鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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今回、葉蔵の逆転劇のネタ晴らしをします。


第53話

「貴様を援護していた二匹の血鬼術は既に解けている。貴様は既に死に体。……詰みだ」

 

 気が付けば、飛び交う楯も振動殻もなくなった。

 向かい合うのは弐体の異形。

 葉蔵と狡兎だ。

 

「二体の援護がなくなった貴様は既に死に体。完全に詰みだ」

「………」

 

 

「……お前、どこまで針を自由に飛ばせる?」

「あ、気づいた?」

 

 一見すれば会話になってないような問答。しかしそれが葉蔵の逆転劇の要を示していた。

 

「ご察しの通り、私の針はある程度自由に飛ばせる。地面に撃ち込めば罠になり、途中で曲げたりと。……まあ制約がないわけではないがね」

「………やはりか!」

 

 そう、これこそ葉蔵の逆転劇の要因一つ目である。

 突如起きた爆発と、爆発した何かの正体。それは葉蔵が仕組んだ撃ち込んだ血針弾の罠だ。

 

 皆さんは不死川編で葉蔵が矮等に罠を仕掛けて倒したのを覚えているだろうか。

 葉蔵はアレを更に発展させ、撃ち込んだ血針弾を罠に変えることに成功したのだ。

 

 銃弾と見せかけて地面に打ち込むことで地雷を設置。もし対象に当たったら御の字で、ハズレて地面に当たったら罠に変換。起動させて敵を倒す、或いは隙を作って新たに血針弾を撃ち込む。

 葉蔵の針はもうただの武器だけではない。罠としても使えるようになったのだ。

 

「けど、君たちなかなか誘導できなくてさ、それで新しい針を投入したんだ」

 

 そう、これこそ葉蔵の逆転劇の要因二つ目である。

 なかなか罠に引っかからない三体を見て葉蔵は『この針、こんな風に動かないかな』と思った。

 するとどうであろうか、針は葉蔵の願った通りに曲がり、三体を誘導するかのように向かったのだ。

 ソレを見て葉蔵は新しい血鬼術に気付き、罠に誘導するために使用したのだ

 

 まだ操作は粗いが、それで十分。

 敵を仕留める必要はない。罠を設置した場所に誘導さえ出来ればいいのだから。

 もっとも、この新しい血鬼術はしばらくの間使われないだろうが。

 

「この針はたった今思いついたものだけど、かなり使えるだろ?」

「(……化け物め!!)」

 

 狡兎は叫びたい衝動にかられた。

 なんだこの鬼は。ふざけているのか。

 何でさっき思いついた血鬼術を使いこなせている。

 誘導だなんて高度な技術、普通なら練習しなければ出来ないだろ。

 それをこの鬼は……!!

 

「さて、ネタ晴らしは終わりだ。……次のショーに移るか」

「……」

 

 軍刀を構える葉蔵。

 いつの間にか近くなっている。

 ベラベラしゃべりながら狡兎へと近づいたのだ。

 

 狡兎は焦った。

 しまった、あの鬼の非常識さに気を取られ、注意を怠ってしまった。

 早く逃げなければ……!

 

「正々堂々と戦って私に刺されるか、無様に私から逃げて後ろを撃たれるか……好きな方を選べ」

「……」

 

 逃げても無駄だ。

 既に周囲は罠に包囲され、万が一罠に掛からないように逃げても、あの恐ろしい射撃が待っている。

 震童や臆奸の援護もない。三体揃ってようやく抑えられた銃撃が、今は万全に使える。

 だが、この距離なら……!

 

「テメエ、何余裕こいて近づいてんだ? この距離なら俺の方が速いかもしれねえんだぞ。正気か?」

「……それが?」

 

 余裕を崩さない葉蔵。ソレを見て火が付いたのか、狡兎はコメカミに力入れて葉蔵を睨んだ。

 

「……いいぜ、来いよ針鬼。テメエの余裕こいた面を潰してやる」

 

 葉蔵は何も答えない。

 代わりに、軍刀を肩で担ぎながら、反対の手で『来い』というジェスチャーをする。

 

「や、野郎ぶっ殺してやああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 先程までの恐怖は何処へ行ったのか、狡兎は殺意のこもった目で葉蔵に、もっと言えば彼の首に目を向ける。

 血鬼術で加速し、一瞬で奴の首を刎ねる!

 狡兎の眼はそう言っていた。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

【血鬼術 電光石火・光陰】

 

 

 瞬間、雷光が走った。

 

 血鬼術による反動を無視した無理やりな高速移動。

 一気に葉蔵の首へと抜刀する!

 

 その動きは彼らの天敵である鬼殺隊の呼吸に酷似。

 全集中・雷の呼吸壱の型・霹靂一閃。

 皮肉にも、彼はこの土壇場で鬼殺隊の技に近いものを血鬼術で再現したのであった。

 

 

 しかし、その刃が葉蔵の首を刎ねることはなかった。

 

 

 

 ガキィン!! 

 

 

 赤い軍刀が突き出され、日輪刀を止める。そのまま手首を回すことで日輪刀を絡めとり、上に滑り込んだ。

 

「……がッ」

 

 軍刀は狡兎の頭を貫き、瞬く間に針の根を張る。

 サイズからして血針弾とは比べ物にならないほどの成長速度。

 首に刺さった時点で頭部にある鬼の因子を支配下に置き、一瞬で狡兎の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回のゲームはかなり楽しめた。

 

 まず、選手層が豪華だ。

 十二鬼月並みの鬼、強力かつ応用力のある血鬼術。そしてそれらを使いこなす戦法。……おそらく単体でも下弦の鬼に匹敵する実力であろう。

 

 そしてチームもなかなか良い。

 単体でもそれなりに強いのに、血鬼術を重ね掛けすることで更に強くなっているのだ。

 一方が攻撃に移ったかと思ったら、残りが牽制を仕掛ける。こちらが攻撃すれば、一方が防御に集中し、また別の鬼が隙を作ろうとする。

 実に統率された連携だった。

 

 なかなか見れない鬼の連携。しかも血鬼術をゲームの支援魔法のように使うとは。

 

 ああいった魔法やスキルで味方を強化するのはなんて言うんだっけ? バブ?……何だっけ?

 

 

 数の差というのは、鬼にとってさほど大きな要素ではない。

 いくら頭数を増やしても、自分勝手にしか動けない鬼共は連携なんて出来ないからだ。

 ヒドい時には同士討ちしたり、味方を巻き込んで倒れる等、むしろ足の引っ張り合いになることもある。

 情報源は私。藤襲山にいた頃に何度も見てきた。

 無論、あの山と外では状況も環境も違うが、本質は一緒の筈だ。

 だからこそ思う、あの連携がおかしいと。

 

「(なんていうか……出来過ぎている)」

 

 最初は鬼の質の良さに誤魔化されていたが、戦っている間に気づいてしまった。

 あの鬼達に信頼関係を築いている様子はない。なのに、あの阿吽の呼吸ともいえる連携はおかしい。

 一度妙だと疑問に思えば、おかしい行動はちらほらとある。

 

 

 まず第一、あの鬼達は声掛けをあまりしなかった。

 チーム戦をするならおかしい行動だ。

 連携をするなら自分の次にする行動や、相手にしてほしい行動を伝える必要がある。いくら信頼関係が築いていても、その辺の確認はしっかり取るものだ。

 無論、行動のタイミングを知られたくないというのもあると思うが、それでもおかしい。

 

 次に第二、あの鬼達は互いを見なかった。

 これもチーム戦をするならおかしい行動……いや、ありえない事だ。

 連携する以上、相手の行動を見て自分の次の行動を選択する必要がある。そうしないと事故ってしまうし、ひどいときには同士討ちの危険だってある。

 そりゃずっと見てるわけにはいかないからある程度は眼を離さなくてはいけないが、それにしては目を離し過ぎている。

 

 最後に第三、これが本命だ。

 あの現場の近くに、鬼の気配がしたのだ。

 大分離れているから眼前の敵に集中していたが、その鬼は何やら血鬼術を使った様子だった。

 何の血鬼術かは知らない。私の超感覚は血鬼術の発動と因子の消費量を測る程度しか出来ないから。

 まあ、この時点で既に答えは出ているが。

 

 

 あの鬼共は駒だ。

 その遠くから離れた鬼によって指示を受けていた兵士達なのだろう。

 そのことに気づけば違和感にも説明がつく。

 鬼共の異様な連携と、チーム戦にしては個人戦をしているような動きも。

 

「どうやら向こうにはそれなりにの指揮官がいるということか」

 

 そういった結論に達するも、次の瞬間に私はまた別の疑問を抱くことになった。

 じゃあその鬼はどんな血鬼術を使うのかと。

 おそらく何かしらの通信手段と私の動きを離れて確認する血鬼術を使うのだろう。

 そこは推測に過ぎないので具体的にどういった血鬼術を使うのかは分からんが……。

 

「まあ、何れ近いうちに会うだろうな」

 

 根拠はないが、何故かそう言い切れる。

 

 

 

 

「まあいい。次は新しい針についてだ」

 

 今回の件で私は新たな技を二つ習得した。

 

 私の針が自在に動くことに気づいたのは戦闘中、おかしな動きをした瞬間だった。

 なかなか罠に引っかからない三体に対して、私は『この針、こんな風に動かないかな』と思った。

 するとどうであろうか、針は私の願った通りに曲がり、三体を誘導するかのように向かったのだ。

 ソレを見て私は新しい血鬼術に気付き、罠に誘導するために使用したのだ。

 

 まだ操作は粗く、変な方向に飛んでしまうのも多々ある。しかし、それで十分だ。

 敵を仕留める必要はない。罠を設置した場所に誘導さえ出来ればいいのだから。

 

 針が自在に動くのも、後で考えたら当然のことだった。

 気づいたら出来るかもしれないと考察できる行動がちらほらとある。

 例えば実弥くんに渡したGPS機能針付きお守り。

 角を通して針のありかを特定できるということは、針と私が電波的な何かで繋がっているということだ。

 例えば火をつけるための針。

 角を通して針の振動を調整することで火力を制御出来るということは、離れた針でも操れるということだ。

 そういうことだ。私はその気になれば、飛ばして離れた針でも操ることが出来たということだ。

 とは言っても、まだ戦闘で使えるようなものではない。

 

 例に出したものはどれも非戦闘時だ。故に掛けられる時間が十分ある。

 しかし戦闘は一秒一瞬で勝敗が決まる。故に、瞬時に使えなければ意味がない。

 現に、あの時は針をどう動かすか考えたり、その設定を針にインプットするために隙を晒してしまい、攻撃をいくらかもらってしまった。

 

「(まあ、ここは追々考えよう)」

 

 この針については練習すれば解決する。その進み具合から使えるか否か判断しよう。

 次だ次。

 

 

 合成弾を見つけたのは偶然だ。

 昼間、暇つぶしのためなんとなくやったら出来てしまったものだ。

 ただ、合成には時間がかかり、三秒くらい合成に時間を取られる。

 

 私の開発した血鬼術を掛け合わせて新しい血鬼術を開発するというのは、思った以上に便利だし、何より楽しい。

 まるで仮面ライダーブレイドのラウズコンボでも使っているかのような感覚だ。

 ライダー好きなら理解できるだろうが、ブレイドが初めて三枚コンボを使った時、それはもう興奮したよ。

 それと似たことが今出来るのだ。楽しまないわけがない!!

 

 この技はこれからも活用しよう。

 掛け合わせる血鬼術を増やし、バンバン使おう。

 三秒の弱点なんて知らん。いざとなれば ヘシンッ すればいいし。

 

 

 以上、今回のゲームはか~な~り~楽しめた。

 

 戦闘内容も相手プレイヤーも実に充実していた。

 鬼ではありえないチーム戦、それぞれ質の高い鬼と血鬼術。そしてなによりもそれぞれの鬼が血鬼術を使いこなしている。

 指揮官を介しているとはいえ、完璧に近い連携は三体の鬼が一体の強大な鬼に融合したと錯覚する程であった。

 何よりも血鬼術の重ね掛け。技のコンボは男のロマンと言ってもいい。あいつら分かってるじゃないか。

 

 戦闘の報酬も実に良い。

 血針弾の新たな可能性、技を掛け合わせる合成弾、そしてドロップアイテムである鬼の因子。

 実に豪華な戦果だ。

 

 

 体は黒い灰となって散り、鬼の因子を圧縮した針の結晶に手を伸ばす。

 美味い。

 この美味さは下弦の鬼に匹敵する。少なくとも、あの下弦の陸を名乗った現外とやらよりも断然美味だ。

 

 こんなにうまい物を、こんなつまらない場所で食べるわけにはいかない。

 針の結晶を圧縮させることで、野球ボールほどの大きさに固める。

 流石に人サイズまで広がった針の根をそのサイズまで圧縮するのに時間がかかるので、その間に私は離れた場所に置いた雑嚢“かばん”を拾いに向かう。

 

「え~と、確かこの辺に……お、あったあった」

 

 木の枝にかけておいた雑嚢を回収し、鬼の因子を拾いに向かう。

 

「……美しい」

 

 手に取って月の光にかざす。

 血の色に輝く石のような物体。

 綺麗だ。まるで宝石のよう……。  

 

「……さて、用事は済んだし次の獲物がいる狩場に行くか」

 

 ちゃんと三つ回収して次の狩場に向かう。

 

 負傷した水柱を追う鬼は倒した。

 次は鳴柱を討ち取った柱狩りか。

 

 

 

 まあ、炎柱がウソを付いていなければの話だが。

 

 

 




・花屋敷
先代花柱の私邸であり、花柱の意向によって負傷した隊士の治療所として開放している。
まだ柱になってないカナエが屋敷を持っているのはおかしいと考え、即席で出した代案。

・震童
振動を起こす血鬼術を使う鬼。
十二鬼月クラスの力を誇るが、まだ若いせいで下弦に入れてもらえなかった。
葉蔵或いは柱の首を持ってくれば下弦に挑める権利をもらえると聞いて、負傷している柱がいる花屋敷に向かった。
名前の由来は神童から。生前は神童と持て囃され天狗になり、自分は何しても許されると勘違いした精神を無惨に気に入られ鬼に成った。

・臆奸
物を柔らかくしたり硬くする血鬼術と楯を作り出す血鬼術を使う鬼。
十二鬼月クラスの力を誇るが、鬼殺隊と戦う気概がないせいで下弦に入れなかった。
本当は柱と戦いたくなかったが無惨の命令により震童と共に鬼を狩りに向かい、葉蔵に食われた。
名前の由来は義勇と正反対の意味を考えた結果出来ました。

・狡兎
速度を上げたり、足を動かさずに動くなど、移動に関する血鬼術を使う鬼。
十二鬼月クラスの力を誇るが、鬼殺隊と戦う気概がないせいで下弦に入れなかった。
名前の由来は錆兎の兎と、逃げ足の速い人という意味の狡兎から取りました。

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