鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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葉蔵の角には様々な感覚機能が搭載されております。
気流探知は勿論、電波や音波の送受信、鬼因子の探知など様々な機能があります。
これを応用することで相手の呼吸や筋肉の動き、内臓の活動などを詳細に調べることが出来る。
透き通る世界を鬼の力によって再現したようなものです。


vs童磨

「いい加減演技なんてやめたらどうだ?」

 

 

 カラカラと笑う童磨。

 一見陽気そうに見えるが、その笑みからはやはり何も感じられない。

 なんというか、作り物臭いのだ。

 

 一見すれば表情豊かだが、ソレは表面だけ。感情の変化に伴う無意識的な変化は一切感じない。故に作り物臭く見える。

 今だって、花が咲くような笑顔を見せているが、私には造花のようにしか見えない。

 

 上弦の参の言動が借り物臭いとすれば、眼前の鬼の言動は作り物臭い。

 ならば、上弦の壱は何臭いのかな?……話を戻そう。

 

 通常、こういった自身の生き方や信念を語るものは嘘であっても何かしらの感情の動きを見せる筈なのだが、この男からはソレすら感じさせなかった。

 

 

 

 いや、変化そのものがない。

 

 

 目で見えなくとも角で感じる。

 ソナーとレーダー等を備えた私の角は奴の異常性を理解した。

 外見は作り物っぽく見繕っていても、中身は全くと言って良い程に変化がない。

 呼吸、脈拍、体温、そして脳波。感情の動きによって変化する筈のソレ等が、この男は死体のように変動しなかった。

 以上の事からこの男は表面上こそ表情豊かに振舞っているが、中身は一切の感情を伴っていないという事になる。つまり何が言いたいかというと……。

 

「貴様、本当は感情がないのだろ?」

 

 

 この男には感情がない。

 いくら演技だったり感情が希薄であったとしても、ある程度は感情の動きがあるもの。

 それすらないという事は、情緒そのものがないとしか考えようがない。

 要するに、この男は欠陥者(サイコパス)ということだ。

 

「なんのつもりかな?さっきまではあんなに楽しく話していたのに」

「嘘をつくな。もし本当に楽しんでいたのなら、貴様の脈拍や呼吸はもう少上がっていた筈だ。だが、貴様の肉体には何の変化もなかった。まるで何も感じてなかったかのように……いや、事実何も感じてなかったのだろうな」

「………」

 

 言い切った途端、童磨の顔から感情が消え去った。……いや、嘘の表情が剥がれ落ちた。

 鉄の能面でも被ったかのような、冷たい無表情。

 コレこそこの男の本性といったところかな?

 

「……君は、一体俺の何を知っている?」

「大したことは知らない。先程の会話から情報を抜き出し、ソレをまとめた結果しか知らない。けど。その程度で貴様が壊れているというのは手に取るように分かる。

 貴様の行動はカラクリのように感情が絡んでいない。そもそも、そんなものが『存在しない』様にすら見える」

「……」

 

 私の話を石像のように微動だにせず聞く童磨。

 動作からも内側からも、何を考えているのか一切分からない。

 なるほど、これこそがこの男の本性であり、サイコパスというものなのか。

 

「(……なんていうか、つまらないな)」

 

 その場でため息を付いて立ち上がる。

 

 私は期待していた。

 鬼でありながら教祖という立場にいるこの男なら、もっと面白い話が出来るのではないかと。

 だが、期待していたものは得られなかった。……いや、見方を変えると面白い経験か。

 なにせ、天然の欠陥者という前世でもお目に掛かれなかったものを視れたのだから。

 もっとも、だからといって有難みはなかったが。

 

 つまらない。

 欠陥者というものはこんなにも面白みがないのか。

 なんていうか、プログラムされたロボットかNPCでも見ているかのような気分。

 私は生きている獲物かプレイヤーとの会話を臨んでいたのであって、NPCや機械には用などない。

 まあ、NPCや機械でも、対戦相手にはなるか。

 

「……最後の晩餐は終わったようだな」

 

 チラリと、奴の食べ終わった皿を見る。

 趣味の悪い人肉料理は綺麗に食べ終わり、傍から見れば普通の肉料理を食べていたとは思えない。

 もっとも、空っぽの皿を見て、コレが人肉料理を乗せていた皿だと予想する人間なんて皆無だとは思うが。

 

 これで待つ理由はなくなった。

 

「貴様はここで私の糧となれ」

 

 私は立ち上がると同時に血針弾を撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見抜かれた。

 

 今まで本性を見抜いた者は何人かいた。

 頭の回転は鈍いが、勘の鋭かった女。位が一つ上の同僚。そして自らの頭領。もしかしたら一つ下の鬼も無自覚ながらも見抜いているのかもしれない。

しかしそれは長い月日を共にしたからこそ。それを、この鬼は僅かな時間で観察して見抜いたと言うのだ。

 本当に面白い鬼だ。

 

 出来るなら、もっと話したい。

 自分の知らない知識、他とは違う価値観、そして誰よりも自由な発想。無惨に縛られず、人の法則にも囚われていない、自由な彼だからこそ出来る話。

迷える信者たちを導く教祖として興味がわかないわけがない。

 しかし、ソレはもうできなくなった。

 

 この鬼は、童磨を殺す気でいる。

 上弦の弐である童磨を、本気で殺すつもりだ。

 そして、彼はソレを可能にする実力を持っている。

 なにせ、眼前の鬼は、童磨にとって格上なのだから。

 

 もし、童磨が葉蔵よりも強ければ、十分の九殺しにでもして、氷漬けにしてから会話を続ける事も出来たであろう。

 しかし現実は逆。上弦であるはずの童磨が、葉蔵の前では格下に成り下がるのだ。

 下の者は上に従わねばならない。下の者は上の嫌いなものを押し付けられない。

 格上が拒否した以上、やりたいものがある以上。格下はすぐに取りやめて付き合わねばならない。例えソレがどんなに不本意でも。

 回避する方法は一つ、己が格上だと示すことである……。

 

 

 

【血鬼術 蓮葉―――】

 

【針の流法 血針弾】

 

 

 早撃ち勝負、葉蔵の勝利。

 両者共に、ノーモーションの即席血鬼術を発動。

 童磨が氷の蓮を形成する前に、葉蔵の赤い弾丸が氷を破壊し、童磨に命中した。

 咄嗟に鉄扇で防御したものの、当たった箇所に弾丸が減り込んでいる。これでは使い物にならない。

 

 この一手でどちらが格上かは決まった。

 しかし、だからといって逃げるなんて選択肢は童磨には存在しない。

 そんなことをすれば、一瞬でハチの巣になるのは目に見えているのだから。

 だから、童磨は方針を変えることにした。

 

 

【血鬼術 散り蓮華】

 

【針の流法 血杭砲・散弾(スプラッシュキャノン)

 

 

 弾幕戦、葉蔵の勝利。

 範囲攻撃で足止めを行い、逃げようと企てるも、童磨の放った弾幕以上に葉蔵のソレが多かった。

 ばら撒かれた弾丸が氷の花弁を破壊するだけに留まらず、童磨へと襲い掛かる。

 牽制するどこか、逆に童磨の方が足止めを食らった。

 

 しかしソレも想定内。童磨は次の手を打つ。……無論、ソレは葉蔵も理解しているが。

 

 

【血鬼術 結晶ノ御子】

 

【針の流法 血針猟犬(ハウンド)

 

 

 互いの分身を召喚。

 童磨は氷人形を、葉蔵は赤い猟犬を。

 自律機能を与えられ兵隊たちは己に課せられた使命を全うしようと牙を剥く。

 

 猟犬が弾丸を撃ち出す。

 人形が蓮華を創り出す。

 威力速度共に猟犬が上を行くも、行動は人形が早かった。

 弾丸を避け、血鬼術で牽制しながら接近する。

 

 猟犬が弾を撃つ。

 人形が花を出す。

 射程の範囲も距離も猟犬が上だが、人形は防御しながら接近した。

 散弾を氷の血鬼術で防ぎ、牽制することで足を止める。

 

 猟犬が牙を剥く。

 人形が扇を振う。

 速度筋力共に人形が上であり、猟犬は一気に押された。

 牙を防ぎ、避け、そして折る。こうして猟犬は徐々に追い込まれる。 

 

 今回ばかりは童磨が優位であった。

 当然である、この技は童磨の代名詞のような技。つい最近似たような技を覚えた若造とでは、年季の差が違う。

 いくら血鬼術の威力、速度に勝ろうとも、種類が多かろうとも、射程の距離と範囲が優れようとも。

 分身勝負だけは、才能や発想だけでは超えられない壁が、葉蔵と童磨の間にあったのだ。

 

 しかし、だからといって、葉蔵が焦ることはなかった。

 

「(……やはり手を打っていたか)」

 

 猟犬たちが自爆したのだ。

 ダメージを無視して氷人形に張り付き、血針を刺す。

 当然、人形に針の根が張られ、そこからエネルギーを吸収して爆発した。

 爆発によって飛び散った針がまた別の氷人形に刺さり、針の根を生やしてまた爆破。連鎖的に敵の数を減らす。

 しかし、これも童磨にとっては想定内。葉蔵が遠隔操作に手間取っている間に、次の手へ移行する。

 

 

【血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩】

 

 

 巨大な氷像が現れた。

 今までとは桁が外れた極寒の冷気を放つ、精巧な仏像。

 氷像は冷気をまき散らし、空気を凍らせながら、葉蔵へと手を伸ばす。

 

 これこそ童磨のメインである。

 氷人形たちは囮。結晶の御子たちで牽制し、強烈な本命を叩き込む。童磨の描いていたシナリオだ。

 しかし、そんなことは葉蔵も予想している。故に彼も手は打っていた。

 

 

「針の流法―――突き穿つ血鬼の爪(デッドリィ・スティング)!!」

 

 

 葉蔵もまた、最強の血鬼術を発動させた。

 叫びと共に飛び出した葉蔵の腕。

 赤い鬼火を纏いながら、巨大化と獣化を同時に達成。

 御伽草子の登場するような、赤い獣鬼のような剛腕。

 手の甲から延びる蛮刀を、優美かつ絢爛な仏像にぶっ刺した。

 

 彼も又、敵の行動を予想していたのだ。

 氷人形は陽動。メインの大技をぶつけてくる瞬間が来る。その時を待ち構えていたのだ。

 

 血鬼術は強力であればある程に鬼因子を消耗する。強ければ強い程に鬼因子が……葉蔵にとってのご馳走がたっぷりと含まれている。

 よく漫画では一か八かの博打で大技を使うシーンがあるが、葉蔵相手では悪手。むしろ一番してはいけない手である。

 無計画な必殺技は首を絞めることになる。攻撃とは最大の防御であると同時に、最大の隙なのだから。

 もっとも、これは無計画という前提だが。

 

 

【血鬼術 凍て曇】

 

 

 部屋の空気が、一気に冷えた。

 氷像が、氷人形が、砕けた氷が。部屋全ての氷が冷気の煙幕へと変換された。

 急激に冷やされた空気は霜が降りかかったかのように白く染まり、二人の鬼の姿を隠す。

 部屋全体を覆い隠す氷の煙幕は葉蔵の感覚器官さえ鈍らせ、二人は完全に姿を消した。

 

 これこそ童磨の狙いである、

 最初から、童磨は葉蔵とマトモに戦う気などなかった。

 初手で力の差は理解した彼は、早々に葉蔵との闘争から逃走へと変更。

 如何にして葉蔵の目を潰し、逃げる隙を作るか。それだけに集中していたのだ。

 そこで思いついたのが凍て曇である。

 氷人形も、氷大仏像も、その他の血鬼術も。全ては撤退するために必要な煙幕を作るための手段。

 葉蔵に気づかれないよう、攻撃するふりをしてばら撒き、氷が全て配置に付いた瞬間、氷を凍て雲に変換。

 こうして大規模な煙幕を作ることに成功した。

 

 

 

 

「ああ、私もよく使う手だから予想出来るよ」

 

 もっとも、そんなことは既に気づいていたが。

 冷霧の中、葉蔵は超感覚によって獲物を正確に捕捉。

 一瞬で腕を獣鬼のソレへと変貌させ、一気に貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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