鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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葉蔵は角からの超感覚で矢琶羽の矢印見えてます。


第63話

 

「あ~、やっと終わった……」

 

 敵の活動を停まったのを確認してから、私は針の塊から脱出した。

 パカッと海栗(うに)みたいに開いて、中から飛び出す。

 

「(しかしまさか私にこんな弱点があったとは……)」

 

 感覚過敏による弊害。

 角の感覚が鋭くなってから、このデメリットには目を付けたつもりだった。

 感覚が鋭くなるということは、余計な情報も収集してしまうこと。場合によっては情報過多によってダメージを負い、最悪情報(ダメージ)によってショック死することだって考えられる。

 私はそういったリスクを回避するため、角にセーフティシステムを付けたつもりだった。

 しかしどうやらシステムが作動するにはタイムラグがあったらしい。

 私が来ることを予想していれば間に合うが、今回のように不意打ちされた場合は無理のようだ。

 おかげでモロに受けてしまった。角が滅茶苦茶痛かった……!

 あの女め、今に見てろよ!! とびっきりの血鬼術ぶつけてやる!!!

 

「(そういえば、不意打ちを食らったのは今回が初めてか?)」

 

 私は自分が鬼限定で不意打ちが効かない存在だと思っていた。

 血鬼術の発動と気配を自動(オート)で察知するのだから、奇襲しようにもすぐに分かる。

 現に、私はこのやり方で不意打ちや奇襲を仕掛けようとした相手を返り討ちにしてきた。

 しかし、今回のようなやり方なら、私に不意を付ける。

 囮の血鬼術や鬼に気配を紛れさせ、本命をぶつける。

 そうすれば私に探知されず血鬼術を掛けることが可能だ。

 

「(今回のことは反省しないとね……)」

 

 今回の戦闘はなかなか有意義だった。

 奇襲対策の穴、超感覚故のデメリット、そして新しい血鬼術。

 

 

「(この血鬼術はまだ練習が必要だな)」

 

 自律血針(ファンネル)

 最近思いついた血鬼術で、ガンダムに登場する無線式のオールレンジ攻撃用兵器であるファンネルがモデルだ。

 無線のように遠隔操作して、搭載されている血針弾で攻撃を行う血鬼術。

 これで戦略の幅が拡がると思っていたのだが、実際はあまり実用的ではない。

 一応ファンネルには私の角みたいな感覚器官を搭載しているのでファンネルからの感覚は受信されるが、流石に6つ同時操作は無理があった。

 

 絶えず送られる六つのファンネルからの情報で混乱しそうになった。

 ガンダムのキャラたちはよくこんなものに耐えられるな。私なんてあまりの情報量に頭がパンクしそうになったぞ。

 情報を受信して、状況から最善の行動を選択して操作する。この一連の流れを六つ同時に、尚且つ一瞬で行わなくてはならない。

 射撃もロックオン機能が付いておらず全て手動。移動も回避行動も全てだ。ソレらの情報を六つ同時に管理しなくてはならない。

 無理に決まってるだろ。

 

 鬼といっても所詮は元人間。

 脳みそは一つ、マルチタスクも出来るわけではない。

 私は決してニュータイプでもスーパーコーディネーターでもイノベイドでもないんだ。

 やはりファンネルは夢のまた夢なのか……。

 

「お、おのれぇ……」

「お、まだ生きてたか」

 

 振り返ると辛うじて生きている鬼達がいた。

 全身を針に刺されているものの、そこまで深く入ってないないので辛うじて動けている。

 そんな感じだ。

 

「貴様……俺の血鬼術を……!?」

「あ、気づいた?」

 

 私はこの鬼達をハリネズミにしたタネ―――血針の霧・極細(ブラッディ・マイクロミスト)を手に発生させる。

 

「君の思っている通りだ。私は君が発生させた砂を血鬼術で乗っ取ったんだよ」

「……やはりか!!」

 

 動けない身体で悔しそうに唸る鬼。

 そう、私は血鬼術を私の血鬼術でしたのだ。

 

 血針の霧・極細(ブラッディ・マイクロミスト)

 瑠火さんを治療した際に使用した血鬼術で、効果は極細の血針で敵の血鬼術を無効化するといったものだ。

 この血鬼術は安全な場所、特に対象が進んで体内に摂取してくれる状況以外にもう一つ使える場がある。

 それは空気中に拡がる気体系や、液体系の血鬼術を相手が使った時だ。

 

 本来、血針の霧・極細(ブラッディ・マイクロミスト)は治療用に作ったものではない。

 気体や液体などの、血針針で貫けない血鬼術対策に編み出したものだ。

 

 私の血針は相手の血鬼術を貫くことで鬼の因子を吸収し、血鬼術を無効化出来る。

 しかしコレには貫くという工程が必要で、貫けない非物質の血鬼術や物理的に貫けない気体や液体にも通じない。

 そこで使ったのがブラッディミスト)だが、これが通じるのは塵ぐらいのサイズまで。なので新たにうみだしたのが血針の霧・極細(ブラッディ・マイクロミスト)だ。

 

 しかし、いきなり使ってしまえばすぐ気づかれてしまう。

 私みたいに創造系の血鬼術は、創り出した物質から異常を感知できる。

 なので囮として自律血針(ファンネル)を用意した。

 

 いくら私でもいきなりこんなクソ難しい血鬼術を一発で成功させると思ってない。

 自律血針(ファンネル)を飛ばすことで血針の霧・極細(ブラッディ・マイクロミスト)をまき散らしつつ攪乱させ、十分な量まで撒いたら発動。

 砂の血鬼術を一気に食らって針を伸ばし、ソレで鬼共を貫く。

 

「(しかしまさか伸ばす針もある程度はコントロール出来るとは……)」

 

 これは流石に予想してなかった。

 この術、何かに応用出来ないだろうか……。

 

「ふ、ふざけんな!!」

 

 力ずくで針の拘束から抜ける鬼の面々たち。

 なんだ、けっこう根性あるじゃないか。

 しかし既に勝負は決まっている。

 今度は加減しない。全力で潰す……。

 

 

【血鬼術付与 砂隠れ】

 

【血鬼術付与 巨大鉄毬】

 

【血鬼術付与 紅潔の矢】

 

 

【血鬼術合成 砂塵・紅蓮鉄槌】

 

 

 

「……おお!」

 

 赤い砂をまき散らしながら、凄まじい勢いで回転する巨大な赤い鉄球。

 小屋程はある赤い鉄球が砂嵐のようなものを纏い、高速ドリルみたいに回るのはかなり圧巻だ。

 向かってくるスピードもかなりのもの。前世で見た車程はあるぞ。

 

 私はソレについ感嘆の声を上げてしまった。

 これは血喰砲でも撃ち落とせそうはないな。

 

 砂をまき散らす血鬼術と、巨大な鉄球を生み出す血鬼術、そして自在に力のベクトルを操ることができる赤い矢印の血鬼術。

 これらを組み合わせることで生み出された、全く別の新しい血鬼術。

 なかなか面白いことをしてくれるじゃないか。

 これだからゲームはやめられない!!

 

「なら、私も全力を出すか……」

 

 右腕に力を収束させる。

 鬼の因子が血管を伝わり、赤いオーラが鬼火となって腕を包み込む。

 筋肉や骨や神経や皮膚などなど。腕のあらゆる部位を、全身の細胞一つ一つに至るまで変換。

 全てを完了すると同時、腕を覆っていたエネルギーが飛び散って異形の両腕が顕になる。

 

 赤銅色の体毛に覆われた、獣のような腕。

 本来の腕より二倍ほどのサイズ、指先から延びる黒い爪。手首や肩などの関節部分には鬣のように緋色の毛が逆立っている。

 そして何よりも、手の甲から伸びる赤い宝剣のような刃。

 この腕こそ私の本性の一端だ。

 

「光栄に思え。私の本気を食らったものは数少ないぞ?」

 

 刃を相手に向け、力を解放させる。

 力場が発生し、ビリビリと赤い電気が発生。

 ピークに達すると同時、私は血鬼術を発動させた。

 

 

「針の流法―――突き穿つ血鬼の爪(デッドリィ・スティング)!!」

 

 

 

 私の叫びと共に、私の腕は赤い鬼火を纏って飛び出した

 文字通りの意味だ。

 某マジンガーの如く、ロケットのように飛び出す鬼の腕。

 周囲の木々を薙ぎ払い、大気を貫いてソニックブームを引き起こす。

 キィィィンと、空気を切り裂く音をまき散らし、赤い鉄球に命中した。

 

 一粒一粒がチェーンソーのように回転する砂刃―――突破完了。

 妙な力を掛けてベクトルを逸らそうとする矢印―――突破完了。

 巨大な質量と凄まじいスピードで回転する鉄球―――突破完了。

 

 バキィィィィィィン!

 

 全て突破した。

 砂嵐を切り裂き、矢印を乗り越え、鉄球を粉々に砕く。

 突き穿つ血鬼の爪(デッドリィ・スティング)はその勢いを止めることなく、後ろにいた鬼に命中した。

 

 仲良く串刺しになる3体の鬼。

 二体を同時に貫通し、その後ろにいた鬼の心臓を剣先が貫く。

 針の根を拡げることで二対の鬼の体内から因子を奪い、最後の鬼は直接剣先から吸うことで因子を吸い尽くした。

 

「「「あ、あぁ………」」」

 

 徐々に塵へと還っていく鬼達。

 ソレを見届けながら私は腕を元に戻した。

 

 

「……この血鬼術、かなり使えるな」

 

 戻った腕をグーパーしながら観察する。

 うん、ちゃんと機能している。人間時にもすぐ戻るし、逆パターンも可能のようだ。

 

 実戦で使ったのは今回が初めてだが、まさかここまで威力があるとは思わなかった。

 鬼因子の吸収速度も効率も血針より格段に上。

 今度強敵が現れたらこれで倒そう。

 

「ま、り……」

「……」

 

 私は奴が放ったであろう鉄球を少女の鬼に転がす。

 

「あそぼ……あ、そぼ……」

「……」

 

 角から伝わる彼女の記憶。

 この少女はまだ小さい頃に鬼に成ったようだ。

 それなりに裕福で、それなりに幸せそうな家庭環境。

 そこに無惨が現れて全てを壊された……。

 

「なかなか面白いゲームだった。楽しかったよ」

「あ、りがと……」

 

 その言葉を最後に、彼女は消えて逝った。

 

「クソ、胸糞悪い……」

 

 ああ、なんで鬼の中にはこういったのがいるのかな……。

 さっきまでいい気分だったのに、全て台無しだ。

 

 

 空を見上げる。

 雲が昇ろうとする日を隠し、夜空を覆っている。

 ついさっきまであれ程星々が輝いていたというのに。

 まるで空が太陽を拒んでいるかのような曇り具合だった。

 

 


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