鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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キメツ終わっちゃった!?


第36話

「現外がやられた」

 

 頭を垂れる5人の鬼。彼らを見下ろしながら、男―――無惨は苛立ちを隠さずに訊ねる。

 

「下弦の陸が殺された。しかも、十二鬼月でない鬼に圧倒され、成す術もなく敗れた。これがどういうことか分かるか?」

 

 無惨の問いかけに答える者はいない。いや、答えられない。

 有無を言わさない無惨の圧力に、一部を除きただただ震えるばかりであった。

 

「上弦は百年以上その顔ぶれに変化はない。対して貴様らはなんだ? 何故強くならない、何故すぐ殺される。何度入れ替わった?」

「(そんな事を言われても……)」

 

 下弦の参が心の内で呟くが、距離が近ければ心を読める無惨の前では悪手であった。

 

「"そんな事を俺達に言われても"……なんだ?」

 

 無惨は自分に反論する者を許さない。故に、チクリチクリと責め立てるように尋ねる。

 心を読まれたことに動揺するも、無惨はどうでも良さそうにため息をつく。

 

「……まあいい。所詮奴は末席を汚す程度の雑兵。数合わせにすぎん」

 

 その言葉に全員安堵の息をつく。

 

「貴様らに仕事を与えよう」

「仕事、ですか?」

 

 下弦の肆が恐る恐る尋ねると、無惨は振り返ることなく頷く。

 

「件の鬼を見つけ出し殺せ。そうすればお前たちの評価を改める」

 

 と、無惨は訊ねてはいるが実質一択であった。

 

「やります!」

「やらせてください!」

「必ず、必ずやお役に立って見せます!」

 

 ここで断っても死が待っていると理解している残りの下弦達は、千載一遇のこの好機を逃すまいとこぞってアピールをする。

 無論、ただ忠誠心で行動しているわけではない。もし仕事を達成すれば血を貰える、そんな下心もあった。

 

「そうか、では埋鬼、お前がやれ。お前の血鬼術は戦闘向けだからいけるだろ」

 

 返事も聞かずに無惨は傍に控えていた和服の女に指示する。

 

 べべん、と。琵琶の音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを持ちなさい」

 

 私は藤の花と血鬼術で作った針の入った袋を不死川一家に渡した。

 無論、不死川さんにもだ。

 

「これは?」

「お守りだ。ほら最近何やら物騒な事件が多いでしょ?そのためだ」

「まあ確かにそうね。……鬼頭さんたちも可哀そうに?」

 

 最近、隣村で一家惨殺事件があった。

 警察が一応の探索はしているが、何の手がかりもない。なので捜査を打ち切られてしまった。

 

 まあ、貧民に対する扱いなんてこんなものだろう。

 俺が生きていた時代では考えられないが、ここはそういう時代なのだ。諦めるしかない。

 

「ねえ葉蔵さん、葉蔵さんがその犯人捕まえてよ」

「葉蔵さんだったら出来るよ!」

「だって葉蔵さんすごいもん!」

 

 子供たちがそんなことを言ってるが私とてそこまで万能ではないのだ。

 鬼相手だと気配で分かるのだが、人間相手だとそうはいかない。なので今は放置している。

 第一、面倒じゃないか。なんで私がそこまでしなくちゃいけない。

 だけどもし……。

 

「そうだね、もし君たちが襲われそうになったら捕まえようじゃないか」

 

 もし実弥たちに手を出したら……その時は覚悟してもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の血鬼術は日々成長している。

 

 藤襲山にいた頃の私は、せいぜい小さな弾丸を数発吐き出す程度の、言わばピストル程度の威力だった。

 しかし今は違う。

 血針弾・連は重機関銃程ではないが、今では軽機関銃程度の威力と射程距離に、剣などの媒介を使えばより正確に当てられる。

 血杭砲も同様。この時代の大砲ほどはあるし、媒介によってある程度連射出来る。

 

 何よりも、感知系の血鬼術の精度がかなり上がった。

 藤襲山にいた頃の私は、鬼の大まかな位置しか探知出来ず、鬼が活動してない場合はその気配すら拾えなかった。

 しかし今ではどうだ。鬼の正確な位置と座標を察知し、気配の濃度まで感じ取れる。

 更に血鬼術の感知も可能。たとえ分身や幻などで攪乱しようとも鬼と判別し、鬼が血鬼術を発動させるタイミングまで分かる。

 流石にどんな血鬼術を使うのかまでは理解出来ないが、術を使う瞬間を感知出来るだけでもかなり強力だと私は思う。

 

 更に更に。私の角は振動や臭いを人間の何十倍の感度で感知し、尚且つon/offが効く。

 物の位置や距離、奥行きやら動きなどの視覚的なものまで感知可能。

 ただ、色は見えないし、人相などの細かい部分までは分からないので、目が要らないというわけではない。

 

 これら全てを私は完全に使いこなしている。

 敵を事前に察知し、弾丸で制圧。敵が何かしてもすぐさま対処出来る。

 もしイレギュラーが起きても血鬼術を応用することで処理。

 現に、昨日は針の性質を利用して敵の血鬼術を無力化させ、あの厄介な血鬼術を使う鬼も倒したではないか。

 

 

 

 

 だが、まだ足りない。

 

 

 私の血鬼術は決して盤石ではない。

 

 もし、針では刺さらない血鬼術を使われたらどうするか。

 もし、気配を完全に遮断出来る血鬼術を使われたらどうするか。

 もし、相手に先手を取られて血鬼術が発動した後はどうするか。

 

 考えればキリがないが、あり得ることばかり。

 少なくとも、私が思いつく程度のことは出来るようにうならなければ、この先やっていける保証はない。

 しかしまあ、対策を考えるのはもっと先で言いだろう。

 

「葉蔵さん行ってきま~す」

「ああ、気を付けて」

 

 私を少しでも追い詰めれる鬼が現れてからでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供たちが家の外に遊びに行って、二人きりの家の中。私は不死川さんの仕事の手伝いをしていた。

 

「……葉蔵さん」

「なんです不死川さん?」

 

 唐突に話しかける不死川さん。

 

「葉蔵さんが来てから、あの子たちは変わりました」

「……」

「前まではあまり笑わなかった子も良く笑い、元気になりました」

「……」

「葉蔵さん、貴方はあの子たちにとって太陽みたいな人です。ですからこれからも……」

「それ以上はダメです」

 

 ピシリと、私は不死川さんの言葉を止める。

 

「私は根無し草のフーテンです。今は不死川さん達のお世話になっておりますが、何時かはここを去ります」

「……やはり、ずっと一緒にはいられないのですね」

「はい。残念ながら。また近いうちにここを離れようと私は考えてます」

「そうですか……。寂しくなりますね」

 

 残念そうな顔をしながらも、不死川さんは俺を引き留めるようなことをしなかった。

 おそらく気づいていたのだろう、俺が近いうちにここを出ようとしていることに。

 

「葉蔵さんは旅をしておられるのですね?」

「ええ、いろんな場所を転々と」

「そうですか。では、何故旅を続けるのですか?」

「……探し物があるんですよ」

 

 嘘は言ってない。

 私はより良い餌場を求め、鬼狩りから逃れるために拠点を変えている。しかしそれだけが目的ではなく、実はあるものも探しているのだ。

 それは太陽を克服する手段。

 いつか私はあの忌々しい太陽を克服し、この力を場所時間問わずに使えるよう極めたいのだ。

 その先に私の求めるものがあるはずなのだから……。

 

「私は極めたいのです。この力を引き上げ、その先に手を伸ばしたい」

「……」

 

 

 

 

 

「何故、貴方は力を求めるのですか?」

 

 

 

 

 

 

「力などなくても人は生きて行けます。むしろ暴力などに頼らずに生きるのが真っ当なのです。なのに何故男は皆力に頼ろうとするのですか?」

 

「まして、貴方は既に十分な力を持ってるのではありませんか。何人ものヤクザ者を一人で追い払ったり、刀や銃を持った罪人も捕らえました。それに銃の腕も誰よりも優れています。これ以上強くなる必要がどこにあるのでしょうか?」

 

「今のままでも生活に何の支障もありません。このまま一緒に続けることは……ダメなのでしょうか?」

 

 

 

 まるで堰が切れたかのように話す不死川さん。

 彼女がここまで自分の意見をはっきりと、しかも相手を否定する意を唱えるのは見たことがない。

 それほど私という稼ぎ頭を失いたくないのか、それとも子供たちが心配なのか、それとも……。

 

「……すまない、今更そんな生き方は出来ない」

「……そう、ですか」

 

 手を止め、外に出ながら私は答える。

 不死川さんは私を止めない。俯いて料理の準備を続ける。

 

 

「(だが、彼女の言う通りだ)」

 

 

 私は、何故力を求めているのだろうか。

 

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