鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第31話

「(クソクソクソ! なんで俺がこんな目に)」

 

 なんとか葉蔵を撒いた現外は、森の中でじっと姿を隠し、石に化けてやり過ごしていた。

 

 血鬼術、変幻自在。

 文字通り姿を自在に変える血鬼術。

 姿だけでなく気配も変えられるため見破るのは至難。

 この技であの柱からも逃げられた。

 その上で明鏡止水を使い、鬼の気配を完全に遮断している。これでもう大丈夫……。

 

「(だ、大丈夫だ……。このまま隠れていれば!)」

 

 現外はじっとその場で石を演じる。

 大丈夫だ、見つからない、見つかるわけがない。

 今までこうして逃げて来たのだ。鬼殺隊の柱からだって逃げることに成功した。

 だから、あんな若造の鬼にバレるわけがない!

 

 

 途端、石に化けているはずの現外から、所々血があふれ始めた。

 まるで亀裂が入ったかのように広がる傷。そこから鬼の力の源である血が漏れる。

 

 反動だ。

 これが葉蔵相手に現外が弱い血鬼術から順に使った、もう一つの理由。

 本来出来ないはずの、血鬼術の同時使用をした結果である。

 

 現外は未だに己の血鬼術を使いこなしていない。

 まだ鬼になって比較的若いせいか、血鬼術が安定しないのだ。

 故に、無理をするとこうして反動を受けることになってしまう。

 

「(耐えろ…耐えろ俺の身体!)」

 

 自身に鞭打って、なんとか血鬼術を維持しようとする。

 

 鬼に成って初めて行う努力。

 必死こいて、文字通りの意味で命を懸けて。

 限界以上の力を振り絞って血鬼術を発動させた。

 

「(頑張れ現外 頑張れ!! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!!)」

 

 もう一度言う、これは現外の鬼生の中で初めての努力であり、おそらく人間の頃でもここまで踏ん張ったことはないと言い切れる程の物である。

 

「(そして今日も! これからも! ボロボロになっても!)

 

 ふらつく意識をなけなしの根性だけで踏ん張り、崩れそうな血鬼術に渇を入れ、弱音を吐く自分を鼓舞させる。

 

「(俺が負けることは絶対にない!)」

 

 がんばれ、ここが正念場だ。

 奴が何処かに行くまで頑張れ。そうすればお前は生き残れる!

 

 

 

 

        ミ ィ ツ ケ タ

 

 

 

 

 

「!!!!?」

 

 

 振り返る前に、その背を恐ろしい衝撃が襲いかかる。

 現外は全速力で逃げた際の数倍の速度で吹き飛ばされ、木に叩き付けられた。

 瓦礫の中から現外が見たのは、いつの間にか自分がいた場所に立ち、前蹴りの姿勢を取っている葉蔵。

 

「次は?」

 

 無機質な問い。

 怒りも、嘲りも。何の感情も籠ってない。

 ただ問う。他に何かないのかと。

 

「幻覚系の血鬼術か。なら他にも応用出来るだろう。使ってみたらどうだ? もしかしたら勝機があるやもしれないよ」

 

 葉蔵が手を掲げる。

 真っ赤に染まった、血鬼術を使う鬼の手を。

 

 瞬間、無数の砲弾が放たれ、森を破壊していく。

 驚くべき事に、その場にあった木々が砲弾によってなぎ倒されたにもかかわらず、その中に居た現外にはその恐るべき砲弾は一発たりとも当たっていない。

 いや、当たらなかった訳ではないのだろう。

 

「どうした? 早くしないと死ぬよ。何か血鬼術を使ったらどうだ?」

 

 紅い掌―――銃口の照準は現外の方に向けられている。

 そして、放たれる砲弾。ソレはちょうど現外の右横にあった石を吹き飛ばした。

 当たらなかった訳ではない。それは現外も理解していた。

 直前、わざとらしく銃口が動いたのを、現外は見てしまったのだから。

 

「(マズい不味い不味い!!)」

 

 

 なんとかしなくては。

 早く何とかこの鬼から逃げねばッ!

 再び必死こいて現外は血鬼術を発動させた。

 

 

 

【酔眼朦――――

 

 

「あ、ソレはダメ」

 

 葉蔵が指を鳴らす。

 次の瞬間、透鬼の肉体が爆せた。

 何が起きたという疑問はない。もう既に疑問を抱ける脳みそがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の狩りはなかなか楽しめたね」

 

 あの鬼はそれなりに強かった。

 姿を消し、分身を作り出し、幻を操り、石に化けたり。

 結構多彩かつ強い能力を持ち、それを活かせる技量をそれなりに持った鬼だった。

 もし私が探知系の血鬼術を使えなければ、もし私がその訓練を怠っていれば。私は勝てなかったであろう。

 

 

 

 私が消えたはずの奴を感知出来たのは、空気の振動を探知することが出来たから。

 あの魚鬼との戦いで、水中の振動をキャッチするコツを活かし、角で奴が移動する際に発生する振動を捉え、攻撃のタイミングを把握した。

 

 私が奴の分身や幻影の正体を看破出来たのは、血鬼術の観察を続けたから。

 稀血を餌にしておびき寄せた鬼たちの血鬼術を何度も見て、血鬼術の気配を覚え、他との気配の違いを理解した。

 

 私が一度見失ったはずの奴を見つけられたのは、鬼の気配を障害物越しでも探知することが出来たから。

 稀血を餌にしたシューティングゲームでの経験を活かし、障害物越しでも鬼の位置を完全に把握できるようになった。

 

 私が気配を変えたあの鬼を見つけたり、じっとして姿を消した奴を見つけられたのは、ソナーを使ったから。

 気配も匂いも変えられ、じっとしている奴を見つけるのは私の角でも至難の技。なのでアプローチを変えてみた。

 ただ座するだけで得られないのなら、こちらから近づいてみる。つまり積極的に気配を読み込むことだ。

 それが角からソナーのように波を出し、ソレに触れるものを鬼か否か読み取る血鬼術だ。

 これもまた開発するのに時間が掛かってしまい、未だに完成とは言い難い。もう少し訓練する必要がある。

 

 私がヤバい血鬼術を使われる前に動けたのは、奴の血鬼術の起こりを見極められたから。

 血鬼術を発動する際、鬼の気配は通常時より格段に上がる。それを鬼の超感覚で読み取ることに成功した。

 ソレを応用することであの鬼の血鬼術が切れる瞬間に攻撃を与えたのだ。

 

 

 

 そしてトドメの一撃。

 あれは気配探知や血鬼術の見分け、そしてソナーよりも難しいものだった。

 

 私が最後に奴を爆散させられたのは、予め刺した針を活性化させたから。

 私の針はかなり融通が利く。刺さった針が根を張る前に『待て』の信号を出し、鬼に用がなくなれば『もう成長してよし。というか殺せ』の信号を出すことで針の根を急成長させて鬼の因子を全て吸い取った。

 少し前だが、あの足の速い鬼の相手をしていた際、私は何発か奴に血針弾を被弾させることが出来た。

 しかし奴の出方を見たかった私はただ突き刺すだけの針を打ち出すだけに留めており、本気で仕留めるつもりなどなかった。

 その結果、私はあんな不本意な結果を齎すことになってしまった。

 

 トドメをさすことはいつでも出来る。しかしだからといってわざと逃がして何かしらの損害を被るなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。故に私は万が一の損失を避けるため、保険をかける技を開発したのだ。

 それが針の根のON/OFFだ。

 予め針を刺し、もし予想外の反撃で痛手を被りそうになったり、損害が発生しそうになった際は針の根のスイッチをONにして仕留める。

 これでもう二度とあんな目には合わないはず……。

 

 

 突如、何かが高速で飛んでくるのを察知した。

 ソレを長針で弾く。

 

 何事かと見れば、一足早く駆けつけたらしい鬼殺隊がこちらに苦無を向けていた。

 派手な風貌だ。身長は2mを超え、宝石や何やらの貴金属で自身を飾り付け、化粧までしている。

 

 仕事熱心だな、と思う反面、少しばかり迂闊だったと反省。

 近づいてきているのはわかっていたけれど、考え事に没頭しすぎて無視してしまっていた。

 これが私の針のようなものだったら……。

 これからは気を付けよう。すぐ調子に乗るのは私の悪い癖だ。

 

「先ほどの子ども以外に、人間の男がいたはずだ。ソイツはどこにいる?」

「知らないね。君の勘違いじゃないのか? それよりもさっきの子が無事なのか確認したい」

「……信じられると思ってるのか!?」

 

 ごもっとも。

 私でも自分の家にお持ち帰りして食うのかと疑ってしまう。

 

「そういうことか」

「そういうことだ」

 

 針の流法 血針弾・連

 

 音の呼吸・肆ノ型 響斬無間

 

 

 私たちは同時に動き出した。




葉蔵の舐めプは少し特殊です。
最初に針を撃ち込むことで相手が逃げたり何か予想外の反撃が来ても対処できるようにしています。
要は遠隔操作可能な爆弾をセットしてるんですよ。
これで何かアクシデントがあっても即座に鬼を殺して対処します。これでもう余計な犠牲は出しません。
皆さん舐めプする際はリカバリーをお忘れずに! じゃないと周りの迷惑になりますよ!


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