鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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無惨が純正の鬼なら、葉蔵は修羅です。

復讐に身を置く鬼殺隊や、戦闘に喜びを見出す鬼はいても、命を捨ててまで戦闘を楽しむようなキャラは最後までいませんでした。
無惨を除いて鬼は哀れな元人間かサイコパスかいませんでした。
しかし葉蔵は違います。
彼は鬼であることを喜ぶも、決してサイコパスではありません。
ですが、彼は信念を持たず、善悪にも左右されず、自分の欲求のままに戦います。
その結果、自分の命を落とそうとも。


反逆者

「う…ぐぅ……」

 

 とある元雪山

 一人の美丈夫が男の前に転がされていた。

 美丈夫の名前は大庭葉蔵。針鬼と鬼に呼ばれ、恐れられる存在である。

 そんな彼が、たった一人の男の手によって転がされた。

 男の名は鬼舞辻無惨。

 鬼の始祖であり、最強の鬼である。

 

 

 決着は、あっさりと付いた。

 

 葉蔵は隠れながら射撃を行い、罠を用意し続けていたが、ソレのどれもが無惨には届かなかった。

 そもそも、最初から葉蔵の攻撃は効いてすらいなかった。

 ある程度鬱陶しいとは思っても、どの攻撃も無惨を倒し得るものではない。

 銃撃も、爆撃も、そして鬼喰いの力も。

 確かに無惨の肉体を削る事は出来ても、すぐさま再生して事なきを得る。

 

 

「もうやめろ、針鬼。貴様では私に勝てない」

 

 ため息を付きながら、無惨はゆっくり話しだした。

 

「お前たち鬼は私から作られたものだ。お前たちは私の劣化品でしかなく、創造主である私に勝てる道理などない。たとえ呪いがなくとも、貴様たちが私の土俵に立つことはない。

 貴様は特別な力を手に入れて有頂天になっているつもりのようだが、鬼喰いの力も鬼の細胞を壊す力も、私にとってはあって当たり前の力だ。その程度で浮かれるとは……飽きれたものだ。

 所詮、貴様も他の鬼と同じだ。私という絶対者の存在がいながら、力に溺れた愚かな鬼。今までは運が良かっただけで、私がその気になればいつでも殺せた取るに足らない鬼だ。しかしここで終わりだ」

 

 無惨が長々と、呆れたかのように話を続ける。

 

 別に諭すつもりなどない。

 ただ思ったことを言っているだけ。

 それほど意味のある事を言っているわけではない。

 もう十分痛めつけた。愚痴も十分言った。後はとどめを刺すだけ。

 葉蔵の首を掴み、触手で四肢を切断しようとした途端、葉蔵に変化が起きた。

 

「……獣鬼豹変」

 

 その言葉と共に、葉蔵は赤い結晶に包まれた。

 咄嗟に手を放す無惨。

 彼の行動は正解だ。もしこのまま掴んでいれば、負けていたのは彼だったのだから。

 

「な、なんだアレは!?」

 

 突如、無惨の頭上から『針』が降ってきた。

 様々な形の針が葉蔵を包む繭に集結し、更に大きくなる

 

「(なんだ…一体何が起こっている!? ……いや、ここは)」

 

 数秒程呆けた無残だが、立ち直って葉蔵に攻撃を仕掛けた。

 触手の鞭を振り回す。

 この技で葉蔵の弾丸の大半を破壊してきたのだが……。

 

「……何?」

 

 この繭だけは破壊できなかった。

 繭が触手を喰ったのだ。

 触れた途端、瞬時に鬼因子を吸収して灰化させた。

 要するに今まで使っていた技と同じようなやり方である。

 ただ一つ付け加えるなら、この繭はその能力を極限まで引き上げた状態ではあるが。

 

「グルオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 繭を破壊して本性を顕す葉蔵。

 

 赤黒く発光する毛に包まれた獣の巨躯。

 過剰に隆起し熱を発する獣の筋肉。

 鋭い牙と爪と角に巨大な翼と尾。

 

「グルオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 過剰に発達した筋肉から凄まじい熱と蒸気を発しながら、無惨に向かった。

 

「………ハァ~。まだ抵抗するというのか。いい加減しつこい」

 

 呆れた様子で数十本の触手を創り出す。

 鎧に覆われた、先端に刃の付いた触手。

 無論ただの触手ではない。

 刃には鬼の細胞を破壊する機能が付いており、ソレは血鬼術とて例外ではない。

 この能力によって葉蔵の弾丸を防いでたのだが……。

 

「は?」

 

 触手が逆に食われた。

 葉蔵の体毛に刃が触れた途端、沈むかのように刃が消失。触手も同様に消えた。

 

 ブンと葉蔵が腕を振るう。

 触手に腕が当たった途端、先程の触手と同様に消失。

 まるで葉蔵の身体に沈むかのように消えていった。

 

「……まさか、食っているのか? 私の触手を?」

「ガアァァァァァァ!!」

 

 返答は獣の咆哮。

 ジャブのように放たれた大きな手の平が無惨の頭部に触れ、無惨の頭を丸々喰らった。

 しかし、その程度なら一瞬も無い間に再生。

 すぐさま無惨も触手で反撃に出る。

 今度はたっぷり鬼殺しの細胞の鎧を身に纏った触手で。

 

「貴様……私の細胞を喰らったな!」

「あ、気づいた?」

 

 触手を避けながら、葉蔵は軽い口調で言った。

 

「ああそうだ、さっき飛んできた針はテメエの血を吸った針だ! 俺はソレを吸収して力を上げたのさ!」

 

 そう、葉蔵は無為に攻撃したわけではない。

 というか、ブラフである。

 

 無惨に攻撃が通じないことは想定していた。

 相手は鬼の始祖。格上なのは目に見えている。故に、上弦の鬼にもないような力があると予測していた。

 そこで使ったのが補給針。

 

 攻撃と見せかけて無惨から因子を奪うだけ奪い、自分が活動できる限界量まで吸収。

 鬼因子を吸収するタイミングは、無惨が油断している瞬間。

 その時を虎視眈々と狙ってたのである。

 

 無論、先程の戦闘も決して手を抜いていたわけではない。

 むしろ格上と叩くために用意周到に準備して、自身もいつものような舐めプをせず真剣に戦っていた。

 これで倒せたら万々歳。もしできなければ当初の作戦通りに行う。どっちに転がっても葉蔵にとって都合がよかった。

 

 しかし、この作戦にはリスクがある。

 

「バカが……そんなことすれば貴様が私の細胞に食われるぞ!」

「え?ソレが何だ?」

 

 葉蔵はあっけらかんと言った様子で答えた。

 

 許容ギリギリまで無惨の血を取り込んだのだ、最も鬼因子が濃厚な無惨の血を。その上、葉蔵には消化する暇は一瞬もない。

 こんな状態でも戦闘を行うのはハッキリ言って自殺行為である。

 

 実際、その代償は現れ始めている。

 バチバチと体毛から飛び散る火花。

 ギチギチと妙な音を立てる葉蔵の肉体。

 体内では凄まじい激痛が走り、鬼の再生力で無理矢理動かしている。

 

 だが、そんなことは葉蔵には関係なかった。

 

 

 

 これこそ自分が生きているという証だから。

 

 

 

 葉蔵は今、己の命を実感している。

 

 痛い程に激しい鼓動。

 燃えるように熱い血潮。

 目が眩むような激しい光。

 

 己の命を削って見える光景が、感じるものが、彼が生きていることを教えてくれる!

 

 

「俺は散々鬼共を喰ってるんだ! なのに逆の立場になったら嫌だなんて通じねえだろ!!」

 

「喰い合いってのは命張り合って成立すんだ!こんな美味しいイベント、見逃せるか!!」

 

「いいぜぇ…。俺がテメエの血に死ぬのが先か、俺がテメエを喰うのが先か……勝負だ無惨!!」

 

 

 

「この……イカレ鬼があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 無惨は叫びながら全身に口のようなものを創り出す。

 鬼を殺す機能の細胞をこれでもかと上乗せした牙を持つ顎たち。

 これで葉蔵の攻撃を無効化しようとするが……。

 

 

「ははは……アッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 関係なく葉蔵は爪で牙を砕いた。

 喰い合う葉蔵の針と無惨の牙。

 怯んだ無惨とは対照的に、葉蔵はより過激さを増した。

 そのせいで更に血を喰らい、葉蔵の肉体は更に熱を帯び、光を発する。

 

「ハハハ……! 最高の気分だ! 命を燃やすこの感覚……! ルシファーもイカロスもコレを求めて天を目指したのだろうな!!」

「訳の分からない事を!!」

「ヒャハハハハハ!! もっと燃やすぜ、俺の命を!!」

 

 身に纏う過剰な程の鬼因子を一気に解放させる。

 ソレは最早爆発。

 自爆にも等しいオーバーヒートである。

 

 

【針の流法 刺し穿つ血鬼の爪・超過雷閃(スパイキングエンド・オーバーフラッシュ)

 

 

 瞬間、雷鳴が轟いた。

 

 雷は触手を全て喰らい尽くし、鬼殺しの鎧を貫く。

 葉蔵の棘は七つの心臓と五つの脳を一瞬で破壊。

 統制の失った無惨の細胞を更に喰らった。

 

 

 瞬間、無惨は思い出した。

 赫刀で斬られるあの感触。

 細胞を破壊され、再生も阻害される感覚。

 死神の刃で命を削られるかのような恐怖。

 

 もう一本の鎌が振り下ろされようとしたところで………。

 

 

 

 パァンと、無惨が勢い良く弾け飛んだ。

 

 

 

 ばら撒かれる無惨の2千肉塊の内、半分だけを捕食。

 他の肉片たちはまるでそこにいなかったかのように消失した。

 

 

 

「…………………は?」

 

 ボロボロと崩れる葉蔵の獣鬼態。

 過剰なエネルギーはあの爆発によって一瞬で無くなった。

 大きな反動とダメージこそ残っているが、散らばっている残りでも食っていれば回復する。

 

 敵がいなくなったこの場に用はない。

 さっさと食らってさっさと帰ってさっさと寝ればいい。

 そうすればいつもと同じ日常に戻れる。

 なのに何故だろうか……。

 

 

 

「貴様ぁぁァァァァァァ!!! 逃げるなァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 何故彼はこれほどまでに怒りを見せるのだろうか。

 

 

 

 

「鬼の王としての矜持はないのか!? 格下である私に食われて何も感じないのか!? 反逆者に自身の力を見せつける気概はないのか!!?」

 

「逃げて何になる!? その先に何がある!? ただ肉を喰らって糞を吐き出すような生になんの意味がある!?」

 

「人も鬼も、ただ死んでないだけでは生きていると言えない! そんなものは意味なく動いている機械だ! ガラクタだ! 生に意味を見出してこそ生きているといえる!そんな簡単な

事も分からないのか!!?」

 

「お前の生きる意味はなんだ!? 無為に他者を食いつぶす生に、お前は意味を感じているのか!?」

 

「私を倒してみろ! かかってこい! 鬼の王の威厳を見せてみろ!!」

 

 

 

 葉蔵の叫びは届かない。

 対象は既にこの場にはおらず、もしいても聞くような人物ではないのだから。

 

「クソ……クソ……!」

 

 ボロボロになった状態で、葉蔵はその場に蹲った。

 




ふと思ったのですが、ジャンプでボスキャラが弱体化するのって珍しいですよね。
弱体化の策を立てるのはよくあるのですが、大体は失敗しますから。
成功したのは頭無残のせいなのか、それとも作者が早く終わらせたかったのか……。

あと、無惨が葉蔵をボコるシーンをカットしたのは書きたくなかったからです。
なんか無惨の戦い方ってモチベが出ないですよ。
もし本編ですんごい力使ってたならやる気出ましたが、ただ触手ブンブン振り回しているだけだし…。
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