鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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半天狗 第一ラウンド

 

 まずいまずいまずい!

 

 あの鬼、明らかにこちらに気づいている!

 

 このままでは今度こそ殺される! 早くなんとかしないと……!!

 

 

 とある山奥、半天狗は草陰でガタガタと震えていた。

 

 分裂体である偸盗とうとうによる、幽体離脱の血鬼術越しに見る葉蔵の姿。

 普段の美しい姿とはかけ離れた獣のような恐ろしい姿。

 強さも狂暴性もけた違いに変化している。

 その事実が半天狗はとても恐ろしかった。

 

 本来、半天狗には分裂体が見聞きしたものや経験したものを知る由はないが、分身体である尊栄の血鬼術によって感覚をリンクさせることでその問題を解決することが出来る。

 半天狗はこの血鬼術を使って分裂体や他の鬼たちと上手く情報伝達を行い、指示を出していた。

 もっとも、実際に指示を出していたのは分裂体である積怒と尊栄だったが。

 

「こんな…こんなはずでは……!!」

 

 本来なら上手くいくはずだった。

 半天狗から見ても葉蔵は強い鬼だった。

 しかし同時に、鬼の分際で未だに人の感覚を捨てきれてない未熟者でもあった。

 だから、そこを突けば如何に強い鬼でも出し抜ける。……そう思っていた。

 

「ヒィィィィ! どうすれば…どうすれば……!?」

 

 その結果がコレである。

 人質を取って葉蔵を縛るはずが、逆に全力を出させる切っ掛けになってしまった。

 

 半天狗は思い違いをしている。

 確かに葉蔵は人命救助をある程度優先するが、だからといって人質がいれば何でも言う事を聞くような鬼ではない。

 むしろ逆。

 人質の無事が保証されないなら、人質によって身動きが取れないぐらいなら、すぐに思考を変更。無視して抹殺にかかる。

 

 そして何より、人質という行為は葉蔵のゲームを台無しにする行為。

 例えるなら、腹ペコの状態で大好物を食べようとしたら、いきなり汚物をぶっかけられた気分だ。

 殺意を抱かないわけがない。

 

「ど、どうにかしなくては……!」

 

 おそらく敵はまだ気づいてない。

 失敗に備えて唆した鬼共を身代わりに出来るようにした。

 針鬼の性格からして、身代わりの鬼を喰うことに集中するはず。

 そのうちに早く逃げなくては……。

 

「!? 尊栄と偸盗がやられた!?」

 

 一瞬だった。

 分裂体の目に何か映ったと思ったら、一瞬でソレは途切れた。

 まるでカメラが壊されて現場が見えなくなったモニターのように。

 ソレが意味することは決まっている、尊栄と偸盗がやられたということだ。

 元からこの二体は戦闘用の血鬼術を使えないので期待はしなかったが、ここまで短時間でやられるとは半天狗も予想外であった。

 

 まずい、あの鬼は確実に自分を潰しに向かっている。

 このままでは自分も奴らと同じように……。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!」

 

 突如、血針弾が命中した。

 バカな、奴は今頃あの鬼共を食らっている筈。なのに何故!?

 いや、そんなことはどうでもいい!

 

「(死にとう……ない!!)」

 

 

【血鬼術 悪感分裂】

 

 

 血鬼術ですぐさま分裂。

 喜怒哀楽の四体の分裂体となることで針から逃れ、本体はさっさと逃げていった。

 

「腹立たしい腹立たしい。あの鬼、まさか我らの存在に気づいておったか」

「あやつこんなに遠くからでも追いかけてくるぞ!」

「哀しい。あの恐ろしい鬼と戦う事が哀しい」

 

 それぞれ好き勝手言いながら武器を構える。

 相手はあの針鬼、しかも初めて見せる本気の姿だ。

 おそらく偸盗とうとうの血鬼術である幽体離脱も見抜いているだろう。

 証拠はないがそうであると断言出来る。少なくとも半天狗はそう確信していた。

 

 

 

 

【針の流法 血針弾・連】

 

【針の流法 血針弾・爆】

 

【針の流法 血針弾・複】

 

 

【血鬼術合成 血針弾・爆連弾(ブラッド・バーストガトリング)

 

 

 瞬間、小さな爆発が連鎖的に起きた。

 

 

 ランスがガトリング砲と化し、複数の銃口から血針弾が連射される。

 一発一発が音速に届く程の、弾丸の嵐。

 それらは分裂体にぶつかると同時に爆発したのだ。

 

「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」

 

 爆破に飲み込まれてダメージを受ける半天狗たち。

 弾丸一つ一つは大した威力ではないが、それが何百何千となれば話は変わる。

 縦横無尽に、視界全てを覆う血針弾の爆弾。

 それは爆発の雨。

 辺り一帯を吹き飛ばしながら、半天狗の分身共を焼き払う。

 

「グルル…」

 

 葉蔵は満足そうに唸る。

 

 これだけ派手にやれば骨一つ残ってない。

 では、次こそ本体を……。

 

「お、おのれえぇぇぇっぇぇぇぇぇ!!」

「よくもやりおったな、針鬼!!」

 

 爆発によって起きた黒煙の中から、分裂体達が姿を見せた。

 

 半天狗は分裂体を倒してもあまり意味はない。

 本体を倒さなくてはどれだけ片付けてもすぐに新しい分裂体を出してくる。

 そうやって彼は柱共を殺し、他の鬼を蹴落とすことで上弦の肆という地位を得たのだ。

 

 

 

「「「死ね、針鬼!!」」」

「グルオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 第一ラウンド。

 

 葉蔵・獣王態vs半天狗・分裂体。

 

 戦闘開始!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食らえ!」

 

 分裂体―――積怒が雷を放つ。

 闇を切り裂いて葉蔵に向かう雷光。

 文字通り雷の速さで繰り出される血鬼術を葉蔵は軽々と跳んで避けた。

 

 

【針の流法 血針弾・爆】

 

 

 右に振り向いて爪の先から血針弾を放つ。

 ソレは爆風とぶつかると同時、爆破して風の勢いを相殺した。

 

「チッ! やはり可楽ごときではダメか!!」

「ハハ! 此奴、わしの風を相殺しおったわ!!」

 

 

 葉蔵の右前から分裂体の一体、可楽の弾んだ声が響いてくる。

 さらに上空から風を切る音が聞こえてきた。

 同時に葉蔵は動き出した。

 

「フハハハ! 死ね…ぎゃぴ!?」

 

 半人半鳥の空喜が凄まじいスピードで滑空。金剛石をも砕く爪が伸びる足を突き出す。

 しかしその瞬間、葉蔵はランスを振り回して逆に空喜をホームランでも打つかのようにかっ飛ばした。

 

「哀しいほど強い。流石はあの方が危惧する鬼だ」

 

 死角から十文字槍の刺突が繰り出される。

 衝撃波を操る血鬼術によって強化された突き。

 しかし気配を察知している葉蔵はソレに最初から気づいており、助走をつけて刺突を繰り出した。

 加速の勢いを乗せた西洋の槍と、血鬼術の威力を乗せた東洋の槍。

 ぶつかり合う刺突と刺突。

 勝ったのは葉蔵だった。

 

 更に口から血針弾・散を放つ。

 目標は今まさに血鬼術を使おうとしていた積怒。

 狙い通り血鬼術を阻害し、足止めに成功。

 その隙に葉蔵は次の襲撃に備え、ランスを振るう。

 

 

【針の流法 血針弾・散】

 

【針の流法 血針弾・複】

 

【針の流法 血針弾・爆】

 

 

【血鬼術合成 血針弾・爆散弾(ブラッド・スプラッシュバースト)

 

 

 瞬時に血鬼術合成を行い、ランスから散弾を詰めた血喰砲が複数発射される。

 ソレは空中で散弾をばら撒きながら爆発。

 分身体達の肉体を焼いた。

 

 しかしそこは上弦の鬼。

 身体を焼かれる速度以上の再生力で回復。

 すぐさま各々の武器を構えて葉蔵の襲撃に備える……。

 

「ッ!?奴を行かせるな!!」

 

 積怒が雷撃を放ちながら叫ぶ。

 おそらくこれは足止め。姿を晦ましている間に半天狗の本体である怯の元に向かい殺す気だ。

 怯の気配は非常に微弱だが、葉蔵の能力からして見逃してもらえるとは到底思えない。。

 

「邪魔じゃあ!!」

 

 可楽が横薙ぎに暴風を巻き起こして煙幕を吹き飛ばそうと扇を振るう。

 次の瞬間―――

 

 

【針の流法―――血喰砲・貫通(スパイキングキャノン)

 

 

 突如、砲弾が飛んできた。

 

 ドリルのように回転しながら肉を抉り、地面へと叩きつけて縫い合わす。

 貫いた箇所から針の根が全身に拡がる。

 根は積怒の鬼因子を吸収しながら肉体をズタズタにしていき、また因子を吸収して根を拡げる。

 

「お、おのれ……!」

 

 慌てて積怒は電撃で破壊しようと杖を持つ。

 しかしもう遅い。命中した時点で血鬼術は封じられ、動くことすらままならない。

 

「ぐ、えぇ…」

 

 積怒、脱落。

 これで残るは三体。

 

「な…なんじゃ!?」

「まさか、この短時間で積怒がやられたというのか!?」

「こ、こいつ!逃げるフリして儂らを誘いおったな!?」

「相変わらずこざかしい奴じゃ!」

 

 慌てて分裂体達は陣形を組む。

 

 彼らの言う通り、最初から葉蔵は分裂体を放って本体を狩るつもりなどなかった。

 そう見せ掛けることで誘い出し、一番面倒そうな血鬼術を使う鬼から仕留める。

 そして、残った大して強くない鬼共は……。

 

 

【針の流法 血針弾・連】

 

【針の流法 血針弾・複】

 

 

【血鬼術合成 血針弾・連砲(ブラッド・ガトリング)

 

 

 

 火力と物量で黙らせる。

 

 ランスとは名ばかりのガトリング砲で弾幕を張る。

 毎秒に何十もの弾丸が音速で吐き出される。

 鼓膜が破裂しそうな轟音と、地面を揺るがすほどの衝撃で。

 一撃一撃が鬼にとって必殺の弾丸を湯水の如く使用する。

 

 

【血鬼術 狂鳴波】

 

【血鬼術 激涙刺突】

 

【血鬼術 八つ手の団扇】

 

 

 それぞれの血鬼術を使って弾幕を防ぐ。

 分裂したとはいえ、上弦クラスの鬼が3つ同時に放つ血鬼術。

 それでやっと互角なのだ。

 

 だから、一度崩れたら立て直しは効かない。

 

「ぐげえ!!」

 

 突如、空喜に何かが刺さった。

 ソレは弾丸ではありえない動きで後ろから空喜を突き刺した。

 

 自律血針(ファンネル)

 予め葉蔵が用意しておいた罠である。

 最初から葉蔵は弾幕のみで仕留めるつもりはなかった。

 派手に血針弾をばら撒くことで注意を引き付け、後ろから自律血針で仕留める。

 これが葉蔵の狙いだったのだ。

 

 そして、脱落者が一人出たことで均衡は崩れた。

 

「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 弾丸に押し負け、残り二体がやられた。

 全身ハリネズミのような姿。

 一発なら簡単に耐えられるのだが、これが何十と集まれた容易くこいつらを殺せる。

 

 

「ぐ、ぐげぇ……」

 

 倒れる2体の分裂体。

 それを見た葉蔵は満足そうに唸り声をあげながら、針を数本投げ捨てる。

 

『グルル…』

 

 ギロリと睨む葉蔵。

 その先には鼠程の小さな半天狗──本体の『怯』が喚きながら、凄まじい速度で逃げようとしているところだった。

 

『俺様から逃げられると思うなよ?』

 

 葉蔵は、この姿になって初めて人語を話した。

 獣の吠え声と葉蔵自身の声が合わさったかのような声。

 何処か禍々しさを感じさせるその声で、葉蔵は普段なら絶対しないであろう汚い言葉を吐いた。

 しかも一人称が私ではなく俺様。

 この変化もまた見る人によれば彼が別人に見えるであろう。

 

『……狙い撃つ』

 

 しかし、その射撃能力は間違いなく葉蔵であった。

 

 指先から放たれた血針弾は半天狗に命中。

 血針によって因子を喰われるかと思いきや、半天狗は無傷。

 一層情けなく悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 

『いいぜ、だったら爆破してやる』

 

 何も血針で貫く必要はない。

 硬いなら熱で溶かす、電流を流す、爆破する……いくらでも手はある。

 

 

 半天狗よ、今日が貴様の命日だ。

 


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