鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「あ~、やっちゃった………」
熱帯魚と化した私は、水中でため息をついた。
針の根が辺りに拡がり、怪人と怪物、そして上弦の伍を貫いている光景。
私の血鬼術がもたらしたものだ。
私の針は鬼因子を吸収する。
鬼に突き刺すことで体内の鬼因子を吸収することが本来のやり方なのだが、血鬼術も針が刺さるなら鬼因子を吸収することで無効化するだけでなく、その因子を使って更なる針を創り出せる。
私はこの特性を使って相手の血鬼術を無効化して、ついでに吸収した鬼因子を喰らっている。
一見便利だが欠点がある、ソレは、この機能は血鬼術の中だとこうして暴発してしまう点だ。
私の針は、鬼因子を意図して食っているわけではない。
元からそういう機能が付いており、私が意図して搭載しているわけではないのだ。
故に、水や煙などの血鬼術に満たされている場で血針弾を使うと、こうして暴発が起きてしまうのだ。
普段は針に予め鬼因子吸収機能をOFFにするのだが、ずっと切れるわけではない。というか切れない。針に鬼因子を喰うなと角を通して命令を送り続けているだけだ。
余裕のある時はこれでいいのだが、うっかり命令を送るのを忘れたり、命令を送る余裕がないと、こうして暴発してしまうのだ。
結果、こうして面白くなったゲームが台無しになってしまった。
本来の予定は、魚になったまま戦うつもりだった。
この状態でも血鬼術の使用は可能。よって、自律血針や血針猟犬を使って上弦の伍とやり合うつもりだった。
向こうは魚の兵士を、こちらは針の兵士を使っての戦略ゲーム。
互いの兵隊をぶつけ合い、どちらの兵が上か、うまく兵を使えるか決めるつもりだった。
ソレが全部台無しだ。
私が勝つのは当たり前だ。
上弦の伍より格上である上弦の壱を撃退した時点で既に明らか。
楽しいゲームを成立させるため、ハンデを付けるのは当然だ。
その上で私自身も成長出来るゲーム。そういった意味では、分身のぶつけ合いというものは我ながら面白い趣向だと自賛していたが……パーになってしまった。
この勝負は最初から私が勝てるものだった。
その気になればいつでもチェス盤をひっくり返せるような、こちらの許しで成り立つゲーム。
気に入らなくなったらハンデを取りやめてさっさと食らう、そのつもりだったのだけど……。
「あ~あ、折角盛り上がったのに。……獣鬼豹変」
一度獣鬼態になり、もう一度人間体に戻る。
上弦の鬼を食ってから、こうして瞬時に獣鬼熊へ成れるようになった。
今回はソレを利用して魚を解いたのだ。
「……とりあえず、食うか」
服を羽織りながら、針の根に拘束された上弦の伍に近づく。
既に虫の息状態。
全て吸い尽くしてはいないものの、あの一発小さな針を撃つだけでこの鬼は死ぬ。
こんな状態で解放しても、面白いゲームは出来る筈がない。さっさと殺してやるのがせめての慈悲というものだ。
「(しかしあの神の手だっけ? アレは厄介だな)」
ふと、奴の最後の血鬼術を思い出した。
触れたものを問答無用で魚に変える血鬼術。
なるほど確かに強力だ。
相手の防御力や体力関係なしに確実な効果を発揮する血鬼術は恐ろしい。
まして、人間相手ならなら天敵と言っても過言ではない。
当たらなければどうということはないというが、あの鬼はかなり素早かった。
魚の姿をしている分際で、陸上でもあれほどの動きが出来たのだ。
私や上弦の参以上の鬼でなければ、回避は難しいだろう。
そしてあの鬼は牽制用の血鬼術を使える。
針や魚で足止めされたら、回避は絶望的になる。
現に、私も水の牢獄に閉じ込められて身動きが取れなくなったではないか。
まあ、何時でも出られたし、破壊も出来たが。
とまあ、あの鬼は人間相手にはかなり凶悪な性能を発揮していたであろう。
私のように対処法を持たない人間では、あの鬼にまず勝てない。
まあ、そこを何とかするのが鬼殺隊の怖いところなのだが。
そこは今はどうでもいいか。
今私が考えるべきことは、あの鬼の血鬼術をどうやって無力化させるかだ。
他の血鬼術は対抗策があった。
針や魚は全部撃ち落とせるし、水の牢獄も爆破させたら出られる。瞬間移動も超感覚で何時何処に来るかすぐに分かる。
だが、神の手だけは回避するしか方法がない。
ソレではダメだ。
私が望む勝利とは私自身をレベルアップさせてくれる勝利。
折角向こうが成長の機会をくれているのに、ギブアップなんて勿体なさすぎる。
なんとかしてクリアしなくては、私の目指すゲームクリアが成立しない。
「(……いや、そもそも本当に私の針では防げない血鬼術なのか?)」
どうも違う気がする。
防げないと理屈で決めつけているだけで、本当は解釈次第では何とかなるんじゃないのか?
私の針は成長し続けてきた。
最初は指先から生える程度だったのが弾丸のように飛ばせるようになり、今では平成時代の武器を再現できる程の破壊力と応用力を発揮した。
武器だけではなく、自動で動く針人形だったり、霧状にすることで人間の体内に潜む血鬼術も食えるようになった。
このように私はどんどんレベルアップしてきた。なら、神の手も超えられるのではないか?
私は神の手の発動を感知する事が出来た。
神の手も血鬼術である以上、発動とそのタイミングは超感覚で捉えられる。当然のことだ。
なら、針で貫くことも出来たんじゃないのか? 感覚として認識できるなら、やりようによっては干渉出来るんじゃないのか?
そもそもの話、針というだけで銃弾のように飛ばし、霧状にしてばら撒き、塊にしてあらゆる武器を創り出し、振動やら電気ショックやら通信やらが本当に出来るのか?
本当は、解釈次第でなんとでもなるもの……針もその一端でしかないのでは?
「……やってみるか」
ちょうど今、私に干渉しようとしている鬼がいる。
どれ、本当に出来るかどうか、奴の血鬼術を利用して試してみるか。
べべん。
琵琶の音が響くと同時、上弦の鬼達は無限城の一室に転移された。
上弦の鬼がここに呼ばれたという事は、上弦の鬼が討たれたという事。
この場にいないこことを見るに、やられたのはおそらく玉壺であろう。
「……今度は…玉壺、か」
「そのようだねぇ。俺は悲しいよ、立て続けに二人も上弦が……同僚が針鬼に食われるなんて……」
「後目はどうなるんだ? まだ上弦の肆も決まってないのに、伍も空くとは一大事だぞ」
「ソレは……私達の考える事ではない……。あの方が……考える事だ……」
童磨を無視して黒死牟に話しかける猗窩座。
黒死牟も童磨を居ない者として扱い、話を続ける。
そこからしばらく童磨が入らないよう色々と話していたのだが、無惨の気配を感じたのですぐ切り上げた。
「そろそろ……控えるか……。無惨様が……御見えだ……」
猗窩座だけでなく、妓夫太郎や堕姫の言葉を遮る。
それと同時に出現した男性に、すぐさま上弦の鬼達は跪いた。
「玉壺が死んだ。上弦の月がまた欠けた」
鬼舞辻無惨。
彼らの首領であり創造主。
鬼にとって絶対的であり、最も恐ろしい存在でもある。
そんな彼の、失望と落胆、そして怒りを隠さない様子。
自然に上弦の鬼達の身体が強張る。
「誠にございますか!それは申し訳ありませぬ!紹介した身として御詫びをしなければ……」
「必要ない。ソレよりも、今から大事な役目を与える」
童磨の言葉を一蹴し、続ける。
「今からその鬼をこの場に引きずり込み、上弦全員で叩く。……鳴女、そこに奴を呼び込め。お前らはその周りを囲め」
無惨が適当に空いている場所を指さし、その周囲に上弦たちが待機する。
各々が血鬼術を使う準備を整え、今か今かと獲物を待ち構えるが………。
「………? どうした、鳴女? 何故早く呼び出さ………!!?」
何時まで経っても獲物――針鬼を呼び込まない鳴女に苛立ちながら振り向く無惨。
その顔はすぐさま驚愕に変わった………。
「………そんなことまで出来るのか!?」
肝心の鳴女が、葉蔵の針によって浸食されいた。
琵琶と琵琶を持つ手が赤い針に貫かれている。
既に針の根が張られており、徐々に肉体へと侵攻しようと、根を伸ばしている。
「………御免」
一瞬で鳴女との距離を詰め、腕を切断する黒死牟。
正確に言えば、彼は針に侵食された部位を切除した。
転がり落ちた手と琵琶が爆発する。
もしあのまま鳴女を放置していればどうなったかは、言うまでもない。
「もういい……! 貴様ら、全員で奴を捕らえて来い! 鳴女、すぐに再生して上弦たちを送り込め!」
そう言って、無惨は不機嫌そうに部屋から出て行った。
癇癪持ちは相変わらずのようだ。
「……あの鬼……空を飛べる上に……異様な速度で走るのだが……」
このあと葉蔵を捕らえることが出来ずにパワハラされたのは言うまでもない。
葉蔵の血鬼術も獣鬼態も、他の鬼同様に人間だった頃の望みや思想から生み出されたものです。
では葉蔵は何を望んだのか、何を求めたのか。
ソレは後程に