鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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ふと思う、転生したら本当に前世の自分のままでいられるのだろうか。


第24話

「立ちなさい、葉蔵」

 

 

―――疲れた。

 

 

「まだ出来るはずよ」

 

 

―――無茶を言わないでいただきたい、母上。このような鍛錬は幼子である私に耐えられるものではないはずです。

 

 

「その程度ですか…いや、違うはずよ。貴方は天才よ。出来損ないの兄とは違うのです」

 

 

―――私は天才などではありません。前世の記憶があるためそう見えるだけで、中身はつまらない凡人です。

 

 

「葉蔵……貴方は最強の戦士になれるはずです」

 

 

―――母上、私は貴方がここ最近理解出来なくなりました。

 

 

「もっとです。もっと才能を伸ばし、知識を身に着け、技を磨き、己の糧としなさい」

 

 

―――貴方はおかしくなりました。一体私の何に才能を見出したというのです。

 

 

「余計なことを考えないで。貴方は私の示した道を歩めばいいのです」

 

 

―――私には出来ません。凡人である私には貴方の言うようなものに届くはずがないのですから。

 

 

「……構えなさい、今度はあのタシギを撃ち落としなさい」

 

 

―――だけど、私は抵抗することはなかった。

 

 

「何をしているのです、早くやりなさい」

 

 

―――母に反抗する特別な理由も、他にやりたいも特にない。ならこのまま流されても何の問題もない。

 

  私は双眼鏡越しでタシギの巣に目を向ける母の隣で銃を構えた。

 

 

 

 

 カチャ。

 単発式の村田銃に弾を込め、シリンダーを引く。

 慣れた手順だ。後は照準を合わせて引き金を引くだけ。

 

 チャキ

 銃口を向ける。

 距離は72m程。私の腕なら観測手なしでも問題なく当てられる。

 スコープは使わない。反射し気付かれるのを想定しての訓練だから……。

 

 

「何をしているのです。早く撃ちなさい」

 

 

―――しかし母上、アレには子がいます。

 

 

「それが何だというのです。相手はたかが畜生。何を躊躇する必要があるのです?」

 

 

―――しかし母上……。

 

 

「やりなさい。貴方には華族としての自覚が足りません。華族である私たちは他者を糧にする権利と、より家を発展させる義務があるのです」

 

 

―――……分かりました。

 

 

 

 

 バンッ

 私は巣で卵を温めているタシギを撃ち落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久々に夢を見たな」

 

 ふと目が覚める。

 見知った天井。ここ一週間ほど愛用している小屋の天井だ。

 

「……まさか鬼になっても夢を見るとは」

 

 どうやら鬼は寝ると夢を見れるらしい。

 本来鬼は眠らないので検証は不可能だし、必然的に私のみが見れると考えていいのかもしれない。

 まあ、今はどうでもいいが。

 

 それにしても何故今更家族の夢など見たのだろうか。

 まさか、蜜璃くんと家族の話をして恋しくなったと言うのか?

 バカバカしい、今まで一度も家族を恋しいと思ったことなんてないくせに。……私も、そして俺も。

 

「……下らない」

 

 どうでもいい。ああ、どうでもいい。

 家族が何だというのだ。母上がどうだというのだ。

 

 私は鬼になった。故に家族など関係ない。ないはずなのに……。

 

「クソッ!」

 

 近くの岩を破壊して気分を入れ替える。

 そうだ、こんな時は暴力で忘れよう。

 鬼と戦い、鬼を殺し、鬼を食おう。

 そうすれば気も紛れるはず……。

 

「……行くか」

 

 私は鬼だ。

 鬼を食らう最強の鬼。それが今の私だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血鬼術とは何だろうか。

 

 

 鬼が自身の血に含まれる因子を消耗することで使用可能であり、その効果や効力は鬼によって様々である。

 では、鬼は血鬼術を何種類使えるか。……それもまた鬼によって違う。

 

 例えばあの拳鬼。あの鬼の血鬼術は身体強化だけだろうか。

 答えは否。あの鬼の血鬼術はただ身体機能を上げるだけでなく、殴った瞬間に拳の重量を上げたり、拳を一時的に硬くしたり、拳が当たると同時に腕力や荷重以外の衝撃が出るようになっている。

 おそらくこれらは本来別種の血鬼術だろう。そしてソレらを使いこなし、組み合わせることであの血鬼術は真価を発揮する……はずだった。

 

 あの鬼は自身の血鬼術を何の理解もしてない。ただ殴るのに使えばいいと思ってるだけで、自身の能力がどんなものか、どう使えば有効か、どんな弱点やデメリットがあるかを全く分かっていなかった。

 勉強不足練習不足経験不足。何もかもが不足している。

 

 勉強が必要だ。己の血鬼術の効果はどんなものか、どんな使い方をすればいいのか、どんな風に応用できるか。考察と分析を繰り返す必要がある。

 練習が必要だ。己の血鬼術はどこまで伸ばせるか。どんな風に鍛えたら成長するか、どんな風に発展できるか。訓練と検証を繰り返す必要がある。

 経験が必要だ。己の血鬼術はどこまで通じるのか。どんな敵にどう使えばいいのか、どんな風に突破できるか。実戦と反省を繰り返す必要がある。

 

 その先にきっと何かがあるのだ。……私や俺が求める何かが。

 

「……だから君たちにはここで私の成長のために死んでもらうよ」

 

 私は勉強と練習と経験のため、鬼が住むと噂される森の中へと入った。

 




葉蔵は前世の記憶と自我らしきものがありながら、母親の教育で『葉蔵』になってしまいました。
だから葉蔵は前世の彼とは違うし、かといって前世の記憶のせいで前世と葉蔵は別人とも言えません。
かなりややこしいですけど、これもまた葉蔵というキャラの要素の一つなんです。

私は人間の人格というものは脳や遺伝子が、環境による体験や記憶によって刺激されることで形成されると考えています。
だから転生したら前世とは違う肉体(入れ物)なので性格や趣向は大分変ると思うんですよね。
そこに前世の記憶や自我が残っていたらどうなるのか。
前世の記憶があっても脳は幼い真っ新なものだったら、教育次第で別の人格に矯正されるのではないか。前世とは違う遺伝子に引っ張られて前世とは違う人間になるのではないか。
じゃあ転生したら別の人間なのか、それとも前世の要素を受け継ぐのか、それともただ性格がただ変わってるけど同一人物なのか。

そんな疑問を葉蔵というキャラの要素の一つにしました。

転生したら記憶があっても前世とは別人ですか?

  • はい、前世とは別人です
  • いいえ、魂が一緒だから同一人物です
  • 別人というより前世と今世が混ざるのでは?
  • 記憶や自我の残り次第で変わるのでは?
  • 分からない

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