鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「へ、へへへへへ……や、やっと倒れやがったぜ」
真夜中の暗闇で、絶望だけがはっきり見えた。
檻のように囲む木々の上で、鬼がこちらを見下ろしている。
「……っ……!!」
守って見せる。
今度こそ、必ず。仲間を助け、一緒に帰るんだ。
どれほどそれが不可避であったとしても。どんなに俺が傷ついたとしても。
だが、そんな些細な想いも許されないのか。
死ぬときは死ぬ。
そんなことはとっくに分かった。
何度も聞いたではないか、何度も見て来たではないか。
その度に、絶望する度に、現実を突きつけられる度に、神や仏に願ってきた。
なのに……何故こんなことに!?
悔しい。
また守れないのか。
こんなところで終わってしまうのか。
俺が弱いせいか? 鬼が種として強いからか? だからここで諦めろっていうのか?
皆はどうなる?
まだ息がある……いや、生かされているだけだ。
奴がその気になればいつでも殺せる。
「……!!」
ソレに気づいた途端、彼は―――粂野匡近は刀の鞘を杖にして立ち上がろうとした。
だが、彼の脚は応えてくれない。
どれだけ力を入れようとも、足腰は言うことを聞かず、力なく倒れるばかりだった。
頼む。
お願いだ、今だけでいい。
この瞬間だけ、どうか立ち上がってくれ。
自分をかばおうとした仲間を。自分を護ろうとしてくれた仲間をもう死なせないでくれ!
しかし、やはり神はそんな些細な想いも許さなかった。
「誰か、こいつら……鬼を殺してやってくれ…………!!」
何でもいい。
鬼でもいい。救ってくれなくていいから。
――――その願いが、『運命』を引き寄せた。
「君たちがあの村を守ってくれた鬼狩りかい?」
「「「!!?」」」
――――もっとも、ソレはマトモな神ではないが。
「ありがとう、君達が命がけで守ってくれたおかげで彼らのいる村は守られた」
美しい声で、その神は語る。
「だから、今は休んでほしい。ここからは私が鬼狩りを代行しよう」
優しさの中に冷酷性を秘めた鬼神の声。
「来なよ雑魚鬼。格の違いを思い知らせてやる」
森に囲まれた集落……いや、集落だった廃墟。
既に住民は存在せず、間借りするのは闇に異形の者たち。
一人は毒の血鬼術を操り人を溶かす外道の鬼、蛇活
もう一人は針を操り鬼を食らう異端の鬼、大庭葉蔵。
そんな彼らを取り巻くのは死にかけの鬼殺隊である。
「(な……なんだコイツは……)」
国近は葉蔵に目を奪われた。
彼だけではない。この場にいる者全てが葉蔵へと目を向ける。
恐怖と絶望、そして期待の籠った視線を。
もしかしたら、これは勝機かもしれない。
鬼には共食いの性質がある。
自分勝手な鬼共は獲物や縄張りの取り合いをするため、協力して人間を襲うことはまずないのだ。
もしかしたらこの鬼たちも今ある餌を取り合って争うかもしれない。その時が逃げるチャンスだ。
「……な、なんだオメエ!」
先に動いたのは鬼だった。
手から臭い液体―――溶解粘液を放つ。
日輪刀をも溶かすソレは、確実に葉蔵……ではなく仲間の隊士に襲い掛かる。
「危ない! 逃げろ!」
匡近はとにかく声を発した。しかし既に遅い。
毒液は既に隊士まであと僅かというトコまで接近している。
国近は目を瞑った。今はもう物体になってしまった仲間たちのように、無惨な死に方を予想して。
【針の流法モード 針塊楯】
「………へ?」
しかし次に、別の意味で言葉を失った。
葉蔵が隊士目掛けて赤い何かを投げた瞬間、ソレは人一人を容易く隠せるほど巨大化し、盾となったのだ。
それだけではない。赤い盾は血鬼術を防いだ……いや、吸収したのだ。
金属だろうが生物だろうが溶かす強力な血鬼術。
恐るべきソレを盾はまるで水でも吸うかのように吸収し、表面の針が肥大化。その後、爆せるかのように針が鬼へと飛び出た。
「う…うわっ!」
発射された針を咄嗟に避ける。
標的から外れた針は近くの木々を破壊。派手な音を立てた。
「……攻撃の反射は出来るがタイムラグが大きい。実戦にはまだ早いか」
そう言いながら葉蔵は次の手に移行。両手を真っ赤に染め上げ、血鬼術を発動した。
【針の流法 血針の霧(ブラッディミスト)】
葉蔵から赤い霧が発生。
ソレを倒れている隊士たち目掛けて振るい、その場にある瘴気を食らった。
霧は瘴気を吸って赤い塊となり、ポトリと石のように落っこちる。
「………………は?」
またもや別の意味で言葉を失った。
眼前の光景が理解出来なかった。
おかしい、ありえない。何故鬼が自分たちを助ける?
どんな手段で瘴気を無くしたのかなんてどうでもいい。
理不尽極まりない術も存在する鬼の血鬼術ならば、こんな芸当も可能だから。
しかし、それ以上に。鬼が人を救うと言うのは理解不能だったのだ。
「な……何が起こった!?」
理解出来なかったのはこの鬼も一緒だった。
一体アイツは何をした。
気体になったはずの俺の毒を、どうやってあんな石ころにした?
どんな血鬼術を使えば、あんな芸当が出来るんだ!?
理解出来ない。一体何なんだ!?
「こ…このォ!!」
【血鬼術 我執腐癌】
【針の流法 血針弾】
無暗矢鱈に放たれる毒の粘液を、葉蔵は片手の血針弾で撃ち落とす。
右手は使えない。
鬼である葉蔵には気体化した毒は通じない。気管に痛みこそ感じるものの、すぐさま再生する。
しかし、今倒れている鬼殺隊は人間だ。故にこの場に漂う瘴気を浄化しなくてはいけない。そのために葉蔵は空気中の血鬼術を食らう血鬼術、
だがこの程度ッ! 葉蔵にとってはハンデの内に入らないッ!!
「(こ…コイツ! 全部撃ち落としてやがる!?)」
葉蔵は蛇活の放つ毒液全てに針を命中させていた!
正確に、そして迅速に! 全ての毒液を迎撃する!
「……ま、まさかコイツ!?」
そして、この射撃を見て蛇活は気づいた。
この鬼だ。この鬼があの時俺を撃とうとしやがった鬼だッ!
間違いない。
針を撃つ血鬼術、射撃能力の高さ、そしてこの圧力ッ!!
一瞬でも血鬼術の発動が遅ければ、自身は殺されていた。
間違いなくこの鬼があの針の正体だ!
「く…クソが! 」
距離を取りながら新たな血鬼術を発動させる。
あんな遠距離から、あれほどの威力の血鬼術を、あんな正確に撃てる鬼。
そんな鬼に生半可な血鬼術など通じない。
よって全力でこの鬼を倒す!
【悪性腐癌・泡爆】
【
同時に繰り出される血鬼術。
銃弾と粘液が同時にぶつかり、爆発を起こす。
爆発によって煙が発生。視界を遮る。
「(今だッ! あの場所へ…あの場所へ行きさえすればッ!!)」
チャンスだと言わんばかりに、蛇活はその場から逃げようとする
相手は強い。正面から向かうなんて馬鹿のすることだ。
ここは一旦引いて、あの場所で決着をつけるッ!
そう判断し、背を向けて逃げようとしたが……。
「ぐげぇ!!」
背を向けて逃げようとした瞬間、蛇活の脚に針の弾丸が命中した。
煙によって視界が遮られている中、葉蔵の針は蛇渇に当たったのだッ!
「く…くそが!!」
しかし蛇活は諦めない。
先程の一手で力の差は理解した。しかし、だからといって敗北すると決まったわけではない。
あの場所だ、あの場所に行けば事態は変わる!
そう信じて彼は闘気を震わせる!
【血鬼術 悪性滑膿】
「!?」
葉蔵ではなく、葉蔵の足元の周囲目掛けて撃たれた毒液。
それは先ほどの粘液ではなく、粘り気は一切ない液体であった。
さっきまで使っていた血鬼術と比べて早い。そのせいで葉蔵は迎撃に失敗し、血鬼術の発動を許してしまった。
跳んで避ける葉蔵。
地面は毒液によって汚染されているため、木に糸付き針を飛ばし、ワイヤーアクションのように木の上に着地。再び射撃体勢に入る。
「……なるほど、そういう風に使う血鬼術か」
蛇活はその場におらず、地面を滑るように走って逃走していた。
文字通り滑っている。
足元から潤滑油のようなものを分泌することで、スケートのように滑って移動しているのだ。
緩急を付けたジグザグ移動。
巧み且つ特殊な移動法。
実際、この血鬼術によるフットワークを破った者は鬼だろうが鬼狩りだろうが誰一人存在しないッ!
だが、ここに一人! 例外が現れたッ!
【針の流法 血針弾・連】
「ぐ…ギィィィィィ!!」
連射される血針弾。
発射された20発の弾丸のうち、一発だけ命中。
しかし、その一発だけでも鬼にとっては必殺の一撃だったッ!
鬼の肉にめり込んだ弾丸が血液内の因子を吸収して針の根と化し、全身を蹂躙しようとするッ!!
「ぐ…ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
弾丸が命中した腕を無理やり引き千切る。
溶解液で肩を溶かしながら、鬼の力でブチッと腕を千切り捨てた。
「………ふーん」
葉蔵はさして驚かなかった。
鬼は驚異的な再生力を誇り、手足を切断されても再生する。実際、葉蔵の針をこのような手段で回避した鬼は過去に何匹か存在する。
だから、次にどうすればいいかは既に分かっている。
【針の流法
足が止まっている蛇活に血針弾・貫をぶちかます。
連発或いは散弾で敵を足止めした後に貫通弾で潰す。葉蔵がいつもやっているパターンだ。
【血鬼術 執固凝液】
蛇活は回避を断念し、血鬼術を発動させて防御に回る。
全身から分泌した粘液を身に纏い、鎧のように葉蔵の弾丸を防ごうとする。
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
だが、弾丸は蛇活にダメージを与えたッ!
完全に貫いたわけではない。
血針弾が貫いたのは表面のほんの数ミリ程度。
だがッ! それだけでも葉蔵の血鬼術は効果を発揮する!
血針弾は鬼の力の源である鬼の因子を食らう。
鬼の肉体だろうが、血鬼術だろうが、当たって『抵抗』を突破すれば無力化するどころか、その力を吸収出来るのだ。
まさしく鬼殺しの銃弾ッ! これさえあれば鬼など恐れるに足らずッ!
「お…オノレぇ~~~!」
しかし、血鬼術に含まれるだけの因子では、鬼を仕留めきれなかった。
血針弾は吸収出来る因子に限りがある。故に『手を抜いた』血針弾ではこの程度の威力しか出なかった。
しかしそれで十分。
鬼は力の源を奪われたせいで弱体化している。
つぎを当てればいい話である。
「やはり……あの場所に行くしかないッ!
あの場所へ、あの場所へ行きさえすれば……へぶしッ!?」
ヨレヨレで、なんとも情けない表情の蛇活。そんな彼に鞭打つように、葉蔵は蹴り飛ばした。
「もうどこにも逃げられないよ。さあ、どうする?」
「く……クソがァァァァァァぁっぁぁぁ!!!」
【血鬼術 着執粘液】
【血鬼術 悪性腐癌】
【血鬼術 劣勢血膿】
【血鬼術 惰怠毒液】
がむしゃらに血鬼術を使う。
悲鳴を上げるようにして葉蔵目掛け、粘液をばら撒く。
狙いを付ける余裕も、粘液を操るための冷静さもない。
血鬼術の反動も一切考えず、ただ血鬼術を発動させる。
醜い足掻き。ただの自暴自棄。そんな攻撃が当たるなら最初からここまで追い込まれてなどない。
ないはずなのだが……。
「………っぐ!」
まき散らされた毒液が葉蔵の腕にかかってしまったッ!
「(やった、勝った!)」
葉蔵に攻撃が当たり、初めてダメージを与えたことに感激する蛇活。
だが、ここで追撃をかけるなんて愚かな真似はしないッ!
「(今だ……今のうちにあの場所に行く!!)」
相手は自身を圧倒する強さを誇る鬼。
先程の戦闘で嫌という程思い知らされた力量差は、彼の中でトラウマとなっていた。
以上の理由で自ら攻撃することはない。するとしてもあの場所に誘導してから……。
「やっと……使ったな?」
パチンと、指を鳴らす音が響く。
「は? 何言……ぐげええええええええええ!!?」
突如、蛇活の肉体を針の根が蹂躙した。
「(な…なんだ!? 何が起こったんだ!!?)」
蛇活は困惑した。
何だ、一体何をした? いつの間にこんな針を自分の中に埋め込んだ!?
理解不能、理解不能、理解不能ォォォッ!!
「やっと使ってくれた。これで
葉蔵は自身の溶けた腕を引き抜き、また新たな腕を生やす。
そう、葉蔵はただ舐めプをしていたわけではない。
敢えて余裕ムーブをすることで相手を威圧し、パニックを引き押させることで血鬼術の連発を誘ったのだ。
結果、葉蔵は神経毒のサンプルを手に入れたッ!
「(お、俺は……とんでもねえ鬼を敵に回したんじゃねえのか……!?)」
最初、蛇活は葉蔵を強いだけの鬼だと思っていた。
いくらどんなに強い鬼でも、特殊な手段を用いない限り同種を殺し得ない。故に蛇活は葉蔵が自分を殺せないと思っていた。
だがッ! この瞬間ッ! 初めて鬼はその感情の片鱗―――恐怖と脅威を思い出したッ!!
鬼には『あの方』以外は存在しえなかった。彼らには『脅威』を覚えるほどの存在がその例外を除いていなかったからだ。
しかし! 今ここに天敵がやってきたっ!!
「もう貴様に用はない。……ここで死ね」
葉蔵は新たに生えた腕を蛇活に翳す。
そのまま血鬼術を発動しようとした途端―――
「見つけたぜ針鬼ィ!」
日輪刀が葉蔵目掛けて襲い掛かった。
ジョジョ風のssは読みにくいですか?
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読みにくい、戻して
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いい感じ。このまま続けて
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作者のご自由に