鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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一か月も待たせてすいません!


上弦の鬼編
復活の銃鬼


「ゲホッ…カハッ…」

 

 花柱―――カナエは膝を着き、口から少量の血を吐いていた。

 

 彼女の日輪刀は折れ、全集中の呼吸は【肺の中にある異物】のせいでうまく出来ない。

 もう刀を振り回すどころか、立ち上がる力すら彼女の肉体には残されていなかった。

 一言で表すなら死に体だ。

 

「ああ、可哀そうに……」

 

 その様子を痛々しそうに嘆く一人の男

 閻魔の意匠を基にした帽子に血が垂れた様な服、ベルトで締められた縦縞の袴を着た優男。

 頭から血をかぶったような模様をした白橡色の長髪に、虹色の瞳。

 童磨と名乗った上弦の弐の鬼。

 彼はにこにこと屈託なく笑い 穏やかに優しく喋る。

 しかしその笑顔は若干ズレていた。

 

「辛いよね? 苦しいよね? けど安心してね?苦しいのを今解放してあげるから…」

 

 口では優しそうに言うも、その意味は彼女を食い殺すという事。

 カナエは抵抗しようとするも、ダメージのせいで全く動けない。

 

「(まさか……上弦ノ弐に会ってしまうなんて……)」

 

 歯が立たなかった。

 どれだけ技を繰り出しても、どれだけ血鬼術を回避しても、この鬼はその上を行った。

 

 圧倒的な物量の血鬼術。

 今まで戦ってきたどの鬼よりも血鬼術の範囲が広く、手数も桁が違う。

 回避も防御も極めて困難であり、ここまで持ったのが奇跡のようだ。

 

 圧倒的な威力の血鬼術。

 今まで戦ってきたどの鬼よりも強力な血鬼術は一撃一撃が必殺。

 呼吸の技も動きも悉く全て薙ぎ払い、刀も粉々にへし折られた。

 

 圧倒的な性能の血鬼術。

 今まで戦ってきたどの鬼よりも万能の血鬼術は一切の隙を見せない。

 遠近も攻防も全て完璧。その力の前に、カナエは一撃も入れられなかった。

 

 強い。

 全てが規格外の強さ。

 下弦の鬼とは比べること自体が烏滸がましい程の力。

 

「(ごめんね…しのぶ、カナヲ)」

 

 一言すら発せない。

 代わりに出るのは血を含む咳。

 もう無理だ。カナエは諦め悲しみの涙を流す。

 そのまま彼女は目を閉じて……。

 

 

 

 パァン

 

 

 突如銃撃が童磨を襲った。

 

 鉄扇で銃弾を弾き、飛んできた方角に目を向ける。

 目線の先は空中、段々と近づいてくる赤い点。

 その正体を童磨は知っていた。

 

「……銃鬼!」

 

 童磨が向く方角にカナエも目を向ける。

 ソレを見た瞬間、彼女は目を見開いた。

 

 月を背にして、何かが猛スピードで接近している。

 鳥ではない。

 ソレはの接近速度が証明している。

 

「(あ、あれは……)」

 

 グングンと大きくなっていくシルエット。

 その名を彼女も、そして上弦の鬼も知っている……。 

 

 

「残念だよ。君の救済は今夜出来なさそう」

 

 

【血鬼術 師走のつらら】

 

 

 童磨は扇を拡げ、冷気をまき散らす。

 そこから生まれる無数の氷柱。

 氷柱は遥か未来の兵器、誘導ミサイルの如くシルエットへと飛んでいく。

 そのままターゲットに命中するかと思いきや……。

 

 

 

 

「何処を狙っている?」

 

 

【針の流法 血喰砲・貫通(スパイクキャノン)

 

 

 

 突如現れた何物かが放った血鬼術によって、童磨は吹っ飛ばされた。

 キーンと空気を切り裂く音と同時に離れた砲弾のような血鬼術。

 その音が、その速度が、その威力が。

 全てがその鬼の強さを、その鬼が何者かを示している。

 こんな血鬼術を放つ鬼など、カナエは一人しか知らない。

 

 

「やあカナエくん、久々に会ったね」

 

 陶磁器のように白い肌と髪。

 異形の黒い眼に獣のような赤い瞳。

 額から延びる宝剣のように鋭く赤い角。

 上弦の鬼に匹敵する強く濃厚な鬼の気配。

 当時の兵器を軽く凌駕する強力無比の血鬼術。

 

「葉…蔵、さん……」

 

 大庭葉蔵。

 鬼でありながら人を喰わず、共食いを続ける異端の鬼。

 それでいながら強さは上弦に匹敵する最強の鬼の一角である。

 

「随分手ひどくやられたようだね。コレを咥えるといい」

 

 彼が手渡したのは一本の鍼。

 かつて彼が煉獄瑠火を救った血鬼術が仕掛けられている鍼である。

 

「咥えて中にある粉を飲んでくれ。粉は肺に入って奴の粉氷りを無効化してくれるはずだ」

 

 葉蔵の指示通り咥えようとするカナエ。

 しかし瀕死の肉体は彼女の思うように動けず、ズタズタになった肺では呼吸もままならない。

 結果、彼女は針を摂取することが出来なかった。

 

「……仕方ない」

 

 葉蔵はカナエの顎をクイッと指で持ち上げ、針を口に持って行く。

 途端、赤い鍼から噴き出す極小の針。

 それらは肺の中へと入り込み、中で彼女を傷つける血鬼術、粉氷に突き刺さって無力化させる。

 

「う、うぅ……」

「苦しいか。しかし私には治療する術はない。すまないが耐えてくれ

 

 カナエを労わりながら降ろす葉蔵。

 同時に彼は後ろを振り返って血鬼術を撃ち出した。

 

 

【針の流法 血喰砲】

 

【血鬼術 蓮葉氷】

 

 

 ほぼ同時に発動する血鬼術。

 それらはぶつかり合うと同時に大爆発を引き起こす。

 砲弾が氷塊を破壊、氷塊の冷気が砲弾の欠片を凍らせて無力化させる。

 冷気と爆炎によって広がる煙。

 ソレは数秒程周囲を覆い、強風によって払われる。

 そこから現れたのは……。

 

 

【血鬼術 天女の凍雲】

 

【獣身変 断空翼(スラッシャー・ウィング)

 

 

 空を飛ぶ二人だった。

 葉蔵は背中からコウモリのような翼を生やし、童磨は雲に乗って飛行。

 そのまま次の血鬼術を発動させる。

 

 

【血鬼術 結晶ノ御子】

 

【針の流法 血針猟犬(ハウンド)

 

 

 葉蔵は赤い中型犬のような分身を、童磨は腰ほどある氷像を創り出す。

 その数は約十二。互いに六体の分身を創ってぶつけ合う。

 

 

【針の流法 血喰砲(キャノン)

 

【針の流法 血喰砲・散弾(スプラッシュキャノン)

 

【針の流法 血喰砲・貫通(スパイクキャノン)

 

【血鬼術合成 血針弾・連砲(ブラッド・ガトリング)

 

【血鬼術合成 血針弾・散爆(ブラッド・バースト)

 

【血鬼術 蓮葉氷】

 

【血鬼術 蔓蓮華】

 

【血鬼術 散り蓮華】

 

【血鬼術 冬ざれ氷柱】

 

【血鬼術 寒烈の白姫】

 

 

 

 

 

 瞬間、血鬼術合戦が始まった。

 

 

 

 

 

「(なに……あれ!?)」

 

 そこでカナエが見たものは想像を絶した戦闘であった。

 空には絶え間なく両鬼の分身体が入り乱れ、地上に目を向ければ互いに多種多様な血鬼術を撃ち合い、また鬼同士が正面からぶつかり合う。

 それも鬼殺隊の唯一といっていい鬼への対抗手段である呼吸の技が児戯に思えてしまうような、強力な血鬼術のぶつかり合いだ。

 

 

【血鬼術合成 血喰一斉射撃(ブラッド・フルブラスター)

 

【血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩】

 

 

 

 瞬間、爆炎が空を侵略した。

 

 

 砲弾が、爆撃が、機銃弾が、ミサイルが、クラスター弾が。

 ありとあらゆる形の銃撃が童磨ごと全ての血鬼術を全部まとめて無に変えた。

 

「……ッチ、また逃げたか」

 

 何もなくなった空を見渡しながら葉蔵は舌打ちした。

 もう一度用心深く周囲を警戒し、安全を確認してから彼はゆっくりと地面に降り立つ。

 勿論、目的は負傷したカナエである。

 

「待ってろ、すぐに運んでやる」

 

 

【針の流法 毛細枳棘(ソーンネット)

 

 

 葉蔵は血鬼術で作った縄で彼女を優しく包み、空を飛んで蝶屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……かなりやってくれたな、童磨の野郎」

 

 夜明け前、私はカナエくんに応急処置を施していた。

 しかし所詮は素人の悪あがき。

 治療の知識は保健体育程度しかない。

 

「漫画みたいに回復魔法とか使えたらいいんだけどね……」

 

 私には回復用の手段がない。

 鬼の優れた治癒能力がある今、回復用の血鬼術や技術を必要としてないからだ。

 出来ることと言えば、せいぜい血鬼術で作った針と糸で血管や筋肉を縫い合わせ、止血を補助する程度。

 鬼の超感覚で呼吸、筋肉の動き、血の流れを感知しながら治療を進める。

 

 奴の粉凍りに関しては極小の針に任せている。

 パワーアップした私の 極細血針の霧(マイクロブラッディミスト)は、予め命令をインプット出来る。

 だからわざわざ操作する必要がないのだ。

 無論、信用しすぎるのも危険なので時折どうなっているのか見るが。

 

「クソッ! あの野郎、嫌がらせまでレベル上げなくていいんだよ!!」

 

 治療を進めながら私は悪態をついてしまった。

 なんだこの粉凍りによる複雑な傷は。なんで鬼に関係ないはずの嫌がらせ技まで精度上がってるんだよ。

 対戦相手が強くなるのは歓迎するが、こういった嫌がらせやクソゲーが増えるのは許さん。

 お前らNPCは私が楽しめる分野だけ伸ばしていればいいのだ、異論は認めない、力ずくでも従える。

 

「葉蔵様! ただいま参りました!」

「こちら、救急箱と担架にございます!」

 

 そんなことを考えていると、後ろから従者が複数やってきた。

 遅いんだよ君たち。治療なんて粗方終わったじゃないか。

 

「君たち、この子を担架でお渡しが案内する場に送り届けてくれ」

「「はい!」」

 

 私は彼女を従者たちに担架で運ぶよう命じ、目的地へと向かう。

 もう少しで夜明けだ。さっさとしなけらば。

 

「(……しかし長かったな、まさかここまで組織作りに凝るとは)」

 

 チラリと後ろを見る。

 鬼である私に忠誠を誓う人間達。

 鬼殺隊が見たら卒倒モノだが、私にとってはありふれた日常と化している。

 

「(ここまで来るのに長かった……という程もなかったな)」

 

 私は目覚めてから組織―――家を支配するまでの過程を何となく思い出しながら歩を進めた。

 

 

 

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