鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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皆さん気づいていると思いますが、この主人公はこの状況でも加減してます。
彼にとって今の状況は不味いと同時に別の意味ではおいしいんです。
ハンデ付きとはいえ自分を追い詰めている敵プレイヤーがいる。こんなゲームはなかなか出来ない。
ならばこの状況を楽しもう。このハンデ付きの状態で勝てばより次のステージに近づける!
楽しいゲームになるかどうか、レベルアップにつながるかどうか。
これが彼にとって何よりも大事なことなんですよね。


第62話

「(クソが、あの鬼共調子に乗ってるな)」

 

 針の甲殻に隠れながら、私は軽く舌打ちした。

 

 頭の痛みはもう消えた。

 今まで受けた事のないダメージのため少し……ほんッの少しだけ取り乱したが、大したことはない。

 感覚は元に戻ったし、何処にもダメージは残ってない。

 ちゃんと私は戦える。

 

「(反省は後だ。まずはこの状況を打破しなくては……)」

 

 今の状況は最悪ではないが、良くもない。

 

 奴らは私を少しずつ追い詰めている。

 いつの間にか用意した罠は破壊され、埋め込もうとした血針弾も抜かれた。

 私の策を事前に調べていたかのような手際の良さだ。……不自然に良すぎる。

 

「(……いや、考えるのは後だ)」

 

 今はこの状況を打破することを考えよう。

 気になることは後で考えたらいいし、何なら一体だけ生かして尋問すればいい。

 それでどうしようか、いっそのこと百パーの力を解放してしまおうか。

 

「(……いや、もう少し待つべきか)」

 

 全力を解放すれば勝てると思うが、折角追い込まれるという珍しい体験をしたのだ。何かに活かさなくては苦しみ損だ。

 それに調べたい事と試したい技がそれぞれある。

 この機会を逃したくない。

 

「(あの技が通じなかったら全力出そう)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャハハハハハ! あれが上弦に匹敵すると言われた針鬼か?口だけではないか!」

「言われている程ではないようじゃ。所詮は噂だけ広まった痩せ犬じゃ」

 

 血鬼術をぶつけながら二体の鬼―――朱紗丸と矢琶羽は嗤った。

 

 針鬼。

 他の鬼を食らうことで力を付けた特殊な鬼。

 その力は十二鬼月をも上回り、既に下弦の鬼が三体以上もやられているという。

 そんな鬼が何もできず、亀のように籠ってやり過ごそうとしている。

 二体の鬼はそのことで優越感に浸っていた。

 

「油断するな。あの鬼は柱をも超えると言われた鬼だ。何か策を練っているやもしれん」

「怖気づいたのか土野? 十二鬼月でありながら、こんな鬼を警戒するとは」

「流石は十二鬼月じゃな。用心深いのぉ」

 

 ニヤニヤと嗤いながらメンバーの中で唯一の数字持ち、土野を見る二体。

 口では言わなくてもその目は『臆病なお前よりも俺たちの方がその数字に相応しい』と語っている。

 そのことに土気づいた土野は不快そうな顔で舌打ちした。

 

「お前たちバカか。あの鬼の血鬼術を見ただろ。変幻自在かつ強力。三人がかりでやっと互角なんだぞ?」

「じゃが今は亀のように引きこもっている。さっきのは何かの間違いじゃ」

「(……バカが)」

 

 すっかり油断しきっている。

 あれほど強く、あれほど恐ろしい鬼相手にどうしてここまで嘗め腐った態度を取れる?

 理解に苦しむ。これだから頭の悪い野良鬼は。

 

「(あの鬼は強い。おそらく下弦と上弦の間ぐらいの力……いや、上弦の陸はあるかもしれん!)」

 

 朱紗丸と矢琶羽と共に血鬼術をぶつけながら、土野は葉蔵の血鬼術を思い返す。

 砂嵐の中でも正確に敵を捉え、尚且つ正確に敵を撃つ射撃能力。

 マキシム機関銃すら超えるような火力と連射性を誇る銃撃。

 そして土野の血鬼術である砂人蝕を無効化する何か。

 どれもこれも凶悪かつ強力だ。

 

 互角に見えるのは集団でカバーし、隙を作って、そこに全員で付け入ったから。

 もし葉蔵が何かしらの手を打ったらこの流れは覆る可能性がある。

 なんとかしてこのまま押し切らなくては……。

 

「(しかし嫌な鬼だ……アイツを見ると、あの鬼を連想させる……!)」

 

 

 上弦の弐、童磨

 氷という単純かつ強力で変幻自在な血鬼術を使う最強の鬼の一体である。

 偶然目にした上弦の弐と参の入れ替わりの血戦。

 葉蔵の技はその時目にした悪魔的な血鬼術を連想させる。

 

 何故かは彼自身よく分かってない。

 童磨の使用する血鬼術は氷であり、葉蔵のとは全く違う。

 だというのに何故……。

 

「(……まあいい。このまま奴を潰すだけだ)」

 

 土野は己の血鬼術―――土煙越しに葉蔵の動きを探る。

 この砂煙は土野の感覚と繋がっており、土に触れている相手の動きを察知できる。

 そして、この情報を朱紗丸と矢琶羽に伝えることで連携を取っていたのだ。

 ではどうやってその情報を瞬時に伝えているのか。それは後程に。

 

 

 ジャキンッ!

 

 

【針の流法 自律血針(ファンネル)

 

 

「お前ら防御しろ!!」

 

 土野が叫ぶのと、葉蔵の血鬼術が発動するのは同時だった。

 

 突如、針の塊―――葉蔵が引きこもっている針塊から、赤い杭が飛び出した。

 数は六本、腰の高さ程度の大きさ。

 それらが意思を持っているかのように向かってくる。

 

「な、なんじゃあの杭は!?」

「あいつ、あんなこともできるのか!?」

「サボってないで動け! あの針を止めろ!」

 

 騒いでいる間に針は接近し、ある程度の距離で行動を開始した。

 それが自身の意思を持つかのように鬼達へそれぞれ先端から血針弾を放つ。

 

 

【血鬼術 鉄毬】

 

【血鬼術 土隠れ】

 

【血鬼術 紅潔の矢】

 

 

 それぞれの血鬼術で攻撃を防ぐ。

 先程のガトリング砲とは違い、今回は何の苦も無く止めることに成功した。

 しかし、だからといって安心はできない。

 なにせ、杭は鬼の周囲を飛び回りながら針を出し続けているのだから。

 

「(上弦の弐と同じ技……あの氷人形と同じ血鬼術だ!!)」

 

 土野は上弦の弐である童磨の血鬼術の中でも最も凶悪な技、結晶ノ御子を連想した。

 自律戦闘が可能で、本体と同等の攻撃力の技も使用可能。

 血鬼術の強さが飛び抜けている上弦の弐が、更に二人分三人分の技を放ってくるという悪夢の様な血鬼術。

 ソレの類似品が、彼らに牙を剥いた!

 

 

【血鬼術 砂撃】

 

【血鬼術 散弾鉄毬】

 

【血鬼術 紅潔の矢】

 

 

 砂の塊や赤い矢印と共に迫る、大量の鉄球。

 一般隊士どころか、柱でも対処は難しい血鬼術の弾幕。

 鉄球や砂の塊が、針の塊に籠る葉蔵の周囲に漂う六本の杭によってあっという間に撃ち落とされた。

 

「どういうことじゃ!? こんな血鬼術も使えるなんて聞いとらんぞ!!」

「あの鬼……私らを謀ったのか!?」

「口動かす前に手を動かせ! ……おい、俺たちはどうすればいい!?」

 

 赤色の杭から、同時に弾丸が発射される。

 鬼達は前に飛んで避ける。

 直後、鬼達がいた場所に無数の弾丸が穿たれた。

 

「おい聞いているのか!? これはどういうことだ!?」

「聞こえとるのは分かってる! さっさと何かいい案を出せ!」

 

 砂を掻い潜って迫り来る六本の赤い杭。

 それらが動く感覚を砂から感知し、動きを先読みして逃れる。

 

 

【血鬼術 散弾鉄毬】

 

【血鬼術 青潔の矢】

 

【血鬼術 砂撃】

 

 

 杭の射線から外れながら、鬼達が血鬼術を放つ。

 二本ほど撃ち落とすことに成功したが、回避した先の針塊から発射された血針弾によって朱紗丸は片足を持ってかれた。  

 

「…ぐ、ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 朱紗丸は足を引き千切って血針弾を切除する。

 ある程度強い鬼にとって体の欠損は大した問題ではない。数秒ほどで再生するのだから。

 むしろ、鬼にとっては葉蔵の針の方がよほど脅威である。

 

「何、防御に専念しろと……? ッチ、分かった」

 

 何者かの指示通り、土野は防御に専念しながら空中を飛ぶ自律血針を撃ち落とそうとする。

 全方向から、あらゆる角度で向かってくる血針弾。

 一発一発が必殺の一撃。

 それに恐怖しながら彼は必死に防ぎ、敵を観察する。

 

 

【血鬼術 土壁】

 

【血鬼術 鉄毬壁】

 

【血鬼術 攪乱の矢】

 

 

 いったん攻撃を止め、それぞれの防御用血鬼術を展開。

 朱紗丸は巨大な鉄球を平らにして、矢琶羽は弾丸を逸らす血鬼術で、土野は砂の壁で防ぐ。

 

 無論、ただ前に壁を張るだけでは自律血針を止められない。

 空中を飛び交い、全方向から射撃可能の自律血針に対処するには周囲にも気を張る必要がある。

 一体で六人分の攻撃が可能な血鬼術。まさしく最強……。

 

 

「(……? 妙だな)」

 

 ほど経過した程だろうか。

 何十回も自律血針の攻撃を防ぎ、何百回も動きを砂によって確認した

 そうやって防御しながらじっくり観察したおかげか、土野は葉蔵の血鬼術の異変に気付いた。

 

「(この杭。本体程強いわけじゃない?)」

 

 飛び交う赤い杭から身を守りながら、土野はそう判断した。

 

 よく見れば、自律血針の完成度は低かった。

 連射性も精密性も火力も。全てにおいて本体(オリジナル)の攻撃より格段に劣っている。

 平成のアサルトライフル並みの血鬼術が、この杭では当時の拳銃程度しかない。

 質が明らかに低下している。

 

 腕の質も低下している。

 杭は本体ほど動きが速くない上に、単純な動作しか出来てない。

 ただフワフワ飛んでるせいか銃身もブレブレ。

 そのせいで銃弾が変な方向に何度か飛んで行った。

 

 そしてこの杭は一種類の血鬼術しか使ってない。

 結晶ノ御子が本体同様の血鬼術を使用するのに対して、コレが使うのは葉蔵の血鬼術の中で最も弱い術のみ。

 戦況に合わせて種類豊富な血鬼術を使い、戦略を練るのが葉蔵の強み。

 なのに何故そうしない?

 

 

【血鬼術 砂撃】

 

 

 土野の掌から砂の塊が吐き出される。

 一粒一粒が振動した、チェーンソーのような一撃。

 砂煙から赤い杭達の動きを読めたおかげか、ソレは飛び回っていた自律血針を破壊した。

 

 

【針の流法 自律血針(ファンネル)

 

 

 再び追加される自律血針。

 先程からこれなのだ。

 いくら迎撃しようとも、新しい杭を投入する。

 いたちごっこ。

 本体を叩かなくてはこの連鎖は終わらない。

 そして、葉蔵は針塊という安全地帯に籠っているのに対し、土野たちは一撃必殺の銃口を向けられている。

 これでどちらが優位かはすぐにわかる。

 

 しかし、その自律血針(ファンネル)もやはり遅い。

 動きは単調で読みやすく、射撃の腕も本体程ではない。

 火力も連射性も精密性も。全てが当時の拳銃程度。

 無論、それでも吐き出される血針弾は脅威だが、冷静に対処すれば止められるレベル。

 少なくとも、本体を相手取るより楽だ。

 

 もう一度やってみる。

 今度も簡単に出来た。

 もう一度やってみる。

 次も楽に破壊出来た。

 

「……なんじゃ、落ち着いて攻撃すれば当たるではないか」

「すばしっこいが慣れてみたらどうということはないな」

 

 気が付けば、二体も同じように攻撃を当てられるようになっていた。

 

 それに気づいた途端、土野は爆笑したいような衝動が腹の奥から込み上げてきた。

 土野は感情のままに、腹の中にたまったモノを笑い声として吐き出す。

 なんだ、所詮は見掛け倒しか!

 こんな奴を警戒して散々ビビった自分が、可笑しくて腹ただしかった。

 

「十二鬼月でありながら野良鬼にビビったのか?」

「情けないのぅ。儂ならもっとうまくやれるがな」

「……」

 

 ほら見ろ。数字なしにもバカにされたではないか。

 そのせいか土野は余計に腹が立ってきた。

 たかが野良鬼の分際でこんな小細工をして恥をかかせやがった。

 このツケはちゃんと取ってもらわなくては。

 

 

【血鬼術 巨大鉄毬】

 

【血鬼術 紅潔の矢】

 

【血鬼術 土撃】

 

 

 自律血針(ファンネル)に向かって、鬼達は一斉攻撃を仕掛けた。

 何発が外れたが、そこは数でカバー。

 結果、6本全て落とすことに成功した。

 

 

【血鬼術 自律(ファンネ―――)

 

 

「させるか!!」

 

 朱紗丸の鉄球が針塊に直撃。

 射出されようとされていた自律血針ごと引きこもっている葉蔵を吹っ飛ばした。

 

「ほらほらどうした針鬼!? 他の鬼を食らって強くなったのだろ?」

 

 針塊目掛けて血鬼術が放たれる。

 既に守ってくれる楯はもういない。

 ガンガンと無遠慮に血鬼術がぶつけられ、段々と罅が入っていった。

 

「ヒャハハハハハ! どうした針鬼ぃ? 隠れてないで早くそのきれいな面を見せてくれよぉ?」

「キャハハハハ! そうじゃ、よくも私の足を撃ってくれたのぉ? 十倍に痛めつけてやるわ!!」

 

 集中砲火。

 針に籠る葉蔵を引きずり出そうと、血鬼術がこれでもかと撃ち付けられる。

 対する葉蔵は何もしない。針に籠ったままやり過ごそうと、亀のように籠る。

 

「どうした? 本当に何も出来ないのか? 情けないのぉ」

 

 未だに反撃してこない葉蔵を嗤う矢琶羽。

 

 矢琶羽の言葉は三体の鬼の総意だった。

 厄介な血鬼術を破壊して本体の籠っている針の型間に攻撃した途端、何もしなくなった。

 これはもう打つ手がなくなったな。まあ、所詮はこんなものか。

 多少強かろうが、所詮は野良鬼、あの方に逆らう愚かな身の程知らず。

 そんな奴に十二鬼月である我らが勝てないはずがない!!

 

 もういい、奴はもう終わりだ。

 さっさとトドメを……。

 

 

 

 

 

「「「ぎゃあッ!?」」」

 

 刺そうとした瞬間、三体の鬼の肉体が同時に針によって動きを封じられた。

 

 

 

 

 

 

「(な……何故だ!? 何故針が……一体俺らに何が……!!?)」

 

 土野は自身に何が起きているか理解出来なかった。

 

 

 なんだ、いったいどうなっている?

 何故俺に針が刺さっている?

 

 あの杭が出す針には当たってない。  

 全ての杭を撃ち落とした。それは確実のはずだ。

 新しい杭を投入しても、砂からの感覚で気づくはず。

 見落とす筈がない。あれだけ分かりやすい動きをすればすぐに気づく。

 なのに何故刺さっている?

 攻撃した様子はないのに、何故針が刺さっている!?

 

 

 血鬼術で発生させた砂からの感覚で原因を探ろうとする。

 しかく、何故か上手く機能しない。

 

 奇妙な異物感。

 砂からの感覚を異物によって邪魔されている。

 土野には理解できない言葉だが、現代風で言うならジャミングかハッキングをされているような感覚といったところか。

 

 なんだこれは。

 こんな感覚、俺は知らないぞ。

 一体何がどうなっている?

 何かが刺さって邪魔しているような……。

 

 

「(ま…まさか!?)」

 

 そこまで考えて土野はやっと気付いた。

 最悪の事態が起きてしまったことに……。

 

 

「(まさかアイツ……そんなことまで出来るのか!?)」

 

 ふざけてやがる。

 同じ鬼で、あちらが断然若いはずなのに。

 なのに何故、ここまで差がある!?

 

 しかし、そんなことを考える暇など彼にはない。

 

 

 

「あ~疲れた」

 

 

 針塊の中から、のんきな声を出して本体(オリジナル)がゆっくりと出てきた。

 

 




ファンネルみたいな武器ってある程度自律機能付けないと普通の人間では操作できないと思います。
ですので、別の血鬼術でとどめを刺しました。
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