私は彼女の特異体質に、逆に惹かれた。

 

「私の家ならば大歓迎だ。その素晴らしい遺伝子を我が家系に取り組んでもらえないだろうか?」

「え!?」

「大丈夫だ。私の家ではかなり裕福で飲食関係の会社をいくつか運営している。西洋や大陸の文化を取り入れ、牛や豚の飼育を行い、他にも貧しいものを雇ってパスタやパンなどの製造、胡椒(こしょう)や茶などの栽培、様々な品種改良などを手掛けている。君を腹いっぱい養う事なんて造作もないよ」

 

 だから私の家に養子として入ってくれないか。

 

「そ、そんないきなりそんなこと……。そ、その…お母さんにも話さないといけないし……」

「……そうだな。私もいきなりこんなことをいってすまない」

 

 そうだ、彼女にも家族がいる。金と食料で引き離すなんて卑劣な真似は出来ない。

 話を聞く限り家族との関係は良好そうだ。両親や兄弟との仲も良く、むしろ町の人から気味悪がれ友達もいない彼女のことを心配してくれているらしい。

 いい家族じゃないか。私や俺の家ならどんな風にしていたか……。

 

「(……そういえばもう一か月以上父上達と会ってないな)」

 

 私と俺の家族は今どうしているだろうか。

 




葉蔵が普段力を押さえている理由は単純で、ただ異形化した姿が気に食わないだけです。
まだ鬼になって一か月ほどしかない彼が、無惨の血を急速に取り込みすぎたのが異形化の理由です。
だから時期が来て安定したら彼好みの異形へと進化します。

あと葉蔵の姿はデスノートの夜神ライトを東京喰種の白カネキみたいな色にした感じを想像してます。
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