鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「なるほど、そんな事情があったのか」
私は先ほど倒した鬼の因子を食らいながら、鬼の話を反芻した。
喰戦と柱狩り。面白そうだとは思うけどそんなに興味を引く話ではないな。
私がいた頃の藤襲山を再現して強い鬼を作ろうとするのはいい案だが、鬼因子の許容量が変えられないんじゃ私のような鬼は生まれない。
喰戦で私を楽しませてくれるような鬼が生まれることはなさそうだ。変な期待を寄せないほうがいいかもしれない。
柱狩りについても同様だ。
私と柱を賞金首みたいにして強い鬼が寄ってくるのはいい。
ゲームはプレイヤーが多ければ多い程面白くなる。
しかもそれぞれが強く、そしてやる気もある。
盛り上がらないはずがない。……本来なら。
「(……しばらくは期待できなさそうだな)」
先程の鬼曰く、しばらく喰戦は中止するらしい。
なんでも予想程成長速度が早くないせいで疑問視する声があるそうだ。
しかしそれにしても……。
「やはり私は特別なのか?」
なんというか、私はやはり鬼としてかなり変わっていると実感させられる。
私には無惨の呪いがない。
無惨の名前を呼んでも死なないし、睡眠も必要だ。
人肉に関してはどうだろうか?
私にも人を喰いたいという欲求はあるが、理性を失う程強いものではない。
鬼因子の方が人肉より美味だからか、それとも人肉よりエネルギーがあるからなのか。
まあ、人肉を喰ったことがないからその辺は分からないが。
調べてみたいが……どうやったらいい?
「……やめだ」
私は考えることをやめた。
調べる手段がない以上、これ以上考えても仕方ない。
考えても答えが出ないものを考えるのは無駄だ。
何より、そこまで興味があるわけでもないし。
それよりも昨日のことだ。
昨日のゲームを通して私は確信した。
やはりあの鬼たちは何者かに操られていると。
昨日の三体、そして花屋敷を狙っていたあの三体。
あの鬼達は指揮官である鬼の指示に従っている。
前回、私は鬼達の異様な連携を見て、他にも鬼がいてソイツが指揮官として機能していると推測した。
あの時は推測するための材料がないから保留にしたが、今回その材料がそろった。
やはり指揮官は存在している。
材料一つ目は鬼達の異様な私への対策だ。
あの鬼達は私の針が当たった瞬間にその個所を引っこ抜いて針から逃れ、私のばら撒いた罠用の血針弾を予め除去した。
そんな真似は予め私の血鬼術の内容を知らなくては出来ないし、罠に関しては花屋敷で狩ったあの鬼たち以外には使ってない。
私の血針弾対策ならともかく、あの罠は最近のことだから噂になるなんてまずありえない。
よって、情報を指揮官の鬼から得ていたことが窺える。
材料二つ目は鬼達の妙な会話。
昨日の鬼達は何かアクシデントが起こると何処かに話しかけていた。
会話の内容は、明らかにその場にいない筈の者に話しかけているようなもの。
まるでその場に三体の鬼以外にも協力者がいて、その者に指示を聞いているかのようなものだった。
よって考えられるのは、本当に別の第三者がいて、その者に鬼達は指示を受けているというものだ。
材料三つめは濃厚な気配。
これが本命といってもいいだろう。
私は鬼の気配を探知すると同時に空気の流れも感知できる。
しかし、昨日のゲーム会場では、その場に鬼の気配が濃厚にしているのに、そこに何もないないという奇妙なことがあった。
気になった私はそれが何なのか戦いながらその気配に焦点を当てた。
ソレで分かったのは、その気配は鬼そのものの気配ではなく、血鬼術によるものだということ。
血鬼術の気配はその場にいた三体の鬼の気配とは全く違う。
つまり第三者が何かしらの血鬼術を使ってこちらを探っていたということだ。
以上のことから私は離れた箇所に指揮官の鬼がいたと推測した。
おそらくその鬼の血鬼術は幽体離脱。
血鬼術で実体もない上に見えない分身を創り出し、分身を通して情報を入手したり鬼達に指示を出したということになる。
もしかしたらその鬼はテレパシーや感覚共有なども使えるかもしれない。
まあ、そこはあまり重要ではないのだが。
「(そろそろあの気配の源を探り出して潰すか……)」
質の高い鬼たちの連係プレー。
互いの血鬼術を掛け合わせた合成血鬼術。
私の血鬼術を対策し、盲点を突くという快挙。
どれもこれもただ鬼を狩るだけでは得られない貴重な体験だ。
何者かは知らないが、その鬼には感謝している。
私のために手間暇かけて、これほどまでに楽しませてくれたのだからな。
けど、それとこれはまた話が別だ。
私と敵対した以上、ちゃんとゲームオーバーして消えてもらう。
途中で
第一、ゲームを挑んだのは彼方側。ならばプレイヤーとして相応しいエンディングを届けてやらなければ無作法というものだ。
「ふ……フフフッ」
ああ、楽しみだ。
早く君と直接会ってゲームがしたいな……。
「助けてください!お願いします!!」
「……ん?」
突如、後ろから女性が話しかけてきた。
何かから逃げてきたのだろうか。
日中ではあるが、脇目も振らず私へと走ってくる。
パニックしている女性の着物にはべったりと血が付着。
ただ事ではないのは一目で分かった。
「何があった?」
「鬼が…鬼が出て皆を……!!」
女はその場に蹲って泣いた。
「待ってください。今からその鬼を殺します」
「な、なにを言って……!!?」
私は女性に一瞥もやることなく血鬼術を発動する。
血針で咄嗟に作った即席ライフル。
コイツで鬼を狙撃してやる。
感覚を集中させ、獲物の気配を捉える。
距離は三百メートル程先、数は一体。
強さは下弦以下。一発でいける。
バンッ!
私はその鬼の眉間に血針弾を撃ち込んだ。
「……」
私は即席ライフルを捨て、その場に向かった。
もう少しです。もう少しで半天狗とのバトルです。