鬼喰いの針~人間失格になった私は鬼として共食いします~ 作:大枝豆もやし
「やはり、針鬼こそ無惨を単独で超えられる唯一の鬼か」
とある屋敷の一室。
柱合会議を終えた産屋敷は、葉蔵との邂逅をふと思い出した。
切っ掛けは炭治郎との会話。
柱合会議で葉蔵の話を聞き、そこから思い出した。
「ちょうど、こんな夜だったかな……」
真夜中のとある屋敷の座敷。
産屋敷耀哉は座布団の上に座ってある人物を待っていた。
「……来たか」
気配を感じて振り向く。
そこには、目的の人物―――葉蔵がいた。
「随分手荒な歓迎だな」
「こうでもしないと来てくれないと思ってね」
「貴様、それだけの理由で私の部下を拉致したのか?」
ドガっと、産屋敷に対面する形で葉蔵は胡坐を掻いて座った。
鬼殺隊によって、葉蔵の部下が捕獲された。
情報収集、現地調査、後処理などの裏方を担当する部隊。
葉蔵が鬼を効率よく探すための人材であり、鬼殺隊で例えるなら隠にあたる。
無論、彼らは鬼や鬼殺隊の存在だけでなく、葉蔵の正体も知っている。
知って尚、自身の役割を知って尚、葉蔵に付き従っている。
「ソレで、要求は何だ? まあ、聞くつもりはないが」
「特にないよ、強いて言うなら、こうして会話することかな。……針鬼、私はずっと前からこうして君と話したかったんだ」
「そうか。ならさっさと返してくれ。さもなくば、敵対行動と取るぞ」
「そう結論を急がないで欲しいね。ソレに、捕らえた君の部下たちは丁重に扱っている。君が心配することは何もない筈だよ」
「捕らえられた時点で問題だし、丁重に扱って当然だ。コレでもし拷問なり何なりしていたら、貴様らに同じ痛みを与えてから殺していた」
珍しく苛立ちながら話す葉蔵。
その様子を見て、産屋敷は感心したように頷いた。
「意外に部下思いだね。君のように華族出身の鬼は、下々をもっと見下すと思っていたのだけれど」
「彼らは協力者であって道具じゃない。粗末にしていい命ではない」
「……ソレは、大庭家等当主としての言葉かな?」
「違う。そんな下らないものじゃない。私自身そうするべきと思ったからしているだけだ」
「……成程ね」
うんうんと頷く産屋敷。
「乱暴な手で君と接触したことについては謝罪しよう。けど、是が非でも君とは会いたかったんだ」
「そうか。私は出来るなら会いたくなかった。最近の貴様らは血眼で私を探しにくる。鬱陶しいんだよ」
「そこまでする程、君の存在が大きいんだ。君はもっと自分の価値と影響力を知るべきだと思うよ」
「知らないよ、そんなこと。貴様らの事情なんて私には関係ないし興味もない。むしろ何故、私が貴様らに気を使わなくてはならない?」
不機嫌さを隠さず、葉蔵はストレートに自分の思いを産屋敷にぶつける。
産屋敷は微笑みを絶やさずそれを受け止めながら頷いた。
「私の子供たちは人々を鬼から守るために命を賭け、時には命を投げ売ってまでも戦っている。どうか、私の子供たちを助けてくれないか?」
「断る。私は私のために戦っている。見ず知らずの他人なんて知ったことではない」
「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務だと私は思う。葉蔵さん、私はその責務を君に全うしてほしい」
「……フッ」
葉蔵は鼻で笑った。
「下らん。そんなものは弱者が強者を体よく利用するための方便。何故強いというだけで守りたくもない者を守らなくちゃいけない? そんな理不尽に従う気は私にはない」
「けど、君は今まで鬼に襲われていた人達や、血鬼術に苦しんでいた私の子供たちを助けてくれたじゃないか」
「ただ出来るからやっただけだ。汗をかいてまでするつもりはない」
「……そうか」
また産屋敷はゆっくりと頷いた。
「私は人か鬼かで助ける者を選ばない。私の助けたいものを助け、殺したいものを殺す。」
「ソレは、君の匙加減で助ける対象や殺す対象をえり好みするってことかな?」
「そうだ。私の主は私だけだ。どうするか、どう生きるかは私が決める。他人の指図など受けない。誰にも縛られない」
「……そうかそうか」
また産屋敷はゆっくりと頷いた。
「もし仮に貴様らが解散して鬼を全部譲ってくれるなら考えてやろう。少なくとも今は同じ獲物を奪い合う競合相手だ」
「ソレは出来ない。今更解散しても、私の子供たちは鬼殺を続けるだろう。むしろ、統制の取れない賊に成り下がってしまう」
「それでもそうだね」
突如、葉蔵の懐が震えだした。
通信針。
現代で言うところの携帯電話の機能を持つ道具である。
葉蔵はソレを懐から取り出し、電話のように耳に当てる。
「私だ。……ああ、そうか。無事なら問題はない。……いや、今回の責は私にある。鬼殺隊も敵であることを失念していた。今後このようなことがあれば私が鬼殺隊を殺す。
貴方達が手を汚す必要はない。報告は以上か?ならいい」
バキンと、針を指でへし折る。
通信針は使い捨てなので、切るためには壊す必要があるのだ。
「人質は確かに受け取った、今後、このようなことがないことを祈る。もし次があれば、私は貴様らを敵とみなす」
「じゃあ、敵対したら私達を殺すのかい?」
「ああ。貴様を殺した後、鬼と鬼殺隊の存在を公開する」
「……」
ピクッと、産屋敷の額の筋肉が動いた。
葉蔵との会話で初めて見せた、産屋敷の動揺。
特に気にする様子もなく、葉蔵は話を続ける。
「私は鬼殺隊を競合相手と言ったが、だからといって徹底的に敵対するつもりはない。衝突は避けるし危害を加えるなんて以ての外だ。だが、そちらが手を出すなら話は別だ。その時は
徹底的にやる」
「安心して欲しい。私も君たちと敵対するつもりはない」
見えない目で、産屋敷は葉蔵と視線を合わせる。
「私はね、君の人間性……いや、鬼性かな。君がどんな男なのか知りたかっただけだよ。ソレを知った今、私たちが君たちをどうこうすることは今後ないだろうね」
「そうか。敵対しないならこちからも言う事はない。……いや、一つあったな」
「なんだい?」
「忠告だ。無惨とは戦うな。たとえ柱並みの戦力を百人揃えても、奴には勝てない。蟻が象に勝てないのと同じように、奴は人の身で倒すのは不可能だ」
葉蔵は無惨について全て語った。
どんな風に戦ったか、どんな技を使いどんなパターンがあるか、戦闘の際にどんな会話をしてどんな人間性だったか。
包み隠さず全て話し、最後に無惨と戦うべきでないと付け足した。
無論、そんなことをしなくても誰もが無惨と戦うべきでないことはすぐ分かるのだが。
「……やはり、君も人間では無惨を倒せないと、無惨を天災のようなものだと思っているんだね」
「当然だ、生物としてのレベル……格が違いすぎる」
「……やはり君もそう思うのか」
フッと、産屋敷は笑う。
「実はいたのだよ。無惨を追い詰めたただ一人の人間が」
「捏造だな。もし仮にいたとしたら、ソレは人間じゃない。人の形をした別の生物だ」
「……信じられないようだね」
「当たり前だ。どこの世界に単独で象を殺せる新種の蟻の話を信じる? もしそんな蟻がいるなら、ソレは蟻ではなく別の種族に分類すべきだ」
「……うん、まあ私も…正直信じ難いとは思っている。しかし事実存在したんだ。これは本当だ」
「そうか。もしそんな人間がいたとするなら……そうだな、無惨を倒した後はソイツを目指すか」
葉蔵は翼を生やしてその場から跳び去った。
見えない目を開け、産屋敷は思考を切り上げた。
「やはり、針鬼は危険だね」
産屋敷から見た葉蔵は、強大な力を持つ危険人物だ。
一見、鬼らしくない態度をとっているが、他の鬼とはまた違う身勝手さと残忍性が垣間見える。
話す限り幼稚な点がちらほらと見えており、堪え性はあまりない。
しかし短期間でこれだけ能力を伸ばすことから、自分が興味を持った分野に関しては労力を惜しまないだけでなく、その苦労も楽しめる性格といったところか。
過激な発言を当たり前のようにするあたり、暴力的な思考が、常識を知っていながら無視して善悪の基準を己の物差しだけで測るあたり、独善的な思想が、その発言も後ろ向きな点がある事からネガティブ思考もあると言っていいだろう。
だが、だからといって不必要に暴力は行使せず、妥協点を設定したり代価案を出すあたり、決して短絡的な性格ではない。何処か効率を優先し、無駄な争い労力を省き、双方に利益のある行動を取ったり、無難に収める等の効率的な思想もある。
いや、この場合は自分の設定した目的、特に楽しむため効率性を求めているといったところか。
独善的で暴力的で効率的。その上で幼稚さとネガティブさがある
そんな男が鬼の力という強力かつ特殊な力を、何の制限もなく、楽しむために使っている。
既存のルールや常識は本人も知っていながら無視し、縛ろうとしても力ずくで振りほどく。
制限があるとすれば己のルール。
自分に課した美学という、他人から見れば曖昧なものだけである。
もっとも、鬼は美学なんて持ち合わせてないのだが。
「……危険だね。彼は何時か、鬼の王になる」
そう、だから鬼殺隊……いや、人間にとって葉蔵は脅威なのだ。
葉蔵が上記のような特徴があっても、無力で無能ならただひねくれた性格の鬼に成るのだが、そうではない。
上弦の鬼達は何百年も君臨していたにも関わらず、数年足らずでソレを超え、今では千年を生きた無惨にも届く程に成長した。
ソレを可能としたのは、葉蔵自身の鬼の才能、自身の才能を最大限に活かす頭脳、高い向上心と積極的に学ぶ知識欲や様々な事を実践する行動力もある。
カリスマ性もある。いくら後継ぎが途絶えたとしても三男坊である彼が、家の人間を支配しているのがその証拠。前回捕らえた者たちは葉蔵に心酔しきっており、かなり手を焼いたと報告にある。
接触した鬼殺隊の中には、彼のカリスマに惹かれた者もいる。
だからこそ危険なのだ。
もし仮に、葉蔵が無惨を倒して王座を手に入れたら、次の標的は間違いなく人類になる。
葉蔵の存在を人類が知れば放っておくことはあり得ないし、葉蔵が大人しく隠れたり逃げたりするのも同様にありえない。両者は間違いなくぶつかる。
葉蔵の方からちょっかいを掛ける事もあり得る。
列強国に対抗するためという大義名分を掲げて鬼の軍隊を創り上げ、日本を鬼の国にすることも考えられる。
彼の事だ、鬼を作る際も国の為家族の為という甘い言葉を囁いて自発的に鬼へさせ、鬼の為の血肉も税として国民から血を集める等の手を使ってくるだろう。
そうやって彼は日本を『鬼の国』へと変え、太陽と世間の目からコソコソ隠れる日陰者から、国を守る英雄へと昇華させる。
そうなってしまえば、誰も葉蔵を止められない。たとえ鬼殺隊が危険性を唱えても、葉蔵の足を引っ張るやくざ者として責められるのは目に見えている。
葉蔵の事だ、計画を進める中で暴政を行うことはないだろう。
彼は独善的で暴力的な独裁者だが、決して暴君ではない。
協力者は大事にするし、利益もちゃんと配当する。敵からは容赦なく搾取することはあるだろうが、敵対を回避できるときはちゃんと回避し、何なら敵を味方に変えることだってあるだろう。
こうして彼は日本を手に入れつつゲームを進める。
その道中で無惨の欲した日光克服も達成出来るだろう。
そして獲得した物を足掛かりに更なるステージに昇る。
結果、葉蔵はどんどん成長し、より大きな存在に進化する。
比例して、人類は衰退していき、やがて鬼に支配される未来に。
「本当に……人類にとって困る存在を作ってくれたものだ」
厄介すぎる。
放っておけば間違いなく無惨以上に鬼の王へ相応しい存在になる。
しかし、彼以外に無惨を確実に倒せる手段はない上に、そもそも葉蔵を倒す戦力も手段もない。
今のところは敵である鬼殺隊に被害を出さず、むしろ利益を配分してくれている。
狂人のように強靭な士気が売りの鬼殺隊にとって、これはあまりにも不利。
鬼殺隊の中でも葉蔵を擁護すべきという声もある。
「せめて彼に、人間の友人や恋人がいればいいのだが……」
もし葉蔵に人類に対する愛があれば、ここまで悩むこともないだろう。
「やはり彼には人間に戻ってもらうべきだね」
え~、最初に言っておきますが、私は瑠火さんを否定するつもりはありません。
煉獄さんはむしろ使命に従っているほうが生きやすい性分なので、言われた方が幸せだと思います。あの最期を見ればソレは一目瞭然でしょう。
ただ、葉蔵のようなタイプにはむしろ逆効果です。
束縛を嫌い自由を求めるようなタイプは、勧めることはあっても無理強いしたり、義務を背負わそうとすれば反発し、むしろ嫌いになります。
こんな風に、私は鬼殺隊とも鬼とも違う価値観のキャラを書きたかったんです。
あと、お館様が葉蔵さんを評価してますけど、一つ見落としている点があります。
葉蔵は堪え性がない上に飽き性です。
ゲームが面白くないと思ったらすぐ辞めます。
流石に周囲に影響がある場合は引継ぎをしてから辞めますが。
だから、葉蔵が国なんて大きなものを抱えるようなことはありません。