鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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柱狩り。喰戦。
原作にない言葉が出て混乱してる方もいらっしゃると思います。
なので今回はこのワードについての解説回みたいなものです。


柱狩りと喰戦

 曇り空の昼間、とある人気が少ない山道で二体の鬼がにらみ合っていた。

 一体の鬼はもちろん葉蔵、対する敵の鬼は繋鬼(けいき)

 

 彼の後ろには逃げていく年若い女が二人。

 相手に注意を向けながら後ろを振り返ってソレを見送る葉蔵。

 目線を相手に戻すと同時、葉蔵は役に立たなくなった楯を放り捨てた。

 

「なんだお前? 俺から餌を横取りしたかったんじゃねえのか?」

「ああ、私の獲物は彼女たちではない。キサマだ」

「何?……ああ、お前が例の裏切り者か」

 

 納得した様子で繋鬼は頷く。

 

「まあどっちでもいい。折角の稀血を台無しにした責任は取ってもらうぜ!」

 

 先に動いたのは相手側。

 自身の手首を爪で切り、流れた血を葉蔵に振りかける。

 

 咄嗟に回避する葉蔵。

 重心をわざと横に崩すことで、転がって避ける。

 目標を失った血飛沫は葉蔵の後ろにあった岩へと掛かる。

 瞬間、岩が消えた。

 

 文字通りの意味だ。

 血の掛かった箇所が突如削り取られたかのように消え、自重を支えきれなくなって崩れた。

 

「それが貴様の血鬼術か」

「まあな」

「(……なかなか強力だな)」

 

 葉蔵は感心しながら血針弾を放つ。

 しかしそれは突如現れた光の円を通過することで何処かへ消えた……。

 

「!!?」

 

 咄嗟に顔を傾けて、後ろから飛んできたものを避ける。

 それは血針弾だった。

 繋鬼に放ったはずの弾丸が、後ろから葉蔵に襲い掛かってきたのだ。

 

「……なんで避けられるんだよ」

「さあな」

 

 言うまでもないが敢えて説明しよう。

 葉蔵の角は優れた感覚器官となっている。

 あの光の円が出た途端、葉蔵の後ろにも似たような血鬼術の気配がしたのを、葉蔵の角は(しか)と感じ取ったのだ。

 ソレを感知すると同時、葉蔵はすぐさま行動を開始。 

 こんな感じで葉蔵は敵の攻撃から逃れたのだ。

 

「それで、貴様の血鬼術は空間に関するものなのか?」

「さあな!」

 

 再び血を振りかける繋鬼。

 葉蔵はソレを避けながら敵の能力を推測した。

 

「(おそらく奴の血鬼術は空間に関するもの。先程弾丸が私の後ろに現れたのは、おそらくあの光の輪が空間を曲げたからだろう)」

 

 葉蔵の推測は当たっている、

 繋鬼の血鬼術は空間に関するもの。

 血が付着した対象が削り取られたかのように消えるのは、血の付着した箇所を何処かへ転送しているから。

 光の円が葉蔵の針を別の場所に飛ばせたのは、光の円が空間を捻じ曲げてもう一つの円につなげたから。

 

 

 しかし、それを知ってどうする?

 

 

 空間なんてものを操作するなんて、同じ種類の血鬼術でないと対処不可能だ。

 血鬼術の中でも空間系の能力は同じ系統の血鬼術でしか防御出来ず、ジャンルによっては系統が同じでも対処不可能になることがある。

 血鬼術の理不尽さが牙を剥くのは何も人間や鬼殺隊相手だけではない。同じ鬼同士でも血鬼術の内容によっては理不尽な程の差が生まれるのだ。

 

「これならどうだ!!」

 

 光の円を数個生み出し、その中へ自身の血を振りかける。

 瞬間、葉蔵の周囲に光の円が現れ、そこから血飛沫が葉蔵に襲い掛かった。

 

「ヒャハハハハハ! どうだ、逃げ場なんてねえぜ?」

「……ック!」

 

 ひたすら避ける葉蔵。

 一つ避けたらまた別の角度から血が襲い掛かる。

 それもなんとか避けたと思ったらまた別の角度から。

 物理的にありえない方角から来る攻撃。

 この理不尽な血鬼術によって葉蔵はどんどん追い込まれて……。

 

「……もう飽きた」

 

 なかった。

 指先から血針弾を射出。 

 弾丸は複数ある円と円の間を抜けて繋鬼へと命中した。

 繋鬼が空間を繋げられるのは、あくまでも円の内部だけ。

 たとえ複数だしてもその隙間を狙えば無意味である。

 まして相手はあの葉蔵。

 彼なら複数の光の円を出しても、円と円の隙間目掛けて血針弾を放ち、尚且つ繋鬼に当てられる。

 

 いくら血鬼術が強くても、ソレを使う鬼の実力が伴わないのなら、葉蔵の敵ではない。

 

「(け、血鬼術が使えねえ……!)」

 

 そして、一度血針弾を食らえば形勢は一気に葉蔵に傾く。

 一撃では殺せなくても、鬼の因子を奪って血鬼術を封印するには十分。

 後はもう何発か血針弾を撃つだけである。

 

「ま、待ってくれ。お前に耳寄りな情報をやる。だから、待ってくれ」

「なに? ……なんだその情報は?」

 

 葉蔵がトドメをさそうと指を向けると、繋鬼が手で待ったのジェスチャーをする。

 一瞬撃とうかと思った葉蔵だが、すぐ話を聞く方に切り替える。

 

「お前、喰戦って知ってるか? なんでもお前……針鬼を真似た儀式なんだぜ?」

「?」

 

 葉蔵は首をひねった。

 

 自分を真似た儀式?

 訳が分からない。

 日本語としてもおかしい上に、耳寄りな情報とも思えない。

 コイツ、助かりたい一心でテキトーなことほざいてんじゃないのか?

 

「(……いや、それならもっとマトモなことを言うはずだ。でなくては、私に殺されるからね)」

 

 それから葉蔵は繋鬼から話を聞いた。

 

 要約すればこうだ。

 葉蔵以外にもあのバトルファイトと化した藤襲山を抜け出した鬼が複数いるらしく、その鬼の話を参考にして新しい訓練方法を編み出したらしい。

 50体ほどの鬼を一つの部屋に閉じ込め、そこで殺し合って最後の一体に因子を集約することで強い鬼を作る訓練方法。

 名を喰戦というそうだ。

 

「(それってまんま蠱毒だな。私が藤襲山にいた環境を再現したということか)」

 

 なるほどこれで最近下弦並みの鬼が多い理由が分かった。

 その喰戦とやらで強くなった鬼が柱や葉蔵を狙ってきたということか。

 聞けばこの鬼も喰戦で強くなったという。

 では次の疑問だ。

 

「手間をかけたにしては随分扱いが雑じゃないか。その喰戦を続けてもっと強くすればいいのに」

「それがそうもいかねえんだよ」

 

 どうやら無限に強くなれるわけではないらしく、ある段階で成長が止まるらしい。

 なんでも鬼の因子の許容量は鬼によって違うらしく、それを超えることは出来ないそうだ。

 その結果、下弦か下弦より少し強い程度の鬼しか出来ず、なんとか成長するために人間を、特に稀血を狙うようになったようだ。

 

「(妙だな、私は寝たら解決するんだが……)」

 

 葉蔵にも鬼因子の許容量は存在する。

 しかし、満タンになっても、寝たら次目覚めると限界のレベルが上がっているのだ。

 次目覚めると鬼の因子を完全に取り込み、許容量に『空き』が出る上に許容量が拡がって益々多くの因子を取り込めるようになる。

 葉蔵は他の鬼も同様だと思っていたのだが、どうやら葉蔵だけのようだ。

 

「(これはその喰戦とやらで私並みの鬼が出来ることはなさそうだ……)」

 

 寝ることによるレベルアップが使えないなら、その鬼たちは次のステップには到達出来ない。

 期待は出来そうになかった。

 

「それで、その喰戦の情報の何処が私にとって耳よりなんだ?」

「へへっ。まあ待てよ。この話には続きがあってな、喰戦で生き残った鬼たちは好機が与えられたんだよ」

 

 柱を狩るか、葉蔵を狩れば稀血が与えられる。

 喰戦の鬼たちはそう吹き込まれたらしい。

 

 通常、鬼殺隊の柱は一定の期間で上弦の鬼たちによって間引きされるが、その役割を喰戦の鬼たちに任せたそうだ。

 或いは葉蔵を捕獲して鬼の頭領である無惨に差し出すこと。そうすれば十二鬼月に入れる上に稀血も貰えるということだ。

 

「なるほど、それで?」

「それでな……こういうことだ!」

 

 突如、動けないはずの繋鬼が血鬼術を行使した。

 そう彼は葉蔵に命乞いをする気など最初からなかった。

 彼の目的は時間稼ぎ。

 話をしながら僅かに使える鬼因子で血鬼術を発動し、体内にあった針を何処かへ転送した。

 

 これで邪魔な針はなくなった!

 次はお前の番だ!!

 

 光の円を前面に出来るだけ多く展開。

 同時に己の血を葉蔵の体内に転送しようとした。

 自身の血や光の円などなくても転送は出来る。ただその場合少し時間がいる上に少量しか出来ない。

 けどこの鬼を倒すためならその限界を……。

 

 

【針の流法 血針弾・散(ニードルショット)

 

 

 円と円の隙間を抜けた針が破裂し、百何本もの針が飛び散ち、その中の幾らかが繋鬼に刺さった。

 一発の弾丸という点ではなく、散弾という面での攻撃。

 これもまた葉蔵が繋鬼に対抗できる術の一つである。

 もっとも、最初からそんなものはいらないが。

 

「ぐ…えぇえ……」

 

 こうして繋鬼は葉蔵の御飯と化した。

 

 




・繋鬼《けいき》
空間に関する血鬼術を使う鬼。
自身の血液を付着させた部分を切り抜くようにどこかへ転送する血鬼術と、空間を繋げる光の円を生み出す血鬼術を使う。
能力による死角からの攻撃、相手の攻撃を利用した同士討ちなども得意とし、本文にあったような二つの血鬼術の同時使用も可能。
日輪刀しか攻撃手段を持たない鬼殺隊にとって天敵のような血鬼術だが、相手が悪かった。
葉蔵はあっさり倒したが、けっこう強いはずだった鬼。

あと、血鬼術の気配と鬼の気配は違います。
葉蔵の角は鬼の因子を感知する器官であって、気配そのものを探知するわけではありません。
逆も同じで鬼殺隊は鬼の気配を感知することは出来ても血鬼術の発動を感知することは出来ません。

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