鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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何のための力

 

 月の光すらない真夜中の平原。

 そこで二体の鬼が喰い合い(ゲーム)を行っていた。

 針の銃弾を放つ鬼、葉蔵。

 破壊の拳を放つ鬼、猗窩座。

 互いに上弦級の強さを誇る強力な鬼が、暗闇の中で殺し合いに興じる。

 

 火花が辺りに飛び散る。

 派手な音を立てて弾けるその光は、平原を昼のように明るく照らした。

 

 衝突音が響き渡る。

 金属を引き裂いたかのような激しい音が、闇の静寂を打ち破る。

 

「いい! いいぞ針鬼……いや銃鬼よ! お前のソレは針なんて生ぬるいものではない! 全身が銃器や大砲のような鬼だな!」

「それはどうも。君もなかなか面白い。拳だけでこの私に渡り合えるとは。これが上弦の参ということか」

 

 互いに称えながら技披露する。

 鍛錬によって鍛え上げた技を、試行錯誤して開発した術を。

 片方が仕掛ければさせんとばかりにもう片方が相殺する。

 予め打ち合わせされた演劇のように、絶妙なタイミングで。

 

 火花をエフェクトに、破壊音をBGMに。

 二体の鬼は互いの武器をぶつけ合う。

 弾と拳が、砲撃と蹴撃が。

 敵の首を取らんと襲い掛かる。

 

「……ッグ!」

 

 ばら撒かれた数百もの散弾のうち、一発だけ打ち漏らした血針弾が猗窩座の腕に命中した。

 

 即座に腕を引っこ抜く。

 いちいち丁寧にやる余裕などない。

 速度のみ優先して乱暴に引き千切った。

 乱雑に腕を放り投げながら、新たな腕を瞬時に再生させる。

 一方、茂みへと捨てられた腕は内部からズタズタに引き裂かれかのようにボロボロの状態となっていた。

 

「(一発でこの威力か! まさしく鬼喰いに相応しい能力……! 厄介さは柱以上だ!)」

 

 弾丸の効果―――針の根が拡がった元自分の腕を一瞥して、猗窩座は警戒をより一層に強める。

 本体から切り離された肉体の一部は、鬼因子の量に関係なく極端に力を弱めてしまう。

 しかし、ソレを考慮しても因子を喰うスピードが速い。

 もし放置していれば全身を侵食されることはなくとも、数秒程の足止めは食らっていたであろう。

 たかが数秒と侮るなかれ。

 葉蔵なら三秒もあれば動かない的などハチの巣に出来る。

 猗窩座はソレを理解している故に、自身の腕を切り離すという選択をしたのだ。

 

「(針を飛ばす鬼はいくらでもいるが、流石にこれほどまでの力はない。……殺すのが本当に惜しい)」

 

 思い出すのは魚のような異形の同僚。

 その鬼も無数の針を飛ばす血鬼術を使うが、葉蔵のソレは質も量も威力も桁が違う。

 おそらく、基本の血鬼術である血針弾とその派生だけでも上弦の伍を倒せるであろう。

 

「銃鬼よ、やはりあの方の元へ来い! お前ほどの強者相手には、俺は殺す以外で連れ帰す方法が取れん!」

「断る! 私は自由だ! 誰の指図も受ける気はない! また縛られるぐらいなら命を絶つ!」

 

 

【針の流法 血喰砲・十連】

 

 

 連続して十発の血喰砲を放つ。

 猗窩座は3発程足捌きで避けるが、砲撃による爆発で足場が崩れた。

 

「っく!」

 

 4発目。

 体を捻って避ける。

 掠った部分に針の破片が減り込むも、肉体操作で自切して針の根から逃れた。

 5発目。

 上段受けで流す。

 打点をうまく逸らすことで針に刺さることなく受け流した。

 6発目。

 脚式で破壊する。

 肉体操作によって脚を硬化させることで威力と防御力を上げ、針に刺さることなく破壊した。

 7発目。

 横に転がって避ける。

 蹴りの勢いを利用することで無理な体勢でありながら移動に成功した。

 8発目から10発目。

 破壊殺・脚式・流閃群光で破壊する。

 回避しながら貯めた鬼因子を解放させ、本来よりも高威力のソレを叩きつけて残りの砲弾を片付けた。

 赤い破片をまき散らしながら、拳圧が威力を殺すことなく葉蔵に向かう。

 

「貴様は何故無惨の下に付く?それ程の強さがるなら、もっと自由に生きていいと思うが?」

 

 葉蔵は拳圧を全てを足捌きで避けながら質問した。

 猗窩座はソレを鼻で笑いながら追撃を続ける。

 

「愚問だな。俺たちはあの方の血によってこの力を授かったんだ。忠誠を誓うのは当然だろ」

「……なるほど、愚直な男だ。では質問を変えよう」

 

 

 

 

 

「君が力を求めるのは誰のためだ?」

 

 

 葉蔵がそういった途端、猗窩座は動きを止めた。

 

 

 

 

「見たところ、君は私のように力を振るって喜ぶタイプではない。強者との戦いを求めてはいるも、戦いを楽しむには遊びが少ないし、技を誉める仕草もわざとらしい。まるで誰かの

 真似をしているかのようだ。

 うまく言い表らせないが……自分のためではなく、また別の目的があるように見える」

 

「かといって忠誠心から来るものでもない。もしそうなら主に逆らう私をもっと嫌悪する筈だ。私が強いから嫌悪が薄まっているのかと思ったが、それでも勧誘なんて普通はしない。

 そもそも、本当に奴へ忠誠を誓っているのか怪しい。単に血の呪いで縛られてるだけのように見える」

 

「話をまとめると、君は何処か歪なんだ。自分のために戦っているように見えるが、別の目的があるような……しかしその目的がはっきりしないんだ。まるで欠けたようにね」

 

 

 

 

 

『狛治さん、もう止めて』

「っ!!」

 

 欠けている。

 その言葉を聞いた瞬間、一瞬よぎった謎の声。

 憶えのない筈だというのに、懐かしさを感じる声。

 しかし同時に触れてはいけない何かを感じ取った猗窩座は腕を振るう。

 勿論、そこには何もない。

 

「……もういい。止めだ」

 

 ソレを見た葉蔵は猗窩座に背を向ける。

 先程見せていた闘気も鳴りを潜めている。

 どうやらマジで戦う気が失せたようだ。

 

「待て銃鬼! まだ戦いは終わってないぞ!」

「いや、終わりだ。君の闘志に迷いが見える。それじゃあ十全に戦えないよ」

 

 振り返ることなく、歩を進めながら葉蔵は答える。

 その態度に猗窩座は怒りを見せ、拳を握りしめて飛び掛かる。

 

「……愚かな」

 

 

【針の流法 刺し穿つ血鬼の爪(スパイキング・エンド)雷閃(フラッシュ)

 

 

「……!?」

 

 気が付いた瞬間、猗窩座は負けていた。

 数か所に葉蔵の杭が撃ち込まれ、鬼因子を吸収しながら針の根を伸ばす。

 猗窩座は負けじと抵抗するがもう遅い。

 針の根はどんどん猗窩座から力の源である鬼因子を奪っていく。

 

「いつの……間に!?」

「関係ないだろ、君はこのまま死ぬのだから」

 

 腕のみ獣鬼豹変させ再び

 

「楽しいゲームを提供してくれたお礼に逃がしてやろうと思ったけど気が変わった。君はここで殺す」

 

 逃がして犠牲者が出たら気分悪い。

 そう付け足して腕を振りかざした瞬間……。

 

 

 

 

 

 

【血鬼術 結晶の御子】

 

 

 突如、別の血鬼術が飛んできた。

 葉蔵はまるで事前に知ってるかのような淀みのない動作で血鬼術を破壊。

 続けてトドメを邪魔しようとした愚か者に血針弾を放ちながら姿を確認した。

 

 閻魔の意匠を基にした帽子に血が垂れた様な服、ベルトで締められた縦縞の袴を着た優男。

 頭から血をかぶったような模様をした白橡色の長髪に、文字が刻まれた虹色の瞳。

 ソレだけで愚者が何者か一目瞭然だ。

 

「上弦の弐。まさか参に続いて現れてくれるとは。今日は豊作だ」

「悪いけど、俺は君と戦う気はない。……帰るよ、猗窩座殿」

 

 べべんっ。

 突然、琵琶の音が鳴る。

 瞬間、血鬼術の気配と共に猗窩座の姿が消えた。

 

「……ッチ!」

 

 葉蔵は一瞬で消えた猗窩座に驚くも、すぐさま冷静に行動する。

 彼はいきなり指パッチンしながら、先程の現象の分析を開始した。

 無論、眼前にいる上弦の弐に隙を見せることなく。

 

「……なるほど。空間転移、或いは瞬間移動か」

 

 答えは数秒程で出た。

 葉蔵の超感覚に捉えられることなく現れた上弦の弐と、一瞬でこの場から消えた参。

 幻影系の可能性もあるが、血鬼術の気配は空間系に似ている。

 よって葉蔵は敵が空間系統の血鬼術であると判断した。

 

「(この鬼の血鬼術じゃないな。この鬼の血鬼術はさっきの氷人形だ。また別の鬼か)」

 

 何より血鬼術の気配が違う。

 おそらく何処かに別の鬼が潜んでいるのだろう。

 葉蔵は周囲を警戒しながら上弦の弐に向かい合う。

 

 

【血鬼術 颪吹雪(おろしふぶき)

 

 

 瞬間、吹雪が葉蔵の視界を覆い隠した。

 

 激しい冷気の風に思わず目を瞑る。

 しかし関係ない。葉蔵は視覚に頼らずとも血針弾を撃てるのだから。

 

 べべんっ。

 琵琶の音が鳴ると同時に放たれる弾丸。

 しかし、ソレが当たることはなかった。

 

「……逃げられたか」

 

 吹雪が止んであたりを確認する。

 誰一人いない暗闇の平原。

 さっきまで鬼と激戦を繰り広げていたのがウソのような静寂。

 しかし、地に刻まれている破壊の跡が嘘でないと証明している。

 

「……帰るか」

 

 遠くから人の声がした。

 距離は三里ほど先。

 状況から見るに、逃がした隠が呼んだ鬼殺隊だろう。

 

 このまま会うのは面倒だ。

 そう彼は愚痴りながらその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、ひどい目に遭ったね」

 

 無限城のとある一室。

 童磨は粉々に粉砕された猗窩座を見下ろしながら、いつも通りカラカラと笑っていた。

 

「あの鬼、抜け目ないね。無限城に帰ったと思ったら爆発するなんて!」

 

 猗窩座が首だけの状態になった理由。

 ソレは葉蔵が遠隔操作で猗窩座に埋め込んだ杭を爆発させたからである。

 あの時、葉蔵は自分の針が鬼側に渡ることを危惧して咄嗟に爆発させたのだ。

 鬼殺隊が相手なら問題ない。この時代の人間に血針弾の分析なんて出来るわけがないのだから。

 しかし鬼は別だ。血鬼術か何かで血針弾を探られたら堪ったものではない。

 

「その傷だと大分治るのに養分がいるようだ」

「……ッチ!!」

 

 肉体を再生させながら、盛大に舌打ちする猗窩座。

 それもそうであろう。なにせ少し触られた程度で反射的に顔面を潰したくなるほど嫌いな相手に助けられたのだから。

 その上この有様。二重に屈辱であろう。

 

「そう邪見にしないでくれよ。悲しくなるじゃないか。せっかく手傷を負ってまで助けたのに」

 

 童磨は針の刺さった腕を見せながら笑う。

 

「!? その傷……いつ撃たれた?」

「ここに戻る直前にね。……あの鬼、目に頼らなくても正確に撃てるようだね」

 

 腕を引き千切って放り投げる。

 床に付いたと同時に派手な音を立てて爆破した童磨の腕。

 どうやら葉蔵からある程度距離を取れば自動的に爆弾になる仕組みのようだ。

 

「……何故俺を助けた?」

「水臭いことを言わないでくれよ。俺たちは友達じゃないか」

「とぼけるな! 何故お前があの瞬間に現れた!? 偶然にしては出来過ぎている!」

「……あの方に言われたんだよ」

 

 肉体を再生させながら猗窩座は怒鳴る。

 童磨はやっとふざけるのをやめ、真顔で説明を始めた。

 

「針鬼を捕らえろと無惨様が俺に命令した。だから俺が来たんだ」

「無惨様が? 何故いきなり?」

「針鬼は高い戦闘能力だけでなく、優れた探知能力と感覚があるらしい。だから青い彼岸花を探すことも出来るかもしれない」

「……なるほどな」

 

 ソレを聞いてやっと猗窩座は納得した。

 確かにあの鬼には戦闘能力だけでなく他にもあるように見えた。

 技能だけでは説明の付かないようなあの動きも、優れた感覚器官によるものだとすれば腑に落ちる。

 

「本来なら猗窩座殿と協力して捕獲しろと命令されたが、あれは無理だ。まだ奥の手を隠している素振りが見える」

「何!? じゃあ針鬼は本気で戦ってなかったのか!?」

「いや、切り札を隠した範囲で本気を出していたと思うよ。……どこまで隠しているかは分からないけど」

 

 パチンと、鉄扇を閉じていつものひょうひょうとした表情に戻る童磨。

 

「とりあえずこのことを無惨様に報告する必要があるね」

「……憂鬱だ」

 

 完全に回復した猗窩座はため息を付いた。

 

「(しかしそれにしても……銃鬼め!次会う時は粉微塵にしてやる!)」

 

 思い出すのは楽しそうに戦っていた葉蔵の顔。

 言われてみれば、猗窩座も葉蔵が余裕を持って戦っていることに気づいた。

 

「(……力がいる)」

 

 今のままでは勝てない。

 奴らを超えるには力がいる。

 もっと強くなって……。

 

 

 

 

『君が力を求めるのは誰のためだ?』

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 思い出してしまった葉蔵の言葉を振り払うかのように、近くの物を殴る。

 

「……戦い続けよう」

 

 そうだ、そうするしかない。

 それしか猗窩座は出来ないのだから……。

 





葉蔵とアカザは一見すると相性が良いように見えますが、実際は真逆です。
アカザは常に誰かのために戦ってきました。父親の為に拳を振るい、恋人の為に強くなると誓った。
しかし葉蔵は自分のために戦っています。人に手を貸すことはあっても、必ず自分の快不快が判断の基準に入ってます。
ゲームを楽しむために力を使い、よりゲームを楽しくするために技と練度を身に着けた葉蔵。
大切な人のために強くなりたいと願うアカザ。
表面的な使いならうまい具合に行くけど、深い仲になると壊滅的になる感じです。
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