鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
目が覚めると、冬だった。
雪が積もったせいで地上に出るのに悪戦苦闘したが、それ以外は特に問題はない。
血鬼術で外を出ながら、超感覚で外の状況を確認。
問題ない。少し寒いが鬼の肉体なら十分耐えられる。
「さて、どうしょうか……」
雪以外何もない中、私は今度どうするか考える。
鬼を喰う気分でもないし、何をすれば……。
「まずは力を試してみるか」
寝起きだというのに力が溢れる。
なら、少しぐらい消耗してもいいだろう。
私は長い間眠ると、格段に強くなる傾向にある。
藤襲山で初めて異形の鬼を喰った後、藤襲山で手の鬼を喰った後、下弦の壱と毒の鬼を喰った後。
大体この三回ぐらいに、私の力が格段に上がったことを確認出来た。
おそらく鬼因子の吸収量が睡眠時間に比例しており、たっぷり寝ることでより効率よく尚且つ大量に因子を吸収するからであろう。
普段から睡眠はとっており、起きる度に強くなっている実感はあるが、数日を超える睡眠の後はその比じゃない。
どれだけ強くなってるか試してみたい。
何処かに手ごろな鬼はいないかな……。
「それじゃあ軽く試してみるか」
私はその場で軽く血鬼術を使って見せた。
「……凄まじい威力だ」
粗方試してみて、私はその威力に戦慄した。
全てにおいて前回の私を凌駕している。
血鬼術の物量、威力、性能…。
満遍なく全て上がっている。
まず、自律血針の性能がグンと上がっている。
前回は私が直接針から出す電波みたいなもので操作する必要があったが、今は予めプログラム出来るようになった。
しかもちゃんとプログラムした通りに動いてくれる。前は命令するだけではなくちゃんと操縦する必要があったが、それがなくなった。
まあ、細かい動きや後からする命令には操縦なり何なりとする必要があるが。
あと、獣鬼豹変の姿も変わっている。
なんと、今回は飛行能力が追加されたのだ。
漫画やアニメでよく見るような、ドラゴンみたいな翼。
前世で見た飛行機のように速く、ヘリのように自在に飛行可能。
無論、他の性能も格段に上がっている。
そして新しい血鬼術も覚えた。
今まで使ってきた血鬼術の中でも全く新しい形の血鬼術。
ああ、早くコレでゲームしてみたいものだ……。
「……ん?」
近くから人間の気配がする。
角から感じる複数の足音。
統率の取れた動きからして軍人だろう。
「(なんだ、なぜこんなところに軍人が?)」
一瞬そんな馬鹿な疑問が浮かぶも、すぐに後悔する。
そりゃ軍人来るわ。だってこんなところで軍事訓練みたいに派手な爆発やら銃撃音がするのだから。
思えば、眠る前にあれだけ派手に暴れて国や鬼殺隊が動かなかったのがおかしいのだ。
私レベルの鬼同士がぶつかり合い、山一つが更地になったのだ。動かないわけがない。
【針の流法
身体に生やした針の管から極小の針を噴出して自身を覆い、光を反射させて姿を消す。
針による光の屈折を応用して姿を消すステルス機能。
理論上、短時間なら日中でも活動可能の筈だ。
太陽光でも有効かどうかはこれから試す。
「(それじゃあ行くか)」
姿を消した状態で私はその場から逃げようとする……が。
「(……は、母上!?)」
軍人の中に私の見知る相手がいた。
私の今世の母、大庭紅愛(くれあ)
平民上がりだが武術に秀でており、その苛烈さで我が家を乗っ取った毒婦である。
あの女がなぜこんなところへ?
気になった私は姿を消した状態で接近する。
あまり近づきすぎるとバレるかもしれないので程ほどの距離にとどめて。
なあに、今の私は血鬼術で姿を消している。柱でもない限りバレることはないはず。
けど、念のため……。
【針の流法
血鬼術で赤い柴犬のような分身を作る。
完全な自律戦闘が可能で私と同じ血鬼術を同等の威力で使用する素晴らしい血鬼術だ。
また、分身が見聞きした情報は記録されて本体に送られる上に、複数体を同時製作して操る事も可能。
ただ技の精度が本体より格段に落ちるのが難点だ。
私は3体ほどの分身たちを創り出し、兵士たちの元へ向かわせる。
無論、血針の隠れ蓑で姿を消した状態で。
「(……なるほど。どうやら母上は鬼について既に知っているようだ)」
話を聞く限り、どうやら兵士たちがここを調査する目的は、決して市民の安全を確保するためではない。
彼らの目的は鬼の捕獲。
捕らえた鬼の情報を元に、鬼の兵士を作りたいそうだ。
そのために鬼が暴れていたであろうこの場を調査して情報を集めたいそうだ。
そして、出来るならその鬼、つまり私を捕獲して兵士に調教したいと。
ああ。本当に腹が立つ。
あの女の強欲さと傲慢さは相変わらずのようだ。
人間の分際でこの私を捕らえようとする? 調教する? 利用する? ……ふざけるな。
私は自由と暴力を手にしたのだ。
誰にも邪魔されず、誰にも縛られない自由を。そのための力を手にした。
もう二度と私は他者の言いなりにはならない。
それは貴方だって例外ではない。
「母上、あんたも私の邪魔をするなら潰す」
別に、このまま無視するのもいい。
むしろそっちの方が正しい選択だ。
人間ごときに何か出来るはずもないし、鬼殺隊より幼少の頃から知っている兵士達からの方が逃げやすい。
だが、それじゃあ面白くないだろ……?
「折角だ母上。貴方にも縛られる者の苦しみを、圧倒的な強者に支配される恐怖を叩き込んでやろう」
大庭家の傘下にあるとある旅館。
葉蔵の母である
ホテルで言えばスイートルームに当てはまる、一番いい部屋を彼女は私物でより一層に飾り立てている。
豪華な調度品に希少な動物の剥製。
全て大金をはたいて手に入れた逸品だが、乱雑に置かれているせいで上品とは言えない。
悪く言えば成金。
そんな部屋で彼女は部下を叱りつけていた。
「
「「「はっ!」」」
その一言で兵士たちはすぐさま膝を付く。
「私が問いたいのは一つのみ、何故に未だに鬼に関する情報を一つも取れてないのか」
「「「申し訳ありません!」」」
綺麗にハモる兵士たち。しかしソレが逆に紅葉をより苛立たせる。
「誰が喋って良いと言いましたか。貴様共の下らぬ意志で物を言うな。私に聞かれたことにのみ答えよ……右から三番目の男」
「は…はい!」
碌に部下の名前も憶えてない紅葉に対して特に反感する様子もなく、兵士はすぐさま応える。
「私よりも鬼の方が怖いか」
「いいえ!私はあなた様の為に命をかけて戦います!」
「お前は私が言うことを否定するのか」
「……うぐぃあッ!!?」
抜刀するかのように懐から鞭を振るう紅葉。
咄嗟に振るわれたソレは逸れることなく唯一露出されている手にブチ当てられた。
バチィと、肉を打ち皮膚を破る音が響く。
鞭というのはとてつもなく痛い。
玩具ではなく武器としての鞭は、素人が振るうものでも一発で精神を折る。
ソレをあの葉蔵の母が振るうのだ。
雑魚鬼の状態でも他の鬼を圧倒した葉蔵を育て上げたものが。
「私はまだお役に立てます! もう少しだけご猶予を頂けるのならば必ず!」
「具体的にどれほどの猶予を? お前はどの様な役に立てる? 今のお前の力でどれほどの事ができる?」
「資金を、より多くの時間と物資を分けていただければ私は必ず成果を出して見せま……うぐぅぅぅ!!」
今度は、その男に鞭が振るわれる。
「何故私がお前の指図で聞かねばならんのだ。甚だ図々しい、身の程をわきまえろ」
「違います、違います、私は……うぎゃああ!!」
再度振るわれる鞭。
今度は服の上からであったが、それでも十分すぎる効果を発揮する。
熟練の者が振るうソレは、骨を折る程の威力があるのだから。
「黙れ。何も違わない。私は何も間違えない。全ての決定権は私にあり、私の言うことは絶対である。お前に拒否する権利はない、私が正しいと言ったことが正しいのだ。そしてお前は私に指図した。……仕置きが必要だ」
「ひ・・・ヒィ!?」
彼女は鞭を兵士たちに振り下ろした。
一人一発ずつ。
連帯責任として何も言ってない兵士も含めて。
ソレが終わってやっと兵士たちは解放された。
「役立たず共が、……ああ葉蔵、なんで失敗作だけじゃなくて貴方もいなくなったの?」
「相変わらずですね」
突如、紅葉以外誰もいない部屋に男の声が響き渡った。
「何者です!?」
咄嗟に紅葉は反応する。
しかし何故だろうか、声に対して恐怖や嫌悪感は感じない。
むしろその逆。侵入者らしき男の声に、何処か懐かしさを覚えた。
似ているのだ、息子の声に。
彼女が本来知る子の声とは少し違うが、低くすれば―――声変わりすればこんな感じになるであろう。
そう想像させるほどにその声は似ている。
「お久しぶりですね、母上」
虚空からその姿を顕す。
黒髪黒目の、血色のいい美丈夫。
この男こそ声の主である。
「葉蔵! 葉蔵なのね!」
男―――葉蔵を見た途端、紅葉は口を押えて驚いた。