鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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なんで半天狗すぐ死んでしまうん?


半天狗 最終ラウンド

 元山だった更地。

 そこで八体の鬼による集団リンチが行われていた。

 

『……この強さ、分割されてねえな!』

 

 リンチの被害者―――葉蔵が猛攻を凌ぎながら愚痴を零す。

 ソレを聞いた分身体達はニヤッと笑った。

 

「そうじゃ、わしらはあの方の血によって更なる進化を遂げたのじゃ!!」

 

 そう、これこそ半天狗が新たに獲得した血鬼術である。

 

 通常、彼はあまり四体以上分裂しない。

 あまり分裂すると、一体一体の分裂体の質が下がってしまうからである。

 だから、彼は新たに分裂体を確保した今でも四体しか出さずにいた。

 

 しかし今、彼はこのピンチで更なる成長を遂げた。

 

 同時に八体の分身

 分裂能力の生み出されたように分身することで単体ごとのスペックが下がることはなく、全分身体がフルスペックで戦える。

 上弦の力を分裂したのではなく、それぞれが本物であり、それぞれが半天狗の力を持つ。

 どの個体も本体であり、本体と同等の戦闘力を持つのだ。

 

『……やべえな、こりゃ』

 

 始めて葉蔵は自身のピンチを理解した。

 

 疲労。

 血鬼術の過剰使用と獣鬼態の長時間使用。

 これによってエネルギーの消耗を招いてしまった。

 

『けっこう…堪えるな……』

 

 ふらつく身体に喝を入れる葉蔵。

 疲労という鬼に成って初めての経験に戸惑いと焦りを感じるも、無理やり抑え込む。

 今はゲームではなく本気の殺し合いをしている。気を抜くわけにはいかない。

 ここでなんとしてでも敵を排除しなくては。

 

 ここで皆はこう思うだろう、『多少無茶しても一匹落としたら補給できるだろ』と。残念ながらそれは出来ない。何故なら……。

 

「針鬼、やはりお前は戦闘中に飯食えねえようだな!」

「哀しい。これほど強いのにこんな弱点があるのが悲しい」

 

 正解である。

 葉蔵は捕食した鬼を消化するために時間がいる。

 消化中は力がダウンし、その時間も結構長い。

 現に、葉蔵が戦闘中に因子を補給することはなかった。あったとしても戦闘が終わる直後だけである。

 

 

【血鬼術 八つ手の団扇】

 

【血鬼術 悋気重圧】

 

【血鬼術 雷殺】

 

 

【血鬼術合成 重磁鬼嵐】

 

 

「があああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 暴風と轟雷を纏う重圧が葉蔵に直撃。

 強靭かつ頑強な獣鬼の巨躯を、凄まじい衝撃で蹂躙する。

 

『(クソが、この鬼ことごとく俺の強みを潰してやがる!!)』

 

 彼は気づいた、半天狗が葉蔵メタを張っていることに。

 

 葉蔵の強みは、針を除けばその超感覚と情報能力だ。

 彼は複数の鬼と戦う際、行動の隙を突くことで流れを自分に持っていく傾向にある。

 戦いながら敵の情報を収取し、分析してまとめた情報から作戦を立てる。それを実行することで葉蔵は勝利してきた。

 その上、鬼は連携を取るのが下手だ。あの頭無惨の血のせいか、自分勝手で脳筋的な発想ばかり。故に群れれば群れる程に罠に嵌めるのは容易だ。

 しかし、その優位性は尊栄と偸盗によって潰された。

 分身体は他心通力で繋がっており、幽体離脱で死角でも目が行く。故に軍隊以上の連携を可能にし、隙を見せるどころか葉蔵の隙をに入り込もうとしている。

 これでどうやって相手に不意を突けというのだ。

 その上、相手は安全地帯でゆっくり考えられる。

 

 八体の分身体と戦いながら情報を集め、整理し、考え、実行。これらを同時にやる。

 一体一体が独立して別々のことをしつつ、ネットワークを構築して瞬時に情報を交換し、頭脳労働は安全地帯で集中している。

 どっちが有利なのか明白だ。

 

 そして針は火力で叩き潰している。

 憎伯天並みの血鬼術とソレを組み合わせた血鬼術合成で相殺。

 たとえ刺さっていても

 

 

 

「(……儂は強くなった)」

 

 ポツリと、半天狗本体の精神(・・)が呟く。

 

 あの針鬼をここまで追いつめている。

 上弦の参に匹敵するであろうこの鬼を、新たな血鬼術で追い詰めている。

 そのことに半天狗は高揚感を覚えていた。

 

 上弦のトップ3は下位の上弦に比べて力量差が激しい。

 上弦の肆、上弦の伍、上弦の陸なら状況や運次第では数字が上の相手にも勝てるかもしれない。

 しかし、上弦トップ3からはどんな手を使っても勝てない。

 半天狗は猗窩座に、猗窩座は童磨に、童磨は黒死牟に絶対勝てない。

 トップ3はそれぞれ鬼自身の戦闘力も関係しているが、問題の人何時として血鬼術の質も関係している。

 

 血鬼術は単純かつ応用が利くものが強い。

 それは 上弦トップ3が証明している。

 一見すれば、鬼殺隊にメタを張れるような、面倒な制限があっても特殊な血鬼術を使う意鬼が強そうに見える。

 しかし、あまり特化した血鬼術だと使い勝手が悪くなり、応用がなかなか効かなくなる。

 このままでは想定外なことに対処できず、状況によっては弱体化してしまう。

 限定的なルールなんて以ての外。そこを突かれて鬼殺隊に討たれた鬼は多々存在する。

 だから上弦でも肆と伍と陸は決して参以上には繰り上がれない。鬼殺隊メタ止まりの血鬼術程度では、上弦トップ3には成り得ない。

 しかし、半天狗はその限界を超えた。

 

 今までの彼の分裂は上弦の弐の結晶ノ御子の劣化版だったが、今日ここで上位互換へと進化した。

 面倒な制約から解放され、一段階も弐段階も階段を跳び上がったのだ。

 その第一の犠牲者が葉蔵である。

 

 

 火力で潰す―――無理だ。連携して瞬時に血鬼術合成を行って対処する。

 

 策略で覆す―――無理だ。連携して流れるように攻防を行って対処する。

 

 

 詰み。場の流れは完全に半天狗たちが支配していた。

 

 

 では、葉蔵はこのままやられるのか。何もできず、このまま無様にやられるしかないのか。逆ご都合によって葉蔵は半天狗に倒されるのだろうか。

 安心して欲しい、ここの主役は葉蔵であって半天狗ではない。

 半天狗など所詮は踏み台。原作でもしぶとく生きていながら最後はあの炭治郎によって何の躊躇なく殺されたキャラである。

 当然、ここでも死ぬ。

 

「ヒャハハハハハハハハハ! このまま貴様を殺し…ん?」

 

 チラリと、半天狗の分身の一人が空を見る。

 他の分身体は見ない。その分身体が見ていれば他の分身体も『見えている』のでわざわざ自分たちが見る必要などないから。

 それが功を奏したのだろうか……。

 

「な、なんだありゃ!?」

 

 突如、半天狗達の頭上から『火』が降ってきた。

 もっと具体的に言うなら兵器の雨。

 ガトリング砲の如く血針弾が叩き込まれる。

 

「(なんだ…一体何が起こっている!?)」

 

 なんとか血鬼術で防ぐも、彼らは内心かなりあせっていた。

 

 葉蔵からは一瞬たりとも目を離していない。

 余計な真似を一切させないように、妙な考えを起こさないように。

 欠片程でも隙を与えてしまえば逆転される。そう考えて連携(リンチ)したのだが……。

 

「(何時だ…何時隙を与えてしまった!?)」

 

 なんとか防ぎながら記憶を辿る。

 完璧に封殺したはずだった。

 分身体が束になったことで妙な行動も出来ず、考える余裕すらなかったはず。

 なのに何故奴は反撃出来た? どうやって反撃した?

 

「(!? 尊栄と偸盗がやられた!?)」

 

 幽体の視界が消えた。

 分身体の繋がり(リンク)が消えた。

 二体がやられた証だ。

 しかしそんなことはどうでもいい。大事なのは二体が消える瞬間に視た光景だ。

 

「まさか…あいつ……そんな、そんなことまで……!!」

 

 彼らが最後に視た物は、予想を遥かに上回るものだった。

 

 

 

「あいつ、大砲を作って遠距離操作出来るのか!?」

 

 彼らが見たのは自動で砲撃する赤い機関銃だった。

 

 狙撃手なしで弾丸を吐き続ける全自動式の砲台。

 ソレらはまるで本体である葉蔵とほぼ同じ精度の射撃を続け、尊栄と偸盗を狙撃したのだ。

 

「針鬼キサマ何処まで……!?」

 

 それ以上言葉を続けることは出来なかった。

 

 

【針の流法 血針砲一斉射撃(ブラッドフルブラスター)

 

 

 彼らの眼前を、暴力が覆った。

 砲弾が、爆撃が、機銃弾が、ミサイルが、クラスター弾が。

 ありとあらゆる形の銃撃が半天狗の分身たちへと襲い掛かる。

 

 

 その日、山は巨大な穴になった。

 

 




はい、やっと半天狗が死にました。
いや~、本当に強かったというか、しぶとかったです。
私も書いている途中で『ここまで引き延ばす必要あったかな?』と疑問に思う程でした。
けど、半天狗の強さってこのしぶとさだと私は思うんですよね。
原作でも追い込まれたら追い込まれるほど力を発揮し、あの炭治郎達でさえ根を上げかけました。
格下である鬼殺隊相手にアレなんだから、葉蔵相手だともっと追い込まれる。ならもっとイヤボーン的なパワーアップをするだろう。
そう考えて引き延ばしまくった結果、こうなりました。
本当は分身体が融合して更なる強化の展開を想像しましたがやめました。いくらなんでも長すぎる。

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