鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~   作:大枝豆もやし

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原作編
炭治郎にとっての葉蔵


 その日、俺はすごい人に出会った。

 

 

 不思議な匂いのする人だった。

 紳士的で優しそうな匂いがするかと思ったら、何処か荒々しい血の匂い。

 普段は大人しいけど、鋭い牙と爪を隠し持っている猛獣。

 失礼だけどそんな感じの匂いだった。

 

 葉蔵さんはすごい人だった。

 始めてやることを数回見たり教えただけで、すぐ出来るようになった。

 俺たちの知らないことをいっぱい知っていて、色んなことを教えてくれた。

 読み書き計算、狩りのやり方、外国の話、人間の体の作りと簡単な治療法、科学という魔法みたいなこと。

 俺の中で葉蔵さんはどんどん大きくなり、気づけば憧れの人になっていた。

 

 ある夜の日、俺も葉蔵さんみたいに成りたいと言った。

 すると葉蔵さんは笑った。

 

「私は何処にでもいるつまらない男さ。強いて言うなら他の人間より自由と力を持っているというところかな?」

 

 

「世界は広い。君が私をすごいと思うのはまだ世界の広さを知らないからなんだよ」

 

 

 ソレを聞いてから俺の中で葉蔵さんの存在は益々大きくなった。

 けど、だから余計に気になった。

 

 あの人は家族といる時、つまらなそうにしている。

 笑顔の裏から臭う閉塞感のような匂い。

 ソレを感じて俺は確信した。あの人は家族というものを嫌っていると。

 

 俺には信じられなかった。

 俺にとって家族は何よりも大事なもの。宝そのものだ。なのに、この人はそうじゃない。

 だから、俺は聞いてみた。そして、ここでも俺とは違う視点を・・・・・・世界を教えてくれた。

 

「家族が人間によって構成されている以上、絶対的なものには成り得ない。いくら理想的な家族でも予期せぬ事態で崩れる時はあるし、最初から破綻していることもある」

 

「いいかい炭治郎くん、この世に絶対や不変という言葉はない。私も君も何時かは死に、たとえ子孫や想いを遺しても何時かは途絶える。そして人類もこの世界も何時かは滅び、全てが無になるだろう」

 

「しかし悲観することはない。たとえ未来はどうなるか分からなくても、今ここで君たちという家族が存在しているという事実は君の中にある。そして君はその事実を幸せだと感じている。ソレが全てだ。未来どうなるかなんて些末な事だと私は思う」

 

 

 おれは、あの人が言う外の世界を知りたいと思った。

 

 今でも家族は俺の宝だ。ソレは今でも変わらない。

 あの人の言うように、家族が邪魔になっているとは思わない。

 だけど、俺は家の外の世界を望むようになった。

 

「……葉蔵さん、俺行きます」

 

 俺は家から旅立つ。

 外の世界に触れ、家族をもう一度作り直すために。

 

 おそらく、元の形には戻らない。

 父さんが死んだときも、家族は以前とは違ったものになった。

 あの人の言う通り、変化しないものなんてないんだ。だけど、家族が大事であることに、宝であった事実は変わらない。

 そして、これからも俺は家族を俺の“良いように”変えて見せる。

 

 変える事が止められないなら、せめて良い方向に変えて見せよう。

 前よりも楽しく、楽が出来て、豊かなものにしていこう。

 コレはその第一歩だ。

 

「だから、見ていてくださいね」

 

 俺は、葉蔵さんの針が入ったお守りを握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

 とある屋敷の一室。

 炭治郎はゴロンと横になって、深く深く息を吐いた。

 

 疲れた。

 色々なことが次々とあって、ぐったりする程に疲れた。

 那田蜘蛛山での上弦の伍との戦闘で、ヒノカミ神楽を連続で使った。

 禰豆子も“火の流法”で協力してくれたが、それでも上弦は強かった。

 しかも、その後は禰豆子の存在がバレて、息をつく暇もなく柱合会議が開かれた

 そして今は、上弦の伍との戦闘で負った傷を癒やすため、蝶屋敷と呼ばれる屋敷で世話になっている。

 

「(柱の人達に禰豆子のことを認めてもらえて良かった)』

 

 もう一度ため息。

 もしかしたら、首を斬られてしまうかもしれないと思っていた。

 無論、その場合は命に代えても守るつもりだったが、相手は鬼殺隊の中でも最上の剣士である柱。

 炭治郎がたとえ万全だったとしても、大した反撃は出来ないことは分かっている。

 もっとも、だからといって抵抗をやめるつもりなんて炭治郎には毛ほどもないが。

 

「葉蔵さん……貴方のおかげで俺たちは助かりました」

 

 お守りを握りしめる炭治郎。

 人を襲わない鬼の前例。これがあったおかげで禰豆子は殺されずに済んだ。

 風柱の稀血の試練を受けることにはなったが、それ以外はコレといった問題はなかった。

 

「……葉蔵さんの眷属、か」

 

 ふと、蟲柱の胡蝶しのぶが言った事を思い出す。

 

 目覚めたときから、禰豆子は他の鬼とは一線を画していた。

 人を喰わず、それにしては強力な血鬼術を使う。

 鬼退治に特化した、横文字の血鬼術。

 血鬼術で殺した鬼を喰う性質。

 葉蔵そのものだ。

 

 

 しのぶは以上の性質から、禰豆子は無惨ではなく葉蔵の眷属ではないかと推測した。

 そう考えたら辻褄が合う。現に禰豆子は無惨の配下の鬼より、葉蔵のように“自由な鬼”だった。

 

 鬼に成った禰豆子は変わった。

 まず、善悪に拘らなくなった。

 彼女は正しいかどうかよりも、まず第一に自分がどうしたいかで行動する。

 もっとも、性根は変わらないので、大抵の悪いことは自然と“嫌いなこと”に分類されるのだが。

 

 また、よく横文字を使うようになった。

 最初は炭治郎もよく分からなっかのだが、最近はなんとなくニュアンスが分かって来た。

 確かに語彙が拡がると話も拡がる。なので炭治郎も禰豆子から教わったソレを使っている。

 

 最後に、徐々に価値観が変わって来た。

 良く言えば進んでいる、悪く言えば変わっている。

 

 以上の事方、しのぶは禰豆子が葉蔵の眷属ではないかと推測した。

 

「……ソレはそれで嫌だなぁ」

 

 三度目のため息をつく炭治郎。

 

 彼にとって葉蔵とはすごいけど変な人という印象だった。

 炭治郎の知らない知識を持つ葉蔵の話は面白いし勉強になるのだが、価値観がどうも合わないのだ。

 当然の事である。葉蔵の価値観は前世の経験が根幹にあり、ソレに葉蔵の経験と鬼に成った後の価値観が入り交じったものになっている。

 無論、そんなことは炭治郎は知らないし関係ない。大事なのは、炭治郎の価値観と合わないという事である。

 

 尊敬はしている。

 親愛も抱いている。

 しかし、だからといって全肯定はしない。

 葉蔵とこれ以上仲良くなるつもりもない。

 炭治郎と葉蔵は単純な関係ではなく微妙な距離感を保つことで成立している。

 

「炭治郎く~ん、ちょっとお話があるだけど~!」

「はい、今行きます!」

 

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