鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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半天狗 第三ラウンド

 

 とある山奥……いや、『元』山奥で激しい戦闘が行われていた。

 選手は獣鬼の姿と化した葉蔵と、半天狗最強の分裂である憎伯天。

 周囲を巻き込みながら互いに血鬼術をぶつけ合い、殺し合っている。

 

 

【血鬼術 狂圧鳴波】

 

【針の流法 血喰砲・散弾(スプラッシュキャノン)

 

 

 雨霰のように散弾が撃ち出される。

 人どころかその周囲すら一掃する量の銃弾。

 迎え撃つは凄まじい超音波。

 音波は弾丸を呑み込み、甲高い金属音を立てて迎撃する。

 強烈な摩擦によって火花と散る散弾。

 それらは辺り一面を昼のように明るく照らす。

 

 

【血鬼術 狂鳴雷殺】

 

【針の流法 血喰砲・貫通(スパイクキャノン)

 

 

 雷光を纏う超音波の一撃。

 迎え撃つのは紅い砲弾。

 砲弾は雷鳴と音波をソニックブームでかき消しながら前進する。

 しかし更なる狂鳴雷殺によって砲弾は破壊された。

 

 血鬼術と血鬼術が。

 自然と科学の力が。

 上弦の鬼と葉蔵の力がぶつかり合う。

 

 

【血鬼術 激涙重圧】

 

【針の流法 血喰砲】

 

 

 派手な衝突音が響き、大きな火花が飛び散る。

 

 

 

【―――血喰砲】

 

 

 撃つ。 

 

 ミサイルが、機関銃が、砲弾が。

  

 赤い獣鬼の兵器が次から次へと破壊を繰り返す。

 

 

 

 

【―――血鬼術】

 

 

 放つ。

 

 雷が、風が、熱波が、音波が、衝撃波が、重力波が。

 

 木竜が暴れ狂い、口から災害を吐き出す。

 

 

 

 

 雷閃が曇天の空を照らし、爆風が木々を薙ぎ払う。

 ピカッと一瞬光ったと思いきや、巨岩が転がるような雷鳴を立てて電流が迸る。

 フワッと何かが揺れたと思いきや、瞬間に山の地面へ叩きつけられる強風。

 同時に起こる砲弾の爆発音。

 血喰砲と共に雷と風は嘘のように消えた。

 

 

 大気が熱波に灼かれ、音波に震わされる。

 一瞬強烈な光が放たれたと思いきや、凄まじい熱によって軌道上の全てが溶かされる。

 一種猛烈な音が聞こえたと思いきや、凄まじい音によって周囲の部隊が破壊される。

 全てを避け、自在に跳び回る一匹の獣。

 巻き込まれた岩々が派手な音を立てて崩れていく。

 

 

 大地が重力波に押し潰され、衝撃波に破壊される。

 余波によって地割れが、土砂崩れが起きる。

 

 

 

 そこはもう山とは言えない。

 戦場。

 悪鬼と獣鬼が殺し合う地獄と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……まずい、やはりこの鬼は強い)」

 

 血鬼術によって憎伯天が生み出した背の高い樹木。

 その登頂部にある玉状の空洞の中に半天狗本体が引きこもっていた。

 

 ここは半天狗によって最後の砦。

 頑強な木の皮は葉蔵の針から守り、木に含まれる鬼因子が葉蔵の超感覚を紛れさせてくれる。

 しかし、万全とは言えなかった。

 

「(憎伯天が力を使いすぎている。人間の血肉を補給せねば)」

 

 想定以上に葉蔵は粘っていた。

 強いのは既に知っていたが、憎伯天を以てしても倒せない程とは。

 

「……やはり、こいつを使うしかないのか?」

 

 半天狗は懐から一つの小瓶を取り出した。

 無惨の血が入った小瓶だ。

 

 本来、これは喰戦で生き残った鬼に与えられるものであり、喰戦の管理を言いつけられた上弦の壱が持っていた。

 しかし、喰戦が頓挫してしまい、この小瓶の血が余ってしまい、童磨が勝手に半天狗へ横流ししたのだ。

 本人は半天狗を心配してやったと言っているが、本心でないことは半天狗も見抜いている。本音は上弦の鬼がこれ以上の無惨の血に耐えられるかどうか半天狗で実験したいというものだろう。

 だから半天狗は出来るならコレを飲みたくなかった。

 しかし、もうそうは言ってられない。

 

「(もし憎伯天が負けるようであればコレを使うしかない……!)」

 

 憎伯天は強くなった。

 既に葉蔵によって分裂体を喰われたのにも関わらず、憎伯天はフルにその力を使える。

 しかし、それでも葉蔵には勝てない。

 

「頼む…勝ってくれ……!」

 

 ぎゅっと小瓶を握りしめながら、半天狗は憎伯天の勝利を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弱き者をいたぶる鬼畜! 不快! 不愉快! 極まれり 極悪人めが!!」

『ハッ! だったらなんだってんだ? 泣いてママに泣きつくのか?』

 

 縦横無尽に木竜が葉蔵に向かい、顎から血鬼術を吐き出す。

 葉蔵は木竜の首を足場にすることで、まるで葉蔵にだけ重力がないかのような敏捷性で軽々しく避けた。

 縦横無尽に飛び交う葉蔵。彼もまた上弦という異常鬼の片足を突っ込んでいる。

 

 

「この極悪人め! 手のひらに乗るような小さく弱き者を甚振っておきながら、何も感じないのか!?」

『いや、感じるぜ。クソゲーを用意しやがったクソ野郎を嬲るのは心楽しいな。あの鬼、少し攻撃するだけですぐヒィィって悲鳴あげやがる。笑い袋を叩いてるみたいで楽しいぜ?』

 

 憎伯天の攻撃を避け、時に牽制弾を放ちながら葉蔵は言う。

 彼は弱者を嬲って喜ぶ性質ではないが、相手が遺伝子レベルでどうしても許せない相手なら話は違う。

 藤襲山にいた頃、人間の頃は性犯罪者の鬼をぶちのめしてスッキリしたのがその証だ。

 

「卑劣! 下劣! 貴様のような者がいるからあのようなか弱いものが生きにくいのだ!!」

『悪? 卑劣? そんなもんは弱者の戯言だ。弱者(テメエ)は大人しく強者(オレ)に踏み潰されろ』

 

 ランスから血喰砲を数発撃ち出す。

 憎伯天はそれらを重力と風の血鬼術で粉砕し、更に周囲の植物を集めて木竜を大きく成長させた。

 

「黙れごろつきが! 儂に命令して良いのはこの世で御一方のみぞ!!」

『いや、お前の方がごろつきに相応しい顔してるぞ。鏡貸してやろうか?』

 

 ランスをブンっと振り回す。

 軌道上から噴き出す針の雨。

 しかしそれらは木竜が楯になることで防がれてしまった。

 

「何ぞ?貴様 儂のすることに何か不満でもあるのか? のう悪人め」

『不満しかねえよ。俺は悪じゃねえし』

「まだ分からぬのか!? これだけ弱者を虐げておきながら、まだ被害者面するか!? 何という極悪非道!これはもう鬼畜の所業だ!」

『分かってねえのはテメエだよ』

 

 

 

『いいか、正義か悪はお前が決めるんじゃない。俺なの。オ~レ~な~の♪』

 

『判決はお前が有罪。お前の言い分なんて俺は聞かないしどうでもいい。勝手に喚いてろ』

 

『お前には発言権も言い訳の権利もないんだ。ちゃんと理解できりゅ?』

 

 

 

 

 

「こ!ん!の!! 極悪人があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 ブチブチブチィ!!

 

 

 遂に憎伯天がキレた。

 

 何が何でもこの悪人は生かしては置けない。

 コイツ何を言っているんだ。全く理解が出来ないし、したくもない。

 針鬼、お前は存在してはいけない生き物だ!!

 

 

「この、悪童めが……、ッ!?」

 

 忌々しく樹上を跳び回る葉蔵を睨んだ僧伯天だが、そこで彼は異常に気付いた。

 

 

 石竜子(とかげ)―――無間業樹が動かなくなったのだ。

 

 まるで何かに縛られているかのような拘束感。

 まるで見えない何かに吸い取られているかのような倦怠感。

 憎伯天―――半天狗には全て覚えがある。これはまさしく……!

 

「は…針お……!?」

 

 石竜子を縛り付けた張本人、葉蔵に振り向いた瞬間、葉蔵がついそこまで接近していた。

 いつの間にか樹木たちが葉蔵にとって憎伯天に接近しやすい足場となる位置になっている。

 おかしい、こんな不利な位置にしてないはずなのに……!

 いや、そんなことを考えている暇はない!!

 

「こ、このぉ!!」

 

 

【血鬼術 狂鳴雷殺】

 

 

 太鼓から電撃を放つ。

 最短距離で敵が接近するならルートは大体予想出来る。故に当てることは簡単だった。

 

 

【針の流法 針塊楯】

 

 

 左腕に身の丈程ある大楯を創り出し、電撃を無効化。

 一発で役立たずになった楯を放り出しながら葉蔵は右腕を突き立てる。

 手の甲から伸びる赤い宝剣のような刃。

 赤く妖しい光を放ち、不気味な力を発するソレが、憎伯天に突き刺さる。

 

 

 

 

「針の流法―――刺し穿つ血鬼の爪(スパイキング・エンド)

 

 

 

 憎伯天は悲鳴をあげる時間も与えられずに消滅した。

 




・刺し穿つ血鬼の爪(スパイキング・エンド)
手の甲から剣のような赤い棘を生やし、突き刺す技。
威力は勿論、一番相手の因子を吸収できる血鬼術でもある。
モデルはデジモンのスティングモンの必殺技、スパイキングフィニッシュ。

悪党は誰ですか?

  • 葉蔵
  • 半天狗
  • 無惨
  • 異常者共

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