鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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第57話

 

 真夜中の通形峠にある廃村。

 鬼によって一夜で滅んだ村。

 この鬼に歯向かった末路。

 今ではこの鬼のアジトだ。

 

 この峠には、昔から鬼がという噂が流れていた。

 峠を通る旅人を食らい、村に降りては人を食らい、子供を攫っては食らったそうだ。

 無論、周辺の人々は何もしなかったわけではない。

 村の男衆で武器を持って戦おうとしたり、鬼を討伐しようと兵を雇ったが、鬼の血鬼術によって悉く返り討ちに合った。

 それから村人は戦うのを諦めてしまった。

 

 何も知らない他所者を生贄として峠に向かうよう仕向け、その代価として鬼に見逃してもらっている。

 そうやって村人は生き永らえたのだ。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 今夜も峠に憐れな生贄の悲鳴が響き渡る。

 何も出来ず、抵抗空しく。

 獲物は鬼に嬲られる。

 

「だ、誰か助けてくれ……」

 

 そんなものは来ない。

 誰も助けになどしないし、する筈もない。

 何故なら……。

 

 

「なんで死なねえんだよこのバケモンがァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 ソイツが件の鬼だからだ。

 

 

【血鬼術 壁抜け】

 

 

 廃村の家屋をすり抜け、壁を透過しながら追撃者から逃れようとする。

 

 巧み且つ特殊な移動法。

 緩急を付けたジグザグ移動。

 障害物を通り抜ける特殊移動。

 

 もし、葉蔵或いは上弦以外の鬼なら逃げられたであろう。

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!」

 

 鬼に銃弾が当たった。

 家屋や建物の狭い間をすり抜け、鬼の足に命中。

 肉に減り込んだ針は鬼因子を食らって急成長し、鬼を地面に縫い付けた。

 

「く…クソが!」

 

 鬼は自身の足を切って針の根から逃れる。

 しかしソレはあくまで応急措置。

 針の弾丸を撃つハンターはまだ健在である。

 

 

【針の流法 血針弾】

【血鬼術 透過】

 

 

 葉蔵の弾丸を透過する鬼。

 しかし、ずっと肉体を透けさせるわけにはいかない。

 何故なら透過の血鬼術は決して万能ではないからだ。

 

 透過の血鬼術は消耗が激しく、連続して使うことはできない。

 発動継続時間は数秒間、しかも一分のクールタイムを必要とする。

 そしてその弱点を葉蔵に見抜かれた。

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 だから、透過を使っても切れたタイミングを葉蔵に狙われるのだ。

 

 

【血鬼術 見えざる手】

 

 

 通形峠の鬼は血鬼術を発動して針鬼―――葉蔵に襲い掛かる。

 

 視認どころか、気配すら察知させない。

 不可視の腕が葉蔵に延ばされ握りつぶそうと……。

 

「何度目その攻撃?」

「く…クソッ!」

 

 握りつぶそうとするが、葉蔵はソレを容易く避けた。

 

「私にはキサマの攻撃は見えないが、感知する術があると何度も言ってるだろ?」

 

 葉蔵は自分の角を指さす。

 そう、これが通形峠の鬼の血鬼術、見えざる手が効かない要因の一つである。

 

 見えざる手は見ることも触れることも気配を察知する事も出来ない。

 しかし、攻撃する以上は物理的に干渉せざるを得ない。故に葉蔵は角で攻撃する際に引き裂かれる空気の動きを察知しているのだ。

 更に、葉蔵は血鬼術の発動が分かる。故に攻撃を予測することも出来るのだ。

 

「このッ! このっ! このッ!」

 

 見えざる手を4本、6本と増やして攻撃する。

 しかしソレが当たることはない。

 

 避ける。

 あらゆる方角から来る腕を全て避ける。

 避ける。

 慌てることなく、道を譲るかのように。

 避ける。

 全方向と見えざる手が見えるかのように。

 

 地面を透過して真下から来ようが、建物を透過して死角から現れようが。

 葉蔵は全ての攻撃を避けた。

 

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 バァンと、血針弾が鬼に撃ち込まれた。

 まるでつまらない芸人めがけて物を投げるマナーの悪い客のように。

 

「もう飽きた。次の出し物を用意してくれ」

「こ…このぉ……」

 

 勝てない。

 攻撃は通らず、透過の血鬼術も見切られた。

 このまま戦闘を続けていても、負けるのは目に見えている。

 

 だから、血鬼術を使って逃げることにした。

 

 

【血鬼術 地面沈下】

 

 

 地面を透過し、水の中を泳ぐかのように移動する。

 近くには崖がある。そこから出て下に行けば……。

 

 

【針の流法 血針弾】

 

【針の流法 毛細枳棘(ソーンネット)

 

 

 崖の外側に出た瞬間、弾丸が鬼のこめかみにクリーンヒットした。

 続けて放たれる網。それは鬼を捕獲して崖の壁側に鬼を縫い付ける。

 

 なんだこれは?

 一体なぜ俺は拘束されている?

 あの鬼からは逃れられたはず。じゃなきゃおかしい。

 血鬼術で地面の中に逃げたんだ。穴を掘るなんてチャチな真似じゃない。地面を透過して逃げたんだ。

 感知なんて出来ないはずだ。地面を透過して移動する相手をどうやって感知する?

 おかしい、ありえない。こんなことがあり得ていいはずがない!!

 

「振動もなしでよく移動できるね。まあ、おかげでいい訓練にはなったけど」

 

 何か聞こえる。

 そんなはずはない。

 

「けどネタ切れならもういい。飽きた。キサマから学ぶことはもうない」

 

 葉蔵が指を鳴らす。

 次の瞬間、鬼の肉体が爆せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼自身は弱いが、ゲームは楽しめたな」

 

 結晶に変えた鬼因子を食らいながら今回狩り(ゲーム)を振り返る。

 

 獲物は弱かった。

 血鬼術自体はかなり強力だったが、余りにも応用性に乏しく、鍛錬や工夫をしているようには見えない。

 能力が通じないにも関わらず、後も延々同じことを繰り返していた。

 血鬼術が通じなかったという経験自体が無いからかもしれないが、それでも優秀な鬼とは思えない。

 この鬼も手に入れた特殊能力に慢心して創意工夫や自己強化を怠ったのだろう。

 しかし、射撃の練習にはなった。

 

 ある一定のタイミングでしか攻撃が通らず、鬼の超感覚でしか攻撃を捉えられない。

 なかなかない体験だ。おかげで超感覚とタイミングを見測る訓練の良い機会となってくれた。

 

 こういった特殊攻撃はなかなかお目に掛かれない。

 どいつもこいつも直接攻撃的な血鬼術ばかりで、どうしても力比べになってしまう。

 おかげでゲームはすぐに決着ついてしまうのだ。

 

 

 私が求めているのは鬼因子だけではない。

 ただ鬼を食いたいだけなら、遠くから狙撃して仕留めればいいのだから。

 

 私が鬼因子を勝ち取るのは当然の事。

 大事なのは過程。私の経験値となる戦いが目的だ。

 ゲームを通じて私自身の成長を促し、次のステップへと至る。

 これが正面の戦いにこだわる理由だ。

 

「そういうことなら……君たちとの対戦も悪くないね」

「ざけんじゃねえぞ鬼が!」

 

 私は次の対戦相手―――後から来た鬼殺隊員に目を向けた。

 

「いいだろう、次は君たちが相手か」

 

 相手は人間、しかも鬼殺隊だ。

 手加減をしなくてはいけないのだが、あまり手を抜きすぎると今度は私が危ない。

 なので、今回は少し真面目にやろうと思う。

 

 

 

宇宙天地(うちゅうてんち) 與我力量(よがりきりょう)

 

 左手を天に掲げ、詠唱を開始する。

 

降伏群魔(こうふくぐんま) 迎来曙光(ごうらいしょこう)

 

 左手に力が集まり、紅く染まる。

 

吾人左手(ごじんさしゅ) 所封百鬼(しょほうひゃっき)

 

 集まった力は左手を造り変えようと、細胞を書き換える。

 

尊我号令(そんがごうれい) 只在此刻(こうざいひこく)

 

 左手が内部から弾け、 その力を示す。

 

 

 元より一回り程大きくなった左手。

 赤銅色の体毛に覆われ、指先は黒く長い爪が、手首は鬣のように緋色の毛が覆っている。

 

「片手だけ力を解放した。これぐらいのハンデが丁度いいだろ?」

「………なめやがって!!」

 

 片手だけとはいえこの私が力を解放したのだ。

 せいぜい学ばせてくれよ、凡人共。

 

 





葉蔵はあくまで自分のために戦います。
鬼の因子が欲しいから、もっと技や技術や経験を増やし、学び、強くなりたいから。
彼はより強く、より理想の自分になるために戦います。
彼は未来と現在、両方を重視してます。
対する鬼殺隊はどうでしょうか。

彼らは他の為に戦います。
亡くした大事な人の為、鬼の犠牲となる人々の為に彼らは己の命を懸けて戦います。
その在り方は一見すると正義のヒーローのようです。
しかしソレは本心なのでしょうか。

まあ、原作は鬼殺隊を正義側として描いてますので肯定的に描くのは当然です。
しかし中には私のようにひねくれた読者もいる筈です。
皆さんはどうですか?

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