鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
ケンタウロス型の獣鬼。
赤銅色の体毛に深紅の鬣。
頭部は狼、角は鹿、鬣は獅子、上半身は獣鬼、下半身は虎、尾は狐 ……に、それぞれ似ている。
これこそ赤い獣―――葉蔵の全力の姿である。
「グルルルルウゥゥゥ!!!」
真の姿を晒した葉蔵は獲物の方角に顔を向ける。
変化したこの姿に目はない。
視覚に頼らずとも全身の毛が変身前の角と同じ働きをするため必要ないのだ。
見るより良く視えている。
クソ野郎共はそこにいる。
この責任はしっかりと取ってもらう。
テメエらの血と命でな。
しかし、その前にやることがある。
【針の流法
腕の毛から出した微細な血針を剛腕で周囲にばら撒く。
通常時とはけた違いの量。
散布された血針は村中に充満していた毒ガスの血鬼術を瞬く間に侵略していった。
後に残るのは針の結晶と化した鬼の因子だけ。
ソレを確認した藤蔵は針を数本落とし、四本の足を動かし始める。
瞬間、葉蔵は暴風のようなスピードで加速した。
下半身の強靭な四肢で大地をしっかりと踏みしめ、力を一気に開放して駆ける。
地を蹴り割らんばかりの勢いと、爆発でも起きたかのような激しい轟音。
自動車や汽車を軽く凌駕する、スポーツカー並みの凄まじい速度。
その全てに遠くから見ている鬼達は恐れ慄いた。
「な、なんだありゃ!?」
「あ……あんなの聞いてねえ!!」
空気を固める血鬼術を使う鬼、
引火性の高い毒ガスを出す血鬼術を使う鬼、煙羅
そして半天狗の分身であり、重力を操る血鬼術を使う
この鬼達こそ葉蔵を襲撃した凶手である。
「おいこんなの聞いてねえよ! 俺はあの鬼に復讐出来るって聞いたからやったのに!?」
「そうだぜ! アイツ滅茶苦茶強い上に残酷なんだぞ! もし捕まったら何されるか分かったもんじゃねえ!」
恐怖と焦燥感から猜妬を責める二人。
この鬼達は同じ分裂体である
煙羅は第27話で葉蔵に甚振られた恨みを晴らすことで恐怖を克服するため、幻凝はただ十二鬼月になるために。
最初は楽に葉蔵を倒せると聞いた。
既に葉蔵の行動パターンと使用する血鬼術を調べ尽くし、攻略法も確立したと聞かされた……はずだった。
なんだアレは。
アイツはあんな姿にまでなれるのか。
そしてなんだあの血鬼術の威力は。
通常時でも十分恐ろしかった血鬼術が、変身したら格段に威力が上がってるではないか。
冗談じゃない。
あんなヤバい鬼とこれ以上戦ってられるか。
俺たちはもう降りさせてもらう……。
「逃げても無駄だ!」
混乱している二人とは対照的に、冷静な猜妬が一喝した。
「あの鬼の追跡能力は知ってるはずだ。あいつは三里離れていても正確に狙い撃てるんだぞ? 今更逃げても無駄に決まっているだろ」
彼の言う通り、葉蔵の感覚器官を以てすれば逃げても追跡可能だ。
狙撃範囲もあの姿になることで通常時より格段に上がっており、三里どころか十里以上離れても狙撃出来る。
そして葉蔵は彼らを逃がすつもりはない。たとえ地の果てでも追ってくる。
生き残る道はただ一つ。葉蔵をこの場で倒すことだ。
「ふざけんな!テメエらのせいでこんな目に遭ってるんだろうが!」
「そうだ! あんなの聞いてねえよ! 責任取れ責任!」
「言ってる場合か!? 騒いでいれば解決すると思うのか!? そうしてる間にもあの鬼はもうそこまで接近しているぞ!」
「!?」
葉蔵の方を振り向く。
鬼の視力でも全く見えない程に距離のあった葉蔵が、もう視認出来る距離まで近づいている。
まだまだ遠いが、葉蔵なら十分狙撃できる距離。
早く何とかしなくては……!
「クソ!」
ヤケクソ気味に血鬼術を発動させる鬼たち。
空気の刃が、毒ガスが、重力波が。
それぞれの血鬼術が全力で葉蔵にぶつけられる。
何発も何発も何発も。
力の続く限り、全ての一撃に全力を込めて。
「クソ、止まらねえ! 停まれよ!!」
「なんだよ……なんなんだよあの鬼!!」
しかし、葉蔵はビクともしない。
引火性の毒ガスをぶつけ、その衝撃で引火して爆発。しかしダメージは一切受けなかった。
空気を固めて気体の刃をぶつける。しかしダメージは一切受けなかった。
重力波をぶつける。しかしダメージは一切受けなかった。
どれだけ血鬼術をぶつけても一切ダメージを受けない。
進撃の勢いは止まらない。スピードを落とすことなく向かっていく。
葉蔵が手を翳す。
毛赤い結晶が葉蔵の手を覆い、パリィンと割れた。
中から出てきたのは巨大な
その巨躯が振るうに相応しい巨大な槍だ。
ブンッ!
槍を一振り!
それだけで飛んできた血鬼術を全て切り裂いた!
「クソ! ならこれならどうだ!?」
猜妬が葉蔵に金棒を向け、血鬼術を発動させる。
金棒の先から放たれる青い光。
葉蔵はソレを切り裂こうとランスを振るうが、光はランスに当たったと同時に霧散。
瞬間、葉蔵の体が浮いた。
文字通りの意味だ。
まるでそこだけ重力がないように、駆ける葉蔵の巨体が浮いたのだ。
これではもう走れない。ただ足をバタバタするだけ。
猜妬の能力は重力を操ることであって、重力波はその一端でしかない。
上手く使えばこんな真似も出来るのだ。
「は、針鬼の動きが止まった!?」
「よし、今のうちに逃げるぞ!」
「……いや、少し待て」
葉蔵が浮いた瞬間に逃げる算段をする鬼達。
しかし、なんと煙羅が待ったをかけた。
一番逃げたがっていたのは彼のはず。
なのに一体どういう心変わりなのか。
「なんだよ、さっさと逃げ…ないと……」
ソレを見て猜妬は言葉を失った。
なんだ、そんなことまで出来るのか?
なんと、奴は…奴は……!
「アイツ、空まで飛べるのか!?」
葉蔵は下半身の背中から翼を生やし、ソレを羽ばたかせて飛んでいた。
流石の葉蔵でも空は飛べない。
この翼も滑空したり羽ばたくことで血針をばら撒くだけで飛行能力はない。
しかし軽くなったことで走行の勢いを利用し、翼を上手く使って飛べるようになったのだ。
葉蔵の動きを止めるつもりが、逆の結果になってしまった!
「ふざけるな!」
猜妬は叫んだ。
なんだアレは。
アイツ、あんな隠し玉を持っていたのか!?
今まで能力を隠していることは気づいていた。
葉蔵は遊び癖があり、強い技をなかなか使わない。最初は弱い血鬼術から徐々にレベルを上げてきた。
強敵と戦う際も何処か最後の切り札を隠している節がちらほらと見えた。策を使う際も何処か保険を取っているように思えた。
だから何かとっておきを隠し持っているかもしれないと前々から予測していたし、その対策も用意した。
しかし、葉蔵は猜妬―――半天狗の予想を軽く超えて見せた。
「ふざ…けるな……!」
色々と調べてきた。
その上で対策を立ててきた。
それでもまだ足りないのか?
インチキにも程があるぞ!
あんなに強力で、あんなに多彩で、あんなに凄まじい能力があるのに、まだ底が尽かないのか!?
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!
このインチキ鬼めが!!
ズドンと着地する葉蔵。
彼は両手で持ったランスの先端を猜妬に向け……
【針の流法―――
回転しながら、槍が飛んできた。
ドリルのように高速回転したランスが、ミサイルのように射出。
空気を切り裂く音を立て、余波で砂煙が舞う。
これこそ正しい形の
本来この技は槍専用の技であり、高純度の鬼因子を含んだランスによって繰り出されるものだ。
「ぐぺえッ!!?」
槍が猜妬に命中。
一瞬、重力の楯で槍を止めようとするも、そんなもので獣化した葉蔵の攻撃が止められるはずがない。
重力の壁ごとあっさり貫通。
そのまま因子食らい始める。
ソレを見た煙羅と幻凝は確信した。
次は自分たちの番だと。
次は自分たちがアレと同じになると。
次は自分たちがあの鬼の食料にされると!!
「は、早く逃げねえと!」
「あ、ああ!そうだな……あ」
【
二人の眼前に大量の血針が迫り来る。
彼らが最後に視た光景は以上だった。
「グルル…」
クソ野郎共が塵に還っていくのを確認した葉蔵は、弾丸を三つほど放つ。
さて、次だ。
このクソみたいなゲームを用意した主催者にクレームを付けに行こうか。
葉蔵のランスには銃口が、鍔にはグリップと引き金が付いており、そこを持つことで射撃を行います。
また、ランス自身が飛んでくることもあり、切断面を銃口に変化して砲撃が連続で飛んでくることもあります。
ちなみにデッドリィ・スティングのモデルはアバレキラーのデススティングです。
腕verは茨城の羅生門大怨起です。