鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第43話

 それは、日輪刀というにはあまりにも大きすぎた。

 

 大きく、分厚く、重く、大雑把。

 

 それはまさしく鉄塊だった。

 

 

「(……ふざけている場合ではなさそうだね)」

 

 私は瓦礫の中から抜け出しながら立ち上がった。

 

 凄まじい威力だった。

 回転しながら飛んできた鉄板のようにデカい日輪刀は、私を木の葉みたいに吹っ飛ばした。

 刀の持ち主はいない。刀だけが私に襲い掛かって来たのだ。

 種は分かっている、血鬼術だ。

 血鬼術で日輪刀を操作して私をかっ飛ばしたのだ。

 

 無論、無抵抗ではない。

 咄嗟に針塊の盾で防御したものの、日輪刀は針を突破。なんとか直撃は免れたが、こんな風に吹っ飛ばされた。

 

 ちらりと刀が飛んできた方角を見る。そこには一匹の鬼がいた。

 一見するとただの成人男性だが、臭いと気配が鬼であると告げている。

 標準的な見た目の鬼だ。面白みに欠ける。

 

「(一体いつここまで接近した?)」

 

 いや、考えるまでもないか。

 おそらくあの鬼は自身の鬼の気配を完全にシャットアウトしてここまで来たのだ。

 

 一見すると不可能に思えるが、実際はそうでもない。

 

 鬼の因子を完全に眠らせると、鬼の気配は完全に消えるのだ。

 その際は鬼の力を一切使えず、無理に一度使うと気配も駄々洩れになる上に、鬼の力もうまく出ないという弱点もあるが、鬼殺隊の目を欺くにはいい方法だと思う。

 しかし、この方法を上手く使うには訓練がいる。なかなか鬼の因子は眠らせられないし、逆に力を使おうと因子を起こさせても、すぐに使えず時間がバカみたいにかかったこともある。

 他にも色々苦労した点はあったが、大体こんなものだろうか。

 まあ、天才である私はちょっと練習しただけで使えるが。

 

 しかし、普通の鬼は凡才の癖に、私のように自己鍛錬を行わない。

 こんな『素晴らしい力』を普通の人間が手に入れてしまえば、わざわざ苦労して力を伸ばしたいなんて思わないだろう。

 

 だが、この鬼は違う。

 この鬼は血鬼術を習得し、それを使いこなす訓練を積んでいる。……今までのようにはいかない。

 

「……面白い!」

 

 焦りどころか高揚感すら感じる。

 どちらがより多く積み重ねてきたか、ここで証明してやる!

 

 

【血鬼術 螺旋砲丸】

 

 

 私目掛けて鬼が女性の頭一つ分はある石を投げて来た。

 ただの石ではない。血鬼術によって加速された石だ。

 速いが直線的、タイミングも掴んでいるので避けるのは容易。

 私は体を捻って石を避ける……。

 

「なッ!?」

 

 避けたはずの石が方向転換して戻って来た。

 動きは滅茶苦茶。強いて言えば回転しながらコチラに向かっていることか。

 

「(血鬼術の効果か!)」

 

 なるほど、あの血鬼術は石を回転させて威力を出すだけでなく操作機能も付いているのか。

 私は石を血針弾で撃ち落とし、次の攻撃に備える。

 

 

【血鬼術 着執網液】

 

 

 背後から射出された網のような血鬼術を、倒れていた隊士からくすねた刀で切り伏せる。

 

 いいタイミングだ。

 私が帰って来た石の迎撃に気を取られている瞬間をいい感じに狙っている。

 だが、私には血鬼術の発動を探知する能力と、空気の流れを正確に感じ取る角がある。

 残念だったな。もし私でなければ、もし私にこの超感覚がなければ当たったであろう。

 

 

【血鬼術 螺旋貫突】

 

 

 私の隙を付いて死角から拳が飛んできた。

 腕をドリルのように変換させ回転している。

 おそらく先ほどの血鬼術と同じ効果なのだろう。

 

 しかしこれまた最悪の(いい)タイミングだ。

 血鬼術の迎撃でこの鬼の反撃に間に合わない。見事に嵌ってしまった。

 無論、私は例外だ。

 

 私は敵の腕を掴む……ことはやめて避けることにした。

 

 あの腕、チラリと見たら刃が付いてる。

 アレではミキサーのように切り刻まれてしまう。

 故に、私は多少体勢を崩してでも避けることにした。

 これほど接近しているのだ。迂闊に粘液の鬼も血鬼術を使えまい。

 

 

【針の流法 血針弾・散(ニードルショット)

 

 

 至近距離からの散弾(ショットガン)! これには耐えれまい!

 

 

 

 

 

「何ッ!?」

 

 直撃すると思われた弾丸は鬼に命中する直前に進路を変更。

 まるで回転するかのようにあり得ない方角に飛んでいった。

 

 これは流石に驚いた。

 血針弾を防がれたり、避けられたのは何度かあったが、こんな止め方をされたのは初めてだ。

 だが、この程度で私の針からは逃れられない。

 

「!?」

 

 見当違いの方向に飛んだ針が再び鬼に襲い掛かる。

 追尾機能付き血針弾。

 私の針は獲物と定めた対象を貫かない限り決して止まることはない。

 これでもう二度と、流れ弾が間違って当たるなんてアホな失敗は無くなるはずだ……。

 

【血鬼術 螺旋貫突】

【血鬼術 劣勢血膿】

【針の流法 血針弾・貫(ニードルストライク)

 

 

 同時に血鬼術が発動した。

 回転の鬼が血鬼術で先ほど私が放ったニードルショットを砕き、その隙を付いて私がニードルストライクを放つ。

 しかし、発射直前に粘液の鬼が粘液を放ったせいで咄嗟に回避。おかげで変な方角に飛んでしまった。

 

 

【血鬼術 螺旋豪槍】

 

 

 砕かれる私のニードルストライク。

 いつの間にか取り出した槍の穂先を回転させ、私の弾丸を破壊した。

 

「(……なるほど)」

 

 一旦距離を取りながら、いつでも迎撃できる場所を取る。

 

 私は眼前の鬼―――下弦の壱に対する警戒を強めた。

 目に刻まれた下弦の鬼の証。どうやらこの鬼は前に倒した鬼とは違うようだ。

 

「……いいねえ!」

 

 面白くなってきた。

 今までは舐めプしても勝てたような連中だが、どうやら今回の獲物はそうではないらしい。

 久々に本気のバトルが出来るッ!

 

「…ク、フフフ……」

 

 

 面白い、受けて立とうじゃないか!

 

 私の一方的に攻撃する狩りごっこ(ワンサイドゲーム)は終わりだ。

 

 ここからは本気の戦闘(ゲーム)人質の命(タイムリミット)付きのアクション。

 

 楽しい展開になって来たじゃないかッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(…凄まじい戦いだな)」

 

 山頂から双眼鏡で葉蔵の戦闘を眺めながら、天元はため息を付いた。

 

 

 生物としての格の違いを見せつけられた、そんな風に天元は感じた。

 

 普通の人間では到底太刀打ちできない強靭な肉体。

 日光や日輪刀以外では殺せない不死性。

 血鬼術という鬼にのみ許された特権。

 

 どれか一つでも生物として反則級だというのに、鬼という生物は全てを所有している。

 あまりにも不条理な存在。

 一個だけでもいいから寄こせよ、そう思ったのは何も彼だけでないはずだ。

 

「(ったく、隣の芝生は青く見えるっていうけど、ここまでくれば黄金に見えるぜ)」

 

 だからこそ、葉蔵の血鬼術が心底うらやましく感じる。

 

 鬼を探知する特殊な角。

 鬼の因子を食らう特殊な弾丸。

 血鬼術を無効化する特殊な血鬼術。

 

 どれか一つでも鬼殺隊から見て反則級だというのに、葉蔵という鬼は全てを所有している。

 ザコ鬼一匹を殺すのにもどれだけ地道かつ過酷な鍛練の積み重ねが必要なのか分かってるのか。

 反則だろ、一個だけでもいいから寄こせよ、そう思ったのは何も彼だけでないはずだ。

 

「(………いや、あの血鬼術はアイツだからこそ使いこなせるのか)」

 

 天元は葉蔵の動きを思い出す。

 

 いきなり走り出したかと思いきや、急に立ち止まって鬼を観察しだした。

 その止まった位置がまた良い位置なのだ。

 鬼を一方的に観察し、尚且つ鬼には気づかれない位置。

 狙撃手や観察手が好みそうな、銃でもあれば命中する場所だ。

 

 そこから血針弾を撃ち込み、現場に溜っていた血鬼術を食らって毒を無効化。その後、自身を囮にすることで鬼を陽動し、隊士たちが安全に撤退できる逃走経路を確保した。

 もし葉蔵が現場に漂っていた毒素を分解しなければ、もし葉蔵が突入して自身を囮にしなければ。おそらく隊士たちは全滅し、それを助けようとした隠たちも殺されていたであろう。

 

 さらに驚きなのは、これらの作戦を迷いなく計画し、躊躇なく実行し、ミス一つなしに完遂したことである。

 射撃の腕前も見事。

 血鬼術を使っているとはいえ、毒素が蔓延している箇所や効率的に毒素を排除すべき箇所(ポイント)を見抜き、一寸の狂いもなく弾丸を撃ち込んだ。

 流れ弾など以ての外。すべて命中させた。

 

 実に冷静な判断。

 実に迅速な行動。

 実に適切な措置。

 

 ここまでいくと天元は思ってしまう、コイツが敵にならなくてよかったと。

 

「(出来るならこのまま味方にして持ち帰りたいんだけど……)………無理だよな~」

 

 天元は葉蔵の性格を考慮して断念する。

 葉蔵は思っていた以上に人間くさい鬼だったが、それ故に鬼殺隊とは相容れない。

 しかし、そうも言ってられない。

 

「お館様の命令とはいえ……どうすればいいんだ?」

 

 天元は頭を抱えながら、無理とは分かりつつも葉蔵をスカウトする方法を考え始めた。

 

 




鬼殺隊が切りかかったと思いましたか?
残念、鬼でした!

紛らわしい書き方をして申し訳ございませんでした。
鬼殺隊の方々、評価を下げるようなことしてすいません!

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