鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第29話

 

「最近、我々以外で鬼を狩っている者が居るらしい」

 

 とある屋敷内部にある座敷。

 鬼殺隊の頭領―――産屋敷の言葉に、集められた鬼殺隊の面々は内心驚いていた。

 

 彼らにも心当たりはあった。

 鬼の情報を聞き現地に向かえば、鬼は既におらず、その被害もぱったりとやんでいる事が何度もあったのだ。

 一度や二度ならガセ情報を掴んだだけかもしれないが、鬼の被害や形跡は存在していた。

 ならば近くにいた鬼殺隊が偶々鬼を狩ったのか。それもまた違う。

 もしそうなら鴉が討伐した鬼を報告している。それすらないということは別の誰かが鬼を狩ったということになる。

 

「しかしそんなことがあり得るのでしょうか……?」

「日輪刀もなしに鬼を狩るなど不可能のはず。やはり流言ではありませんか?」

「いや、何らかの方法で鬼を無力化させ、日光で焙ればいけるかもしれません」

 

 産屋敷は手をそっと上げて制す。すると先程まで騒いでいた隊員達は静かになった。

 

「私はね、今回の件は個人、或いは小規模な組織によるものだと思ってるのだよ」

「……なるほど確かに。件の者は我らより活動範囲が狭いように見受けられる」

「それに目撃情報も少ない。やはり我らほどの規模はなさそうです」

 

 本当のところ、組織どころか個人で鬼狩りをしているとは、露程も思ってないだろう。……ただ一人を除いて。

 

「そういえば麻布區の飯倉周辺の鬼が全滅したそうですな」

「例の組織が鬼を狩り尽くしたのでしょうか」

「鬼がいるとされた小屋ももぬけの殻でしたし、おそらくそうなのでしょう」

「もしや例の組織が拠点にしていたのかもしれませぬ」

 

 中らずと雖も遠からず。

 そこは葉蔵の拠点であり、そこから他の鬼を狩っていた。

 

「もし、謎の鬼狩りに遭遇したら我々と協力できないかどうか交渉を試みてほしい。よっぽどのことがない限りは、敵対しないように」

 

 産屋敷としても、鬼狩りの正体こそ分からないものの、味方として取り込めるなら取り込みたいという思惑故の言葉だった。

 その正体が何であれ使えるものは使おうという腹積もりである。

 

「話は以上だ。では、解散」

 

 産屋敷の言葉に、面々は早々に解散をし、その場から立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あまり役に立たなかったな」

 

 あの後、男二人に稀血をぶっかけて生餌として再現したが、特に意味はなかった。

 最初は活きが良い方が釣れると思ったがあまり関係ないらしい。

 

 考えてみれば当然だ。近場なら兎も角、遠くからは匂いでしか感知できないのだから。

 せっかく小屋に火を付けることで必死に暴れさせ、活きの良さをアピールさせたのに。これでは意味がないではないか。

 まあ、おかげで生餌なんか使わなくても稀血だけで十分だということが理解出来たが。

 

 火を消して男二人を逃がす。その後はいつも通り稀血に誘われた鬼を的にシューティングゲームでもしようかと思ったが、今回ばかりは事情が変わってしまった。

 

 

 なんと、こんな夜中だというのに実弥たちが家から出ていく気配がするではないか。

 

 私の針は鬼の因子から出来ている。だから、針もまた鬼の気配がするし、私の角で探知できるのだ。

 その性質を私は発信機として利用した。

 予め私の針を藤の花のお守りと一緒に持たせることで、彼らの位置を特定できるようにした。

 要はGPS機能付きの防犯ブザーみたいなもの。これさえあればどこに居てもすぐに駆け付けられる。

 

「では、連れ戻すために向かうか」

 

 もし何かあれば鬼殺隊が来る可能性がある。それだけは何としても阻止せねばならない。

 私がもう少しここにいるために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その鬼は内心ほくそ笑んでいた。

 芳醇かつ濃厚な血の匂い。

 鬼にとってのご馳走、稀血の香りだ。

 

「早く…早く帰らねえと母ちゃんに怒られる!」

 

 数は1匹。

 ただでさえ稀血というだけで美味そうなのに、その鬼の好物である子供の肉なのだ。

 こんな辺鄙な集落で美味そうな肉にありつけるとは。今日は本当についている。

 

 ガキはこちらに気付いてない。

 それもそのはず。今の彼は血鬼術で姿どころか気配すら消しているのだから。

 その血鬼術の精度は鬼殺隊の柱だろうと見失うほど。故にただの子供が気づくはずがない。

 

 あまりゆっくりしては鬼狩りが来る。なので鬼はさっさと獲物を食らうことにした。

 子供の首に手を伸ばそうとした瞬間……。

 

「!!?」

 

 鬼は咄嗟にその場から飛び退いた。

 

 一瞬、嫌な悪寒がした。

 少し動揺したが、鬼はすぐさま立ち直る。

 この感じは鬼にとって初めてではない。おかげでなんとか冷静さを取り戻した。

 

 この感覚を鬼は覚えている。

 たしか、あの方の根城へ呼ばれた際、偶然見かけた精鋭の鬼たちとすれ違った際に感じたものだ。

 そうこれは………。

 

 

 

 

 

 

「たかが下民風情が私のモノに触れるな」

 

 十二鬼月に会った時に感じるものだ。


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