鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
というのも、今はまだ葉蔵も鬼として新人なので藤山で鍛えようと思ってます。
「うまうま」
やあ皆さん、私だよ。大庭葉蔵だよ。
私は今、釣った魚を捌いて食している。
この山には川が流れており、魚などの生物もちゃんと生息している。
で、釣りをしてみたら案の定釣れたのだ、
針と糸は私の針で代用している。
一気に鬼を十匹以上仕留めたおかげか、針の形やサイズなどをある程度変化出来るようになった。
針を槍状にして投槍をしてみたり、糸状にしたりと。色々試してみた。
どうやら私の針はまだそこまで大きく出来ないらしい。
せいぜい五十cm程度。それ以上拡大することも出来るがその際は脆くなってしまう。
糸も同様だ。長くすればするほど切れやすくなってしまう。
日常生活に使うのはいいが実戦に使うのはまだ当分先のようだ。
「さて、次は本格的な狩りといこうか」
火を消して後ろに振り向く。
「出て来たら? さっきから気づいてるよ」
「……」
「それで、何か用か」
「決まってるだろ?」
鬼は醜悪な笑みを浮かべる。
「オモテに出ろ。テメエか俺か、どっちが食う側か決めようぜ」
にやり。私の口の端が釣り上がった。
藤襲山の開けた場所。
二匹の鬼が僅かに距離を詰めて睨み合う。
新参者の鬼、大庭葉蔵。
相対するはこの山でも比較的古い鬼。
「ふんっ」
優先権を先に獲得したのは古い鬼。彼は口から何かを吐いた。
何を吐いたかは目視出来なかった。しかし当たればヤバいものという事は理解して咄嗟に回避。サッと横に跳んで避ける。
「(バカめ!)」
古い鬼は内心ほくそ笑んだ。
この攻撃はただ避ければいいなんて生易しいものではない。第一の攻撃を避けても、第二の刃がある!
突如、吐き出された何かが軌道を変更。
葉蔵の首を通り過ぎたはずの何かがUターンして背後から襲い掛かった。
「うわッ!」
これも葉蔵は対処した。……いや、ビビった様子からすると、咄嗟の反射に見える。
急にしゃがんで何かを回避。飛んできたソレは葉蔵の頭を通り過ぎながら鬼の元に戻ってきた。
「運がよかったな小僧。俺の舌を二度も避けるとは」
「…なるほど、攻撃の正体はお前の舌だったんだね」
攻撃の正体は鬼の舌だった。
蛇のように長く撓る鬼の舌。先端には鋭い棘が生えており、側面にも細かい刃がびっしりと付いている。これをカメレオンのように伸ばすことで攻撃していたのだ。
今度は葉蔵の番。彼は右手に生えた針を投擲する。
「そんなんが当たるかよ!」
鬼は跳んで避けながら舌を放つ。
それなりにこの山の同族を食ったおかげで運動能力は他の鬼よりも上がっている。こんな針など容易く避けられる!
更に、弓や銃と違って、この技は地面に足を付ける必要などない。
たとえ一撃目が外れても軌道を修正することでまた当てることが出来るのだから。
「くっ」
しかしこれも葉蔵は対処。
裏拳を打ち上げるかのように舌の下部分を殴って防ぐ。
少し切れる葉蔵の拳。たらりと血が滴っていた。
「じゃあ次は本気でやるぜ!」
先ほどよりも速く放たれた舌。
ソレは無意識に命中しやすい的に、胴体部分に向けて放たれる。
舌の切断力は驚異的なものであり、急所を狙う必要すら無い。ただ胴体の何処かに当てさえすれば相手の命を刈り取れる。
そして、舌である以上、軌道を途中で変更も可能。無規則に動きながら葉蔵へと向かった。
舌という特殊な武器は牙や爪といった一般的な鬼の武器に比べ、トリッキーな動きから初見では避けにくい。
速度を維持しながら独特の軌道を進み、葉蔵の死角から襲い掛かる。
一歩下がって舌を避ける。今度は葉蔵の背後から戻りざまに脇腹を狙う。
ガキンと、硬いものがぶつかる音がした。
いつの間にか葉蔵が手にしていた長い針が舌を受け流していたのだ。
ゆっくり歩き出す葉蔵。
鬼が続けざまに放つ舌を逆手に持った長い針で切り払いながら、徐々に歩くスピードを上げていく。
不味い。獲物を誤った。
この鬼は戦い慣れている。
恐らくは未知であろう鬼の攻撃に対する冷静な対処。
あのビビったような避け方もわざとやったのだろう。
「く…クソ!」
再び舌を放つ。今度は本気の本気だ。
舌を限界まで圧縮させる。
イメージは弓。極限まで引き絞った弓を、一気に開放して矢を放つ。
「(これで死ね!)」
一気に舌を解き放つ。
ソレは爆発するかのように弾けた。
回転しながら進む舌先の針。まるで弾丸のごとく大気を貫き、彼に襲い掛かる。
直線的な動きしか出来なくなるが、その威力とスピードは通常時のソレとは比べ物にならない。
だが、葉蔵にソレが当たることはなかった。
「(……え?)」
前方に飛び込むようにして大きな前転を行う。
先ほどまで葉蔵が立っていた位置に舌が通り過ぎた頃には、葉蔵は鬼の懐に飛び込んでいた。
「らあ!」」
その勢いのまま針を鬼の腹に差し込む。
体内に侵入すると同時に拡がる針の根。
鬼の体をズタズタに裂きながら奥深くへと、体中に根を張った。
「……!……!!?」
言葉どころか悲鳴すら上げられない鬼。
当然である。声を出す器官は既に針の侵略によって機能を停止しているのだから。
「……」
首を伝って脳にまで浸食する針の根。
プツッと脳の神経の一部に針が刺さった途端、鬼の意識は途絶えた。
馬鹿め、と言ってやろう。
自身が特別な力があるのだから、相手も持っていて当然であろう。
なのに自分だけが特別だと思って見くびった。ソレが貴様の敗因だ。
舌による自由自在な攻撃は見事だが、ソレを使う鬼は弱かった。
自分の持ち味をほとんど使いこなせてない。
特に最後の攻撃はなんだ。トリッキーな動きが持ち味なのに何故わざわざ潰す?
おそらくアレが奴の必殺技のようなのだろう。しかし、普通ああいうのは相手に隙を作らせてからやるものだ。
折角あんな予測の難しい攻撃が出来るのだ。ソレで相手を翻弄させてから必殺技を放つ。これがセオリーのはずだ。
しかしおかげで私の改善点が見つかった。
私の攻撃にはリーチがない。
針を投げることで一時的に伸ばすことは可能だが、一度に生み出せる針には限りがある。無駄遣いは出来ない。
私の攻撃も直線的だ。
接近戦はまた別だが、先ほどのように針を投げるだけでは避けられてしまう。
現に、さっきの鬼は私の攻撃を避けたではないか。
私の攻撃速度も問題だ。
投げるという予備動作がある以上、多少目が良ければある程度予測させてしまう。
投擲術を指南してくれる人がいればいいのだが生憎そのような者がこんな山にいるはずがない。
考えすぎだと思うことなかれ。これらの問題点は放置すれば致命傷になりかねない。
もしあの鬼がもっと早かったら?
もしあの鬼がもっと接近戦が強かったら?
もしあの鬼がもっと能力を使いこなしていたら?
「……もっと鍛える必要があるな」
今よりも強くならなくては。でなければ食われたのは私の方かもしれない。
「ふ…ふふっ……」
恐怖のせいか、私の口から笑い声が漏れた。
・舌鬼
葉蔵に戦闘を挑んだ、舌を武器にする鬼。
人間の頃から詐欺師として犯罪を繰り返しており、平然と嘘をついて人を貶める精神を無残に見込まれてスカウトされた。
人を見下し油断する性分。故に若造どころかまだ子供である葉蔵を侮って返り討ちになった。
下弦の伍の塁でアレなのだから、下弦の鬼ってめっちゃ強いよね?
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いや、下弦など雑魚だ
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うん、塁がもっと真剣なら義勇にも勝てた
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いや、塁が強いだけで下弦は雑魚だ
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分からない、下弦自体強さにバラつきがある