鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
あの性犯罪者をぶっ殺してから気分がいい。
ムカつく奴を消してスッキリしたということもあるがそれよりもいいことがあった。
なんと私の針の威力が上がったのだ。
前まではせいぜい裁縫針程度だったのが今では20㎝近く、そして直径5㎜程になった。
強度もそれなりに頑丈。私の力でも安々とは折れない。
私はコレを武器として使用した。
拳を握り締め、指の間から出すことで拳の延長のように使っている。
イメージはウルヴァリンだ。
そしてこの針、着脱可能である。故にこれを投げることで手裏剣みたいに使ったり、持つことで苦無みたいに使うことが出来る。
針のサイズが大きくなったおかげか、針の根の成長速度と支配圏も格段に上がった。
昨日襲ってきた鬼に針を一本だけ刺したが、大体三秒ほどでその鬼は内部を破壊することで無力化した。
刺す場所によって違いは出るが大体五本ほど刺せば全身の因子を完全に絞り取ることが出来る。
一本刺して戦闘不能にした後、残りを刺して因子を頂く。そういうスタイルを思いついた。
ではこの戦法の実験を始めようとするか。
藤襲山のとある開けた場所。そこで鬼たちが争いをしていた。
別に珍しい光景ではない。この山ではよくあることだ。
鬼とは共食いの習性がある。故にこれもその一環であろう。
ただ、今回はいつもと少しだけ事情が違った。
鬼は集団で一匹の鬼に群がっている。
集団の鬼たちはこの山でも比較的長くいる鬼。
対する一匹の鬼はこの山どころか鬼としても新参者。つい最近鬼と化した少年、大庭葉蔵である。
「しね…がッ!」
右腕を振り下ろす一匹目の鬼。葉蔵はソレを半歩下がって回避した。
それと同時に繰り出す拳。右腕で強烈なボディブローを叩き込んだ。
鈍い音と共に体がくの字に折れ曲がる鬼。
葉蔵の拳から伸びた針が深々と刺さった。
「おら…ぶっ!」
二匹目の鬼が殴りかかる。
しかしそんな攻撃など当たるはずがない。鬼の拳を横から手で叩いて弾き、突き出された顔面に強烈な右ストレートを浴びせる。
鼻の骨どころか顔面を粉砕する葉蔵の拳。同時に彼の拳から針が飛び出す。
「調子に乗るんじゃ…ぐげえ!」
葉蔵に刀を振り下ろす。これにも葉蔵は引くことなく前進し、柄を握る手を横から弾く。
目標を外れて地面に打ち付けられる刀と同時に繰り出された葉蔵のアッパーが鬼の腹を綺麗に捉える。
一瞬宙へと浮かび上がり、仰向けに倒れる鬼。
「ヒ……ヒイッ!」
瞬く間に三匹の鬼を倒してしまった葉蔵に恐怖心を覚えながらも、逃げ切る自信がなかった4匹目の鬼は、ヤケクソ気味に小太刀を突き出す。
だがそんな物が葉蔵に当たるはずもなく、やはり柄を握る手が真横へと弾かれ、向けられた横腹に右フックが食らわされる。
もちろん同時に針も飛び出した。
これで全てだ。そう安心しかけた瞬間、葉蔵目掛けて刀が飛んできた。
「あぶなッ!」
葉蔵は咄嗟に4匹目の鬼の頭を掴み、引っ張りよせる。
盾にされた鬼の首が刀によって刎ねられる。
役に立たなくなった肉壁を捨てる葉蔵。
同時に針を投擲。
目標は刀が飛んできた方角だ。
「ぎゃああああああああああああ!」
針が当たると同時に刀を投げたであろう者―――5匹目の鬼は絶命した。
「(あ…ありえねえ!!)」
五匹目の鬼が死ぬ様。ソレを目撃した6匹目の鬼は戦慄した。
なんだ、なんなんだあの鬼は。新参者の分際で何故これほど強い。そもそも何故あんな小さな針で鬼を殺せる!?
おかしい。不条理。こんなのあっていいわけがない!
「そこにも鬼がいるな?」
「―――!!?」
心臓がびくりと跳ね上がった。
まずい、気づかれている、ならば奴の次の獲物は俺……。
「ふ…ふざけるなァァァァァァぁぁ!!」
咄嗟に茂みから飛び出す鬼。
冗談じゃない。あんな鬼狩りみたいな鬼……いや、それ以上にヤバい鬼と一緒の場所に居て堪るか!
全速力で逃げる。鬼の肉体をフル活用して森の中を疾走……しようとした途端、足にプツッと痛みが走った。
「あ……あれ……?」
動かない。まるで麻酔でもされたれたかのように、足に力が入らない。
なんだ、一体俺の体に何が起こっている? 分からない。訳が分からない!
「う~ん、やっぱり刺す場所に依存してしまう。足を刺した程度では下半身を乗っ取るのが精々だ」
いつの間にか鬼に近づいて見下ろす葉蔵。
「な…何を……」
「実験だ。複数の鬼とどれだけ戦えるかのね」
トスっと、再び針を刺す箇所は鬼の頭と胴体。ソレと同時に鬼の体内を何かが蹂躙した。
針は瞬く間に鬼の血液と結合して根を張り、鬼の肉体をズタズタに、体中の因子を奪う。
そう、これこそ常軌を逸する再生力を持つ鬼共を殺す力。鬼を食らう針の能力である。
一本でも刺さればアウト。根が張り巡らされた箇所はもう二度と動かない。
「さて、では食事としようか」
後ろに目をやる。既に鬼たちの体は根によって蹂躙され、因子を葉蔵に提供するだけの装置と化していた。
「(……強い)」
丘から下の森を見下ろす一匹の鬼。
その鬼は葉蔵の戦闘を一部始終眺めていた。
最近、同族が減ってきた。それだけなら嬉しい。競争相手がいないならあの日になれば満杯になるまで食えるかもしれないから。
だが強い鬼によって食われて減るのは問題だ。
鬼は『あの方』の血によって生まれ、またその血を追加で摂取することで更に力を増幅させることができる。
あの方の血を体内に含む鬼を一体や二体ではなく、何体も取り込めばどうなるのか。その結果があの鬼である。
あの鬼は強い。しかも同族食いに積極的で、鬼を殺す手段も持っている。
「なんとかしなくては……」
このままでは自分も食われる。早く手を打たなければ。
鬼は無い知恵を絞るも良いアイディアは出ない。
鬼が強くなる方法は一つ。人を食うことである。
人を食えば食うほど肉体を変化出来る。逆に言えば何も食えなければ何も変えられないという事でもあった。
早く、早く食わねば。なんでもいい、早く食って力を付けねば……!
鬼の焦りが最高潮に達した瞬間、一匹の鬼が彼の前を素通りしようとした。
「何だお前、同族か。クソッ、人間だと思ったのに。……あぐッ!?」
「…………そうだ。あいつと同じようにすればいいだけじゃないか」
通り過ぎようとした鬼を背後から羽交い絞めにする。すると、鬼の腹がまるで口のように、縦に開いた。
醜い女性器のような口。内部には牙のような歯が立ち並び、ミミズのような舌が不気味に蠢いている。
「や、やめろォォォォ!! お前ッ、同族を食うのかァァァァァ!!?」
「そう嫌がるな。あの鬼に食われるか今俺に食われるかの違いだぜ?」
「な…何言って……ぐぎゃっ」
グチャリ、グチャリと頭から食われる雑魚鬼。
不味い。腐りかけの魚みたいな味だ。
しかし久しぶりに取り込む新鮮な血肉に体が歓喜し、肉体が変わるのをその鬼は感覚で理解した。
「クヒ、ククククク……。いいぞ、この調子であの鬼も食ってやらあ!」
醜い鬼の狂った笑い声が夜空に木霊する。
なかなかいい気分だ。味は最悪だが、自身が強化される感覚は心地よい。
この切っ掛けを与えてくれたことには感謝せねば。このお返しとして、味わって食ってやる!
「まずいなあ。同族の肉ってこんなにもマズいのかよ」
「うわっ。ゲロまずじゃん。あの鬼はこんなのばっか食べてたの?」
「マズい。だが強くなるのを感じる」
似た考えを持つのは一匹だけではなかった。
山のあちこちで同族を積極的に食らう個体が現れる。
あの同種食らいに対抗するため。この山に閉じ込めた剣士に復讐するため。ただ腹が減ったから。
理由は様々だが目的は一緒。更なる力を得ること。
「覚悟しろ同族食いめ。あのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!」
今、藤襲山の鬼たちが大きく変わろうとしていた。
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある