鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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炭治郎との別れ

 腰抜けに逃げられてから、私は竈門家に戻った。

 

 もうあの家にいる必要はない。

 ヒノカミ神楽は覚え、私の力もチキン野郎に通じることは分かった。

 あのカスからたっぷり因子を喰らったことで大分能力が強化される状態になった。

 ここしばらく私は眠ることになるだろう。

 もうあの家にいる理由はないし、私も家に帰るべきだ。

 

 腰抜けから取った肉に針を突き刺す。

 針から根が形成され、ストローのように中身を吸う。

 

 美味い。

 上弦より遥かに芳醇な香りに、濃厚な味わい。しかし後味はしつこくない。そして飲んだ後からガツンと来る酔いのような感覚も素晴らしい。

 人間の味覚で例えるなら、度数の高いな超高級のワインみたいなものか。

 

 あんなしょっぱい結果でもこれだけ美味いのだから、ちゃんと勝敗を決めた後ならどれだけ美味くなったのか……。

 

 吸い尽くしたと同時、黒い灰となって消えて逝く無惨の肉塊。

 このまま別のも吸いたいが、とりあえず今は竈門家に戻ろう。

 事情を話して竈門家から去って、家に帰ってから楽しもう。

 

 もうあの家には用はない。

 ヒノカミ神楽は覚えたし、彼らをターゲットにしていたと思われる男もこうして撃退した。

 私がや竈門家でりたいことは全部やってのけたのだ。

 そのことを葵枝に話して、明日の夜に出よう。

 

「皆ただい……!!?」

 

 戸を開けようとした瞬間、鬼の気配がした。

 どうようしながらも警戒態勢を取り、血鬼術を発動させる準備をする。

 

「葉蔵さん!?」

「うわあぁぁん!」

 

 ほぼ同時に花子くんと茂くんが私の胸に飛び込み、泣き叫んだ。

 私は彼らの頭を撫でて落ち着かせながら葵枝さんの方へ向く。

 

「葵枝さん、一体何が?禰豆子くんは何処に?」

「二人は奥で横になってるわ」

「……そうか」

 

 私は奥の方へ向かう。

 気配は葵枝さんが指さす奥の方、気配も炭治郎くんたちのものだ。

 

 状況から察するに禰豆子くんが鬼に成ったのだろう。

 

 そう考えたら私がここまで接近しても気づかなかった事に説明が付く。

 さっきまでは鬼ではなかったから臭いが無かったが、鬼化することで匂いが感知できるようになった。

 

「(そういえば鬼化するのを初めて見たな)」

 

 雑魚鬼は藤襲山で沢山食ってきたが、成り立ての鬼を見るのは初めてだ。

 どうせなら、人が鬼化するまでの過程も見ておきたかったな。

 

 知り合いが鬼に成っているのかもしれないのに、こんなことを考えている時点で、私は既に心は鬼のようだな……。

 

「グルォア!」

 

 そんなことを考えていると、禰豆子くんが私に襲い掛かった。

 猫のように鋭く、赤い瞳。鋭い爪と牙。

 間違いない、鬼である証拠だ。

 

 私は咄嗟に血鬼術を発動させ、禰豆子くんを気絶させた。

 まだ成り立ての鬼なら血針弾・電(スタンニードル)で充分気絶させられる。

 

「クソ、あのクソワカメが! 面倒な嫌がらせしやがって!」

「葉蔵さん、禰豆子に何があったんだ!?」

「……」

 

 答える前に、一つの疑問点を考えることにした。

 

 無惨はさっきまで私と戦っていた。

 ここに来る前に追い払った以上、奴が犯人とは考えにくい。

 奴が童磨のような分身を使えるなら別だが、そんなものがあるなら私との戦闘中に使っている筈だ。

 なら、どのタイミングで禰豆子くんを鬼化させた?

 

「ああ、なるほど」

 

 散らばってる残飯と食器。そして仄かに感じる鬼の匂い。

 おそらく感染源はアレだ。

 

「葵枝さん、もしかして禰豆子くんは食事中にこうなったのか?」

「そうよ、でもなんでわかったの?」

「……ソレよりも話すべきことがる」

 

 私は出来るだけ端的に説明した。

 鬼の事、人食いの事、そして鬼殺隊という鬼を狩る存在の事。

 かなり端折って説明したが、その意味は十分に伝わったと思う。

 現に、竈門家の家族たちは絶望しかのような表情をしているのだから。

 

「葉蔵さん……俺たち、これからどうすれば……」

「まずは応急処置だ。縛って動きを止め、養分が入ったこの針で点滴する」

「じゃ、じゃ俺が何か縛るもの取りに行くよ!」

 

 竹雄くんが動いた直後、私は彼女に針を刺す。

 私が分解して吸収した鬼因子だ。

 彼女にも効果があるかどうかは分からないが、ないよりはマシだろう。

 

「!!?」

 

 直後、何者かがこちらに接近した。

 鬼因子の気配がない限り、人間―――鬼殺隊だろう。

 人間離れした速度、無駄のない動作。………これは柱か。

 

 禰豆子くんの前に立ちはだかり、柱らしき影の接近を妨害する。

 柱の正体は冨岡くんだった。

 

「……お久しぶりです、葉蔵さん。出来ればそこをどいてもらいたいのですが」

「ソレは出来ない。今の私はすこぶる機嫌が悪いんだ。……無惨のクソボケに逃げられたせいでな」

「……何?」

 

 そういった途端、冨岡くんは顔色を変えて驚愕した。

 

「何処で会った? どんな戦い方をする? 顔は?性別は?」

 

 詰め寄る彼を手で制す。

 

「今の私は奴との戦闘でクタクタなんだ。寝た後にしてくれないか?」

「……まずはお館様に報告だ」

 

 そう言って出ていく冨岡くん。

 もう禰豆子くんの首を切る意思がないらしい。

 私はソレを見届けてから私はここに来るまで書いておいた置手紙を置く。

 

「……これで帰って寝れる」

 

 今日は色んなトラブルがあった。

 無惨を逃がすのはともかく、まさか禰豆子くんが鬼化した挙句、柱まで来るとは。

 しかしまあいい……。

 

「今度こそ貴様を喰ってやる、無惨」

 

 私は 血針の隠れ蓑(リフレクション・ステルス)を発動させて姿を消し、その場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉蔵との戦闘後、無限城恒例のパワハラ会議が開催されていた。

 被害者は上弦のトップ3。怒りを隠そうともしない無惨に何を言われるか不安になりながら、クソ上司の言葉を待つ。

 

「私は貴様らに何を命じた?」

「……針鬼の、退治です……」

「そうだ。では貴様らは何をしていた?」

「……針鬼の、退治です……」

「出来てないではないか!」

 

 無惨は感情をむき出しにして叫ぶ。

 

「あれだけ血をやっていながら、何故貴様らはまだ針鬼を退治できない!?」

「「「………」」」

 

 何も返せなかった。

 誰一人答えることもなく、ただ黙るだけ。 

 少なくとも口では。

 

「(………アレは無理でしょ)」

「無理とは何だ? 言ってみろ童磨」

 

 配下の鬼達の心を読む無惨に隠し事は不可能。

 頭の中では諦めていた童磨が無惨のパワハラのターゲットにされた。

 

「アレは俺の完全な上位互換です。今更血を分けられても……」

 

 グチャッ。

 呪いの効果によって童磨の頭が潰れた。

 

「その利口な頭は何のためにある? ソレを何とかするためにあるのだろ!」

 

 無茶苦茶である。

 何とかできないからこうして会議を開いているのに。ソレを言ってどうなる?

 

「貴様らは何だ?」

「上弦の……鬼です……」

「そうだ。上弦、つまり上位の鬼だ。故に上位互換など有り得てはならない。もしあるのなら貴様らの存在理由がなくなる。……私の言いたいことは、分かるな」

「「「………」」」

 

 返事はしない。

 最初から答えは決まっているのだ。答えても意味はない。

 

「(しかし、一体どうすればいい? 童磨が乱入しても倒せないのに、一体どうやって戦えばいいんだ!?)」

「(針鬼……。奴一人で……一つの軍……。今の私では……届かない……。どうすれば……奴に刃が届く……!?)」

 

 顔には出さないが、腹の中は不安で一杯。

 無理もない、彼らは一度負けているのだ。

 あれ以来も何度か戦って、その度に撃退或いは逃亡されている。

 不安になるのは当然こと。故にソレを払拭するのが上の仕事なのだが……。

 

「~~~~! 何を考えているんだ貴様らは!!?」

 

 無惨にそんな甲斐性はなかった。

 上弦の中でもお気に入りの二人がそんな様子のせいか、無惨は頭に無数の血管を浮かび上がらせて怒り狂う。

 呪いを黒死牟と猗窩座に発動させ、二人の肉体をドロドロに溶かした。

 

「何故だ……何故こうもうまくいかない!? 何故こうもケチが付く!? 何故こうも邪魔が入る!?」

 

 

 

 

「誰があんな鬼を作った!?」

 

 お前だ。

 葉蔵を作ったのはお前だ。

 癇癪起こして葉蔵を鬼にして、放ったらかしにしたのはお前だ。

 

「誰があの鬼を放置した!?」

 

 お前だ。

 葉蔵を放置したのはお前だ。

 面倒臭がって針鬼を放置して、部下の報告を無視したのはお前だ。

 

「誰があの鬼をあそこまで強くした!?」

 

 お前だ。

 葉蔵を強くしたのはお前だ。

 無作為に鬼を作って葉蔵に戦闘の機会と経験を与えたのはお前だ。

 

 

 

 

 

 頭無残は気付かない。

 全ての責任責務は彼にあり、彼の言う事は責任逃れである。

 

 

「もういい! お前たちに針鬼討伐を期待しない! ……奴らを使う」

「!? 無惨様、お待ちください! アレを野に放つので……ブフッ!」

 

 止めようとした猗窩座を呪いで動きを止め、無惨の触手が薙ぎ払う。

 

「黙れ。碌な働きをしない貴様たちに私を止める権利はない」

 

 無惨は懐からコルクで栓された試験管を取り出す。

 

 

「やはり最後に頼れるのは私のみ。期待しているぞ、上弦の細胞を元に作ったわが分身たちよ」

 

 

 試験管の中には、胎児のようなものが蠢いていた。

 

 

「お前たちにも強化を施す。返答は聞かない」

 

 

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