鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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葉蔵は誰も求めません。
家族も仲間も恋人も、間関係そのものを構築する必要がありません。
欲しいものを手に入れるために群れることはありますが、組織を手段と割り切っています。
華族、家庭環境、転生者、そして鬼。
このどれか一つでも崩さない限り、彼は一生一人です。


突撃、竈門家へ

 雲取山のとある一家。

 ここ一週間ほど、私はこの山の一家の元でお世話になっている。

 先祖代々炭作りの家系、竈門一家。

 そこで私は炭を作りながらヒノカミ神楽を長男である炭治郎から教わっていた。

 

 ヒノカミ神楽。

 全部で十二ある舞い型を日没から夜明けまで何万回と繰り返す儀式。

 日没は早く日の出は遅い冬にやるため、相当長い時間休まず舞い続けることになる。

 以前は大黒柱である炭十朗が行っていたそうだが、彼が病で亡くなってからはもうやってないそうだ。

 長男である炭治郎は伝授こそされたがまだ不完全であり、練習してからするつもりらしい。

 ちなみに炭十郎は病弱であったが、最後までやり遂げた上に、舞った後は何事もなく過ごしていたのだという。

 

 ヒノカミ神楽を知ったのは偶然だ。

 町に寄って鬼の情報を収集していた際に聞いた程度だった。

 最初はただの土着信仰による儀式だと思って流していたが、興味本位で町人に聞いたら思わぬことが発覚した。

 

 

 神職や村長などの特殊な地位ではなく、炭焼き職人が継承する神楽舞。

 日没から夜明けまで不眠不休だというのに、継承者は一切疲れずに舞える。

 そして何よりも気になるのは、特殊な呼吸による動作という点。

 ここまでくればもう答えは出たも同然である。

 

「(ヒノカミ神楽は全集中の呼吸を舞踊にカモフラージュして伝えるためのものだ)」

 

 古来より武術や暗殺術はソレとは分からないよう舞踊などに扮して伝えられた。

 おそらくヒノカミ神楽も同じ。

 全集中の呼吸とは一見して分からないよう神楽という形で後世に伝えるものだ。

 そう考えたら病弱だった炭十郎が舞えた事実に対する理由として筋が通る。

 なにせ、全集中の呼吸は人間より上位の存在である鬼と渡り合えるための特殊な呼吸法なのだから。

 その上位互換である全集中・常中。

 これを体得すれば一日中激しい踊りを出来なくもない。

 

「(しかしそれでも病弱でひ弱な男がするには負担が大きい。その男が柱並みの使い手なのか、それとも他の全集中の呼吸より強いのか……)」

 

 おそらく後者だろう。

 現に、私は基礎の呼吸を憶えるだけで『以前』よりも格段に強くなったのだから。

 

「葉蔵さ~ん、ごはんまだ~?」

「そろそろ出来る頃だよ。お茶碗叩かないで待ってなさい」

 

 さて、夕食にかかりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ一週間ぐらい、メニューは猪肉を使ったものばかりだ。

 ステーキ、生姜焼き、牡丹鍋、豚汁…。

 ここまでずっと猪肉がメインだと飽きてくる。

 まあ、私が一日一匹は畑に悪さする猪を仕留めているせいだが。

 

「今日は炒飯にするか」

 

 材料は安物の玄米とネギと干し肉、そして養鶏場から猪肉と交換した卵だ。

 しかし、胡麻油などの調味料はほぼない。

 

 ごま油の販売は既に大庭家が着手しているが、まだまだ普及は進んでない。

 海外の料理を作るためには油が必須なので何よりも先に手を出すよう仕向けたのだが、なかなか上手くいかないものだ。

 今は私が家の実権を握っているので以前よりもスムーズに行っているが、ソレでも限界はある。

 会社経営って難しい!

 

「(まあいい、今は夕食の準備に専念しよう)」

 

 竈の温度をガンガン上げて火力を強める、

 中華鍋の中に油を垂らし、みじん切りにしたにんにくとネギを入れ、そしてひき肉サイズまで加工した干し猪肉を投入した。

 

「良いにおーい」

「おいしそー」

「ようぞーさんはやく~」

 

 匂いに釣られた子供達が騒ぎ始める。

 

「こら、葉蔵さんに迷惑をかけないように。待っていたら食べられるから」

 

 炭治朗が笑顔で言うと、幼い兄弟たちは元気よく挨拶して行儀よく座った。

 よくできた子たちだ。前世の『俺』なんて兄弟どころか親の言う事すら碌に聞かなかったのに。

 

「……そろそろか」 

 

 ネギとにんにくの香りが強くなったと同時に、溶き卵とご飯の順番に投入。

 一旦ご飯をお玉で鍋に押し付けて……。

 

「よっと」

「「「おおーーーー!」」」

 

 鉄鍋を振るってかきまぜる。

 シャッシャッシャッ。

 米と溶き卵を躍らせ、二つを絡ませ合う。

 

 私の炒飯作りに目を輝かせる子供たち。

 その反応をひとしきり楽しみながら、数回ほど繰り返して完成だ。

 

 

「すごーい!」

「葉蔵さんすごい!」

「おりょうりとっても上手!」

「ハハハ、これぐらい誰だって出来るよ」

 

 愛想笑いで返しながら出来た料理を炭治郎とねずこに渡す。

 彼らは顔を綻ばせながら皿を運ぶ。

 

「はい、どうぞ、召し上がれ」

「本当にありがとうございます葉蔵さん」

「いえいえ、居候の身なんですからこれぐらいさせてくれ。さ、温かいうちに食べようか」

 

 私もボロい畳の上に座って食事を始める。

 

「おいしい!」

「すっごいパラパラ!」

「やっぱり葉蔵さん凄い!」

 

 子供たちは喜びながら私の作った炒飯を食べてくれるのだが……。

 

「(……まっず)」

 

 私の口には合わなかった。

 

 炒飯本来の香りがしない。

 使用した油はその辺で買った油のせいでごま油の風味がない。

 米も雑味が多く、しかも少しパサパサしている。

 肉も干し肉のせいで油の旨味がない。

 

 失敗だ。

 他の料理は調味料やら手間やらをかけて誤魔化したが、やはりシンプルなものだと化けの皮が剥がれてしまうようだ。

 

「葉蔵さん、今日も美味しいです!!」

「フフフ、ありがとう炭治郎くん」

 

 まあ、こうして喜んでくれるなら作った甲斐もあるか。

 

 こうして竈戸家の皆で食事を楽しみ、皆が寝静まった後、私は本来の食事に向かとうおした途端……。

 

「あれ?葉蔵さん?」

 

 炭治郎くんが外で何やら作業をしていた。

 

「葉蔵さん、こんな夜に外へ出るのですか?」

「うん、少し用事があってね」

 

 素通りして夜の森へ行こうとすると、炭治郎くんが私の着物の裾を摘まんだ。

 

「……葉蔵さん、貴方に聞きたいことがあります」

「ん?なんだい?」

 

 えらく神妙そうに聞く炭治郎くんに、私は作り笑顔で答える。

 

 

「葉蔵さんは何を我慢しているんですか?」

 

 

 ソレを聞いた途端、私の笑顔の仮面は一瞬だけ剥がれた。

 

「……なんで、そう思うんだい?」

「葉蔵さんからは我慢している匂いがしました。弟たちが仕事をしたくないのに、遊びたいのに我慢して家を手伝っている時と似たような匂いです。葉蔵さんからはそんな匂いがずっとしています」

「……君は、鋭いね」

「否定しないという事はそういうことなんですね?」

「……ああそうだ、私は確かに我慢している」

 

 炭治郎君相手に隠し事は不可能だ。

 彼の嗅覚は私の超感覚並に優れている。いくら理路整然と嘘を付いても、いくら演技で誤魔化しても、一瞬でかぎ分けてしまう。

 

「以前も私はここみたいに家族を演じていた時があった。役割も今と同じようなものだと思う。あの時も今も、それなりに居心地はいいと思っていた。けど……」

「けど?」

「けど、気づいてしまったんだ。私は家族というものを……人の繋がりそのものを足かせと感じている」

「……」

 

 私の発言に炭治郎くんは顔を俯かせた。

 

 

「家族というのは人を育てる場であり、癒すために必要な場だ。家庭環境によって子供の未来が大きく影響し大人になっても社会の荒波に荒んだ心を癒す絶好の場だ。けど、ソレでも家族が枷になる人間というのは一定数存在する。その一人が私だ」

 

「要するに鳥かごのようなものだ。雛が育ち、傷ついた鳥を癒すには絶好の場だが、巣立つ際は時に邪魔をするものになる。たとえその家族がどんなに素晴らしい鳥かごでも、外に出たいと思う者にとっては邪魔になる」

 

「家族に虐待されたり、家族が支配者のように振舞っていた経験のある者は特にそうだ。そういった者にとって家族とは牢獄のようなものだね」

 

 

 

 私が言い切った途単、更に炭治郎くんの影が濃くなった。

 無理もない、彼にとって家族とは文字通り絶対的なものだからだ。

 ネットも本ない彼の生活圏では、家族こそが彼にとっての世界であり、そこに起こることが彼にとっての世界の全てだ。

 そして、素炭治朗くんは家族という関係性を絶対的なものとして捉えている。

 何があっても切れない、切ってはいけないものだと。

 

 実に大正時代的な考えであり、私とは違う。

 

「……牢獄ですか?」

「そうだね。少なくとも私にとってはそうだった。私の母は支配欲が強い女でね、自分の子は自分の奴隷だと思ってるような女だ。他にも親族同士のしがらみや家訓による縛り、後は華族として成果を要求されて達成できなかった者は落ちこぼれとして座敷牢行きになったねぇ……」

 

 そういえば座敷牢に閉じ込められている筈の弟や妹がいなかったな。

 妾腹やら養子やらであんまり会ってなかった子ばかりだったので忘れていたが、ソレでも分類上は家族になるからね。気にするのは当然だ。

マジであの女、一体どこにやったんだ? 後で問いただそう。

 

「そ、そうだったんですか……」

「ああ、気に病む必要はないよ、今の私は母や家族から解放された。もう私を縛るものはない」

 

 重い話に若干炭治郎くんが引いている。

 

「ソレに私の性格上、もし真っ当な家族でも私は家族を抜け出していただろうね」

「家族より優先することですか」

「そうだ。さっき言った通り、そういった人間には家族は足かせとなる」

「……葉蔵さんは、もう家族を必要としていないんですね」

「そういうことだ」

 

 なんだ、分かっているじゃないか。

 

 今こうして家族ごっこしているのは、ヒノカミ神楽の情報が欲しいから。

 十分覚えたらさっさとこの家から出るつもりだ。

 

「そうですか、残念です。葉蔵さんなら、俺たちの父さんの代わりになると思ってたんですけど……」

「ソレこそダメだ。私は君の父親の代用に成り得ない。むしろ誰かの代価品になる方が君の父親への侮辱だ」

「そんなものですか?」

「そんなものだ」

 

 強く言って無理やり理解させる。

 こういったものはそういうもんなんだと割り切るしかない。

 

「けど、家族が嫌いな人もいるんですね。話は聞いてましたけど、本当にいるなんて思いもしませんでした」

「そりゃ表立って言える内容じゃないからね」

 

 それから私はしばらく炭治郎くんと話を続けた。

 

 分かり切っていたことだが、私と彼とでは価値観が大分違う。

 当然である。私は華族の中でも蟲毒みたいな環境で育ったのに対し、彼は貧しいながらも暖かい家庭で助け合いながら育ってきたのだ。

 私と彼は環境が真逆だ。

 貧乏ながらも優しい環境で助け合いながら育った炭治郎くん、金持ちだがクソみたいな環境で親に支配され飼育されていた私。

 本来ならこうして話が成立すること自体がおかしい。

 もし私に『俺』という異分子が混じることがなかったら、彼とこうして話すことはなかただろう。

 

 転生者。

 この世界では持ちえない知識と経験、そして価値観を持つ異物。

 鬼喰いの鬼。

 人から外れた化け物でありながら、その同種にすら属さない異端者。

 

 華族、家庭、転生者、そして鬼の力。

 これら全てがある限り、私が他者と共に生きることはあり得ない。

 

 家族なんて以ての外。

 私が誰かと共に手を取り合い、共に生きることなんてあり得ない。

 まあ、これから先どうなるかは分からないから、絶対そうだとは言えないが。

 

「……そうですか、では。いつか葉蔵さんが誰かと生きれるようになることを願います」

「ああそうかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある雪山の中、一人の男が歩いていた。

 白いスーツとソフト帽に黒ジャケット。

 どれも上質な物であり、男の容貌も整っている。

 しかしそんな恰好をしているせいか、男の顔は青白かった。

 

 病人の相貌。

 今にも死にそうなほどに弱弱しい。

 にも拘わらず、彼は雪山の中を歩ているというのに、疲れた様子どころか服に汚れ一つ付いてない。

 

 ソレもそのはず。

 この男はそもそも人間ではないのだから。

 

 男の名は鬼舞辻無惨。

 鬼殺隊の宿敵であり、鬼を増やし災いを齎すこの世の癌細胞である。

 

 無惨の目的はこの先にある一軒家。

 その家の血族に用があって遥々遠くからこの辺鄙な山にやってきた。

 

 本来、臆病で怠惰な無惨自ら動くことはまずない。

 しかし、頭無残の彼でも重要性に気づく程、大事な要件がこの先にある。

 故に彼は歩く。

 さっさと用事を済ませ、面倒くさい異常者共に見つかる前に。

 

「ん?」

 

 カチリと、何かを踏んだ音がした。

 しかし無惨は気にせず一歩踏み出す。

 

 

 

 

 瞬間、爆発が起きた。

 




え~、今回はアンチ家族という感じになりました。

原作では家族の尊さと素晴らしさを描写していましたが、中には家族が縛りになる、或いは巣立ちに邪魔になる人間がいるのを書きたかったんです。
葉蔵のように家の中でも異物な存在はさっさと出て行った方が幸せに様な気がするんです。
まあ、葉蔵はかなり極端な例ですが。

あ、原作でも蜜理ちゃんは家族や当時の時代感が足かせになっている感じありましたね。彼女も家から出た方が幸せそうにしてましたね。
………既にあるじゃん!
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