鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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逃れ者の珠世さんと上弦の伍

「葉蔵様、あのような無礼な女共の巣窟に寄り道する理由があったのですか?」

 

 日光を遮る特注の高級車。

 その後部座席で寝ころんでいると、運転手がいきなり話しかけてきた。

 

「ああ、これは槇寿郎さんと事前に決めた事だからね」

「……あの派手な髪をした男ですか。我らは嫌いですね」

 

 ハァ~とため息をつく運転手、前中さん。

 専属の運転手とはいえ、そこまで私と関りのない彼もこんなだ。

 本当に大丈夫か、私の家。

 

「あの男は葉蔵様を否定するような発言をしました。大庭家への敵対行為です」

「ただ私と意見が合わなかっただけだ。敵対行為なんて大げさすぎるよ。……ん?」

 

 前中さんと話していると、懐に入れていた針が震えた。

 コレは珠世さんに渡しておいた針か。研究の成果の報告かな?

 

「私だ」

『葉蔵さん、抗生物質の試作品を作り終えました。つきましては治験の準備をしてほしいのですが……』

 

 そこから話を進め、針を壊して通話を終わらせる。

 彼女は多忙な身だ。無駄話をやる暇はない。

 

「……あの珠世とかいう鬼女ですか。わざわざ葉蔵さんが応答する必要はないのでは?」

「そんなことは言うもんじゃないよ。彼女はお抱えの薬剤師の数倍は働いている。優秀で貴重な人材だ」

「当然ですよ。あの女は鬼なんですから、一睡どころか休息すら必要ない。なら四六時中働くべきです」

「……前中さん、貴方はあの人が嫌いなんですか?」

「当然です。大庭家に仕えていながらあの鬼には忠誠心がない。葉蔵さんに献上する筈の稀血を頂いているというのに、その感謝すら見せない。……あの鬼はさっさと処分すべきです」

 

 ああもう。我が家の者たちはなんでこんなばっかなんだ。

 いくら今が大正で滅私奉仕が推奨されているとはいえ、ここまで過激なのはウチだけだぞ。

 というか、私は別に忠誠なんて欲しくない。ちゃんと仕事してくれるならソレでいいし、ちゃんと結果出すなら万々歳だ。

 

 珠世さんは良くしてくれている。

 表の仕事……新薬の研究と製造の成果は私の予想を上回って次々と成果を出してくれている。

 風邪薬やら虫下しやら何やら。私の知り得る限りの薬品を説明すれば、興味深そうに聞いて実行してくれている。

 無論、裏の仕事もちゃんとしてくれている。本来コッチがメインなのだけど。

 

「(あの人を拾ったのは正解だったな……)」

 

 私は珠世さんと出会った日をふと思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒョッヒョッヒョ。もう逃げられませんよ、逃れ者の珠代さん」

「「………」」

 

 町はずれのとある屋敷。

 そこで和服を喰た妙齢の女性と子供が異形の鬼と対峙していた。

 

 壷の中から蛇やミミズのように細い体を出し、頭から数本の手を生やす異形の鬼。

 本来なら目に当たる部位には口が、額と口に当たる部位にある目にはそれぞれ上弦の伍と刻まれている。

 そう、この気色悪い壺妖怪こそ上弦の伍、玉壺である。

 

 対するは逃れ者の鬼、珠世とその眷属である愈史郎。

 彼らは血鬼術で対抗しようとそれぞれ発動させるが……。

 

「させるか!!」

 

 玉壺が新たに出した壺から、魚のような化物が現れる。

 数は2体、鯱と鮫をモチーフにした魚人。

 それらは両手に持つ三又槍を振って珠代たちの血鬼術を無効化した。

 

「な……!?」

「無駄ですぞ! この魚人達は対針鬼の試作品! 七日七晩不眠不休で創り上げた最強傑作! テメエらのへなちょこ血鬼術なんか通じねえよ!」

 

 興奮のあまり最後は本性を暴露するが、珠代たちはそんなことに構ってられる余裕などない。

 

「……ック!」

 

 

【血鬼術 視覚夢幻の香】

 

【血鬼術 白日の魔香】

 

 

 珠世は自身の腕を引っ掻き、流れ出る血を媒体にして血鬼術を発動させる。

 魚人たちは口から水を吐く。たったそれだけで彼女の血鬼術を無効化した。

 

「この……珠世様に近づくな!」

 

 呪符を投げるも、それさえ槍を一振りするだけでただの紙切れと化した。

 振るうと同時に撒かれた水が、呪符の効果を打ち消したのだ。

 

 

「た、たかが濡れた程度で!? 一体どうなっている!?」

「無駄ですぞ!上弦以上の出力でも出さない限り、あらゆる血鬼術を撃ち消す!まさしくワタクシの最高傑作!」

 

 ヒョッヒョッヒョと気色悪い高笑いをしながら能力を暴露する。

 実際、暴露しても問題ないのだ。なにせ、珠世たちに対抗する手段などないのだから。

 そのことは、珠世自身がよく理解している。

 

「(な…なんとかしないと!)」

 

 焦りながら血鬼術を使うも、全て無効化される。

 鬼の身体力で撒こうとするも、相手は格上の鬼。勝てる筈がない。

 その上瞬間移動のような血鬼術までも使うのだ。逃げれる訳ない。

 

 上弦の鬼と通常の鬼とでは大きな差がある。それは、古参の鬼である珠代も例外ではない。

 今まで彼女たちが逃れられてきたのは、珠代と愈史郎の血鬼術が逃走に適していたから。

 無論、戦闘にも応用できるが、それでも彼女達単体では上弦には届かない。

 そして、血鬼術が通じない以上、彼女たちに逃走など不可能。

 このまま上弦によって蹂躙さるれるだけ……。

 

 

【針の流法 血針弾】

 

 

 二つの弾丸が、魚人を貫いた。

 銃弾はそれぞれの魚人の肉体に潜った途端、体内で針の根を形成させ、瞬く間に内部の因子を吸収。魚人を黒い塵へと還した。

 

「な…何?」

 

 突然の出来事に呆ける珠世。

 ソレは彼女だけでなくその場にいたもの全員に共通していた。

 

 何だ、一体何が起こった?

 一体誰が私の最高傑作を……!!

 

 

 

「ふぅん、君の兵士達、下弦の鬼クラスはあるんだ。なかなか便利だね」

「……!!? 何者だ!?」

 

 何処からか、声が響いた。

 玉壺は声のした方に振り向き、口と額にある異形の目を向ける。

 

 

「面白いことになってるね、私も仲間に入れてくれよ」

「は…針鬼……!」

 

 白い髪と肌に、赤い目と角。

 針鬼こと葉蔵。

 彼はまるで散歩でもするかのように玉壺と珠世の間に割り込んできた。

 

 

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