鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第48話

「ふ~、喋った喋った」

 

 布団に籠りながら私はあくびをした。

 寝る前に軽くおしゃべりするつもりが、思った以上に内容が重くて話も長引いてしまった。

 普通一度だけ会った程度の相手にあんな重い話するか?

 

「(まあ、悩みはわからなくもないけど)」

 

 彼の悩みと私の悩みだったモノのジャンルはおそらく一緒だ。

 無論、鬼殺隊なんて危険極まりない仕事に就いているのだから、私の過去とは比べ物にならない壮絶な何かによるものだろう。

 だが、解決法は似ているはずだ。

 

 

 彼は……伊黒君は何かに縛られ、支配されながら生きている。

 どういった内容か、どういった経緯でそうなったかは知らない。

 しかし、そのことが原因で彼が本来なら掴めるはずの幸福を妨げられているのは理解出来る。

 

 聞く限り彼は既に家族も親族も失った孤独の身であり、友人や恋人なども存在せず、彼を育てた育士も彼が鬼狩りになるのを強制してないらしいので、人間関係による縛りはない。

 借金や刑罰などの法律や金銭による縛りもないため、他人が彼を縛る道理はない。

 そこから導き出される答えは、彼自身が己を縛って不幸にしているということだ。

 

 別に珍しい話ではない。

 原因になった出来事の大小に関係なく、自分で自分を縛る人間はけっこういる。

 

 

 私の前世―――『俺』がそうなんだから。

 

「………ッチ」

 

 顔に手を当てて、余計な考えを振り払う。

 そうだ、もう私は『俺』じゃない。というか、人間ですらない。

 人知を超えた力を手に入れた。人間を圧倒する肉体を手に入れた。……私は人間という枠組みを超えたんだ。

 もう私は誰にも縛られない。自由の身だ。

 

 私は変わった。

 あの夜、人類をぶっちぎりで超えたんだ。

 

「……ふう」

 

 落ち着いたところで手を顔から離す。

 ああそうだ。余計なことは考えない方がいい。そんなことしたって何の役にも立たない。時間と労力の無駄だ。

 

 

 

 話を戻す。

 自分で自分を縛る人間は、他人ではその鎖を解けない。自分でやるしかないのだ。

 他人が出来るのは切っ掛けやヒントを与えるだけ。だから私は彼に言葉を濁してどうするかアドバイスした。

 

 力をつけろ。

 自由になるためには己の身や財産を守る力が必要であり、何よりも力は持つだけで自信に繋がる。

 かくいう私がそうだ。

 鬼の力があるから自由を手に入れ、他の鬼よりも戦える力があるから自信がついた。

 その結果、私は自分を縛る鎖を引き千切ることが出来た。

 

 様々なことを経験しろ。

 蓄積された体験は己の世界を構成する要素になる。故に、今の自分の世界が嫌なら、上書きして変えてしまえばいい。

 かくいう私がそうだ。

 鬼に成って外の世界に行き、普通では出来ない経験によって私を閉じ込めていた世界を上書きすることが出来た。

 まあ、上書きのせいで弊害が出た面もあるが。

 

 己のしたいことを優先しろ。

 その先に本当の自分が、自分の幸せというものがある。

 かくいう私がそうのだから……。

 

 今の私は満たされている。

 力を身に着け、面白い物事(イベント)を経験し、自分のしたいことをしている。

 私は幸せだ。

 

「……まあ、そんな幸せも鬼だから享受出来るものだけど」

 

 私の場合、幸せを手に入れるために努力したとか、何かを試したとかそんなのはない。

 ただ偶然力を手に入れた。

 偶々運よく鬼の力を手に入れ、偶々無惨とやらの支配から抜け出しただけだ。

 

 力なんてそんな簡単に手に入らない。

 人の体も人間の社会もそう簡単に周囲より優れた力を手に入れられるような作りになってないから。

 

 自身を変えてくれる体験なんてそう簡単には出来ない。

 人間の行動範囲や時間には限りがあり、色んな体験を出来るほど優しく作られてないから。

 

 自分が本当にしたいことなんてそう簡単に出来るわけがない。

 経済的な関係、お家的な関係、地域的な関係。人間には様々な縛りがある。

 その結果、自分が本当にしたいことが出来なくなったり、本当にやりたいことが分からなくなってしまうことがある。

 

「後は彼次第だ」

 

 後は知らない。どうなろうが伊黒次第だ、

 まあ、鬼殺隊みたいな超ブラックな環境に耐えているのだ。大丈夫だろう。

 それに根拠はないが、彼ならばもっと出世して力をつけるような気がする。

 ただ、そのために私生活を犠牲にしたり、鬼狩りに盲目になって経験できる経験を逃しそうなのだが……。

 

「まあ、君ならうまくいくだろう」

 

 何故だろうか、彼は最終的には幸せになれそうな気がする。

 

 

 この話は終わりだ、さっさと寝よう。

 もう話は終わったのだ。考える必要はない。

 第一、 なんでこの私が他人のためにこんなに悩まなくてはならないんだ。私らしくない。

 さっさと寝て今日の疲れを癒そう……。

 

 

 

 

 

「死ね、鬼めッ!!」

 

 

 ああもう、誰も私を寝かせてくれないのか?

 迫り来る白刃を視界に映しながら私はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと姉さん、なんで私には会わせてくれないのよ!?」

 

 離れに続く廊下の前。

 カナエとしのぶが姉妹で何やら揉めていた。

 内容は……しょうもないことである。

 

「だ、ダメよここを通すわけにはいかないわ!」

「いいじゃない姉さん。私もその人に会いたいわ!」

 

 カナエは妹であるしのぶの行進を止めようと必死でとおせんぼをする。

 

 カナエがしのぶを必死に通せんぼする理由。それは、葉蔵にしのぶを会わせないためだ。

 

 しのぶは気になっていた。

 隊士たちを解毒し、食事を振舞った人物―――葉蔵について。

 

 自分がどれだけ必死になっても解毒できなかった鬼の毒を、突然やって来てあっさりとやりやがった。

 薬学について豊富な知識と経験があるに違いない。

 是非会って話を聞きたい!

 

「ねえ姉さん、その人ってすごい人なのでしょ?」

「え…えぇ! それはとっても」

「そうよね、だって私があんなに頑張っても解毒出来なかった毒を簡単に解毒出来るような人だもんね!」

「そうなのよ! しかもお料理も作ってくれたし!」

 

 やった、会話をそらすことが出来た。

 そうカナエが思った途端……。

 

「そうね、だから私その人に会ってみたいわ」

 

 ダメだった。

 

 

「いいからそこ通してよ姉さん」

「ダメ!」

 

 通り抜けようとするしのぶを止めるカナエ。

 

「……邪魔よ姉さん」

「ダメ!」

 

 再び通り抜けようとするしのぶを止めるカナエ。

 

「通してよ姉さん!」

「ダメ!」

 

 またまた通り抜けようとするしのぶを止めるカナエ。

 

 

「~~~~! 何で邪魔するのよッ!!」

 

 遂にしのぶが怒った!

 

「なんでさっきから邪魔するのよ姉さん!」

「そ、それは~その~………」

 

 目が泳ぐどころか、バタフライしているカナエ。

 そうなること数秒間、何かをハッと思いついた顔をして饒舌に話し出した。

 

「じ、実はね! その人はお化粧してないから人前に出られないのよ!」

「いいじゃない、女同士だし」

「………」

 

 ダメだった。

 

「………はあ~。いいわよ、姉さんがそこまで必死になるなら何かあるのよね?」

「………! そ、そうなのよ! だからゴメンね、しのぶ」

「仕方ないわね~。分かったわ、その人に会うのは諦めるわ」

 

 渋々仕方なくといった様子で引くしのぶ。

 ソレを見てカナエが安心した途端、再び新たな危機が迫った。

 

「……って、ちょっとそこの貴方! 何私たちの間を通り抜いて部屋に行こうとしてるのよ!?」

 

 いつの間にか二人の間をすり抜けて離れの部屋に向かおうとする隊士―――伊黒に向かって怒鳴った。

 

「そこをどけ、俺は部屋の奴に用がある」

「どくわけないでしょ! ここは女性の部屋よ! 男が勝手に入れるわけないじゃない!」

「女? あの方は男だぞ?」

 

 

 

「俺は針鬼に会いたい。だから邪魔するな」

「…………は?」

 

 瞬間、しのぶは目の前が真っ白になった。

 

 

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