鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
まことに勝手ながら申し訳ありません。
「(……少し出遅れたか?)」
血を吐いて倒れているカナエくん。それを見て私はもう少し早く来るべきだと後悔した。
鬼の気配を察知したのは、ぐっすり寝ていた際中。
気持ちよく寝ていた途中、しかも曇りとはいえ日中だった。
今向かっても急に晴れて灰になるかもしれない。なので近くにいるカナエくん達に任せていたのだが……。
「失敗だな」
血を吐いて倒れているカナエくん。
利き腕が負傷して刀を振れない錆兎くん。
足を負傷してマトモに動けない義勇くん。
判断を間違えた。
敵の鬼は私にとってはそれなりでも、カナエ達にとっては強すぎた。
これは私の責任だな。
「は…針鬼!」
「アイツが十二鬼月を二人も殺した鬼……!」
「けど殺せば十二鬼月に入れる上に血も貰える!!」
チラリと鬼に目を向けると、奴らは私を何処かに恐怖を含んだ殺意の眼を向けている。
「来なよ、カラッカラにしてやる」
「「「ふざけんな!」」」
さて、私は派手に暴れて注意を引き付けるか。
だから手筈通り頼むよ、カナエくんの妹さん。
曇り空の逢魔が時。
太陽を覆い隠く雲が赤く染め上げられる中、4体の化け物が対峙する。
選手は4人。
一対三のハンディキャップマッチ。
鱗を飛ばす血鬼術を使う鬼、
地震を起こす血鬼術を使う岩のような鬼、
スピードを上げる血鬼術を使う異様に足の長い鬼、
葉蔵と、三体の鬼である。
試合のトロフィーは相手の首。勝利の美酒は獲物の血。
そんな野蛮な試合の観客は、たった三人。
「葉蔵さん気を付けてくれ! その鬼は異様に速い!」
「分かったよ、義勇君」
比較的傷がマシな義勇が忠告する。
対する鬼共はソレを止めるどころか、止めるそぶりすらしない。
たとえ知られても対策法がないから。
速いというシンプルかつ強力な能力に有効な対策など限られている。
故に、鬼はさして慌てなかった。
日が沈む。
鬼を縛る光がなくなり、自由の身と化す。
それが鬼同士の殺し合いが始まる合図だった。
【血鬼術 地震】
【血鬼術 鱗刃飛弾】
【血鬼術 電光石火】
ほぼ同時に血鬼術が発動。
地震が起き、空中には無数の小さな刃を放つことで葉蔵を足止め。その隙に速鬼が接近。
絶妙なタイムラグ。微妙にタイミングをズラすことで敵を攪乱させる。
しかしそれが通じることはなかった。
【針の流法 血塊楯】
【針の流法 血針弾・連】
跳んで移動することで震童の血鬼術を避け、血塊楯で臆奸の攻撃を防御、血針弾を連射することで狡兎を牽制した。
義勇と錆兎とカナエの三人を同時に無力化した
わずか数秒で繰り出されたその血鬼術を、この鬼は一瞬で対抗策を編み出し実行したのだ。
そして、葉蔵は攻撃されて黙っているほど鈍間ではない
葉蔵は血塊楯を投げる。
楯は空中で爆発。血針弾と煙幕をばら撒くことで鬼を攪乱させた。
「今だしのぶくん! カナエくん達を連れて逃げろ!」
「言われなくても!」
赤い煙の中、何処からかしのぶが現れて負傷した三人を連れ行く。
しのぶはカナエに肩を貸す形で運び、義勇と錆兎は互いに肩を貸しあう。
「さあ行くわよ冨岡さん! 錆兎くん!」
「あ、ああ。すまない胡蝶妹」
「ありがとう胡蝶妹」
「何よその呼び方!?」
二人の発言に気を悪くしながらも、さっさとその場から逃げる。
ここは今から化け物同士が殺し合う戦場となるのだ。
そんな危険地帯にいて溜まるか。
【針の流法 血針弾・散爆】
そら言ったことか、早速爆発する血鬼術がばら撒かれたではないか。
一応逃げている場所には当たらないが、それでも危ないことに変わりない。
さっさと逃げよう、こんな場所にいてた溜まるか。
そう言うかのようにしのぶは三人を連れて逃げて行った。
「さて、行ったか」
四人が去ったのを見送った後、葉蔵は三匹の鬼に注意を向けた。
【針の流法
両手の指全てから吐き出される無数の弾丸。
平成時代のガトリング砲とまではいかないまでも、大正時代の銃とは比べ物にならない程の連射性と正確性、そして威力。
その一発一発が鬼にとっての必殺の牙となって襲い掛かる。
【血鬼術 電光石火】
それらを狡兎は全て避けた。
弾丸と弾丸の間を縫うように掻い潜って回避。弾丸のない安全地帯へとたどり着く。
しかしそれもまた葉蔵の作戦の内である。
【針の流法 血針弾・連】
安全地帯の筈であった場に無数の弾丸が連続で吐き出された。
誘導されたのだ。
葉蔵はただ闇雲に弾丸をばら撒いていたのではない。
血針弾・複で狡兎の逃げ道を限定させ、おびき寄せたのだ。
更に、当たり損ねた弾丸の延長線上には残りの二体がいる。当たり損ねた弾丸はこの鬼たちの牽制弾となるのだ。
狡兎を誘導させ、残り二体を牽制する。まさしく一石二鳥だ。
そしてマシンガンのごとく連射される弾丸。
これで通常の鬼ならば終わりだが、狡兎は通常とは違った。
【血鬼術 急急拙速】
溜めもモーションもなしで高く飛んだ。
一見、ただ動きが速いだけで、血鬼術を使ったかどうかを判断するのは至難。
しかし葉蔵の超感覚は確かに血鬼術の発動を捉えていた。
だからだろうか、それとも葉蔵は予想していたのであろうか。彼は即座に次の手へ移行した。
【針の流法 血針弾・散】
逃げ場のない空中での散弾。
決まった、葉蔵は半ば狡兎の死を確信したが……。
【血鬼術 縦横無尽】
「……な!?」
なんと、狡兎は空中で葉蔵の散弾を全て避けた。
宙に足場らしきものを血鬼術で形成。そこに触れるとまるで弾かれたかのように移動した。
更に、文字通り縦横無尽に跳ね回ることで葉蔵を攪乱。狙いがつけられないようにする。
対し、葉蔵は撃ち落とそうと指を向けた瞬間……。
【血鬼術 地面軟化】
【血鬼術 振動空波】
「(!?)」
突如、血鬼術の発動を察知。針塊楯を咄嗟に形成して防御態勢を取る。
楯越しに感じる衝撃と、地面の揺れ。
「うわっ!」
今までに感じたことのないような、特殊な揺れによって葉蔵は転倒。大きな隙を晒す羽目に陥った。
【血鬼術 振動空波】
【血鬼術 鱗刃飛弾】
【血鬼術 電光石火】
葉蔵の元に襲い掛かる猛攻。
しかし、血鬼術の発動と見分けが死角なしで察知出来る葉蔵はすぐさま対策に移る。
葉蔵は楯で己の体を隠しながらゴロゴロ転がって攻撃を避けた。
それでも多少のダメージは受けたが問題ない。鬼の再生力でチャラだ。
そして、葉蔵は転んでもただでは起きないどころか、転ぶにしてもただでは転ばない。
【針の流法 血針弾・複】
【針の流法 血針弾・散】
【針の流法 血針弾・連】
転がりながら放たれる散弾の雨と無数の弾丸。
当時の銃など足元にも及ばない程の弾数と弾速。
全てに追尾機能と必殺の力がある弾は、確実に三匹の鬼の足を止める。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
弾丸のうち一つが狡兎に当たった。
すぐさま鬼は当たった部位を切り離そうとする。
今がチャンス……。
【血鬼術 軟甲楯】
【血鬼術 振動激波】
突如、血鬼術を発動して血針弾を無効化。
臆奸は赤い楯を創り出して防ぎ、震童は衝撃波を放つことで血針弾を破壊した。
「(……やはりコイツらも奥の手があったか。しかしこれであの鬼達の使う血鬼術の性質が見えてきたぞ)」
葉蔵は攻撃を無効化されていながら冷静に行動した。
彼は鬼達の猛攻に耐えながら、敵を観察していたのだ。
既に使用する血鬼術の予想はついている。
狡兎は速度だけでなく移動系統の血鬼術、震童の血鬼術は地震を起こすだけではなく振動を司る血鬼術、最後は物を柔らかくしたり逆に硬くしたりする血鬼術と楯を召喚する血鬼術といったところか。
ここまで分かれば十分。次の攻撃で決める。
【針の流法 血針弾】
敵の防御を破ろうと、葉蔵はノーモーションで血鬼術を発動。
平成時代のライフル弾並みの威力はある凶悪な弾丸。
たかが一枚の楯など容易く撃ち抜き、振動波の防御も突破出来るはず……だった。
【血鬼術 軟甲楯】
【血鬼術付与 振動殻】
「……っな!?」
突如、震童が臆奸の造りだした楯―――軟甲楯に血鬼術の効果を付与した。
その楯は容易く銃弾を防いだ。
ほんの数mmほどしかない板。
家一軒など簡単に破壊できそうな弾丸が、こんな粗末な楯に防がれたのだ。
【血鬼術 跳躍加速】
「!? ……ガハッ」
死角から蹴りが飛んできた。
咄嗟に防御しようとするも間に合わず、葉蔵は蹴り飛ばされた。
限界まで加速された勢いの蹴り。スピードとパワーによって葉蔵の強靭な肋骨が粉砕された。
「(く…クソが!!)」
珍しく心の中で悪態をつく葉蔵。
たしかに速いが、対処出来た筈の一撃だった。
葉蔵には血鬼術の発動を感知する能力がある。これがあれば攻撃のタイミングを予想出来るはずなのだ。
本来ありえないはずの、鬼の血鬼術の連携に動揺してしまった。
三体一という不利な状況で隙を晒してしまったのだ。
葉蔵らしくない失敗だ。
しかし、まだ巻き返せる。
葉蔵はダメージをすぐさま肉体を回復させ、迎撃体勢を取るが……。
【血鬼術 軟甲楯】
【血鬼術付与 高速化】
更に状況は悪くなった。
血鬼術を二重に掛けられた楯達は高速で浮遊し、葉蔵に襲い掛かる。
「っく!」
葉蔵は咄嗟に迎撃を開始する。
ノーモーションで放たれる数発の血鬼弾。しかしそれらが楯を撃ち落とすことはなかった。
「(なるほど、楯を振動波が覆うことで防御力を上げているのか。しかも楯自体の素材もいい)」
迎撃に失敗しながらも葉蔵はタダでは終わらなかった。
血針弾は葉蔵の一部でもある。
普段はoffにしているが、血針弾が対象に当たった感触を葉蔵へ伝えることが可能なのだ。
針の感触からして、楯は強固かつ弾力性に富んでいる。
矛盾した素材。おそらく血鬼術で再現したのだろう。
このおかげで通常の血針弾も針に刺さらず、更に衝撃を緩和出来るようになっている。
更に震童の血鬼術のせいで血針弾の威力を相殺出来る作りになっている。
これは撃ち落とすのは難しそうだ。
しかし、だからといって無視は出来ない。
「(しかも攻撃にも転用可能。全く面倒だ)」
そう、楯は臆奸の血鬼術によって更に硬化され、縁を刃物のように変えられるのだ。
何十枚もある楯が縁の刃を使って葉蔵を攻撃。
葉蔵を攪乱させ、隙を作らせようとする。
必死によけ、牽制弾を放って鬼達の足止めをする。
三体の鬼だけでも手一杯なのに、更に相手の手数が増え、その上血鬼術で攻撃力も防御力も速度も底上げされた。
だからだろうか……。
【血鬼術 振動激波】
「ぐふ……!」
震童の衝撃波によって葉蔵は吹っ飛ばされた。
内臓をグチャグチャにされるかのような衝撃。葉蔵は血反吐を吐きながらゴロゴロと転がっていった。
しかしそこは鬼。すぐさま再生して体勢を整えた。
【血鬼術付与 振動殻】
【血鬼術付与 高速化】
更に更に。葉蔵がダメージを負ってる間に、鬼達は自分達に血鬼術をかけた。
【血鬼術 振動空波】
【血鬼術 鱗刃飛弾】
【血鬼術 電光石火】
そして飛んでくる攻撃血鬼術。
葉蔵は更に反撃する余裕を奪われた。
「……やばいかも」
ここにきて初めて、葉蔵は弱音を吐いた。
前回投稿した際は、三匹の鬼の名前や、どういった経緯で義勇達が逃げたか抜けてました。そのせいで混乱された方もいらっしゃるでしょう。
私のミスのせいで申し訳ありません。