鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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今回は葉蔵の思想と童磨の思想がぶつかる回です。
葉蔵の考えはかなり独特で受け入れがたい人もいるかもしれませんが、これが葉蔵という鬼なのです。
どうかご容赦ください。


葉蔵の死生観

 

 とある座敷。

 氷の睡蓮が咲き乱れる部屋の中、一体の鬼が食事をしていた。

 鬼の名は童磨。

 この屋敷の主人であり万世極楽教の教祖。

 しかしこれはあくまでも表の顔であり、裏の本性は人食いの鬼である。

 しかもただの鬼ではない。

 比較的新参ながらも、最古参であり最強の鬼である上弦の壱に次ぐ最上級の鬼、上弦の弐である。

 

 そんな彼の今日のメニューは田舎娘の刺身。

 肉付きが良く、脂の乗った女の生肉である。

 旬を過ぎた年ではあるが味の劣化は見受けられず、気にせず食べられる。

 

「う~ん、まあまあの味だね」

 

 口に付いた血を布で拭う。

 彼は稀血などの稀少且つ滋養のある肉を好むが、いくら上弦の弐とて流石にそう毎日食えるものではない。

 故に今日は“質素な肉”で我慢していた。

 

「これを食べたら黒死牟殿と一緒に針鬼の調査に行かないといけないからね。しっかり滋養を付けないと」

 

 くちゃくちゃと食い散らかしながら食事を勧める童磨。

 そんな時だった……。

 

 

「へぇ、誰が誰の調査をするだって?」

 

 

 

「!!?」

 

 驚いて後ろを振り向く童磨。

 先程まで誰もいなかったはずの部屋。

 だというのに、そこには一人のお客様がいた。

 

 家主の許可なく上がり込む無粋な客。

 そんな無礼者への対応は何処でも同じである。

 力による排除だ。

 

 

 

【血鬼術 蓮葉――】

 

【針の流法 血針弾三連】

 

 

 

 咄嗟に発動させた血鬼術が破壊された。

 形作られる段階の蓮葉氷を、葉蔵の血針弾が粉砕。

 ソレだけではなく、同時に放たれた別の血針弾が童磨の帽子と鉄扇をそれぞれ貫いた。

 

「(……速い上に腕もいい!)」

 

 あまりの早さと精度に童磨は驚愕した。

 先程の蓮葉氷はスピードを優先させた即席の血鬼術であった。

 咄嗟とは言え下弦の鬼でさえ気づかせることなく凍らせるほどの速度

 だというのに、眼前の鬼は後出しで速度に勝った挙句、3発も正確に命中させ、童磨を無力化させたのだ。

 この一手だけでどちらが格上なのか、簡単に証明されてしまった。

 戦闘で出し抜くのは不可能。ならやることは一つ……。

 

「……どうして、俺の住居が分かったのかな?」 

 

 童磨はお得意の弁舌でこの場を誤魔化すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 臭い。

 この部屋に入った最初の感想だった。

 

 氷の蓮が一面に咲いている座敷。

 一見すれば幻想的な光景だが、染みついた血と臓物の臭いがソレをぶち壊している。

 この部屋の主は一体どれだけの人間をここで喰らってきたのだろうな。

 

「氷の花か、これが君の血鬼術かな? 上弦の弐」

 

 この部屋の主、上弦の弐―――万世極楽教の教祖、童磨に目を向ける。

 

「……どうして、俺の住居が分かったのかな?」

 

 きょとんとした表情で首をかしげる童磨。

 驚きこそあるが、恐怖や焦りといった表情はない。

 やはり上弦の弐ほどの大物ならそう簡単に動揺はしないか……。

 

「(いや、それでもここまで感情の機微がないものか?)」

 

 いくら上弦が大物だといってもこの反応はあまりに不自然だ。

 血鬼術の速さ比べで私の実力は理解した筈。なのに何故この鬼は恐怖心どころか焦る様子すら見せないんだ?

 一応驚いたような顔こそしているが、何処か嘘くさい。まるでゲームのモブでも見ているかのような気分だが……流石に気のせいか?

 

「私もそれなりの規模の組織を持っていてね、そこで万世極楽教の噂を聞いたんだ。……なんでも、若い子が消えているそうじゃないか」

「……最近は食べ過ぎたみたいだね」

「自白と受け取ろう」

 

 私は畳の上に座りながら言った。

 

「……あれ? 止めないの?」

「何を?」

「いや、俺って女の子を食べているのに、正義の味方の君は止めないの?」

 

 またもや嘘くさい表情を浮かべる上弦の弐。

 何だこのチグハグな感じは?

 説明できないが、何か妙な違和感があるのだが……。

 

「別に。流石にその娘が生きていたら助けたかもしれないけど、死んだらどうしようもない」

「へえ~、意外だね。鬼から人を助けたって話を聞いているから、てっきり人を食べるなんて許さないって怒ると思ってたんだけど」

「私は別に人間の味方でも何でもない。今までは助けられるから助けただけで、本当はどうでもいいんだよ」

 

 何か勘違いしている人間が多いが、私は別に人間の為に戦っているわけではない。

 私の戦う理由は私自身の為だけ。そこに余計な物が介在する余地はない。

 人間を助けていのは結果的にそうなったに過ぎない。ただの偶然だ。

 

「そもそも生物が生きる為に何かを喰うのは自然のことだ。私はそこに悪意が介在するのが嫌いなだけで、人食い自体に何かを言うつもりはない」

 

 これも勘違いされているが、私は鬼が人を喰うのを悪いとは思ってない。

 生きる為に何かを殺すことは当然の事だ。

 人間だって生きる為に散々他の動物を殺してきたんだ。なのに自分の番になったらダメなんて通るわけがない。

 おっと、人間は犠牲になった動物に感謝の念があるなんて馬鹿げた理屈は無しだ。その理屈で言うなら鬼が感謝して食うなら人間を食べてもいいことになる。

 けど大半の人間は認めるわけがない。むしろ『許しを請うぐらいなら食うな偽善者め』と言うに決まっている。

 

「君が嫌だから殺すってこと? ソレ勝手すぎない? 悪いと思わないの?」

「思わない。第一、この世に勝手じゃない生物なんていない。誰も彼も自分の都合で生きて、事情を押し付けている。ソレが生きるという事だ」

 

 私は違う。

 決して許しを請わない。

 いつか報いを受ける日まで、私は奪い殺し続ける。

 

「……君、悪党だね。地獄に堕ちるよ? 或いは畜生に転生かな?」

「地獄も天国もあるか。そんなものは死後の世界を恐れた人間の妄想だ。……転生は信じるが」

 

 転生は体験したから否定するつもりはない。しかし天国地獄については否定的だ、

 私の前世である“俺”が死後の裁判を経験してないのが主な要因だが、もう一つ理由がある。

 私自身が信じたくないんだ。

 

 善人は天国に、悪人は地獄に堕ちるというが、誰に善悪を決める権利がある。

 良し悪しの基準なんて人それぞれだ。Aという人間には善行に見えても、Bという人間には悪行に見えるなんて例は世の中いくらでもある。

 国や時代が違えば更に善悪の違いは大きくなる。人殺しは悪だというが、戦争では敵を殺せば英雄だ。

 他にも善悪が変わる例はある。不倫は日本では悪だが、とある国ではOKだし、酒が悪とされる国があれば、麻薬“マリファナ”が許される国もある。

 中には、女を誘拐して無理やり結婚するのが文化であった地域も存在していた。ちなみにその村、日本にまだあるぞ。私が生きているこの時代にな。おっとい嫁じょというらしい。

 このように、私たちが常識的に悪とされる行為が悪ではない例はいくらでも存在する。

 では、私や世間様から見れば悪の文化を持つ彼らは地獄に堕ちるのだろうか。

 そんな馬鹿な話あるわけないじゃないか。

 

 彼らにとってはその行為は文化であり、許された行為であり、常識であった。

 だというのに、神だの閻魔だのといった部外者に何故善悪を判断されなくてはならないのか、

 冗談じゃない。本当に悪行と定めるなら貴様らが何かしらの手を打って知らしめるべきだ。

 ソレを怠っていながら勝手に善悪を決めるなんて、バカバカしいにも程がある。

 

「だから私は天国や地獄を信じたくないんだ。善悪の基準を偉そうに見下す人外共に決められて堪るか」

「成程ねぇ。確かに君の言う通りだ。時代や文化によって善悪は違う。けど、大本の善悪の基準ってあるんじゃない?」

「ああ、『汝盗むなかれ』とか十戒的なものか。けどそれも状況によって変わる。戦争では略奪や殺人が許されたし、外国の人間は殺しても盗んでも犯してもOKという国があったからね」

「……なるほど。君、博識だね」

 

 そりゃそうだ。私は前世の知識があるからな。

 あと、わざとらしく驚いたような顔をするな。

 馬鹿にされているようでイラっと来る。

 

「私が言いたいことは善悪というものは人の都合によって設定された“相対的なもの”ということだ。なのにさも自身のルールが絶対的なものであるかのように押し付ける神仏が嫌いだ」

「成程。あくまで罪とは社会的な都合によって決まるもので、絶対的なものではない。ソレは神仏の掲げる善悪も同様。だからさも絶対的なように極楽に行けるかどうかを善悪で決める

のはおかしいって君は言いたいんだね?」

「そういうことだ」

 

 私の個人的な意見だが、宗教の善悪って社会の善悪の影響を一番受けていると思うんだよね。異教徒は地獄行きとか。

 

「あくまでもこれは私の個人的な善悪であり、私の勝手な感想だ。正しいかどうかは保証しない」

「ズルい言い方だね。善悪が相対的だって言った以上、君が正しいかどうかも相対的なものになってしまう」

「そんなものだ世の中。絶対的なものなんて存在しない。ソレは、貴様の頭領だって同じだ」

「宣戦布告と受け取るよ」

 

 パチンと、何処からか出した鉄扇を閉じながら答える上弦の弐。

 

 やはりこの男からは感情が感じられない。

 ボスに対して敵意を見せたのに、感想があまりにも薄すぎる。

 忠誠心が薄いのか、それとも元から関心がないのか……。

 

「じゃあさ、神や仏は存在すると思う?」

「いないだろう。いるなら私達のような鬼を放置しない。こうして生きているのがいない証拠だ」

「ハハハ! あの方と同じことを言うね! 俺も信じてないけど!」

 

 それから上弦の弐―――童磨は聞いてもないのに話をつづけた。

 

 この鬼は教祖なんてやっていながら徹底した無神論者らしい。神や仏は勿論、死後の世界や転生などの概念も信じてないようだ。

 人は死ねば無に還る。

 心臓も脳も止まり、何も感じなくなり、腐って土となる。

 生物である以上は避けられない宿命だと。

 だが、頭の悪い人間はソレを受け入れられず、極楽という幻想に逃避する。

 そんな苦悩から救うのが自分の役目だと。

 

「そのための手段が人食いか?」

「うん。俺は救ってやってるんだ、食う事によって」

 

 

 

 

「誰もが皆死ぬのを怖がる。だから俺が食べることで永遠の時を共に生きるんだ。

 信者たちの血肉と想いを受け止め、共に永い生を受け継ぐ。これが俺の救済だ」

 

 

 

 

「………?」

 

 瞬間、俺は違和感を覚えた。

 

 普通、自らの信念を語るものは何かしらの反応が体に現れる筈だ。

 体温が若干上がったり、血流が早く鳴ったり、筋肉が僅かに動いたりと。

 そういった無意識のリアクションが有ってしかるべきであり、そういった生理現象は鬼とて例外ではない。

 なのにこの男からはそういったものが一切ない。

 

 さっきからこのとこの身体は無反応だ。

 脈拍、呼吸音、筋肉の機微、脳波。

 感情によって大きく作用されるはずのそれらが一切変化してない。

 

 変化があれば見逃さない。

 私の角は優れた感覚器官であり、この距離なら正確に脈拍から脳波まで検知出来るのだから。

 この能力によって私は呼吸の剣士達の呼吸を読み取り、どんな技を使うかあらかじめ予想出来る、それほどの精度だ。

 

 話を戻そう。

 通常、人だろうが鬼だろうがこういった思想が影響する話をていたら何かしらの反応があるはず。感想を抱き、自身の感情が……ん?

 

「(待てよ、感情?)」

 

 私は思いついた答が正しいかどうか検証するため会話を続けた。

 

 

「……なるほど、確かに一理あるな」

 

 私が肯定すると、童磨は花が咲いたかのように笑顔を見せた。

 何処か作り物っぽい嘘くさい笑みだ。

 

「おお! 君は俺の考えが理解出来るのか!? うれしいよ、皆は俺の考えをちっとも理解しない頭の悪い子ばかりだったかね!」

「……貴様の言いたいことは分かる。人間の中には生きるのが辛い者や生きてても希望が見いだせない者がいる。そんな人たちにとって死は解放だろう。その上、貴様の血肉になること

 で死に意味も与えることになるのだから、お互いに得だと私は思う」

 

 私は死を選ぶことが悪だなんて思っちゃいない。

 自分の力ではどうしようも出来ず、支えてくれる人も助けてくれる人も居らず、現実と世間によって潰される人間というのはどの時代にもいるものだ。

 そんな人間にとって死が苦痛からの解放であることは仕方ないだろう。

 その唯一の救いを奪う権利が誰にある?

 

 生きてればいいことある?

 辛いことから逃げるな?

 命を粗末にするな?

 

 下らない。

 ソレが出来ないから死を選択したというのに、更に善意“ルール”を押し付けて追い込むような行為が善だと本当に思っているのか?

 バカバカしい。所詮は我欲の押し付け。己の自論こそ正しいと、それ以外は異端だと妄信する狂信者の戯言だ。

 本当に相手のことを想うのなら、偉そうに説教を垂れる前にその人を苦しみから救ってみせろ。

 出来ないなら何も言うな。苦しみだけ強制するような善意など侵略行為でしかない。

 苦行なら貴様らだけでやっていろ狂信者が。

 

「そうかそうか!君もそう思うか! いや~、君とならいい友達になれそう…」

 

 妙なことをほざきながら握手を求めてきたので、私はその手を振り払い―――

 

 

「いい加減演技をやめろ。殺すぞ」

 

 作り物の笑顔に銃口を突き付けた。

 





私は主人公を葉蔵という名にしたのも、タイトルに人間失格を入れたのも、元からズレた主役にしたかったからです。
なんていうか、鬼殺隊のような黄金の精神を持つキャラや、鬼達のような哀しい悪役でもないキャラを鬼滅の刃に入れたかったんですよ。

強く美しいが精神的には何処か弱い、しかしその弱さは決して善側が抱えるものではない。
そんな歪みのある主役を私は書きたかったのです。
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