鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
別にアンチしているつもりはありませんが、黒死牟は工夫次第でもっと強くなれると思うんですけどね……。
全身を赤黒い体毛に覆われた獣鬼。
燃えるように赤い鬣を夜風に靡かせ、宝剣のように鋭く美しい爪牙から、月光を反射させる。
前回、半天狗戦で見せた姿より小さい体躯。
ケンタウロス型ではなく、人間に近い下半身。
しかし、何故だろうか……。
「……凄まじい、圧だ。……これ程の圧……一体、何百年ぶりだろうか……」
その存在感は、前回の獣鬼熊を圧倒する!
【血鬼術 血喰砲】
【月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍】
先ずは挨拶から。
両者共にノーモーションで血鬼術を発動させぶつけ合う。
今回は最初にやった程度では済まさない。殺す気でいく。
「(……!? 成程。どうやら見掛け倒しではないらしい)」
勝ったのは葉蔵の血喰砲だった。
斬撃の壁を突破し、黒死牟に迫り来る。
咄嗟に避ける……ではなく粉々に砕いて無効化させ、返しの刀で技を行使する。
【月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り】
【血鬼術合成
「!!?」
ノーモーション、タイムラグなしの血鬼術合成。
最初からソレが一つの血鬼術であったかのように、あっさりと二種類の血鬼術を同時発生と合成を行ってみせた。
驚きつつも黒死牟は咄嗟に冷静さを取り戻して迎撃しながら、敵の観察及び分析を行う。
【獣身変
その隙に、葉蔵は上空へと跳び、翼を広げた。
蝙蝠のようであり、金属的な要素もある翼。
葉蔵はバサバサと音を立てながら夜空で滞空する。
【月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面】
【血鬼術合成
【血鬼術合成
上空からガトリング砲のような連射と、ばら撒かれた針の爆弾が月刃を突破。
黒死牟ごと周囲を焼き払い、山肌を削り、悉く破壊の跡を刻み付ける。
人間サイズの肉塊を破壊するには、あまりにも過剰な銃撃。明らかに戦力過多であろう。
相手がただの鬼でなければ……。
【月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍】
【月の呼吸 常世孤月・無間】
弾丸の雨を薙ぎ払い、斬撃波が飛んできた。
両手に大太刀を携え、片手でそれぞれ血鬼術を使用。
なんとかして相殺して見せた。
次いで、攻撃を続行する。
【月の呼吸―――】
刀を振るう。
月空目掛け、斬撃の竜巻を放つ。
紫の峰が空気を裂き、銃弾を切り落とす。
【針の流法―――】
砲弾を撃つ。
月を背景に、弾丸の雨を降らす。
赤い魔弾が山肌を削り、月刃を撃ち落とす。
余波が周囲を破壊する。
轟音が空気を震わせる。
発生する熱が大気を灼く。
飛び散る火花が夜を照らす。
月刃が、渦巻が、斬撃波が。
銃弾が、爆炎が、衝撃波が。
互いに牙を剥き、喰い合い、その余波で破壊の跡を刻む。
「(強い……! 私と戦える同格に鬼がいるとは……!)」
「(強い! この姿になった私と同格に戦えるとは!)」
葉蔵は飛び交いながら、黒死牟は走り回りながら敵を観察する。
鬼としてのスペックは葉蔵が上。
鬼としての経験は黒死牟が上。
結果として、二人の戦いは拮抗することになった。
少なくとも、現状は。
「(……ヤバい、思った以上にエネルギーが持ってかれる! 燃費悪すぎだろ!?)」
半天狗との戦闘以来、葉蔵は飛躍的に能力が上がった。
しかしソレは、その分だけ鬼因子(エネルギー)を消耗することになる。
前回の戦闘でも時間切れで倒れかけたのに、黒死牟のような強敵と戦うとなれば、その消耗はどれ程になるのか……言うまでもない。
では、このまま続ければ葉蔵が負けるのか。……そうとも言い切れない。
「(強い……。このままでは……負ける……!)」
対する黒死牟も余裕がなかった。
空を飛んでいる葉蔵に有効な攻撃は刃を飛ばすのみ。
しかしその血鬼術も悉く撃ち落とされ、対する葉蔵は次々と砲弾やら爆弾やら自律兵器やらを投下している。
その中でも特に厄介なのが……。
「……!?」
着地しようと足を咄嗟に引っ込め、刀を振るう反動で方向転換した。
地雷。
葉蔵が空爆の際に埋め込んだトラップである。
そう、一番厄介なのがこういった搦め手である。
先程のような地雷、自律血針や血針猟犬の伏兵、
様々な凶悪かつ狡猾な血鬼術が、あらゆる方向から襲ってくるのだ。
これらに対処できるのは、過去の経験によるもの。
まだ黒死牟が継国巌勝と名乗っていた頃―――鬼殺隊時代で身に着けた勘によるものである。
鬼と成って数百年、役に立つ機会はなくなったが、今日初めてソレが活きることになった。
もっとも、この状況が続く以上ジリ貧に変わりはないが。
「……小癪な!」
歯軋りしながら地雷の合間を縫うように走り抜ける黒死牟。
無論、敵は地雷だけではない。空からも攻撃が降り注ぎ、ソレらを血鬼術で迎撃しなくてはならない。
しかも、どんな血鬼術がどのタイミングで、どんな風に飛ばすのかも黒死牟には分からない。
獣鬼熊の体毛には、ジャミング効果がある。
特殊な電波と音波によって攪乱し、透き通る世界も無効化しているのだ。……もっとも、遠距離型の血鬼術を使う葉蔵相手に透き通る世界はあまり意味ないが。
対する葉蔵は、超感覚によって攻撃を探知できる。
鬼因子を探知することで、血鬼術の発動と規模を予測。
超感覚によって透き通る世界を再現し、相手の筋肉や呼吸から次の行動を予測。
長年の勘と気配という曖昧なものに頼らざるを得ない黒死牟に対し、葉蔵は確かな情報として予測している。
攻撃手段は葉蔵が圧倒的に多く、地の利も葉蔵が獲得、情報戦でも葉蔵が優位に進んでいる。
戦況は圧倒的に優位なのだ。
少なくとも、今のところは。
「……おのれ!」
侍という戦に通じる黒死牟だからこそ理解している。
このままでは負けると。
【針の流法 血針弾・連】
【針の流法 血針弾・爆】
【針の流法 血針弾・複】
【血鬼術合成 血針弾・連砲砲】
とうとう三つの血鬼術を融合させ、大技を発動した。
ガトリング砲のように発射され、爆発するそれ等は、黒死牟も足を止めて迎撃せざるを得なかった。
「……ック!」
【月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間】
【月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面】
【月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾】
苦悶の声を上げながらも、月の呼吸を連発して使い、全て斬り落した。
三つの技を流れるかのように繰り出し、凶悪な弾丸の雨を切り払う様は、まさしく鬼殺隊最強の剣士である柱。
月のように優美。しかし確かに存在する力強さ。その様は夜を照らす月のよう。
もし仮に柱とするなら、月柱といったところか。
【月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の―――】
全て迎撃したと同時、流れるかのように続けて攻撃へと移る。
しかし、あの大技すら葉蔵にとっての布石。
本命は既に稼働している。
「………ッが!?」
黒死牟の背後から、血針弾を撃ち込んだ。
伏兵。
葉蔵が予め配置した小さな
離れた岩場に隠れ潜み、死角から狙撃。機械的なものであるため気配や殺気を感じさせず、意識も葉蔵に集中しているせいで気づけなかった。
技を繰り出す前に黒死牟を指した小さな弾丸。
この程度では少しの間だけ足止めする程度。
だが、葉蔵にとっては十分すぎる隙である。
隙を見てトドメをさそうとした途端……。
「う…うおおおおおおおおお!!!!」
黒死牟は体中から刀を生やし……無数の斬撃を放つ。
侍としてあるまじき、刀を体から生やすという戦法。
しかしもうそんなことは言ってられない。
相手は剣士ではない。鬼だ。銃器のような血鬼術を使い、獣のような姿の鬼だ。侍とは程遠い鬼なのだ。
侍同士の誉れ高い戦闘をする道理はない。
やり方は単純。鬼にとって新たに手足を生やすなど朝飯前。黒死牟の刀を体から生やすという戦法ももとはと言えばそこから派生及び発展したもの。刀を増やせない道理はない
「は…ハハハハハ! そうか、お前もまだ余力があったか! いいぜ、付き合ってやるぜ!!」
【血鬼術合成
毛が逆立ち、様々な血針弾が一斉に発射された。
砲弾が、爆撃が、機銃弾が、ミサイルが、クラスター弾が。
ありとあらゆる形の銃撃が、全ての月刃を全部まとめて無に変えた。
獣鬼態の体毛は、全て高濃度の血針弾によって構成されている。
その気になれば、毛の一本一本が上弦を殺し得る必殺技と化す。
そしてさらに、時は葉蔵に味方したようだ。
針が黒死牟の技に刺さりだしたのだ。
月刃に突き刺さった針は根を張って力を吸収し、爆発。
中から更に増えた弾丸が黒死牟へと降り注ぐ。
技を放てば放つほど弾丸の数は増える。
黒死牟にとっての悪循環である、
今まで黒死牟の斬撃波はエネルギー状であった故に、針が刺さることはなかった。
針が刺さらない以上、葉蔵の針の根は機能しない。故に、葉蔵は爆撃という手段を取っていた。
ではなぜ刺さらなかった針がいきなり刺さりだしたのか。―――黒死牟のミスというか過失である。
黒死牟は技を使う際、余分を力を抜いて無駄に因子を消耗しないようにしていた。
そのせいで刃はエネルギー状になり、針が当たっても刺さることはなかった。
しかし、全身から刀を生やした今の状態では、力の制御が甘くなるらしい。
現に今は力を籠めすぎて、刃が物質状になり、針が刺さっている。
これでは葉蔵に自分の技を喰ってくれと言っているようなものだ。
土壇場で得た強化形態。
一瞬は形勢を逆転させる好機かと思いきや、逆に黒死牟の首を絞める羽目になった。
やはりイヤボーンに頼るのは悪手。地道な練習と検証こそ勝利への近道である。
進行は完全に止まり、じりじりと押される黒死牟。
対する弾丸の雨は黒死牟の技を吸収することによって数を増やし、更に圧力を増した。
「ぐ、うぅぅぅぅ!!」
遂に斬撃波の壁を突破して、針の弾丸が命中。黒死牟の動きが止まった。
スコーピオンに撃たれた時のように、小さなものではない。葉蔵自身の弾丸だ。
針の根を全身に張り巡らし、肉体だけでなく血鬼術の行使まで止める。
その一瞬は致命的。
降り注ぐ弾丸の雨への抵抗の手段を失った黒死牟。
彼は瞬く間に全身を貫かれた。
「(負ける……?私が……?こんな若造に……?)」
黒死牟の脳裏によぎるのは、四百年の光景。
赤い月の夜、己が弟から突き付けられた死の実感。
老いてなお圧倒的な剣技で追い詰めておきながら、直前に寿命で死んだあの夜。
縁壱は死んだ。
もう最高の剣士はこの世にいない。彼以上の剣士が生れ落ちることもない。
最も優れた剣士に討たれるという誉れ高き死はもう望めないのだ。
ならば勝ち続けるしかない。鬼に成ってまで勝ち続ける事を選んだ以上、今更引き返すことなど出来る筈もない。
そうだ、勝ち続けることを選んだのだ。……私は、誉れある侍だ!
「なっ!?」
勝利を確信した葉蔵が、驚愕の声をあげた。
黒死牟を貫き、内部から鬼因子を喰らっていた針の根が、逆に黒死牟に取り込まれたのだ。
ソレだけではない。黒死牟は更に強力な斬撃波を発して、戦況を寄り戻してきたのだ。
爆撃。
黒死牟もまた、斬撃波を爆発させたのだ。
葉蔵がよくやる手口だが、このやり方は葉蔵自身にも効。
なにせ爆破させてしまえば、葉蔵も針も鬼因子を吸収できない上に、攻撃はちゃんと成立するのだから。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
両者共に、雄たけびを上げながら、更に攻撃を苛烈化させる。
二人とも大声を出すような性格ではない。そんな彼らが死力を引き絞るかのように叫び、張り合う。
ここら先は我慢比べ。根性なしから先に死ぬ。
「ぐッ!?」
「むぅ!?」
葉蔵の毛皮を月刃が、黒死牟の甲殻を針弾が貫く。
獣鬼熊の体毛は鎧としての機能もある。
高純度の血針で形成されたソレは葉蔵の血鬼術である針塊楯と同程度の防御力を誇り、血鬼術に高い耐性も有している。
針で形成されている以上、針が刺さるなら血鬼術も吸収可能。
そんな葉蔵の獣鬼態の防御力を突破した。
斬撃波を吸収して威力も数も増す弾丸の雨を、力技で突破した上で、葉蔵の鎧に傷を付けたのだ。
その威力、もう語るまでもない……!
「は…ハハハ…アッハッハッハッハ!!」
そしてこの笑顔。
追い詰められているというに、スリルを楽しむ
死の恐怖を真近に受けながら、ソレでも敗走の二文字は存在しない!
「俺は今、生きている!!」
彼は己の命を―――生きている実感を楽しんでいた。
「(遂に……辿り着いた……! 私は……俺は……手に入れたぞ……真の…真の最強を……!)」
歓喜に震える黒死牟。
凄まじい執念で葉蔵の針を逆に吸収し、さらに身体も大きく変化させてみせた。
窮地に追い詰められた黒死牟が、試練を乗り越えて至った理想。
長年願い、遂に手に入れた最強の姿……。
ふと、砕けた自身の刀に目を向ける……。
―――醜い姿。
「何だ この 醜い姿は……」
そこに映っていたのは、異形の「侍」ではなく、醜い「化け物」の姿と成り果てた自分の姿だった。
―――これが侍の姿か? こんな醜い化物が本当に真の侍と言えるのか?
違う、自分の望んでいた侍とは、こんな姿ではない。
私の望む姿は、日本一の侍。醜い化物ではない。
そう、縁壱のような侍に。
―――負けたくなかったのか? 醜い化け物になっても?
違う、自分の望んでいた勝利はこんなものではない。
私の望む勝利は、剣士として誉れある勝利。
そう、縁壱のような勝ち方を。
―――生き恥を晒すために私は鬼になったのか?
違う、自分の望んでいた生き方はこんなものではない。
私の望む生き方とは強く誉れ高く生き方。
そう、縁壱のような生き方を。
「私はただ 縁壱 お前になりたかったのだ……!」
「……反吐が出る」
【
葉蔵の腕が、黒死牟を貫いた。