鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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同格の相手と戦って、終わりに相手をリスペクトする。
僕、こういう展開好きです。


月は太陽に成れない

 黒死牟の体を、後ろから腕が貫いた。

 

「ぐっ、が……!?」

 

 貫いた腕は、獣の腕ではない。

 真っ白な肌だが、逞しい腕。

 葉蔵本来の腕だ。

 

 消耗した彼では、もう獣鬼熊を保っていられない。故に、変化を解いて本来の腕で黒死牟を喰らう事にした。

 

 

「貴方は、鬼としての自分を認めていないのですね?」

「……!!?」

 

 ポツリと、黒死牟の耳元で呟く。

 

 

「貴方の血鬼術は素晴らしいものだった。柱クラスの呼吸法と剣術に上弦クラスの血鬼術と肉体。どれか一つでも脅威だというのに、全てを兼ね備え、尚且つそれぞれの分野を極めている」

 

「素晴らしい。貴方は本当に素晴らしい。鬼に成って初めて、同種を尊敬したいと思えた。先人よ、私は貴方を鬼として心の底から尊敬する。流石は上弦の壱。最強に嘘偽りはなかった」

 

 

「だからこそ、私は今の貴方が見るに堪えない」

 

 

 

「貴方は命の危機に瀕して尚、何か別の物を見ていた。眼前の敵を目に入れず、向き合わず、全く別の何かに思いを馳せているように見えた」

 

「貴方は何処を見ている? 何を目指している? ソレは本当に貴方が想い馳せるべきものですか? 今の貴方を否定してまでも焦がれるものですか?」

 

「貴方は囚人だ。他者に囚われ、自分を見失っている。何かに囚われ、振り回されている限り、貴方に先はない。未練から脱却しない限り、貴方は次の段階にたどり着くことはない」

 

 

 

 

「縁壱とやらに縛られ、盲目する限り、貴方は囚人のままだ」

 

 

 

 

「尊敬する先人が囚人のままというのはあまりにも不憫だ。どれ、私が貴方を解放して差し上げよう!」

「ぐ……がぁ……!!」

 

 

 力を入れて更に鬼の因子を吸収する。

 既に針の根は黒死牟の身体に張り巡らされ、抵抗は不可能、

 無防備な状態で貫かれた時点で、勝敗は決した。後は全て食らうのみ……。

 

 だが、少し遅かった……。

 

「……ッチ!」

 

 夜明け(タイムリミット)が来てしまった。

 

 

【針の流法 血針の隠れ蓑(リフレクション・ステルス)

 

 

 食事を中断して、血鬼術で日光を防ぐ。

 下弦なら補給針に貯蔵するという手段も取れたが、上弦となると消化するためのコストが莫大に掛かる。

 まして、上弦の壱を一度に吸い上げるとなればどれだけリソースを割くことになるが。

 

「ここに入ってろ!」

 

 いいタイミングで見つけた穴の中に黒死牟を放り込む。

 偶然にしては出来過ぎているが、そんなことはいちいち考えてられない。神のご加護でもあったと思っていればいい。

 

「き……貴様! この俺を……生かすのか……!? 敵からの情けなどいらん……! 生き恥は……これ以上掻きたくない!」

「恥? 違う、これは機会だ」

 

 穴の上から、葉蔵は見下すように語る。

 

「貴方は私と同じだ。本来ないはずの鎖に囚われている。ソレに縛られ、貴方は私に負けるはずだった。……だが、こうして貴方は機会を手に入れた」

 

「私はコレを天命だと思っている。私自身は無神論者だが、ソレでも何かしらの意味があるように感じた。だから、私は貴方を生かすことにした」

 

「ではまた会えたら喰い合いましょう。その時、何も変わらないなら、私は貴方を食い殺します。……もう、生かすことはないでしょう」

 

 

 まるで独り言のように、早口でまくし立てる。

 実際、彼は急いでるのだ。早く拠点に戻って休息しなくては、今後の活動に支障が出る程に深刻な状態なのだから。

 この状態で血針の隠れ蓑リフレクション・ステルスを維持するのは困難。その上、早く黒死牟から得た鬼因子を消化しなくては、自分が喰われることになる。

 

 黒死牟との戦闘によるダメージと疲労。

 獣鬼態の使用による反動と消耗。

 消化へのリソース分割。

 日光への防御。

 

 それぞれの問題が相乗効果になってゴリゴリと葉蔵の体力を削っている。

 早く休息出来る場所を確保し、睡眠をとらなくては、今度は葉蔵が喰われる羽目になってしまう。

 

「そういうことで。じゃあまた」

「ふざけるな……! 針鬼、針鬼ィィィィィィィィィイイイイ!!!」

 

 敵を追い詰めたとは露知らず、黒死牟は夜明け空に向かって吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、……うぅ」

 

 あの後、なんとか部下たちが駕籠を持ってきてくれたおかげで、私は日光から逃げられた。

 

「ご無事ですか葉蔵様!」

「直ぐに稀血を用意いたしますのでご安心ください!」

「大声出すな。頭に響く。あと血はいらない。寝るだけで充分だ」

 

 無駄に働き者な部下達をいなしながら、私はゆっくりと息を吐く。

 

 クソ、思っていた以上に体力を持っていかれた。

 上弦の弐が楽勝だったら、それより一つ上の壱も同じようなものだと思っていたのだが、予想が甘かった。

 まさか呼吸を使う剣士、しかも柱クラスが相手とは。

 

 血鬼術のレベルは童磨と同格。

 速度と威力は壱が上だが、応用力や利便性などは弐が上。

 術単体としてみれば一長一短といったところだが、呼吸の剣士という要素がソレを解決して尚余る性能を発揮している。

 

 剣士のレベルは柱以上だ。

 鬼の身体能力を抜きにしても、柱の中でもトップクラスだと私は推測している。

 剣技と呼吸の力だけではない。分析力、判断力、戦略性、そして経験と直感。全てが私の知る柱を超えている。

 全ての柱を知っているわけではないので断言は出来ないが、確信に近いものがある。現に、私を完全に獣鬼豹変させた岩柱も超えていたのだから。

 

「上弦の壱……もしかして本当に元柱なのか?」

 

 呼吸の剣士が鬼に成ることは想定していたが、流石に柱レベルが成るとは現実的ではないから予想していなかった。

 

 総じて呼吸の剣士、鬼殺隊は士気が高い。

 敵討ちや復讐のために入隊したのだから当然だ。

 そんな彼らが鬼になるなんて考えられない、もし仮に無理やり鬼にされても、あの復讐鬼たちは自分から首を掻っ切るに決まっている。

 無論、中には鬼に恨みのない者もいる。そんな彼らなら命乞いして鬼にされたり、鬼の力に魅せられて鬼に成る事も考えられる。

 だが、柱クラスの剣士となれば話は別だ。

 

 コレは私の感想なのだが、柱達は何かこう……特別な事がある。ソレがある限り鬼に成る事はないと思うのだが……。

 

「……まあ、所詮は私の感想なのだが」

 

 これ以上考えても意味はないので中断させる。

 

 柱が高潔な人間のみかどうかなんて、鬼殺隊と関係ない私に分かるはずないし、何よりどうでもいい。分かったところで私に何か得があるわけでもないし。

 そんなことよりも……フフッ!

 

「ああ……楽しかった、なぁ……」

 

 上弦の壱との戦いは本当に楽しかった。

 余計なものを抱えず戦うことが、何の制約もなく暴れることが、全力を出すことが。こんなにも楽しいなんて。

 

 痛みはあった。

 特にバラバラにされた時、最初の一太刀目が痛かった。

 現実時間より数秒程遅れて襲い掛かる痛みは筆舌にし難い。

 流石にこの私も上弦の壱へ恨みの念を抱かざるを得なかったね。

 

 悔しさはあった。

 今まで開発してきた技を悉く粉砕する剣技。

 自分なりに工夫したものを壊されるのは、やはり悔しい。

 美しく力強い剣技だと感心はしたが、それでも悔しいものは悔しい。

 

 恐怖はあった。

 私を殺し得る技の数々を見て、命の危機を感じた。

 次の瞬間に私は上弦の壱に殺されているかもしれない。

 生物である以上、鬼でも恐怖からは逃れられないようだ。

 

 だというのに……。

 

 

「また……やりたいな」

 

 楽しかった。

 我ながらどうかしている。

 生物なら死のリスクを回避し、なるべく堅実な生き方を選び、平穏な日常を求めるべきだろう。だというのに私は闘争(ゲーム)を求めている。

 

 痛みも、悔しさも、そして死の恐怖も。

 全てはゲームをより一層楽しむためのスパイスでしかない。

 スパイスとは刺激であるから成立するのだ。それも半端な刺激じゃスパイスとして機能しない。

 

 勝てばいいんだ。

 現に私はフラフラになりながらも勝利し、奴から因子を奪い取った。

 今はこうして勝利の快感に酔いしれている。

 

 楽しみと苦しみは両立する。

 特に、強敵を打ち倒して得た勝利の美酒ならぬ美血は最高だ。

 

 私はこのゲームを降りるつもりはない。

 あるとすれば、ソレは私という存在が無くなる時だ。

 

 

 

「(しかしそれにしても……)」

 

 あれほどまでの剣士が嫉妬する程の縁壱とは、どれだけ化け物なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上弦の壱でありながら負けるとは。無様だな」

「返す言葉も……ありませぬ」

 

 無限城の一室で薬品を弄る無惨の側に、跪いた黒死牟が申し訳なさそうに口を動かす。

 

 日が沈んだ後、穴から出た黒死牟は無事回収された。

 葉蔵から受けたダメージは既に回復。無謀にも黒死牟に絡んできた輩を食う事で血肉を補充した。

 激しく消耗しても、少し人を食う事で回復する。これもまた鬼殺隊が未だに鬼を倒しきれない理由の一つである。

 こうして万全な状態になってしばらくどうするか考えていると、鳴女によって無惨の前に転移され、今に当たる。

 

「私はお前なら針鬼とやらを容易く捕獲で出来ると思っていたのだが……見込み違いのようだな」

「……申し訳……ございませぬ」

 

 心の底から申し訳なさそうに頭を下げる黒死牟。

 いつもならここで何かしらの制裁が下され、何の関係もないどころか、事情すら知らない他の鬼が連帯責任(とばっちり)を受ける流れ。

 しかし、今回は違ったようだ……。

 

「最初に言っておくが黒死牟、私はお前を責めるつもりはない。お前は他の鬼よりも素晴らしい働きをしたのだ。……褒めてやる、よくやった」

「……?」

 

 なんのことか分からず、つい頭を上げてしまう黒死牟。

 しかし無惨は咎めるどころか、機嫌が良さそうに話を続ける。 

 

「針鬼とやらの血鬼術の一つに、日光を無効化するものがあった。あの様子を見るにまだ不完全のようだが、日光を防いだのは事実。……成長すれば完全に克服するやもしれん」

「で…では無惨様! この私めに針鬼の捕獲を……!?」

「いや、そこは慎重にいく。私の血で上弦たちをギリギリまで強化する。無論、お前もだ。……奴の捕獲はお前たち三人でやらせたい」

「三人……。猗窩座と……童磨……と」

 

 上弦同士の連携。

 一時的に群れることは許しても、本格的な協力は今まで許可することはなかった。

 つまり、それほどまでに無惨が力を入れていることになる。

 

「このことは他の上弦にも伝えている。……今度こそ奴を捕獲しろ」

「……御意」

 

 恭しく頭を下げる黒死牟を見た無残は、満足そうに頷いて踵を返す。

 

「では、まずは猗窩座から様子を見るか。……鳴女」

 

 琵琶の音が響くと同時、無惨の姿と気配が消えた。

 ソレを見届けて数秒後、黒死牟はゆらりと幽鬼のように立ち上がる。

 

「……縁壱、私はどうすればいいのだ?」

 

 その背には、上弦の壱が纏うべき覇気は消えていた。

 

 





葉蔵は鬼である自分を、鬼の力を振う事を楽しんでいます。
だから鬼としてどんどん強くなる。
無論、鬼を喰らっているおかげもありますが、それ以上に葉蔵自身の精神性こそ鬼として成功する秘訣ではないでしょうか。
原作でも戦闘を楽しみ、食事を楽しみ、血鬼術を発展させてきた童磨が上弦の弐まで登り詰めたように。
もし彼に感情があり、心の底から鬼を楽しんでいれば、葉蔵同様の強さになっていたかもしれません。
黒死牟にはそれが足りないのではないか。私はそう考えます。
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