鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
とはいっても廉価版みたいなものですが。
「葉蔵さん、これから貴方は」
「うん?」
車の中でボーとしていると、運転手の前中さんが話しかけてきた。
「ここ最近は地方の鬼も狩り尽くしました。これ以上は鬼の因子の補給は難しそうです。そろそろ稀血や人間の肉をお召しになる時期かと」
「あ~、ソレねぇ。……ちょっと調べたいことがあるんだ。ソレがクリア出来たら、私は食事を必要としなくなる」
私は普段から人間の食事をたべるが、ソレでは到底賄いきれない。
あくまでも主食は鬼なのだ。それ以外を取るなら本来の鬼の食事がいい筈だ。
私が人間を喰ったことがないので確証はないが。
「では、ソレがもし頓挫した時用に人間を用意します」
「ああ、考えておく」
テキトーに返事してその話を終わらせる。
まったく、なんでこの家の従者は人食いに抵抗感がないのか。
まあ、武家だから人殺しに抵抗がないのは分かるよ、百歩譲って。なにせウチは鎌倉時代から続く武家なのだから、野蛮な行為にも慣れているだろう。
けど、だからって人食いOKはどうなの?
「(……これをクリアすれば、私はより強い力を得られる)」
私は一枚の資料を取り出す。
鬼と呼吸に関して私がまとめたもの。
結論だけ先に読むと、そこには身もふたもないことが書かれていた。
「呼吸は人間よりも鬼を強化するのに優れている…か」
人間は体力の限界が存在する上に、呼吸の技は体に大きな負担をかける。
強い技を使えば使う程に負荷を掛け、やがて耐えられずに死ぬ。
呼吸の剣士たちは文字通り命を賭けて剣を振るっている。
しかし、鬼は体の負担など関係ない。
無理な呼吸法で肉体を負傷しても再生。
無理な呼吸法で体力を消耗しても再生。
代償を踏み倒して利益のみを得られる。
本来鬼を狩るための技術は、むしろ鬼が使う方がより効果を得られるのだ。
そしてもう一つ、呼吸は鬼に別の利益をもたらす。
「(呼吸は鬼の血の許容量を増やす可能性あり)」
その一文を見た途端、私はニヤリと笑った。
今思えば、私は呼吸を使っていた。
祖父から教えてもらった射撃の呼吸。アレは、剣士たちの呼吸に似ていたのだ。
当てはまる呼吸はなかったが、原理や根本的な部分は一緒。
呼吸による人体活性化だ。
私の使う呼吸―――仮に銃の呼吸としよう。
効果としては集中力とその持続。そして感覚を上げるためのものだ。
無論、身体強化もあるが、これは射撃を補助するためのもの。剣を振うためではなく、射撃をするためにこの呼吸はある。
銃の呼吸と剣士たちの呼吸の違いとして、他の呼吸よりも習得しやすいという部分がある。
サンプルが私だけなので断言できないが、私は剣士達のような厳しい修行を行ってない。現代知識やアニメ知識こそ使ったが、スムーズに呼吸を憶えた。
そして、銃の呼吸には技もなければ型もない。あるのは呼吸のやり方のみ。
要するに、銃の呼吸は廉価版呼吸法と言ったところか。
比較的誰にでも使えるが、強さは下がる。……ほかに使えるの人物を私は祖父だけしか知らないで断言は出来ないが。
ただまあ、確証に近いものはある。
祖父もソレを使っている人も、剣士たち程に素晴らしい呼吸法は出来ないし、柱とは比べるのも失礼な程にお粗末だ。
だが、人間相手には十分すぎる威力だろう。
なにせ、首を切るどころか、急所の何処かに銃弾を撃ち込むだけで殺せる。
「………申し訳ありません、おじい様」
私は地獄にいるであろう祖父に、この事実を知って何度目か分からない謝罪をした。
おじい様、貴方の仰ったことは本当だった。
呼吸で人は強くなり、より武勲を立てられる。
感謝します、おじい様。貴方のおかげで私はここまで強く成れた。
とまあ、私は広義的な言い方をすれば、呼吸の戦士に該当する。
そして、上弦の壱も。
「(最強の一角に属する鬼が両方とも呼吸を使っている。関係がない筈がない)」
思うに、呼吸を使うものは鬼因子の許容量が上がる。
私はかなり特殊な鬼だ。
無惨から通常なら自己崩壊される程の因子を植え付けられても適応した。
これぐらいなら珍しいものの前例はある。もう一つの特性が特殊だ。
ソレは、適合量の増加だ。
本来なら鬼は増やせる鬼因子に限りがあるが、私は限界が来ても寝たらなんとかなる。
寝ている間に体が鬼因子に適応し、より強くなるのだ。
私はこの話を戦闘中に黒死牟とやったのだが、ありえないと一蹴された。
このことから私はかなり特殊な鬼であり、コレは呼吸のおかげだと思っている。
他にも人間の食事が食べられるとか、そもそも寝れること自体が普通の鬼ではないと言われるが、これは関係ないと思う。だって黒死牟は出来ないし。
とまあ、呼吸が私と黒死牟を最強の鬼にしている要素の一つだと私は考えている。
そして、ソレが本当かどうか、本当なら更なる力を手に入れるためのステップが、もう一枚の紙に書かれている。
私への報告書である。
「……ヒノカミ神楽。これは私を更なるステージに導いてくれるものかな?」
呼吸を使っていると思われる舞踊。また、コレを調べる男の存在あり。
そう書かれた紙を眺め、私はニヤリと笑った。