鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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半天狗、まだ死にません。
もう少し生き延びます。
けど最後は死にます。
犯した罪、悪行。その責任は必ず取らせます。


半天狗 第四ラウンド

 

「負けた負けた負けたぁぁぁ!」

 

 石竜子の瘤の中、半天狗はFXで有り金全部溶かした挙句、借金まで発生した敗北者のように泣き喚いた。

 

 新たな分裂体を四人手に入れたことで、憎伯天と半天狗は感覚がリンク出来るようになった。そのおかげでリアルタイムで憎伯天がどんな状況か確認できるのだ。

 そのせいで知りたくもないことを知ってしまったが。

 

「やはり……これを使うしかない!」

 

 半天狗は震えた手で握っている小瓶を開ける。

 

 無惨の血は鬼を強化するが、同時に身を蝕む毒にも成り得る。

 上弦とはいえ耐えきれる保証はない。

 しかし、もうこれに賭けるしかない。

 

「う、うぅ……」

 

 ガタガタと手が、ガチガチと歯が震える。

 恐ろしい。

 上弦になった彼でも無惨の血は恐ろしい。

 半天狗は何度も無惨の血に耐えられず肉体が崩壊した鬼や、力に飲み込まれて理性をなくした鬼を見てきた。

 自分もああなるんじゃないのか。

 その考えはおそらく誰にも否定できない。

 

 しかし、無理をしなくてはあの鬼に勝てない。

 

「無惨様……わしにお力を!!」」

 

 グイっと一気に流し込む。

 

「あ? ――ッ!? アガァ!!!」

 

 瞬間、全身を激しい痛みが襲った。

 まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。

 その痛みは加速的に増大する。

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――ぐぅううっ!」

 

 耐え難い痛み。

 自分を侵食していく何か。

 半天狗はその場でのたうち回り、激しく唸る。

 

 半天狗の体が痛みに合わせて脈動を始めた。

 ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。

 身体の至る所からミシッ、メキッと嫌な音が立っている。

 おそらく本人にはソレを聞く余裕はないだろうが。

 

 しかし次の瞬間には、鬼の超回復能力によって損傷を修復。

 再生が終わると再び激痛。そして修復、また激痛と。何度も繰り返す。

 

 半天狗は絶叫を上げその場でのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付けながら終わりの見えない地獄を味わい続けた。

 一体どれだけの時間が経過したかは半天狗も分からない。

 そもそもそんな余裕すらない。

 一瞬でもいい、この痛みを止めてくれ。

 そう願わずにはいられなかった。

 

 

 次第に半天狗の体に変化が現れ始めた。

 

 脈打ちながら肉体が……いや瘤の中全てが変化していく。

 

 その様は、まるで繭の中。

 脆弱な肉体から完全な姿へと生まれ変わる生誕の儀式。

 不完全な肉体を本来ある形に造り変える工程。

 もっとも、鬼なのでその再生速度は桁違いだが。

 

「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 木の瘤を破ってその姿を現す。

 瞬間、八つの半天狗の分裂体達。……いや、分体が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……やはりまだ死んでなかったか』

 

 手の甲の棘をへし折って鬣の中に仕舞いながら、葉蔵はケンタウロス態に変化した。

 

 憎伯天にトドメを刺した瞬間、妙な手ごたえの無さを感じた。

 あれだけ強かったというのに、憎伯天から吸った因子はスカスカだった。

 いや、どちらかといえば、因子が何処かへ行ってしまったかのような感覚。

 底の抜けたコップで水を飲もうとしたら、穴に水が全部流れ落ちたかのような感覚だった。

 

 その感覚から葉蔵は一つの仮説を立てた。

 もしかしたら本体が因子を回収し、本体自身が戦おうとしているのではないかと。

 そして、葉蔵の想像は当たっていた。

 

 木の瘤を破ってその姿を現す。

 瞬間、八つの半天狗の分裂体達。……いや、分体が現れた。

 

『……勘弁してくれ』

 

 ため息を付きながら葉蔵はランスを創り出す。

 

 一瞬、また性懲りもなく分裂したかと思った。

 しかし今回は違う。ただの分裂ではない……。

 

「さっさと死ね針鬼!」

 

 楯で咄嗟に防ぐが、積怒の雷は葉蔵の楯を粉砕した。

 通常の分裂体とは桁違いの威力と範囲。

 それはまるで憎伯天のよう。

 

「早ぉ死んどくれ!」

「くたばれ針鬼!」

 

 怠憂が弓から熱戦を、猜妬が金棒から重力波を放つ。

 葉蔵はそれぞれ両手から放つ血喰砲で相殺。

 再び雷を打ち出そうとしている積怒を口から吐く血針弾で牽制し、後ろから気配を消して襲ってきた可楽を後ろ脚で蹴り飛ばした。

 

 

【血鬼術 激涙刺突】

 

 

 しかし、そのせいで隙が出来てしまった。

 横腹に哀絶の刺突が突き出される槍の連続突き。

 何とか跳ぶことで直撃は避けたが、衝撃波で吹っ飛ばされ転がりまわる。

 更に、葉蔵目掛けて風圧が葉蔵を抑え込む。

 

『ぐ、おおぉぉぉぉぉ!!』

 

 下半身の四肢で無理矢理立ち上がり、力ずくで血鬼術の範囲外へ跳び上がる。

 距離外へ着地した途端、また別の血鬼術が飛んできた。

 

『があああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

 積怒による電撃。

 楯で防いだにも関わらず吹っ飛ばされたのに、今回はなし。

 当然、大きなダメージを葉蔵は受けた。

 

 

【血鬼術 狂鳴波】

 

【血鬼術 激涙刺突】

 

【血鬼術 八つ手の団扇】

 

 

 一斉に繰り出される血鬼術。

 どれもが憎伯天と同等かそれ以上の威力。

 針塊楯で防ごうとするも、複数の血鬼術により容易く破壊。

 葉蔵の肉体を焼き、潰し、穿つ。

 

『ッ! 調子に乗るな!!』

 

 

【針の流法 血針弾・散】

 

【針の流法 血針弾・複】

 

【針の流法 血針弾・爆】

 

 

【血鬼術合成 血針弾・爆散弾(ブラッド・スプラッシュバースト)

 

 

 痛みに耐えながら、再生に回すはずの鬼因子で血鬼術を発動。

 ランスから散弾を詰めた血喰砲が複数発射され、空中で散弾をばら撒きながら爆発。

 前回同様に分身体の肉体を焼き、爆炎と爆風、そして硝煙が視界を遮る……。

 

「またこの手か! 奴はあそこだ!」

『ガァ!?』

 

 血鬼術は全て葉蔵に命中。

 視界を完全に遮られているにも関わらず、葉蔵を捉えてみせたのだ。

 

『……あいつらのせいか?』

 

 他の分身体と少し離れた場所で二体の鬼がいた。

 気配は他の分身体と同じだが、少し覚えがある。

 鬼との戦闘で感じた妙な視線。異様な連携を取る鬼達が出していた当人ではない血鬼術の気配。

 そこから導き出される答えは一つ。この鬼達こそ幽体離脱とテレパシーの血鬼術を使う鬼達ということ。

 

「(俺の推測は正しかったってことか。しかもこの状況……最悪のパターンだ)」

 

 自分の推測が大方当たったことに、葉蔵はため息を付いた。

 

 ただ分身体が強いだけなら付け入れる隙はある。

 分裂体や憎伯天を倒した時のように、搦め手や罠を仕掛けて倒せばいい。

 一度ならず二度も引っかかった相手だ、当然三度目も上手くいく。

 相手にソレを察知する能力がなければ。

 

「(積怒、偸盗からの情報だ。針鬼は北西から射撃体勢を取っている)」

「(あいわかった、尊栄)」

 

 テレパシーと幽体離脱の血鬼術。

 敵はタイムラグなしの通信手段と、全方向を見渡せる超高性能な監視カメラを手にしたようなものだ。

 これでもう付け入れる隙はなくなった。

 

「(可楽と猜妬で足止めと見せかけ誘導、積怒が囮になり空が第二の囮、哀絶が槍を投擲して虚を付いて牽制し、怠憂の熱線と積怒の血鬼術で足止め、そのあと総攻撃だ)」

「「「あいわかった!」」」

 

 このように、完璧に統率が取れてしまう。

 その有様は一つの生命体。八つの分身体が脳を共有し、各々がまるで体の一部であるかのように自在に、流れるように連携している。

 まあ、本当に一つの生命体なんだが。

 

『だったら火力で押し切ってやる!!』

 

 そう、獣鬼態と化した葉蔵には力ずくという手段もとれる。

 砲弾に機関銃にミサイル…。

 ありとあらゆる兵器を再現し、ソレをぶつけてやればいい。

 大正時代の鬼が考えたような、辺鄙な術などソレで事足りる……。

 

【血鬼術 雷殺】

 

【血鬼術 狂鳴】

 

【血鬼術 激涙刺突】

 

 

【血鬼術合成 激狂雷槍】

 

 電撃と振動波を纏う槍がミサイルの如き勢いで投擲された。

 

『……っぐ!?』

 

 槍は葉蔵の放った銃弾の雨を突破し、葉蔵に命中。

 咄嗟に楯で止めようとするも、楯を貫通して葉蔵を貫いた。

 突き刺さった槍は電流によって葉蔵を一時的に痺れさせ動きを止める。

 そして、止まった葉蔵目掛けて再び集中砲火が為された。

 

 血鬼術合成は複数の鬼がやる場合、タイムラグがどうしても出てしまう。

 しかし、尊栄の血鬼術によって離れていても瞬時に、尚且つ鮮明に情報のやり取りが可能になったことでこの問題は解決した。

 タイミングを読み合う必要も、わざわざ合流する必要も、何ならお互いの状況を把握しなくても血鬼術合成が行える。

 これは本来群れない鬼にとってはかなり大きな差異であり、かなり大きな優位性でもある。

 

「「「ここで死ね、針鬼!」」」

 

 第四ラウンドはまだ続く。

 

 

もう少しで半天狗死にます。どう思いますか?

  • 明日死ぬとはかわいそうに私が助けてやろう
  • 貴様逃げるなァァァ!責任から逃げるな!

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